さて、前章では、食料生産における農業と植物工場のビジネスについてアンケート調査の 結果を考察してきた。そこで、食料生産にとって、問題点や課題を克服し、なおかつ社会お よび経済にとって不利益を被らない状態を生産要素とこれに伴う経営形態の変化を考察し ながら、ある意味で理想となる食料生産の状況を考察してきた。そこで本研究では、前章に 引き続き植物工場そのものが食料生産を賄うだけの、すなわち農業と同等の機能を持つの であるかという視点から検討していくことにする。植物工場のビジネス化は、まさに社会に とって必要なビジネスであることは否定ができない。この植物工場についての調査は、主に インタビュー形式の手法をとることによって明らかにしていきたい180。ここでは、植物工場 ビジネスに関してインタビューをした実態調査にもとづいて記すことにする。植物工場の 現状と実態を把握するためにも、インタビュー調査を行った結果について、本章では、検討 していくことにする。
1.植物工場のビジネス化についての調査 1
調査対象となる企業および法人は、前章(第Ⅴ章)においてアンケート調査において回 答が得られた中から、有力な企業および法人を選定してインタビュー調査を4社において 行った181。本節では、この結果について述べていきたい。
(1)M社の事例
M社は、所在地が愛知県弥富市に位置する会社である。もともとは農業を営んでいる傍ら、
農業の「農」を「脳」として置き換え、新たな発想の下で、農業と併設して植物工場を営ん できた経緯がある。植物工場は1970年代から手掛けており、植物工場ビジネスの老舗とい うことができる。このM社についての調査の概要としては、以下の通りである182。
社員 20名(農場は社員1人・パート3人の作業員、工場は社員 1人で作業している)で ある。農場 1,500㎡(パート5人の作業員)の植物工場では、種まき・収穫1日 2kg 程 度の収穫である。面積(広さ)は、3間×3間程度である。
植物工場の生産物の売価は、路地栽培と比べて2倍程度となっている。種(たね)は、一
180 調査の期間は、2013年2月期から開始し3月期にかけて行った。企業や法人の植物工場ビジネスの開 発者や担当者へ直接インタビューを行い、その内容を記述することとした。調査の時間はおおむね1時間 半から2時間くらいとした。
181 すでに調査の内容が公表されている調査内容については、次の文献に掲載されているので参照された い。本節はこの文献からの引用である。當間・倉方・當間(2013)。なお、本調査の内容は、既に公表さ れている調査内容であるが公表されていない内容もあるので、便宜上アルファベットで社名を示している ことを述べておく。
182 M社は、(株)M式水耕研究所であり、2013年3月11日にインタビューを行った。「M式水耕研究 所」(閲覧日:2013年10月27日)。
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般に市販されているもので対応可能であり、スポンジの上に種を蒔くこととしている。収穫 はレタスで約45日間かかり、毎日栽培し毎日収穫する生産計画を立てている。現段階では、
LED は蛍光灯に比べ照明器具が数多く必要となり電気代などのコストが非常に高いという。
図Ⅵ-1 M社
出所:当間・倉方・當間(2013)、p.58、図1。
水道水はカルキ(塩素)抜きをして栽培用水とする。図Ⅵ-1の施設において、植物の種苗 ベッド(30cm×60cm・90cm・120cm)が備えてある。コーティング種子を入れて育苗する。
薄めの肥料を入れ、水を循環させて動かしている。栽培用水は、サーモスタッドで 約20℃
から22℃に保ち、ブロアーで酸素を与えながら水を循環させ、栽培をするのがM社の植物
工場の特徴である。
また、水を流し続けるばかりでなく、水を止める簡潔方式を使用しており、養分を吸って 栽培が出来るので水量に変化をつける方式を採用している(ON・OFF型と呼ばれる)。レタ ス等の葉物意外にトマト・キュウリ・メロン等は栽培が可能である。特にメロンは、産地ブ ランドの条件という基準があるため栽培ができた状態であるが、市場には流通させなかっ たようである。ゴボウ・大根等の根物は難しく、なおかつ需要が見込めないので栽培をして いない。葉物野菜が中心であり、種まきをして約2週間 ベッドに植える。その後、約1ヶ 月で栽培している。
(2)H社
H社は、静岡県浜松市浜北区に位置する会社であり、植物工場のベンチャー系の会社であ る183。経営者は、農学系の大学で学んだ経験をもつ女性企業家である。アイデアが豊富で、
植物工場の生産プロセスにおいても、マーケティングにおいても実験を試みる。このH社に ついての調査の概要としては、以下の通りである。
植物工場栽培の設備は、2段(多段式)のアルミフレームにFRPにて作成した水耕栽培用
183 H社は、(株)ホト・アグリであり、2013年3月12日にインタビューを行った。ホームページ「(株)
ホト・アグリ」(閲覧日:2013年10月26日)。
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トレイにタイマースイッチにて4 時間毎に 15 分ほど栽培用水を流すように制御している。
朝6時から夕方6時までの間、LEDまたは蛍光灯にて光を与えるシステムを使用している。
室温が、40℃を超えると根腐れするので、強制的にエアコンにて室温を18℃から25℃に保 って栽培を行っている。光熱費は、基本使用料金を含み、1ヶ月あたり約11,000円(2.5間
×1.0間程度のプレハブ小屋)がかかるとのことであった。栽培用水は、減った分を補充し、
取り換えは 3ヶ月に 1 度程度で十分であると考えており、農学で学んだ知識を生かして生 産計画を立てている。
図Ⅵ-2 H社 出所:当間・倉方・當間(2013)、p.59、図6。
光源は、図Ⅵ-2にみられるように、蛍光灯、LED、エコらる(開発)の3種類を使用して いる。また、FRP製の栽培用トレイは、特別注文により黄緑色したトレイを、西村工業所と ホト・アグリで製作したものであるとのことでした。肥料については、非常に独特であり、
現在は有機煮汁(有機肥料)にて栽培できる野菜を研究している。化学肥料は、大塚化学㈱
ベジタブルライフAを使用している。ここでも肥料表(大塚化学)より栽培用水を作り出し
(ポータブル型PH計によって計測)し循環させていた。15Aの分電盤スイッチにタイマー
(栽培用水循環用)のついたスイッチにて時間制御をおこなっていた。蛍光灯または LED の照射は市販用タイマースイッチにて行っている184。
(3)C社
C社は、愛知県大府市吉川町に位置する会社であり、電気設備工事が主体の会社が植物工 場を経営している185。換言すれば、電気設備工事を基本的業務に行う傍ら、電気設備そのも のを活かして新たなビジネスを展開することを目的に植物工場へ参入した背景がある。調
184 農商工等連携対策事業であり、関東経済産業局および関東農政局認定第1号に選出された。また、農 商工連携ベストプラクティス30選定事業としても指定を受けている。
185 C社は、(有)林田電気システムであり、2013年3月11日にインタビューを行った。ホームページ
「(有)林田電気システム 小さな葉っぱ」(閲覧日:2013年10月26日)。
108 査の概要としては、以下の通りである。
図Ⅵ-3 C社 出所:当間・倉方・當間(2013)、p.59、図3。
図Ⅵ-3にみられるように、LED(白赤・赤青)を使用している。これは、植物の生育に良 い光があるため、使い分けをしている。水を循環することなく、水分がなくなったら植物に 合う肥料を肥料表(大塚化学)より作り出し(ポータブル型PH計にて計測)栽培トレイに 入れる。エアコンの温度管理は一定で行い、20℃から22℃に保つようにしている。葉物は、
早い物で約 3週間、レタス等は、これまでの計測からすると、約 45日で栽培可能となる。
エアコン、LED をタイマースイッチにて管理し光熱費は、1 ヶ月当り約 2 万円かかってい る。このコンテナ型の植物工場は、現在海外市場を想定しており、具体的な商談が進んでい る等の回答が得られた。
(4)Y社
Y社は、静岡県浜松市浜北区に位置し、オートバイの部品(コントロールケーブル・パイ プおよび電気系統の部品)を主として製造する会社である186。近年になって、Y社の LED ライトを手掛け、この手がけた商品の販路に見合うビジネスはないものかと探索したとこ ろ、植物工場に行きつき、Y社の新たなビジネスとして参入した経緯がある。このY社につ いては、調査の概要としては、以下の通りである。
同社では、植物工場ビジネスそれ自体の経営は行っていない。しかし、植物工場に利用で きる光源体や、植物の栽培に有効なLEDライトの製品開発をすべく、植物工場ビジネスの 研究を行っている。同社は、もともとオートバイ部品を製造してきた(図Ⅵ-4参照)。LED ライトは、問い合わせに応じて製品購入が出来るような受注生産体制をとっている。植物の 生育によいLEDライトの開発を大学などの研究機関とタイアップして行い、農家や農協へ
186 Y社は、やまと興業(株)であり、2013年3月11日にインタビューを行った。ホームページ「やまと 興業(株)」(閲覧日:2013年10月26日)。なお次の記事も参照したのでここで紹介しておく。「植物工 場・農業ビジネス」(閲覧日:2013年10月26日)。