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韓国プロテスタント教会の日本宣教

@ 72歳

1.  韓国プロテスタント教会の日本宣教

1−1.韓国プロテスタント教会における海外宣教志向

 韓国は20世紀に入ってからプロテスタントの布教活動が活発化し、大規模な社会変動期であっ た1960年代から1980年代にかけては、世界的にも稀に見る急激な教勢拡大を経験した104。しか

し、韓国統計庁の「2005年人口住宅調査報告」が示しているように、近年、プロテスタント教会 の教勢は衰えつつある105。韓国ではプロテスタントの急激な教勢拡大期に多くの牧師を育成して 102たとえば、日本で最も野宿者が集住する釜ヶ崎では、約10教会が野宿者支援をおこなっているが、その半数 が韓国系プロテスタント教会である。東京都心部においても野宿者支援をおこなっている教会の大半は韓国系プ ロテスタント教会である。

103 M者のこれまでの調査において、韓国人ニューカマーの野宿者を確認したことはない。また、政府の野宿者統 計や先行研究においても韓国人ニューカマーの野宿者についての記述は見当たらない。

104 リ国においてプロテスタント教会が伸張した背景として、日本の植民地支配、朝鮮戦争、軍事政権など、民衆 を抑圧する社会状況が長く続いたことが考えられる。

105 リ国の宗教人口(韓国統計庁 2005年人口住宅調査報告をもとに作成)

1985年 1995年 2005年 総人口 40,419,652人 44,553,710人 47,041,434人 宗教人口(%) 17,203,2人(43%) 22,597,82人(51%) 24,970,76人(53%)

仏教(%) 8,059,6人(20%) 10,321,01人(23%) 10,726,46人(23%)

プロテスタント(%) 6,489,2人(16%) 8,760,33人(20%) 8,616,43人(18%)

カトリック(%) 1,865,39人(5%) 2,950,730人(7%) 5,146,14人(11%)

儒教(%) 483,36人(1%) 210,927人(0.5%) 104,575人(0.2%)

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きたために、教勢衰退期の現在、牧会する場所を韓国内にもつことができない「余剰牧師」が溢 れている。このような背景から、近年は信者開拓の「マーケット」が縮小傾向にある韓国内だけ でなく、海外へと布教活動を展開し、教勢の拡大を図っている。韓国のプロテスタント教会の調 査をおこなっている文化人類学者の秀村研二(1999)は、韓国のプロテスタント教会が「受容す るキリスト教」から「宣教するキリスト教」へと変化を遂げており、韓国が世界有数の宣教国と なっていることを指摘している。秀村によれば、韓国のプロテスタント教会の海外宣教が本格化 したのは1970年代から1980年代初頭のことで、1990年代に入ると教団による組織的な宣教がお こなわれるようになった。

 では、どのような教派が海外宣教に積極的なのだろうか。韓国におけるプロテスタント教会の 性格は多様であり、その特徴を類型化していくことは困難を極める。したがって、本章では韓国 のプロテスタント教会を便宜的に福音派(eva㎎e1ica1)とリベラル派(1ibera1)に分けて論じ る106。両者のうち、近年、海外宣教を盛んに展開しようとしているのは、いわゆる福音派の教会 である。韓国では、1970年代から1980年代の民主化運動の際に、リベラル派教会が運動の主要 な担い手となった。「都市産業宣教会」107をはじめとする、よりラディカルな志向をもったFR0は、

韓国内の下層社会に入り込み、労働運動などを通じて彼らの生活水準の向上と権利擁護を行い、

経済的マイノリティの支持を得るようになった。このような実践は「民衆の神学」としてアカデ ミズムにおいても盛んに取り上げられることとなったが、キリスト教界全体からすれば少数勢力 であった108。当時、韓国内で目覚ましい教勢拡大を経験したのはリベラル派ではなく、むしろ福 音派であったことに留意する必要があるだろう。

 一般的にリベラル派は人々の生活の質を向上させることに主たる関心を置き、信者数の拡大を それほど強調しない傾向が見られる。これに対し、福音派は同信者を増やすことがより良い社会 形成につながると考える傾向が強く、信仰を通じた個々人の(霊的)救済を強調する。韓国の福 音派教会の拡張志向は、上記のような社会観に負うところが大きく、近年、日本宣教を試みてい る教会の大半もやはり、信者の量的拡大を重視する福音派教会なのである。2006年の「韓国宣教 協議会」のデータによれば、海外への宣教師の派遣数は中国、アメリカに次いで日本が3番目に 多く、1,090人を数える。

1−2.重要な布教対象としての日本

 宗教社会学者の李賢京(2007)は、既に1910年前後に韓国の宣教師が日本で牧会を展開した複 数の事例に着目し、韓国のプロテスタント教会による日本宣教は各教団・教派によって時期が異 なることを指摘している。しかし、韓国のプロテスタント教会の布教が本格化するのは、韓国人

106 {章では聖書をすべて神の霊感によって書かれたものであると信じ、文字通り受け入れる信仰を実践する教 会・教団・教派を福音派と規定し、聖書を歴史的・批判的に捉える信仰を実践する教会・教団・教派をリベラル 派と規定する。韓国では聖霊の働きを強調する、いわゆる聖霊派の教会が多く存在し、論者のなかには福音派と 聖霊派を分ける者もいるが、本章では、社会活動のアプローチを2つの類型にあてはめて考察することを目的と

しているため、便宜的に聖霊派を福音派に包含して論じている。

m7 Y業化時代の宣教政策として労働者の中に入り、彼らと共に働きながら宣教する超教派の組織で、1958年に大 韓イエス教長老会が結成したのが始まりだとされている。1968年頃から労働問題に積極的に取り組むようになり、

労働運動を支える重要なアクターとなった。

I08 タ柄茂や徐南同などが代表的な民衆の神学の主導者として知られている。

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の海外渡航が自由化した1980年代後半からだといえよう109。韓国人の海外渡航の自由化に伴って、

東京や大阪といった大都市にはビジネス、留学、国際結婚など、さまざまな目的で、多くの韓国 人が移住するようになった11O。そして、韓国人ニューカマー11の集住地に複数の韓国系プロテス タント教会が形成されるようになった112。日本で十分な生活基盤を確立していない韓国人ニュー カマーにとって、韓国系プロテスタント教会は、単に信仰実践の場としてだけではなく、不慣れ な社会のなかで、部屋探しや職探しといった生活の便宜を図るコミュニティ・センターのような 役割も果たし、求心力を高めていった(奥岡・田嶋編1993、朴賢珠2000、福本2002)。その結果、

韓国系プロテスタント教会のなかには日本宣教の開始から短期間で急激な教勢拡大を経験したと ころもある。

 一方、近年、韓国系プロテスタント教会の多くは韓国語と日本語の礼拝を分けておこなったり、

同時通訳をおこなったりして、日本人への布教も重視している113。李賢京(2007)が分析してい るように、日本のキリスト教人口は1%に達しておらず、このことは信者数の飽和状態で苦しむ 韓国のプロテスタント教会が日本に目を向ける大きな要因となっている114。また、韓国人ニュー カマーの場合、短期間で韓国に帰国することが多く、いったん教会に帰属しても継続的な信者に はなりにくいのに対して、日本人の場合は、移動の可能性が比較的低いために継続的な信者形成 が期待できるのである。

 教団・教派レベルで日本宣教を展開するパターンの他、韓国にはJEM(Japan Eva㎎e1ica1 Mission)という日本宣教を目的とする超教派の組織があり、この組織を通じて、日本に牧師・宣 教師を派遣するシステムが存在する115。また、2007年以降には、オンヌリ教会と日本の福音派教 会の協力事業による大規模な伝道集会「ラブソナタ」を日本の複数の都市部でおこなっている116。

l09 リ国のプロテスタント教会の日本宣教は時期によって対象が異なっていることに注目する必要があるだろう。

植民地時代における宣教対象が「在日韓国・朝鮮人」と呼ばれるオールドカマーであったのに対し、1980年代以 降における宣教対象は、韓国人ニューカマーおよび日本人となっている。

m在日韓国人が日本で発行している経済紙「統一目報」によれば、日本に住む韓国人ニューカマーは、オーバー ステイの者も含めて約18万人いる。

1H {章では、植民地支配をきっかけに来日した人々とその子孫をオールドカマー、1980年代以降に来日した韓国 人をニューカマーと便宜的に分類して論じる。

112 結椏s新宿区や大阪府大阪市の中央区・生野区は韓国人ニューカマーの集住地であり、多くの韓国系プロテス タント教会が存在する。

l13 タ際のところ、熱心な布教活動が、日本人の信者形成につながっているケースは多くない。韓国のプロテスタ ント教会による日本宣教プロセスを調査したマーク・マリンズ(2005)によれば、1980年代に韓国からやってき た伝道者たちは、日本に住む韓国人を足がかりに布教活動を展開しているために、韓国系プロテスタント教会の 信者は大半が近年韓国からやってきた移住者や異民族間結婚の一方の配偶者となっており、日本人の割合は低い

と指摘している。

H42005年度の文部科学省の統計によれば、日本人のキリスト教徒の信者数はカトリックとプロテスタントをあわ せて2,161,707人となっている。

115 iEMは日本人への宣教を目的に1991年に設立された超教派の宣教団体である。JEMは2008年3月の時点まで の問に、東京、大阪、神戸、札幌、名古屋の5都市で開拓教会をつくり、また、東京、広島、千葉、大阪の4都 市の無敗教会に牧師を派遣した。このような長期の牧師・宣教師の派遣の他、visi㎝tripと呼ばれる短期宣教プ ログラムの派遣にも積極的に携わっている。上記の知見は2008年3月に筆者が李賢京らと共同でおこなったJEM への聞き取り調査から得た。

l16 リ国で最も成長が著しい教会の一つであるオンヌリ教会が主導する「ラブソナタ」というイベント型の伝道集 会では、韓国人の芸能人や著名人を動員したアプローチを展開している。2008年の10月までの間に、沖縄、福岡、

大阪、東京、札幌、仙台、広島、横浜、青森で実施された。ラブソナタでは主たる来場者として未信者の日本人 を想定している。ラブソナタは、信者が複数の未信者を誘う方法をとっており、 「東京スーパーアリーナ」でお こなわれた集会では、全来場者の約2万人のうち、約1万人が未信者の日本人であった。

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