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食料生産における農業の代替的生産者-植物工場のビジネスへの着目-

食料の生産について、改めて述べてみれば、消費する我われにとって極めて重要なもので あることについて異論はない。しかしながら、現在の我が国の食料自給率を考えた場合、生 産主体としての能力に限界を感じざるをえないのである。そこで、この食料問題を増強させ る試みとして、新たな生産者としての試みを模索しなければならない。第Ⅱ章(前章)にお いて検討してきたように、食料生産における機会費用として社会が被る不利益を考えた場 合、図Ⅱ-4のうち仮のモデルの「?」の箇所に当てはまる部分を検討しなければならないの である。自由市場を前提にして食料生産の市場に参入する生産主体という視点から、ビジネ スが成立するマップを描けなければ新たな主体を検討する意味が薄れていくであろう。そ こで、食料生産における農業に代替するものが、植物工場のビジネスであると考えられるの である。この植物工場は、農業という産業部門には、土地を所有するという者に限定される という保護された障壁が存在しているため、ビジネスという視点から検討する必要がある。

そこで、近年、脚光を浴びている植物工場というビジネスに着目してみることにする。この 点について、本章では考察していくことにする。

1.食料生産の新たな経営形態の存在と意義-植物工場の登場-

近年、食料生産に関する新たな取り組みとして、植物工場というビジネスが注目を浴び、

注目されている。植物工場への期待感や必要性は、農業と比較して、何よりまず安定生産が できるということ、そして、定量・計画生産ができるということである。ここでは、まず、

この植物工場の概念的な枠組みとして、種類と用語、定義、そして起源と史的変遷について 検討していくことにする。

(1)植物工場の種類と用語

まず、はじめに、植物工場という用語はいったいどのようなものなのであろうか。実は、

この概念について、一様の固まった見解はないように思われる110。一般的に、この植物工場 と聞いて思い浮かべられるものは、やはり植物を生産する工場のイメージが念頭に浮かぶ であろう。

植物工場という用語を用いて説明されるものには、実はいくつか考えられる。もちろん、

その原点ともいうべきものは、工場そのものの印象を持つに至るが、実は一様ではない。例 えば、図Ⅲ-1にみられるものは、日本でも植物工場が研究され始めた初期のころから続くい わゆる植物工場である。ところが、図Ⅲ-2にみられるもの、図Ⅲ-3にみられるもの、図

110 植物工場の概念的な取りまとめについては、研究発表等を行っている。次の論文において記述を行っ ているので参照されたい。當間・倉方・当間(2013年)前掲稿、pp.13-31。

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4にみられるもの、図Ⅲ-5にみられるもの全てを植物工場と呼ぶのであるから、ここに共通 項を見出すことができないのである。しかしながら、工場内・室内といった屋内で、人工的 な工夫を凝らして光を用い、植物の栽培状況を水や肥料等を人工的に制御(コントロール)

することを前提とし、植物を生産(=栽培)する行為である ということは共通している点 である。

図Ⅲ-1 植物工場

出所:『ECO JAPAN―成長と共生の未来へ―』(閲覧日:20121103日)

図Ⅲ-2 植物工場

出所:『経済産業省 植物工場に対する意識調査 ―デモンストレーション施設の概要―』<

http://www.meti.go.jp/>(閲覧日:20121103日)

61 図Ⅲ-3 植物工場

出所:「大和ハウスグループの“農業の工業化”第一弾 植物工場ユニット:agri-cube(アグリキューブ)」

販売開始(閲覧日:20121103日)

図Ⅲ-4 植物工場 出所:「パナソニック,野菜に挑む」(閲覧日:20121107日)

また、ハウス栽培について、植物工場とも呼ばれなくもない点をここで指摘しておかな ければならない。ハウス栽培は人工的に植物を育成させることは、植物工場と共通してい る。しかしながら、ハウス栽培は、基本的に土壌を用い、そのうえで作物を生産すること を前提とする(図Ⅲ-6参照)。 冷気や寒さを防ぐことを目的とする場合が多いといえる。

また、脱着可能性や開閉可能性などの工夫を凝らされたものもあるが、手軽に使用され るビニール素材を用いることが多いことからビニールハウスなどと呼ばれ、本研究で扱う 植物工場とは異なる点が多いのである。蛇足になるが、ハウス栽培はビニールではなく、

ガラスやアクリル板等のような材質のものを用いる場合もある。比較的強度があり、なお かつ太陽光を取り入れやすいためにこれら材質を用いる。しかしながら、脱着および開閉 の可能性を考慮したうえでデザインされているため、基本的には土壌で食物を栽培する。

いわば農業における露地栽培の延長線上にあるといえるのである。換言するなら、露地栽 培の生産能力を上げ、補強し、時期をずらすなどの目的で用いられるものであり、基本的 には農業の範疇に入るといえるのである。近年では、進化した農業という意味合いを込め て、植物工場はサイエンス農業という呼び方もされてきており、単なるハウス栽培ではな

62 いと指摘されている111

図Ⅲ-5 植物工場

出所:「日本サブウェイ丸ビル店」(閲覧日:20121107日)

図Ⅲ-6 ハウス栽培 出所:「新鮮な野菜を安全に」(閲覧日:20121107日)。

しかしながら、この植物工場は、植物を生産(栽培)することからすれば、農業と同じで あろう。したがって、植物工場とハウス栽培とを混同しがちであろうが、図Ⅲ-1 から図 Ⅲ-5と図Ⅲ-6を比較してもやはり、農業の延長線うえではないといえるのではなかろうか。

111 池田(2015)、p.17。

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(2)植物工場の定義

さて、植物工場について、どのように捉えていけば良いのであろうか。実は、この概念に ついて、一様の固まった見解はなく、したがって定義づけもなされていないと指摘される状 況にある112。これを受け、植物工場という用語の使われ方を検討してみることにする。する と、植物工場という用語の使われ方についても一様ではないことに気づくであろう。植物工 場は、実は、プラント・ファクトリー(plant factory)と呼ばれることも多い。この2つの名 称で通じる地域は、アジア 圏の国々においてである。その理由としては、日本の技術を利 用したものが多いことが理由として挙げられる。いうなれば、日本から輸出されたものであ る。一方、欧州では、植物工場とは呼ばれず、温室ハウス(あるいはグリーンハウス)とい う言葉が一般的である。これはガラス材料を用いたハウス栽培が主流であり、ハイテク技術 を活用した栽培方法が一般的である。その他の呼び名としては、ハイテク・グリーンハウス

(high-tech greenhouse)であったり、水耕栽培を主として行うことから溶液栽培を意味する ハイドロポニクス(hydroponics)であったり、多段的に積み上げた栽培方法という意味でバ ーティカル・ファーミング(vertical farming)と呼ばれたりすることもある。また、米国で は、環境制御型農業という意味のCEA(controlled environment agriculture、以下CEA)とい う言葉も使われているようである。

以上、このような意味合いから、用語に統一した使われ方はなさそうである。概念の意味 としては、米国の CEA という環境制御型農業を想定して良いと思われる。しかしながら、

この概念について、日本の植物工場の第一人者である高辻は重要な記述を行っている。植物 工場は、「環境条件 に合わせて作物を制御するのではなく、作物に合わせて環境条件を制御 する」113という考え方にもとづいている。これには、「太陽光利用型」と人工光による「完 全制御型」の2つの手法にもとづく議論であろう114。いずれにしても、植物工場の定義を行 うとすれば、「野菜や苗を中心とした作物を施設内で光、温湿度、二酸化炭素濃度、培養液 などの環境条件を人工的に制御し、季節や場所にあまりとらわれずに自動的に連続生産す るシステム」115ということができる。本研究においても、これを植物工場の定義として捉え て良いであろう。

112 植物工場と名を冠した著の類は、数多くといっても20刷程度であり出版されている。その大半が、工 場の技術的可能性や稼働可能性におけるノウハウについての著述である。植物工場の社会および経済的な 記述としては、イノプレックスの藤本真狩の論考が非常に優れており、講演等の資料がとても参考にな る。例えば、藤本真狩(閲覧日:20121107日)。経済学や経営学の社会科学分野においての研究お よび議論はほとんど皆無である。このような意味から、本研究の植物工場におけるビジネス化についての 経営学の分析については貴重な文献となろう。

113 高辻(2010)、p.151。

114 現在では、農林水産省では、この植物工場について、当初、高度環境制御型農業と位置づけていた。

その後、農業と植物工場の差異を示す意味で高度環境制御施設として位置づけられていると考えられる。

「高度環境制御施設」(閲覧日:2014913日)

115 高辻(2010)、p.4。