前章では、食料生産における農業と植物工場のビジネスについて考察してきた。そこで、
食料生産における、問題点や課題を克服し、なおかつ社会および経済にとって不利益を被ら ない状態を生産要素とこれに伴う経営形態の変化を考察しながら、ある意味で理想となる 食料生産の状況を考察してきた。そこで本研究では、前章まで検討されてきた植物工場その ものが、食料生産を賄うだけの、すなわち農業と同等の機能を持つのであろうかという疑問 が生じる。もちろん、農業を完全にできるわけではなく、限定的ではあるけれども同等な機 能を持つという意味で、植物工場が補完機能を携えているかどうかについて、その現状と実 態を把握するためにも、アンケート調査を行った結果を、本章では述べていくことにする。
1.調査結果
(1)調査対象企業
まず、本研究における調査対象企業に関して述べていくことにする。日本における植物工 場の数は、100社前後で推移しているようであるが、本研究における調査対象となった企業 および法人は、次に掲げる2点の資料より選定した。
第1点目が、スーパーホルトプロジェクト協議会による「全国実態調査・優良事例調査報 告書」が㈱三菱総合研究所によって報告書が作成されている172。この報告書において、日本 における植物工場ビジネスを経営している企業および法人が掲載してある。この資料に基 づいて、調査対象となる企業および法人を選定した。
第2点目が、農林水産省と経済産業省の合同で行われた事例集「植物工場の事例集」が経 済産業省によって作成されている173。この報告書において、日本における植物工場ビジネス を経営している法人が掲載してある。この資料に基づいて、調査対象となる法人を選定した。
本研究では、以上の2つの資料に基づいて、アンケート調査の対象となる企業および法人 が合計で100社に選定した。
(2)調査期間
調査は、2013年2月から3月末日までの期間実施した。
(3)回収率
アンケート調査の全体の回答率は、宛先不明でアンケート調査不可能であった場合や出 資母体や経営母体が同一であり、回答が絞られた場合もあった。そのため、最終的に87社
172 「全国実態調査・優良事例調査報告書-㈱三菱総合研究所-」(閲覧日:2013年11月18日)。
173 農林水産省と経済産業省の合同で行われた事例集「植物工場の事例集」(閲覧日:2013年11月17 日)。
94
が調査対象となり、回答データが回収できた企業は合計で33件となった。したがって、最 終的に、アンケートの回収率は37.9%であった174。
2.植物工場に関するアンケート調査-基本編-
この植物工場についてのアンケート調査は、大項目が「基本編」、「植物工場へ着手した戦 略的背景」、「植物工場の実際(現状)」、「植物工場に対する将来の期待と展望」、「その他」
の5項目で構成され、小項目は42項目の構成となっている175。近年、注目を浴びている植 物工場ではあるが、将来の産業創造への期待感も高まりをみせる一方で、様々に問題を抱え ていることも事実である。今回のアンケート調査によって、植物工場の実態に迫り、その課 題の整理と今後の発展に向けた取り組みについて検討していくことにする。
(1)工場の生産規模
ここでは、植物工場の生産を行う規模についてまとめることにする。1日当たりの生産数 量または出荷数量を基本としてアンケートを行うに至った。ただし、単位は株あるいは個と いうことになる。植物工場において生産され、また回転率(稼働)の面から考えると葉物野 菜類が中心と予想される176。
図Ⅴ-1 植物工場の規模
出所:当間政義(2014)、p.64、「図1-1 植物工場の規模」をもとに加筆修正。
まずは、図Ⅴ-1を参考に、顕著な傾向をみていくことにしよう。生産規模としては、第
174 回収率は33社/87社*100=37.9%である。
175 本研究の調査では、「植物工場」という概念に対し、統一的見解のもとでアンケート調査を行うことが 困難になると予想される。例えば、野菜工場等をはじめ、様々に呼び名が異なる場合も考えられよう。そ のため施設屋内で太陽光または人工光あるいはこれらを併用して、野菜や花卉などの植物を(水耕栽培に よって)育成するビジネスという非常に幅広い意味で捉えている。
176 中にはトマトのような個数表示のところもあった。出荷できる単位を考えるとき、株という単位を記 すこととした。
38.5%
7.7%
23.1%
30.8%
500以下 1,000未満 1,000前後 3,000以上
単位:株 (n=33)
95
1位が「500株以下」、次いで第2位が「3,000株以上」となっていた。第3位が「1,000 株前後」、第4位が「1,000株未満」となっていた。この図Ⅴ-1を見る限り、植物工場の生 産規模は、工場として成り立っている規模であるかどうかが一目でわかる。「500以下」の ところは経営として成り立つよりは、現在が試験的であるがこれから稼働率を上げていく 企業であると考えられる。あるいは、むしろこちらの方が多いのかもしれないが、研究開 発に注力しコンサルティングに従事している企業ということもできる。
(2)植物工場に従事する従業員の人数
ここでは、植物工場における労働についてまとめることにする。植物工場のビジネスが 創造されれば、雇用が増加する可能性があるという期待感は非常に高いという意見がたび たびいわれている。もちろん、新たな産業が創造されれば、当然、そのビジネスを担う人 が必要となろう。そこで、本研究では、実際に植物工場において、どのような待遇で人員 を雇用しているのかについての調査を行うことにした。
図Ⅴ-2 植物工場に従事する人員数 出所:当間政義(2014)、p.65、「図1-2 植物工場に従事する人員数」。
調査の結果を図Ⅴ-2に示した。この図Ⅴ-2を参考に、まずは顕著な傾向を見ていくこと にしよう。第1が「5人未満」であり、7割以上の企業が回答していた。このことから正 社員数は非常に少ないことがわかる。次いで、第2位に「10人以上」であった。第3位が
「5人~10人」で1割であった。「50人以上」の正社員を雇用している企業は無かったの である。次に、パートであるが、第1位が「5人~10人」、第2位が「10人以上」、第3位 が「5人未満」、第4位が「50人以上」となっていた。そして、アルバイトであるが、第 1位が「5人未満」、第2位が「5人~10人」、第3位が「10人以上」、「50人以上」につい ての回答はなかったのである。
73.3%
10.0%
16.7%
0.0%
21.7%
34.8%
26.1%
17.4%
70.0%
30.0%
0.0%
0.0%
0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%
5人未満 5人~10人 10人以上 50人以上
アルバイト パート 正社員 (n=33)
96
以上の回答結果から示されることは、植物工場の経営を行う場合、数名の社員を雇用 し、工場の稼働については、定期的に稼働できるパート形態であることが主な雇用形態で あることが顕著に示された。しかしながら、新たな正社員を増加させる傾向を示してはい ない。序章でも指摘したように、ICTの活用は、新産業分野では、新たな雇用をそれほど 多くは必要ないことが、本調査で明らかとなった。植物工場のビジネスをはじめ、ICTを 活用する新産業および新たなビジネス・モデルは、多くの人材を必要としないといえる。
一方で、ICTの利活用を組み入れていることが少なからずうかがえることもまた示されて いる。
(3)植物工場を設立する資金調達
ここでは、植物工場のビジネスを行う際の資金調達とその資金調達先についてまとめる ことにする。この2点についてアンケートを行い、その結果を図Ⅴ-3-1および図Ⅴ-3-2にま とめ、示すことにする。
①植物工場の投資-自前編-
図Ⅴ-3-1を参考に、まずは顕著な傾向を見ていくことにしよう。第1位が自己資金は
「無し」、同位で「1/2以上」、第3位が「全部」、第4位が「1/10未満」であった。
図Ⅴ-3-1 植物工場設立資金の比率 出所:当間政義(2014)、p.66、「図1-3-1 植物工場設立資金の比率」。
②植物工場の投資について-借入編-
図Ⅴ-3-2を参考に、まずは顕著な傾向を見ていくことにしよう。第1位が「金融機関」、第 31.8%
13.6%
4.5%
31.8%
18.2%
無し 1/10未満 1/4未満 1/2以上 全部
(n=33)
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2位が「その他」、第3位が「共同出資」、第4位が「家族」という順であるが、「取引業者」
からの借り入れはなかった。
図Ⅴ-3-2 植物工場の設立資金の調達先 出所:当間政義(2014)、p.66、「図1-3-2 植物工場の設立資金の調達先」。
③植物工場の投資についてのまとめ
以上、図Ⅴ-3-1 と図Ⅴ-3-2 を参考に、資金調達の借り入れについては、全額自己資金で賄
っている企業は、全体で18.2%であった。その他の企業は、ほぼ借入を行っている状況にあ る。その際の借入先については、金融機関からが48.3%と圧倒的に多いが、その他も34.5%
と数多く見受けられる。このその他は、農林水産省や経済産業省などの支援や助成を獲得し、
資金調達をしていることが理由としてあげられる。この 2 つの省が支援を行っていること からも、植物工場について将来期待される産業であることを物語っている177。しかしながら、
生産物については、農産物とは異なる工業生産物としての扱いとなっている。そのため、農 業は農産物という位置づけであり、農業であれば、農協からの借り入れが主なものとなると 考えられる。ところが、植物工場は、農協からの借り入れがほとんど無かった点が、この調 査からわかった。この点は、前章で考察した通り、農業は農産物、工業は、生産物という経 営形態の差異を示すものと捉えることができる。
(4)植物工場の企業形態
ビジネスを営む際には様々な企業形態が考えられる。植物工場の経営については、どのよ
177 経済産業省および農林水産省では、平成21年(2009年)1月に「農商工連携研究会」の下で植物工場 ワーキング・グループを設置し支援している。ここでは、今後3年間で全国の植物工場を3倍に拡大し、
生産コストを3割削減する目標を設定している。「農商工連携」(2013年11月参照)。 48.3%
0.0%
10.3%
6.9%
34.5%
金融機関 取引業者 共同出資 家族 その他 (n=33)