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先行研究のまとめ

ドキュメント内 中国上場企業の情報開示に関する研究 (ページ 46-49)

第 4 章 情報開示の改善による株主資本コストの削減効果

4.1 先行研究のまとめ

4.1.1 企業情報開示の改善が株主資本コストに与える影響を取り扱う理論研究

情報開示が株主資本コストに与える影響に関する理論研究は、情報非対称性及びエージェン ト理論を前提として論じるものが多い。この場合、情報開示の改善がいかに株主資本コストを 軽減するかについて、2つのアプローチがある(Botosan(1997)、Botosan(2006)等)。ひと つは株式市場の流動性(Stock Market Liquidity)に注目するアプローチである。それは情報開示 の改善により、取引コストの削減、または市場需要の拡大の実現によって、株式の流動性が向 上し、株主資本コストが下がるというものである(Diamond and Verrecchia(1991)など)。も うひとつは業績予想リスク(Estimation Risk)に注目するアプローチである。それは、投資家の 投資意思決定は限られた情報に基づいてなされるので、情報開示レベルの低い企業は投資家に 比較的高い株主資本コストが要求される。従って、情報開示の改善は投資家の将来予想リスク を下げることによって、株主資本コストを軽減する(Lambert(2007)など)。

4.1.2 企業情報開示の改善が株主資本コストに与える影響を取り扱う実証研究

他方、情報開示と株主資本コストの関係を扱う実証研究では、Botosanは先駆的な研究者で あり、その一連の研究の影響は大きい。Botosan(1997)は、従来の実証研究は株主資本コスト 自体でなく、それと正の相関がある代理変数を推定して、情報開示との関係を論じたため、理

45 論研究通りの結果が得なかった。そのため、Botosan(1997)は残余利益モデル(Residual Income Model)から株主資本コストを推定した。また、情報開示の代理変数について、従来よ く利用されていたAIMR報告書40は各業界内の大手企業、特にアナリストが多く注目している 企業に偏るという限界がある、と指摘した。同論文は、1990年度の製造業122社から、株主向 けのアニュアルレポートに記載されているデータに注目し、情報開示インデックスを自ら作成 した。重回帰分析を通じて分析した結果、①情報開示インデックスを企業情報開示レベルの代 理変数とする場合、株主資本コストとの負の関係は観察されなかった。予想と反対の結果を得 た原因について、証券アナリストの情報発信が無視された可能性が考えられた。ここから、同 論文は、対象企業を担当アナリストの多いグループと少ないグループに分け、再検討した。そ の結果、②担当アナリストが少ない企業に限り、情報開示レベルと株主資本コストの負の相関 が観察された。

Botosan and Plumlee(2002)は、Botosan(1997)を発展させた議論を展開している。Botosan

(1997)で、株主資本コストの推定方法は残余利益モデルであったが、配当割引モデル

(Dividend Discount Model)に変わった。同様に、自らディスクロージャーのレベルを設定する

代わりに、AIMR報告書の結果を利用して、開示情報の効果を種類別に検討した。AIMR報告 書は、①アニュアルレポート、②四半期報告書、③IR活動の3つのタイプ別に企業のディス クロージャー状況を具体的に評価し、総合点数も発表していた。Botosan and Plumlee(2002)は 1985年度から1995年度までのAIMRの報告書の結果(延べ3618社)を利用して検討した。そ の結果、アニュアルレポートによって提示した点数と株主資本コストとの負の関係は観察され たが、AIMR報告書の総合点数、IR活動の点数と株主資本コストとの負の関係は観察されなか った。また、四半期報告書の点数と株主資本コストに正の相関があるという仮説と反対の結果 が観察された。同論文は、アニュアルレポートより開示された情報は株主資本コストの低減を もたらすが、四半期報告書より開示された情報はボラティリティーの拡大に繋がる可能性があ り、株主資本コストを増大した、と指摘した。

音川(2000)は、Botosan(1997)の研究を踏まえて、残余利益モデルから推定した株主資本 コストと、日本証券アナリスト協会(SAAJ)が実施する「証券アナリストによるディスクロ ージャー優良企業選定」の結果との関係を分析した。その結果、情報開示レベルと株主資本コ ストとの負の関係の存在が明らかになった。

須田(2004)は、音川(2000)と同様に、残余利益モデルとSAAJ報告書の結果を利用した が、須田(2004)はSAAJ報告書の点数ではなく、その結果の順位によって3つのダミー変数 を設定して、実証を行った。その結果、①情報開示レベルと株主資本コストに負の関係が存在 することが分かった。②SAAJ評価の順位が上がるにつれて、株主資本コストが低下してい く、という結果が分かった。

内野(2005)は、①アナリストに限らずすべての投資家が求める開示情報、②大企業のみな らず一般事業企業を対象とする、という考えから、①決算短信を非集中日に開示する企業、② 日本インベスター・リレーションズ協議会の会員である企業、③株主総会の招集通知を早期に 送付する企業、④決算短信を早期に開示する企業、といった4つの任意開示の情報開示指標を

40 AIMRは米国CFA協会の前身である米国資産運用・調査専門家協会(Association for Investment Management and

Research)の略称であり、1990年に米国の証券アナリスト協会(Financial Analysts Federation)と公認証券アナリス ト協会(Institute of Charted Financial Analysts)が統合され、設立された組織である。AIMR報告書(Corporate

Information Committee Report)は、AIMRが1980年代から公表した企業ディスクロージャーに関する報告書のこと

を指している。

46 設けて、東京、大阪、名古屋証券取引所の第一部、第二部の一般事業企業延べ7620社を対象 に、情報開示の評価をした。そして、Fama-French 3ファクターモデルから株主資本コストを 推定して、情報開示との関係を分析した。決算短信の開示所要日数の短縮という形態で、情報 開示を改善した企業の株主資本コストは低下したということも分かった。

以上は、日米のような先進的な株式市場の実証結果であり、新興市場としての中国証券市場 でも、情報開示による株主資本コストの低減効果は例証できるだろうか。

Wang and Jiang(2004)は2001年度上海証券取引所の上場企業516社を対象に、①上場企業適時

報告書と四半期報告書の合計件数を自発的情報開示の指標とし、②EPレシオを企業の資本コ ストとし、重回帰分析により検証した。その結果、理論研究通りの結論が観察された。

Zeng and Lu(2006)は、2002-2003年度深圳証券取引所に上場した企業283社を対象に、①

深圳証券取引所が行う情報開示評価の結果、②残余利益モデルから推定された株主資本コス ト、との関係を検討して、仮説通りの結果を得た。

4.1.3 中国株式市場の特徴:国有株式の影響

中国株式市場に1つ大きな特徴としては、国有企業の上場が挙げられる。1990年代では中国 上場企業の大半は実質上国有企業であった。長(2004)によれば、2001年10月末に、中国国 内市場に上場されていた1246社の内、831社(66.69%)が国有企業であり、上場企業の65%

の筆頭株主が国であった。2013年年末時点では、A株上場企業2515社のうち、中央政府と地 方政府が保有・監督する企業はそれぞれ327社(13%)、650社(25.84%)あり、民間企業の 上場増加によりその占める割合は減少してきた。一方、発行済株式数では、中央・地方国有企 業はまだ全上場企業発行済株式総数の68.35%を占めている(李(2014))。

上場企業株式の国の所有は企業情報開示にどのような影響を及ぼすかについて、Wu, Wang,

and Cheng(2004)は、Bid-Askスプレッドを情報非対称の表徴として、株式所有構造(Equity

Ownership Structure)との関係を検討した。その結果、国有・事業法人株持分の増加につれて、

情報非対称性が拡大し、証券流動性が低下する、と指摘した。

Zhao(2011)は、株式構造がIR活動に与える影響は非線形型である可能性を論じた。同論

文は、アニュアルレポートとウェブサイトに注目し、「戦略的情報」、「業績予想情報」、

「ヒストリカル財務情報」、「社会情報(CSR情報)」、「IR活動情報」など5カテゴリー から合計42の評価指標を設けて、2007年度上海証券取引所の上場企業826社を対象に情報開 示の評価を行った上、株式構造との関係を検討した。その結果、①国有株式はIR活動に影響 をほぼ与えない、②株式保有の集中度(Equity Ownership Concentration)はIR活動に逆U字形

(Inverted U Shape)の影響を与えており、適当な株式持分の集中度は情報開示に有益であり、

過小、過剰な保有集中度はネガティブな影響を与える、という結論を導いた。

上述の理論、実証研究に基づき、本章は次の仮説を提出する。

仮説:情報開示レベルの改善が株主資本コストの軽減に繋がる。

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