5.4 基本性能の評価
5.4.4 電荷測定精度
次に、QTC の電荷測定精度の評価について、その結果を述べる。
電荷測定精度を測定するにあたって、信号源は CTG を使用した。入力する電荷を固定して、
QTCからの出力信号幅のばらつき(標準偏差)を電荷測定精度として評価した。Largeレンジにお
ける測定が600 pC までしかなされていないのは CTG の出力最大電荷が 600 pC であるからで ある。
Input Charge [pC]
1 10 100 1000
Charge Resolution [pC]
0.1 1
10 Large
Medium Small
図5.25 3 つのレンジにおける電 荷 測 定 精 度 と 入 力 電 荷 と の 関 係 。 Small レンジではほぼ 0.1 pC の 測定精度が得られた。
Input Charge [pC]
1 10 100 1000
Charge Resolution [%]
0.1 1 10
Ideal Resolution
図5.26 相対精度(測定精度/入力 電荷)と入力電荷の関係。黒色破線 はTDC で期待される時間精度の理 論値をもとに計算した分解能。
■結果 測定結果を図5.25に示す。また、この結果を相対的な電荷測定精度に直したのが図5.26 である。図5.26における黒色の破線は、測定された信号幅のばらつきがTDC における量子化誤 差のみによるとした場合の時間測定精度の理論値150 psec から計算した電荷測定精度である。そ れぞれのレンジにおける測定精度は、Smallレンジにおいては0.11∼0.16 pC、Mediumレンジに おいては0.82∼1.2 pC、Largeレンジにおいては5.5∼6.0 pCとなった。これらの数字はQTC から出力される信号幅における約500 psec のジッターに相当する。
この結果から、Large レンジと Mediumレンジでは殆どの領域で 2 %以内の相対精度を持ち、
要請に近い性能を持っているのだが、一方、1 p.e. (=2 pC)の測定では相対精度が約5 % にまで 悪化してしまうなど、まだ要求される性能に達しているとは言えず、電荷測定精度に関する改善は 必要である。そのために何が必要かを考察してみることにする。
■改善のための考察 まず、現在の精度を決めている要因は何であろうか。図5.26からも分かる ように、TDC の分解能により決められる限界よりは3 倍ほど大きいことが分かる。したがって、
現在の精度を決定しているのはQTCの出す信号幅自身である。それはオシロスコープでQTCの 出力信号を直接測定してみることでも分かり、現在の電荷測定精度に対応する約500 psec のジッ ターを見ることができる。それでは次に何がこのジッターを作っているかということであるが、ま ず、信号源由来の電荷のばらつきに関しては、1 GHzの帯域を持ったデジタルオシロスコープで信 号源の電荷(面積)のばらつきを測定したところ、そのばらつきは十分小さいことが分かった。た
だし、1 p.e. 相当の電荷の入力(約 −3 mV振幅)に対しては、オシロスコープのノイズレベルが 十分小さいとは言えず、正確な測定はできない。しかし、そのときのQTC の出力信号幅のばらつ きはペデスタル測定時(電荷を入力していないとき)とほぼ等しいので、このときも信号源由来の 電荷のばらつきによる寄与は十分小さいと考えられる。
したがって、電荷測定精度を決めているのは QTC 自身であると考えられる。次に、QTC 内部 のどの部分が最も重要であるかについて推測してみる。このジッターを作っている要素としては、
主に次の二点が考えられる。
• エッジを作るコンパレータのスルーレートの遅さ
• 放電する際の定電流源の電流の不安定性
この二つの要素のうち、もし、最初に挙げたコンパレータのスルーレートが主な要因であるとすれ ば、ジッターは殆ど電荷依存性を持たないと考えられる。逆に、もし、定電流源の電流の不安定性 が主な要因であれば、そのジッターの大きさはQTC の出力信号幅に比例することになると考えら れる。そこで、図5.27にQTC 信号幅とそのジッターとの関係を示した。
QTCwidth [ns]
0 50 100 150 200 250
RMS [ns]
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
/ ndf
χ2 0.01064 / 41
p0 0.5138 ± 0.003056 p1 0.002228 ± 5.871e-05
/ ndf
χ2 0.01064 / 41
p0 0.5138 ± 0.003056 p1 0.002228 ± 5.871e-05
図5.27 QTC信号幅とそのジッターとの関係。ここでは、全てのレンジのデータをまとめて 示している。また、実線は本文中にあるような関数でフィットさせた結果である。
もし、このジッターの大きさが電荷とは独立した成分と電荷に比例した成分からなり、それぞれ が独立であるとすれば、二つのパラメータp0 と p1 を用いて、次のような関数で書くことができ ると考えられる。
jitter = q
p20+{p1×(QTC信号幅)}2 (5.3) 図5.27中の実線はこの関数でフィットしたものである。フィットした結果からは、ジッターが
上記のような二つの成分からなっていると考えて良いことが分かる。さらに、電荷に比例した成分 は最も大きくなっても、電荷と独立な成分の大きさと等しくなる程度で、殆どの測定電荷で電荷と は独立な成分の方が主であることが分かる。
以上の結果から、現在QTC の電荷測定精度は主に QTC 内部のエッジを作るコンパレータの スルーレートの遅さから決定されていると推測することができる。したがって、QTC の次期版の 再設計にあたってはコンパレータの高速化し、ジッターをTDC の時間測定精度より小さい 100 psec以下にすることを目指している。