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しかし、一人一人の人間の物理的な大きさや運動機能に大きな違いはない。このため 現段階では、技術的にも経済的にもスマートシティとして建設できるエリアの規模は限 られたものになるのが実情である。中国側が関心を寄せている柏の葉プロジェクトの面 積はわずか 272 万9,000 平方メートルで、通州新城や運河生態城に比べ圧倒的に小規模 であることが分かる。また、東京都心でスマート化を進めている六本木ヒルズの敷地面 積は約8万5,000平方メートル、東京ミッドタウンは10万2,000平方メートルと、柏 の葉よりもさらに小さなプロジェクトである。

図表14 京津冀/日本首都圏基本状況比較(2012 年)

また、柏の葉スマートシティの特殊性として、当該地が三井不動産所有のゴルフ場で あったという初期投資段階の例外的な優位性がある。加えて、政府補助金や規制緩和等 が適用されている。

そこで、柏の葉のスマートシティの基本でもある「課題解決型まちづくり」というコ ンセプトによるスマートシティ構築に対する日中協力を進めると同時に、既存の街のス マート化の過程で、小規模でもできるところから協力を始めることも必要であろう。コ ンパクト・スマートシティ建設の中で、先ずは実績を積み上げ、将来的にはそのコンパ クト・スマートシティ同士を有機的に結合させ、より大きなスマートシティの全体最適 を創り上げるような工夫が必要である。

例えば、行政の財政資金による(地下鉄沿線開発や医療、教育システム等)公共事業 のスマート化に対する協力や、中国デベロッパーのコンパクト・スマートシティ開発事 業のコンセプト段階で、日本の経験を学びたいというニーズに応じてビジネス連携を開 始し、コンパクト・スマートシティ・モデルにおけるビジネス協力の実績をつくり、将 来的には全体最適の共同事業化の仕組みの構築に近づけていくといった工夫である。

面積

万㎢ 相手比 万人 相手比 億ドル 相手比 ドル 相手比

21.70 588.22% 10,770 247.73% 9123.9 37.92% 8,472 15.31%

北 京 1.64 2,069 2844.5 13,917

天 津 1.18 1,413 2051.4 14,823

河 北 18.88 7,288 4228.0 5,820

3.69 17.00% 4,348 40.37% 24063.4 263.74% 55,350 653.36%

東 京 0.22 1,322 11576.4 78,904

神奈川 0.24 907 3812.0 37,467

千 葉 0.52 620 2355.6 34,833

埼 玉 0.38 721 2552.4 31,838

茨 城 0.61 295 1436.3 42,915

栃 木 0.64 199 979.1 44,298

群 馬 0.64 199 957.8 42,143

山 梨 0.45 85 393.9 41,227

日本の域内総生産は2011年のデータを年平均為替レートでドル換算したもの。

日本の1人当りGDPは2010年のデータを年平均為替レートでドル換算したもの。

(出所)『中国統計年鑑』2013年度版、内閣府ホームページ (http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/main_h23.html)等より作成 首都圏(日本)

人口 域内総生産(GRP) 1人当たりGRP

京津冀

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そうした多様なアプローチが可能となるような交流・協力プロセスの検討も、日中両 国の官民双方に深い関係を有する日中経済協会を中心とする今次調査グループの重要 な任務であると思われる。このような発想を出発点として政策提言を取り纏めた。

2 2 2

2. . . .提言に向けた前提: 提言に向けた前提: 提言に向けた前提: 提言に向けた前提:スマートシティ開発への日本企業参入の現状 スマートシティ開発への日本企業参入の現状 スマートシティ開発への日本企業参入の現状 スマートシティ開発への日本企業参入の現状

これまで日本企業は、経済産業省やNEDO 等の予算を使いながら、中国各地でスマー トシティ関連の実証事業、技術協力等を展開してきた。(図表15)

内容は、スマートコミュニティの開発・実証、地域エネルギーマネジメント、スマー トグリッド、住宅の課題ソリューション、スマートハウス、スマート物流、クラウド提 携、等と多岐にわたる。地域は北京、天津、大連、上海、杭州、広州等の沿海地方が大 勢を占めている。各プロジェクトの実施時期、事業費等の詳細は不明であるが、現地地 方政府、企業等の協力を得ながら一定の成果を上げたものの、その結果として普及、あ るいはビジネスにまで昇華できたという明確な事例はまだないようである。

なお、この中に深圳坪山新区、北京市通州区、河北省香河県、鄭州市は含まれていな い。本調査によって初めてモデルプロジェクト候補地となったものである。

図表15 中国における日本企業のスマートシティ関連事業例

66 3 3

3 3.スマートシティ .スマートシティ .スマートシティ .スマートシティ開発 開発 開発・運営 開発 ・運営 ・運営への日本企業 ・運営 への日本企業 への日本企業 への日本企業のビジネス のビジネス のビジネス のビジネス参入の課題 参入の課題 参入の課題 参入の課題

(1)

(1)

(1)

(1) これまでの経験を踏まえた今後の課題これまでの経験を踏まえた今後の課題これまでの経験を踏まえた今後の課題 これまでの経験を踏まえた今後の課題

最近の事例(2014 年)として、広州市南沙新区におけるスマートコミュニティ等の事 業可能性調査から、日本コンソーシアムのビジネスモデル案を図表 16 に整理した。

40

図表16 日本コンソーシアムのビジネスモデル案(広州市南沙新区調査から)

中国でのインフラ敷設等で開発準備を整える 1 級開発には、日本企業にとってはリ スクが大きく、参画は困難である。1級開発後にウワモノを建築する2級開発であれば、

ある程度のリスクはあるが主導権をとれる開発参画型、あるいはリスクテイクしないア ドバイザリー型が考えられるとしている。

こうした限定されたビジネスモデルを前提とするなかで、既に中国のスマートコミュ ニティ或いはスマートシティに関る何らかの取組みを経験した日本企業等関係者によ れば、更に以下のような様々な課題がある。

40 みずほ情報総研株式会社「広州市南沙新区 Smart Community プロジェクト報告書」経済産業省平成 25年度エネルギー需給緩和型インフラシステム普及等促進事業(グローバル市場におけるスマートコミュ

ニティ等の事業可能性調査)20143

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<日本

<日本

<日本

<日本 企業などが指摘する課題企業などが指摘する課題企業などが指摘する課題 >企業などが指摘する課題>> >

スマートシティの投資・回収のビジネスモデルが確立されていないのは、日本の民 間デベロッパーにとっての大きなハードルである。中国側には①開発コンセプトの 早期決定、②不動産マーケットの安定している都市部や比較的小規模なプロジェク トを選定、③スマートシティ開発における中国政府の支援。

41

中国の都市建設において、日本側が付加価値向上に参入し得るのは管理・運営段階 のノウハウ。今後、中国側が保有する技術等を前提としつつ、日本企業がもつ知恵 やノウハウを基にしたコンサルティングからスタートし、課題の特定と解決策の提 示を行い、それらを適切に組み合わせるようなソリューションミックスを提示する 仕掛けが重要。

42

中国の公共交通は、交通ネットワークとしては急速に発展しつつあるが、まだ都市 と一体化しているとは言えない。公共交通と都市の一体的発展、つまりTODは中 国のスマートな都市発展に欠くことのできない要素。中国でもTOD概念の導入が 進みつつあるが、実践に移るには高いハードルあり。①行政の縦割りの壁、②TOD への民間参加を促進する上で不可欠な許認可プロセスの透明化が確保され て い な い。③確定した詳細計画を最後まで担保する(チェックする)仕組みが弱く、当初 の計画意図と異なる結果も。

43

プロジェクトのポイントは二つ。①プロジェクトマネージャの人選、②キャッシュ フローが回るか否か。資金の出し手からすれば、向こう何年間で回収できるかがポ イント。オフィス、商業施設、住宅の建設にもそれぞれ地域の相場があり、投資の 規模、採算が変動する。必要額に足りなければ、政府資金が必要。

不動産業は投資したものに対してリターンを得ていく仕事。スマートシティは、コ ストとリターンを始めいろいろな問題に直面している。一番大事なのは継続だが、

住宅、商業施設、オフィスをつくり、それを使う人々にメリットがないと長続きし ない。スマートシティという概念は、実感してもらえるまでには時間がかかる。デ ベロッパーとしては、政府の力も借りながら啓蒙していくことが必要。コスト面で

41 三井不動産 小林誠治「デベロッパーから見た日中スマートシティ協力の展望と課題」「日中経協ジャー

ナル」20159月号

42 J-CODE 飯塚浩一郎「中国版スマートシティ開発への日本企業の参画について」「日中経協ジャーナル」

20159月号

43 日建設計 田中亙「駅まち一体型まちづくり「Station Integrated Urban Design」の実践に向けて―ス

マートシティを支えるTODと中国での関連ビジネスの可能性」「日中経協ジャーナル」20159月号

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は、付加価値を加えて回収するが、場合によっては、直接的な資金補助のほか、「人 が集まる、住みたいと思う、企業が集まる」面で、行政による施策面からの支援に 期待。

スマートシティ事業には4 つの条件が必要。①規模が重要。最初はエリアではなく、

コミュニティで実行するのがよい。実際の条件を見て、実施しやすいものをまずや るべき、②レール交通等の公共交通手段。③実力のある大手企業が参画すること。

④信念が必要。建設地域の強みや資源を生かしてスマート化を図る。

たくさんのソリューションと技術があるが、各地域の課題は異なるため、その土地 に合ったプランが必要。課題にはプライオリティをつけることが重要。

コストがかかりすぎ、収益が上がるビジネスモデルなのかどうかが見えないため、

中国のデベロッパーが本気になりきれない。小さいモデルプロジェクトで実際に実 験し、儲かる、企業のブランド価値が上がるという実績を積み重ねる必要がある。

日本側はデベロッパーを先頭にした取組みを開始したが、投資回収期間が長くなる 都市づくりであるため慎重にならざるを得ない。異なるやり方として、中国側デベ ロッパーと日本側の技術を持ったプレイヤーとの組み合わせでビジネスが で き な いか検討している。この方式の課題は、中国のそれぞれの都市が困っている、ある いは何をしようとしているかという情報を整理する中国側のインテグレー タ が 必 要だということ。一方、日本側でも日本のこういう企業のこういう技術が、こうい うビジネスモデルで参加できるというような形で、日本側チームの調整をしてくれ るインテグレータが必要。日中のインテグレータがお互い相談できるような仕組み があれば、中国側の困りごと、日本側がどう応えるかがうまく連結できるのではな いか。

日本では、再生エネルギーの固定価格買取り制度がある。電力会社は太陽光発電の 電力を一定価格で買い取ることが義務付けられ、太陽光パネルの設置にも国の補助 金が適用されるので普及が進んでいる。中国の場合は、電力網は国のものであり、

民間が系統連結することは許されていない。太陽光発電は、発電と同時に消費され ているが、余分な電力は蓄電が重要。蓄電池はリチウム電池など極めて高価である ため、設置にも国が補助金を出している。中国では国のこうした制度はなく、各都 市がバラバラに対応している。これらが課題である。

日本企業が中国で協力を進める上で、一番関心を持っているのは制度制限の問題。

例えば、スマートシティの中で、交通施設、駅の建設等において、様々な制度面の ハードルがある。建設関連の制度緩和に期待している。

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