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珠海恒通の債務不履行による棱光実業の苦境

ドキュメント内 中国上場企業の情報開示に関する研究 (ページ 81-87)

第 8 章 間接上場の課題

8.1 殻会社として狙われる「棱光実業」(上海証券取引所)

8.1.1.2 珠海恒通の債務不履行による棱光実業の苦境

殻借り上場では新規株式発行はしないため、その時点で資金調達ができないという弱みが ある。しかし上場は証券市場から資金調達する資格を意味するので、間接上場後の珠海恒通 は、経営不振に陥る棱光実業の上場資格の維持に力を注いでいた。当時、株式追加発行の予備 企業は直近3会計年度の平均自己資本利益率(ROE)が10%を下回ってはいけない、という

CSRCの規定があった72。そこで、珠海恒通は自らの子会社である恒通電表を棱光実業に転売

し、棱光実業の営利能力を強化した。

恒通電表は1992年7月に珠海恒通が設立した、ISO9000基準(ISO(国際標準化機構)による品 質マネジメントシステムに関する規格の1種類)に認可された当時中国唯一の電子型電気計器 メーカーである。1995年12月、棱光実業は買収価額1.6億元(当年度に0.8億元を現金で支払 い、残りは3年間に分けて分割払う)で、純資産8848万元の恒通電表を買収した。

この明らかに過大評価された買収金額に対して、筆頭株主かつ恒通電表の元持株会社であ る珠海恒通は棱光実業の全株主に対して、恒通電表が生み出す利益の保証を承諾することで、

株主総会の可決を求めた。具体的には、棱光実業に取得後でも、珠海恒通は恒通電表の経営を 代行し、そして税引後純利益2193万元を計算ベースに、1996年から3年連続で20%以上の成 長率を保証した(税引後純利益は1996年が2193万元、1997年が2531万元、1998年が3157万 元となる。)。こうした成長率を下回る場合、珠海恒通は買収時の金額で恒通電表を買い戻す と合意した。この合意は経営不振に陥る棱光実業の自己資本利益率を10%に確保し、株式割 当追加発行の要件を維持するための措置と考えられている73

恒通電表の買収金1.6億元について、棱光実業は主に負債で調達した。したがって、表8-1 に示しているように、買収後の1995年末は前年度と比べて、自己資本がほぼ変わらないが、

負債の拡大による総資産が倍近く増加した。その増加分のうち、短期借り入れ0.5億と恒通電 表の買収未払金0.8億元が大半を占めていた。こうした負債はその後棱光実業の財務状況を大 きく迫った。

72 1998年証券法が試行されるまでの中国証券市場では、全株主に対する割当追加発行は上場企業唯一の追加発

行方式であった。割当追加発行に対して、19949月、中国CSRCは「(会社法(1993改正)を執行し上場企業 割当追加発行を規範するための通知、中国語:关于行<公司法>规范上市公司配股的通知)」を公布し、その うち、発行予備企業は直近3年間の自己資本利益率の平均値が10%以上でなければならない、と新たに規定し た。

73 王、張(2004)p23

80 図8-2 珠海恒通の殻借り上場と恒通電表の売却のイメージ図

出典:各種公開資料より筆者作成

一方、珠海恒通が保証した恒通電表の営利状況について、孫、周(1998)74、王、張

(2005)が推定した1996-1998年の税引き後純利益はそれぞれ2388.6万元、2202万元、

1102.69万元(1998年1月-11月の実績)であった。これは当初珠海恒通が合意した数値を大

きく下回っていたので、1998年12月棱光実業は珠海恒通に対して、恒通電表の買い戻しを要 請した。

1ヶ月後、珠海恒通は要請に応じて、2.43億元の金額で恒通電表を買い戻すと表示した。2.4 億元には、合意に定められている1.6億元の買収金のほか、1996-1998年における棱光実業の 追加投資分も加算されたわけである。そこで、買い戻す金2.4億元のうち、1.21億元の実物資 産が棱光実業の当年度財務諸表に計上され、残りは3期に分けて3年内に返済される債権とさ れた。

このような複雑な取引により、珠海恒通が棱光実業の筆頭株主となる1994年から、2.4億元 の買い戻す金がすべて返済される1998年まで、棱光実業は毎年10%以上の自己資本利益率を 維持し、株式の割当追加発行の要件を満たしていた。

CSRCの割当追加発行の基準を満たしていたので、1998年までに棱光実業は連年追加発行を してきた。表8-2は無償株と割当追加発行の状況をまとめている。

74 孫、周(1998)p22

81 表8-1 棱光実業の財務指標 単位:万元、%

自己資本 総資産 売上高 純利益 自己資本利益率

1993年 5,882 11,910 1,941 687 11.69%

1994年 10,245 19,990 2,779 1,259 12.28%

1995年 10,873 38,750 6,783 1,418 13.04%

1996年 13,278 46,081 9,954 1,615 12.16%

1997年 20,165

(19,480)

54,391

(53,705)

8,712

(8,712)

2,214

(1,618)

10.98%

(8.31%)

1998年 23,186

(19,947)

57,510

(54,271)

3,985

(3,985)

3,018

(375)

13.02%

(1.88%)

1999年 16,199 55,679 3,170 -3,748 -23.14%

2000年 12,200

(6,343)

54,284

(48,022)

2,841

(2,841)

-3,999

(-4,187)

-32.78%

(-66.02%)

出典:棱光実業の各年度の年次報告書より筆者作成

注:珠海恒通の債務不履行により、棱光実業は1997年度、1998年度、2000年度の年次報告書の財務データ を修正して再開示した。()は修正後の財務数値である。

表8-2 棱光実業の株式発行状況:1994-2000年

無償株、割当追加発行の状況 1994年

5月、当時上海証券市場の監督当局である上海証券管理弁公室の認可を経て、棱光実 業は1株に対して0.2株の割合で無償株をすべての既存株主に配布した。そして、既 存株主に対して、1株に対して0.3株の割合で割当追加発行を行った。

1995年

5月の株主総会の議決により、1株あたり0.1元の割合で全株主に配当を配布した(1

株あたり配当利回りが1.02%)。

12月、棱光実業は株主総会の議決を得て、珠海恒通の完全子会社である恒通電能儀

表公司の100%株式を購入した。

1996年 棱光実業は1株に対して0.15株の無償株を株主に配布した。

1997年

1月末、棱光実業は1株に対する0.3株の割当追加発行を実施した。

5月の株主総会の議決により、1株に対する0.15株の無償株を配布した。更に、資本 剰余金をベースに、1株に対する0.65株の無償株を配布した。

1998年 棱光実業は1株に対して0.1株の無償株を配布した。

出典:棱光実業の各年度の年次報告書より筆者作成

1993年上場してから2016年末現在までの株主還元を見ると、棱光実業は1995年5月に限り

527万元の現金配当を実施している。1994年度の平均株価9.82元を用いて推定された1株あた

り配当利回りは1.02%にすぎなかった。1995年以外のすべての年度において棱光実業は無償株 を実施している。特に珠海恒通が筆頭株主となっていた1994-1998年の5年間において、棱 光実業の総株式数は3379.9万株から15137.76万株(447.88%)に拡大した。そのうち、1994年 と1997年の2回の割当追加発行で合計0.84億元を調達した(珠海恒通は筆頭株主として0.299 億元を納入した)。

前述のように、殻借り上場では株式新規発行はしないため、上場できた時点では資金調達 ができない。珠海恒通が殻借り上場を通じて棱光実業の筆頭株主となってから、主には下記の 3つの方法より利益を獲得した。

82

① 珠海恒通は子会社の恒通電表を純資産の倍近くの金額で売り出した。これだけで珠海恒 通の利益は約0.7億元に達するという75

② 珠海恒通、またはその子会社が棱光実業の資金を占用した。複雑な内部取引のうち、少 なくとも珠海恒通は棱光実業の資金0.21億元を占用したことが明らかになっている76

③ 珠海恒通が棱光実業の資産を担保として銀行から巨額な借り入れを行った。

筆頭株主としての珠海恒通は棱光実業の資産を担保に多数の銀行から借金を借り入れた。

2000年末まで、棱光実業が珠海恒通及びその子会社合計8社に対する担保の金額は5.12億元 にのぼった。当年末まで、連帯担保責任を負う棱光実業に対して合計30件以上の訴訟が行わ れた。

2000年、2001年度の年次報告書には担当監査法人による「説明付き適当監査意見(限定付 適正意見)」が掲載された。その理由は、棱光実業は珠海恒通に対する3.49億元の債権が回 収できないリスクがあるというものである77

こうした不良債権について、1999年から棱光実業は減損処理した。その結果、表8-1に示 しているように、棱光実業は1997年、1998年、2000年の財務データを修正して再開示した。

そのうち、1997年、1998年の純利益と自己資本が大幅に下がった。その後、棱光実業の財務 状況は悪化する一方となり、2001-2005年は自己資本がマイナスになり、債務超過になってし まった(図8-3を参照)。

2000年から2007年まで、「ST棱光」は2001-2007年数回にわたって上場停止された。

図8-3 棱光実業の財務状況 単位:億元

出典:棱光実業の各年度の年次報告書に開示されるデータより筆者整理、作成

注:201510月、棱光実業は華建集団に買収されたので、2015年度の年次報告書作成の主体は華建集団に 変更された。

75 馬(2005)p8

76 孫、周(1998)p24

77 2001年度に限り、棱光実業の監査法人は従来の「上海上会会計事務所有限公司」から「湖北大信頼会計事務

所有限公司」に変更された。2001年以降はまた従来の監査法人に戻った。

-100000 0 100000 200000 300000 400000 500000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

自己資本 総資産 売上 純利益

83 一方、大株主としての珠海恒通は結局自業自得と言わざるをえない。

1997年12月珠海恒通は棱光実業の株式4885.92万株を担保として、上海浦東発展銀行から 0.5億元を1年間で借り入れた。しかし、珠海恒通は返済できなかった。

2000年、債権者である上海浦東発展銀行は訴訟を提起した。その結果、珠海恒通が所有す る棱光実業の株式5374.512万株(総株式数の35.5%に占める)は裁判により3回に渡って競売 することになったが、落札者がいなかった。

2000年6月、珠海恒通と棱光実業の社長楊博が逮捕された。

2001年6月、珠海恒通の持分5374.512株は、裁判で四川嘉信貿易有限責任公司に4400万

株、福州飛越集団有限公司に974.512万株をそれぞれ帰属するとの判決があった。それによっ て、四川嘉信(持株比率29.06%)と福州飛越(同6.44%)はそれぞれ第1、第3位株主となっ た。棱光実業の社長も四川嘉信の社長に変更された。

2002年、棱光実業の担当監査法人事務所が「説明付き適当監査意見(限定付適正意見)」

を提示して、棱光実業は不良債権が膨大となるほか、優良資産が極めて少ないため、事業継続 性にリスクがあると投資家・株主に警告した。

2004年と2005年の2年連続で、担当監査法人より、「意見不表明」の監査結果が出され た。棱光実業は財務状況が極めて深刻で、上場廃止・破綻の場面に直面していた。

8.1.1.3 2回目の殻借り上場

株式会社制度の導入並びに証券市場の開設を巡って、1993年から導入された上場企業株式 における国家株、事業法人株、個人株の分類は、次第に中国証券市場が発展する制約となっ た。その解決策として、2005年中国証券市場に重大な影響を及ぼす株式改革が始まった。国 務院の国有資産管理部署が所有者となる国家株、及び事業法人株が、一定のロックアップ期間 を経て、取引所取引のできない非流通株から取引できる流通株に転換するものである。このよ うな動きをうけて、棱光実業の非流通株改革の計画が検討され始めていた。

2006年6月末、2位の株主である上海建材は、まず筆頭株主である四川嘉信から4400万株

を取得して、棱光実業の筆頭株主になった。次に上海建材の努力によって、棱光実業の債務 6.93億元のうち、大半が免除された。最後に、上海建材は棱光実業の債務1.5億元を免除した ほか、1.1億元の資産を提供して、棱光実業の非流通株改革計画を推進した。

2006年11月、棱光実業の非流通株改革計画が株主総会に可決された。

2007年9月、上海建材に対する株式割当追加発行の計画がCSRCに許可された。2008年1月

に1.176億株(前期末の株式総数の77.7%に占める)が上海建材に発行された。発行後、上海

建材の持株比率は69.67%にのぼった。こうした1.176億株は流通できるA株に転換される前 に、3年間ロックアップされる売買条件付き株に転換された。

2009年、上海国有資産管理委員会の決定により、上海建材 は新たに設立された上海国盛 有限公司(以下は「上海国盛」と略す)の完全子会社になった。上海建材であれ、上海国盛で

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