高松平野の地質構造は,粘土,シルト,砂,礫が混在した透水性の良い未固結の地層の不 圧帯水層Aと,新第三紀の砂岩層からなる被圧帯水層B,粘性土層C及び基盤岩からなる(図 4-6,表4-3 参照).不圧帯水層Aは,地表から深度20m程度まで,被圧帯水層Bは深度 40~ 100m程度に分布している(9).
一般的に,不圧帯水層Aから地下水を取水する場合,沿岸部低地では地下水中に海水が浸 入しやすいため,塩水化障害が発生する可能性がある.そこで,本論では被圧帯水層Bのみ から地下水を取水する.
-150.0 50.0
-100.0 150.0
-50.0 0.0 100.0 標高(m)
瀬戸内海 讃岐山地
不圧帯水層A 被圧帯水層B 粘性土層C 基盤岩(花崗岩類)
-150.0 50.0
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-50.0 0.0 100.0 標高(m)
瀬戸内海 讃岐山地
不圧帯水層A 被圧帯水層B 粘性土層C 基盤岩(花崗岩類)
地質区分
※香川県地下水利用推進調査報告書(1999 年)を参考
図 4-6 高松平野の南北一断面の地質図
表 4-3 高松平野における地質構造区分
一般的層序 地質区分 透水性
沖積世 沖積層
被圧帯水層B 良(第二帯水層)
粘性土層C 不良(難透水層)
地質時代
三豊層群 鮮新世
良(第一帯水層)
第四紀
新第三紀
洪積世最末期沈水性 扇状地礫層
洪積世 不圧帯水層A
新生代
高松平野の通常時における地下水の水収支モデル 4.5
高松平野における通常時の地下水の水収支は,降雨が農用地・荒地・森林・水田から浸透 し,次に不圧帯水層Aへ浸透し,さらに被圧帯水層Bへ浸透する簡略的なモデルを仮定し(図 4-7参照), 1年間の被圧帯水層Bに貯留される地下水QBBを以下のように算定した.
図 4-7 高松平野における通常時の地下水の水収支
農用地からの浸透量(Qin1)は式4.1,式4.2により算出した.その結果,Qin1は277,217m3/ 年となる.
Qin1={(1-f1)×A1×R}-QE1 ・・・<式4.1>
Q =EE1 ×A1 ・・・<式4.2>
ここに,
f1 :農用地における流出率(0.1)(10)
A1:高松平野における農用地面積(623,800m2)
R :高松市(高松地方気象台)の年間平均降雨量(1,149mm/年)
:農用地からの年間全蒸発量(mm/年)
QE1
E :筑波大学実験圃場で計測された年間蒸発量(589.7mm/年)(11)
2)は式4.3,式4.4により算出した.その結果,Q
荒地からの浸透量(Qin in2は19,737m3/ 年となる.
Qin2={(1-f2)×A2×R}-QE2 ・・・<式4.3>
=E×A ・・・<式4.4>
QE2 2
ここに,
f2 :荒地における流出率(0.2)(10)
A2:高松平野における荒地面積(59,900m2)
R :高松市(高松地方気象台)の年間平均降雨量(1,149mm/年)
QE2:荒地からの年間全蒸発量(mm/年)
E :筑波大学実験圃場(野原・浅沼2004年)で計測された年間蒸発量
(589.7mm/年)(11)
次に,森林からの浸透量(Qin3)は村井・岩崎(1975年)らによる計測結果を参考に,荒 地からの浸透量(Qin2)の3倍と仮定して算出した(12).その結果,59,211 m3/年と試算され た.
水田からの浸透量は,灌漑期(6月中旬~9月中旬)と,それ以外の時期である非灌漑期に 分けて算出した.6月中旬~9月中旬以外の水田に水を張っていない時期は,水田からの浸透 は降雨のみである.よって非灌漑期の9ヶ月間における水田からの浸透量(Qin4’)は以下の ように算出した(式4.5,式4.6,式4.7参照).河川流出は,水田からの浸透量から蒸発散を 除いた水量の1/3が河川へ流出する定義した.その結果,Qin4’は196,659m3となる.
Qin4’={(1-f4)×A4×R}-QE4- Qout1’ ・・・<式4.5>
=E
QE4 4×A4 ・・・<式4.6>
Qout1’= [1 (1-f4)×A4×R}-Q ]E4 ・・・<式4.7>
ここに,
表 4-4 灌漑期における水田からの浸透量
A4 Qin4'' (m) (mm/3ヶ月間) (km2) (m3/3ヶ月間)
0-10 988 8.13 5,355,553 10-30 1,123 25.82 19,328,328 30-50 1,087 9.99 7,237,496 50-70 2,493 2.48 4,123,922 70-90 1,651 0.96 1,056,924 90-110 1,218 0.45 363,780
合計 47.83 37,466,003
水田面積 水田からの 標高区分 平均 浸透量
地下降下水量 f4 :水田における流出率(0.4)(10)
A4:高松平野における水田面積(8,130,900m2)
R :高松市(高松地方気象台)の灌漑期を除いた9ヶ月間の平均降雨量(634.3mm) QE4:水田からの灌漑期を除いた9ヶ月間の全蒸発量(mm)
Qout1’: 灌漑期を除いた9ヶ月間の河川流出(m3)
E4:筑波大学実験圃場で計測された灌漑期を除いた9ヶ月間の蒸発量(344.3mm)(11)
次に6月中旬~9月中旬までの3ヶ月間の灌漑期における水田の浸透量は(Qin4’’)は,以 下のように算出した.
香川県農業試験場での実験及び中四国農政局四国土地改良調査管理事務所より提供された 減水深データから,蒸発散(6.3mm/日)及び河川流出(Qout1’’)を除いた地下降下水量を標 高別に平均して算出した(13).標高別の平均地下降下水量に標高別水田面積を乗じ,6月中旬
~9月中旬までの灌漑期における水田のからの浸透量(Q 4’’in )は37,466,003m3となった(表 4-4参照).
よって水田からの浸透量(Qin4)は 37,662,662m3/年となる(式4.8参照).
Qin4= Qin4’+Qin4’’ ・・・<式4.8>
ここに,
表 4-5 不圧帯水層 A から流出する地下水量
透水係数 水位差 透水層の長さ 導水勾配 流速 地下水流出量
k ⊿h L i v Qout1
(m/s) (m) (m) (m/s) (m3/年)
1.07×10-4 2 3800 5.3×10-4 5.6×10-8 78,853 Qin4’:非灌漑期の9ヶ月間の水田からの浸透量(m3)
Qin4’’:灌漑期の3ヶ月間の水田からの浸透量(m3)
以上から,不圧帯水層Aへ流入する浸透量(QA)は式 4.9 に示すとおり,農用地・森林・
荒地・水田からの浸透量の和で表され,38,018,827 m3/年と試算された.
QA= Qin1+Qin2+Qin3+Qin4 ・・・<式4.9>
次に不圧帯水層Aから海へ流出する地下水量(Qout2)は,ダルシーの法則を用いて算出し た.その結果,78,853 m3/年と算出された(式4.10,式4.11,式4.12,表4-5参照).
v= k×i ・・・<式4.10>
・・・<式4.11> i=⊿h/L
・・・<式4.12>
Q=v×A ここに,
v:流速(m/s)
k:透水係数(m/s)(9) i:導水勾配
L:水位差⊿hを生ずる透水層の長さ(m) A:透水層の断面積(m2)
帯水層Aから海へ流出する地下水量(Q
表 4-6 被圧帯水層 B から流出する地下水量
透水係数 水位差 透水層の長さ 導水勾配 流速 地下水流出量
k ⊿h L i v Qout2
(m/s) (m) (m) (m/s) (m3/年)
6.72×10-5 10 2550 3.9×10-3 2.6×10-7 1,785,006
out1)を差し引くことにより,37,939,974 m3/年と算 出された(式4.13参照).
Qin5= QA-Qout1 ・・・<式4.13>
また被圧帯水層Bから海へ流出する地下水量(Qout2)も,帯水層Aから海へ流出する地下 水量(Qout1)と同様に算出した結果,1,785,006 m3/年となった(表4-6参照).
よって高松平野における通常時の被圧帯水層Bへ貯留される地下水涵養ポテンシャル(QB) は,帯水層Aから海へ流出する地下水量(Q
B
out1)を差し引くことにより,36,154,968 m /年 と推定される(式4.14参照).
3
QB = QB in5-Qout2 ・・・<式4.14>
4.6
4.6.1
非灌漑期における休耕田の地下水人工涵養による渇水リ スクの軽減
休耕田の地下水人工涵養量の算出
非灌漑期における休耕田に水を張ることによる地下水人工涵養の水収支は,以下のモデル のように仮定した(図4-8参照).非灌漑期の休耕田に水を張ることで,不圧帯水層Aを経由 して被圧帯水層Bに貯留される涵養地下水量は図4-8に示すQBであり,この涵養地下水量B QBB
が渇水時の水供給ポテンシャルを表している.
図 4-8 非灌漑期における休耕田の地下水人工涵養の水収支
渇水時の水供給ポテンシャルである地下水涵養量QBは,以下のように前提条件を設定し,
香川県農業試験場での実験及び中四国農政局四国土地改良調査管理事務所より提供された減 水深データから,蒸発散(6.3mm/日)及び河川流(水田からの浸透量から蒸発散を除いた水 量の1/3)を除いた地下降下(浸透)水量を流域の標高ゾーン別に平均して算出し,標高ゾー ン別の平均地下降下(浸透)水量に標高ゾーン別水田面積を乗じて算出した .
B
(13)
前提条件
(1) 非灌漑期の休耕田に水を張る期間は,10月~12月までの3ヶ月間とする.
(2) 涵養対象地域は,高松平野の標高10m~110mまでの休耕田とする.
表 4-8 非灌漑期における休耕田の人工涵養地下水量 表 4-7 標高別地下水降下水量及び水田面積
A (m) (mm/3ヶ月間) (km2) 10-30 1,064 25.82
30-50 1,030 9.99
50-70 2,362 2.48
70-90 1,564 0.96
90-110 1,154 0.45
標高ゾーン区分 平均
地下降下水量
水田面積
休耕田 涵養地下水量
涵養面積率
(%) Qin1 Qout1 Qin2 Qout2 QB 100 30,420,426 23,332 30,397,094 457,744 29,939,350
75 22,815,320 22,360 22,792,960 453,343 22,339,617 50 15,167,134 21,388 15,145,746 448,941 14,696,805 40 12,168,171 20,999 12,147,172 447,181 11,699,991 30 9,126,128 20,318 9,105,810 444,100 8,661,710 25 7,615,107 20,415 7,584,691 444,540 7,140,151 20 6,084,085 20,221 6,063,864 443,660 5,620,205 10 7,605,107 20,415 7,584,691 444,540 7,140,151 単位:m3/年 休耕田から
の浸透量 地下水流出量 不圧帯水層A
からの浸透量 地下水流出量
(3) 灌漑期の水田の減水深実験値から(13),蒸発散(6.3mm/日)及び河川流出(Qout1) を除いた値を休耕田の地下降下水量(Qin2)とする.
(4) 河川流出とは,水田からの浸透量から蒸発散を除いた水量の1/3が河川へ流出する.
その結果,高松平野の標高 10m~110mの休耕田を対象に非灌漑期に涵養を行った場合,
被圧帯水層Bへ流入する地下水量QBは約 2,900 万m 増加すると試算された(表 4-7,表 4-8 参照)
3
B
休耕田の地下水人工涵養による渇水リスクの軽減 4.6.2
4.6.1で算出した涵養地下水量QBが全量利用されると仮定し,高松市民の生活用水が何日創
出されるか算出した.さらに,高松市民の生活用水が創出される日数は取水制限を解除でき る日数として,その場合の渇水リスク指数を求め(式3.1参照),どの程度渇水リスクが軽減 するか推定した(表4-9参照).なお,高松市民の生活用水が創出される日数推定の際の根拠 である市民一人一日当たりの生活用水使用量は,1989~2005年までの生活用水の平均使用量 である 364リットル/日/人を適用した.この場合,高松市民 390,199 人(推計人口)の一日 の生活用水の使用量は,142,008m である.
B
3
表 4-9 地下水人工涵養による渇水リスクの軽減
休耕田 涵養 生活用水
涵養面積率 地下水量 創出日数
(%) QB(m3/年) (日)
100 29,939,350 211 1.2 1.4 75 22,339,617 157 1.1 1.2 50 14,696,805 103 0.9 1.1 40 11,699,991 82 0.9 1.0 30 8,661,710 61 0.8 1.0 25 7,140,151 50 0.8 0.9 20 5,620,205 40 0.7 0.9 10 7,140,151 18 0.7 0.8
渇水リスク指数 1994 2005
※渇水リスク指数1.0=取水制限なし
その結果,高松平野における標高10m~110mまでの休耕田面積を75%涵養した場合,高 松市民の 157 日間の生活用水を創出できる水量に相当する地下水が涵養され,1994・2005 年の渇水リスクを回避することができる.
しかし,本論で定義した渇水リスク指数は,断水日数を含む取水制限日数で議論している ため,渇水期間に不足していた水量ではない.実際には,1994年に不足していた水量は,休 耕田75%涵養した場合の涵養地下水量より,かなり少ないと考えられる.また,現実的に高 松平野では,冬期に野菜栽培などの裏作を行っている農家が多数あるため,高松平野の休耕 田面積75%を涵養することは不可能と思われる(13).