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雇用契約又はこれに類する原因

ドキュメント内 2020 年度テーマ研究論文 (ページ 36-39)

第3章 給与所得該当性判断要素の考察

第1節 給与所得の従属性

1. 雇用契約又はこれに類する原因

(1)雇用契約

給与所得とは、「雇用契約又はこれに類する原因に基づく」と示されている以上、雇用契約は給 与所得該 当性判断における重要な要素であるといえる。雇用関係の本質 とは、「雇用者の指揮命 令にしたがって自己の役務を提供すること」35とされ、雇用契約の存在は、使用 者の従属性を裏付 ける要素であるはずである。

しかし、判例によると、実際には、雇用契約の有無よりも、労務の態様の方が重視されていること がわかる。これが明確に示されたのが、日フィル楽団員事件である。

当初、日フィル楽団員事件第一審判決(昭和43年 4月25日)においては、楽団員への支払い は、「まさに同フィルとの雇傭契約にもとづき所定の演奏及び練習として支給されたもので、給与所 得に該当するというべきである。」36として、日フィルと楽団 員の関係が雇 用契約であることを前提と して給与所得該当性を示していた。

しかし、楽団と楽団員の間の契約は雇用契約にはあたらない.....

として、給与所得に該当しない.....

と主 張して控訴した原告に対し、同控訴審(昭和47 年 9月 14日)では、「日フィルから受ける報酬が、

Xの主張の如く、雇傭、請負、委任などの要素の混合した楽団参加契約ともいうべき一種の無名契

35 武田昌 輔 『DHCコンメンタール所得税 法』 (第 一 法規、2009年) 1,580頁

「雇用 関係の本質 は、雇 用者の指揮 命令にしたがって自 己の役 務のみを提 供する(つまり、非 独 立 的 役 務 提 供 関 係 )ということであるから、役 務 提 供 の結 果 に対 しての危 険 を負 担 するようなことはなく、

また、非 独立 的に役 務のみを提 供するということで、役 務 提供者が役 務提 供に要 する費用を負担し たり、原材 料を購 入したりあるいは他人ないし補助者を雇ったりするようなことは、まず考えられな い。」

36 東京地 裁昭和43年4月25日 (行ウ) 第70号

約に基づくものであるとしても、それは控訴人が楽団に所属し、そのスケジユールに従ってその指揮 拘束を受ける従属的立 場において提供する役務の報酬として支払われたものであり、控訴人が右 楽団を主宰するものでないことはもちろん、そのスケジユールの企画、策定、実行にも直接参画する ものでないことは弁論の全趣旨から明らかであるから、……Xが日フィルから取得する収入について Yにおいてこれを給与 所 得と目して課税したことには、何ら違法 の点 はない。」37として、日 フィルと 楽団員の関係が雇用契約以外の無名契約であるとしても、労務の実態等から使用者との従属性を 認め、給与所得該当性を認定した。

他にも、契約関係の性質によらず給与所得該当性が認定された判決の代表例として、盛岡地裁 平成11年4月16日判決りんご生産組合事件38がある。同判決では、「組合員が組合から受け取る 支払いは損益 の分 配であるため、支 払いは事 業所 得とすべき」という命 題を覆し、組合 員としての 契約形態であるにもかかわらず、労務提供の態様や組合員の認識を判断要素として、最高裁で給 与所得該当性が認定された。

また、役員へのストック・オプション報酬の給与所得該当性が争われた平成 17 年の最高裁判決

39でも、直接の雇用関係というよりは実態を重視して、給与所得該当性が示されている。これは、米 国親会社からストック・オプションを付与された日 本子会 社の代表 取締 役の権利行 使益が給 与所 得に該当するかが争われたものである。最高裁は、子会社は親会社の 100%子会社であったことか ら、日 本子 会 社の代表 取 締 役は米国親 会 社 の統 括の下に職務 を遂 行していたとみなして、従属 性を認めている。

これらの判例でも示されるように、佐藤教授は、「給与所得に該当するか否かは、その基礎となる 法律 関係 の性 質によって決 定されるのではない」40とし、実際に、「最高 裁判 決を含むその後 の裁 判例は、給与所得か否かの判断を行うにあたり、その基礎となる私法的な性格をあまり重視せず、

労務 提供と報酬支払の『具体 的態様』を重視してこの決定を行ってきたと言ってよい。」41と述べて いる。

なお、「雇用契約又はこれに類する原因」を検討する際に、「雇用契約」と「これに類する原因」と

37 東京高 裁昭和47年9月14日(訟月19巻3号 73頁)

38 最高裁 平成13年7月13日(裁判 集 民事202巻673頁)

39 なお、ストックオプションに関する判例 は、そもそも権 利行 使益が非独 立的労 働の対価か否かという 論 点を中心に争われてきた。東京 高裁平 成16年1月21判決 以降、高 等裁 判所の判決はいずれも、

ストックオプションの権利 行使 益は雇 用契 約又 はこれに類する原因に基づき提 供された非 独立 的な 労 務の対 価として給付されたものとして、給与 所得 該 当性が認められている。

40 佐藤・前 掲17 399頁

41 佐藤・前 掲17 399頁

を切り分ける考え方もありうる。例えば、日フィル楽団員事件における「無名契約」や、りんご生産組 合事 件における「組合契約」、または「委託」や、役員の「委 任」、「準委 任」等の契約 が「雇用契約 に類する原因」に該当するため、給与所得該当性を肯定する要因となるという考え方である。しかし、

「これに類する原因 」の範囲 が元 々定まっているわけではなく、事案 ごとにその契約内 容と労 務提 供の態様 等を検 討した上で、給与 所得 該当 性が判断されるわけであるから、契約 により類型 的に 区別することができない以上、この考え方は成立しないといえる。佐藤教授は「『業務の具体的態様 に応じてその法的性格を判断』するという判断手法と『雇用契約またはこれに類する原因に基づ』く ことを要件とすることは、必ずしも親和的ではない。」42と指摘している。

(2)特殊な職務における従属性の解釈

一般的に独立的な立場を有すとされる国会議員の歳費や、裁判官の俸給、役員報酬も 28 条 1 項において給与所得として示されている点について、どのように説明するのかという論点がある。こ れらの職務は基本的に独立的立場において行われるものであり、従属性を有していないともみるこ とができるからである。これについては、麻酔科医師報酬事件が判示したように、例えば、裁判官や 国会議員も国会への出席や、どの裁判に出廷するか等、「他律的に規律されて職務を遂行してい る」43点において、ある種の従属性が存在するといえ、また、報酬形態が非独立的であることからも、

国会議員の歳費も、やはり従属性と非独立性を有する給与所得であると解釈できる。

また、役員報酬については、昭和 53年 7月 13日前橋地裁判決44において、「取締役の活動か ら生じた成果(それが利益となる場合も、あるいは損失となる場合もある。)は、そのすべてが直接当 該会社に帰属するものであって、原告が受ける報酬は、その活動から生じた成果として直接に享受 するものでなく、当該会社に従属して非独立的な人的役務を提 供した報酬として受けるもの、すな わち、雇傭関係に準ずる役員等の委任関係に基 づき収受される対価であるとみるのが相当」45とし、

同判 決において、取締役の役員 報酬は、会社との関係における従属性に基づく役務提 供対価で あるという考え方が示されている。通説でも「給与所得は、雇用関係に基づくものに限らず、委任又

42 佐藤・前 掲17 398頁

43 東京地 裁平成24年9月21日 (税務訴 訟資 料262号順号 12043)

44 昭和53年7月13日前 橋地 裁判決 (訟月24巻9号1857頁)

45 控訴審 東京 高裁昭 和 54 年 4 月 17 日 判決(税資 105 号 143 頁)及び上告 審最高 裁昭 和 54 年 11月 22 日第 一小 法 廷判決(税 資 109 号 482 頁)においても第 一 審判 断がおおむね維 持されている。

は準委任の関係にある会社役員の報酬・賞与も含む」46とし、役員報酬も給与所得に該当するとさ れている。

ドキュメント内 2020 年度テーマ研究論文 (ページ 36-39)

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