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第 5 章 冷却要求と非共溶性混合媒体の使用

5.2 非共性混合媒体の性質

互いに混ざり合う混合媒体、つまり共溶性混合媒体を用いた沸騰熱伝達に関する研究 は多く、共溶性混合媒体の沸騰冷却の有用性として、混合媒体の種類や各媒体の濃度を 変えることで、ある圧力に対する飽和温度を任意に設定でき、マランゴニ効果による伝 熱促進も期待できる可能性がある。しかし、物質拡散抵抗の存在による伝熱劣化も生じ るため、共溶性混合媒体を用いる利点は、限定的である。共溶性混合媒体は相平衡図に 従って沸騰熱伝達が行われる。これに対して、液体状態で互いに混ざり合わない非共溶 性混合媒体の気液相平衡は、共溶性混合媒体とは大きく異なる平衡状態を示す。

Fig. 5.1は、ある圧力下の一般的な2成分非共溶性混合媒体の気液相平衡を模式的に

示した図である。Fig. 5.2は、一例として全圧0.1 MPaでのFC72/waterの非共溶性混合 媒体の気液相平衡図を示す。横軸は媒体の組成となるモル分率や質量分率であり、縦軸 は温度を示している。水平の実線は平衡温度での沸点曲線、破線は露点曲線を表してお り、露点曲線よりも上方は蒸気相状態、露点曲線と沸点曲線とに囲まれた領域は、液相 と蒸気相の混合状態であり、沸点曲線より下方が液相状態を表している。また沸点曲線 と露点曲線が交わっている共溶性混合媒体の共沸点に相当するEが存在する。平衡温度 での非共溶性混合媒体は、バルク液体中の組成とは無関係にこの濃度で蒸気となって蒸 発する。

媒体1 と媒体2 の2成分の非共溶性混合媒体の沸点Teの曲線は、水平の実線で示さ れ、2つの媒体が共に液体状態で存在する場合は、それぞれの組成によらず一定の値を 示す。ただし、1つの媒体がすべて蒸発し、もう一方の媒体の液相だけになると、液体 として存在している純媒体の沸点(T1またはT2)まで急激に上昇する。

沸点曲線は、系の全圧を P、各媒体の純蒸気の温度 Teでの飽和蒸気圧をそれぞれ

Psat,1(Te), Psat,2(Te)とすると、系の全圧Pは、次式のようになる。

 

e sat,

 

e

,

sat T P T

P

P12 (5.1)

また、露点曲線T1-Eは、温度の関数として、媒体1の液体と平衡状態にある蒸気の 組成を与える。露点曲線T1-E上のある温度Tの点について考える。ここでは液相には 媒体1のみが存在し、蒸気相には媒体1と媒体2の混合した状態で存在している.各媒 体の蒸気の分圧をそれぞれP1,P2とすると、次式が成立する。

2

1 P

P

P  (5.2)

また、媒体1は気液相平衡状態なので、

 

T P

P1sat,1 (5.3)

となる。従って、露点曲線T1-E上のある温度Tの点において蒸気状態で存在する媒体 1のモル分率x1(T)は、次のように求まる。

   

P T P P T P

x11sat,1 (5.4)

露点濃度は、以下の式で計算される。





 

1 , 1

1 , 1

1 ln 1

sat fg

T T R

Y h (5.5)

 



 

2 , 2

2 , 1

1 1 1

ln

sat fg

T T R

Y h (5.6)

ここで、Y1 (-): 露点曲線上の蒸気中の低沸点媒体のモル分率、T (K): 露点温度、Tsat (K):

全圧Pにおける飽和温度、hfg (kJ/kg): 蒸発潜熱、R (kJ/(kg·K)): 気体定数を示す。添え 字の1と2は、それぞれ低沸点媒体, 高沸点媒体を示す。露点曲線は、両方の成分の分 圧の総和が全圧になるように決定される。式(5.5)および式(5.6)は、蒸気圧曲線の勾配を

表す Clausius-Clapeyron の式および理想気体方程式を用いた蒸気状態の近似から導かれ

る。本研究における両成分の蒸気圧曲線は、直接測定に基づいて入手可能な既存のデー タから得られるため、相平衡図の3つの曲線は、1点で正確には合流しない。

5冷却要求と非共溶性混合媒体の使用

密閉容器内で気液平衡状態にある2成分非共溶性混合媒体について考える。液相は各 媒体が二層に分離しており、液相上部には、両媒体の蒸気が混合して存在し、液相と気 相は熱平衡状態を保っている。熱平衡状態では、非共溶性混合媒体の温度は、その組成、

すなわち液体体積の比にかかわらず一定になる。温度は、系の全圧または各媒体の分圧 の総和に依存する。ここで、一方の媒体に着目した場合、その温度に対する飽和圧力以 上の圧力をもう一方の媒体の飽和蒸気圧により過剰に加圧されている。この状況は、両 方の媒体に当てはまり、両方の液体は全圧下で「自己圧縮」効果によって過冷却される。

図5.2 非共溶性混合媒体FC72/waterの全圧0.1 MPaにおける相平衡図

0.98 0.99 1

40 50 60 70 80 90 100 110

wx1

Weight concentration of FC72 (Magnified) Tsat C

Dew point curve Bubble point curve FC72/water

P = 0.1MPa

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

40 50 60 70 80 90 100 110

Tsat C

wx1

Weight concentration of FC72

FC72/water

P = 0.1MPa Dew point curve Bubble point curve

Fig. 5.1 非共溶性混合媒体の気液相平衡線図(模式図)

一例として、Fig. 5.3に非共溶性混合媒体FC72/waterの蒸気圧曲線上の非共溶性混合媒 体の平衡状態について示す。低沸点媒体(FC72)の蒸気圧が高沸点媒体(water)を強 く圧縮し、サブクール度は低沸点媒体よりも高沸点媒体のほうが高いことが分かる。

自立的過冷却は、密閉容器内であっても、容器外の追加の冷却装置または圧縮装置な しで、非共溶性混合媒体中の両方の媒体に対して与えられる。P = 0.1 MPaにおける非 共溶性混合媒体FC72/waterの両方の液体の平衡温度Te、サブクール度Tsubおよび物性 値を表5.1にまとめる。

Fig. 5.3 蒸気圧曲線上の非共溶性混合媒体の平衡状態

(系圧力0.1 MPaでのFC72/waterの例)

飽和 温度

平衡 温度

サブク ール度

密度

(液体)

蒸発 潜熱

表面 張力

Tsat Te ΔTsubl hfg 

°C °C K kg/m3 kJ/kg mN/m

FC72 55.7

51.6

4.1 1620 95.7 7.9

water 100 48.4 987 2260 58.9

表5.1 FC72とwaterの平衡温度と0.1MPaにおける物性値

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