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雇用的自営者における所得分類の問題点

ドキュメント内 2020 年度テーマ研究論文 (ページ 62-67)

第5章 多様な働き方への当てはめ

第2節 雇用的自営

2. 雇用的自営者における所得分類の問題点

例えば、次のようなケースが考えられる。開発会社Aは、臨時的な案件に対応するため、フリーラ ンスのエンジニアBと業務委託契約を結んだ。契約期間は1ヶ月で、Bは週 5日稼働する義務があ り、担当社員から業務遂行上の指示を受け、業務内容も正規 社員とほぼ同じ内容であった。報酬 はA社の一般的な社員の月給と同等の金額であった。1カ月の契約終了後、Bのスキルの高さを見 込んだA社は、業務委託契約期間を 3 カ月ごと延長することを申し出、Bもこれに合意した。これに より、A社は、社員と同等 の費用負担で、社会保険料等の負担なしにBの労働力を使用できること になる。

このケースにおいて、仮にA社が、派遣会社Cを通して、Bを雇っていたとしたら、Bの報酬は、派 遣会社Cとの雇用契約に基づくため、給与所得に該当する。

しかし、自営業者であるBとA社の直接契約である本ケースの場合、Bの報酬は、事業所得に該 当することになる。しかし、Bの勤務の実態は社員とほぼ同様であり、A社に対 するBの労務は従属 的であるといえ、報酬も労務の提供に対して定額であり非独立的であるため、実態としては、Bの報 酬は給与所得に該当すべきものともいえる。

業務上の経費の負担がほとんど発生しないBとしては、事業所得としてよりも、給与所得に分類し て課税を受ける方が、給与所得控除の恩恵を受けることができる。しかし、A社側とすると、Bへの給 与として支払うと、源泉徴収の義務や年末 調整の負担を負う必要があり、また、Bへの支払いは消 費税の課税仕入の対象外となるため、雇用契約でもないBへの支払いをあえて給与とすることは避 けるであろう。

実態としては雇用であり、その性質を鑑みれば給与所得として課税されるべき所得が、結局は契 約形態の違い、つまり働き方の選択によって、課税方法が異なるということになる。A社の社員とフリ ーランスBは契約形態が違うため、報酬や福 利厚 生、社 会保 険等の待 遇面に差があることは当然 であるとはいえ、税制面からも所得に差が出てしまい、税制は働き方の中立性を保てないということ

89 「就業形 態の多 様化と社 会労 働政 策― 個人業 務委 託とNPO就 業を中心として」 労 働政 策 研究 報告書No.12 独 立 行政 法人 労働 政策研 究・研修 機 構 JILPT Discussion Paper Series 04-010 2004年

になる。雇用的自営者の所得をどう適切に分類し課税するかは、今後検討される必要があると思わ れる。

第3節 雇用的自営に関連する事例

最 後に、雇 用的自 営者 に関 連する最近 の事 例を補足として取り上 げる。まずは、大手 企業 が、

働き方改革の一環として、社員を個人事業主化するという二つの事例である。

1. タニタの例

『タニタ本社、1割が個人事業主 「就社」から「就職」』

「日本経済新聞」(2019年 9月 21日)によると、健康機器大手のタニタ㈱は、自社で推進する働 き方改革の一環として、希望する社員との雇用契約を業務委託契約に切り替え、これまでの業務を ベースに個人事業主として仕事を依頼する制度を導入している。この制度の適用を希望する社員 は、タニタを一 度退 職し、正 社員 時代と同様の仕 事 を業務 委託により請 け負 う。報酬は正社 員時 代の給与が保証され、社会保障費分も報酬に上乗せされる。また、追加業務や残業が発生した場 合はその分の報酬を請求できる。これにより、他社からの仕事も請け負えるようになるという。転勤や 定年はないが、契約が打ち切られる可能性はあり、仕事と報酬を1年ごとに見直して3年契約を結 び直す。タニタはこの制度を 2017 年から導入しており、「今は本社所属の社員の 1 割が個人事業 主だ」としている。90

この施策の是非は別として、課税の観点から検討すると、収入の大部分を、特定の1社に依存し、

多くは業務上の指 揮監督も受けるはずであるため、使用者への従 属性は強いといえる。さらに、報 酬について、費用の負担 等は不明確であるが、基本的には正社員時 代の報酬をベースに定額的 に担保されている部分があるため非独立的であるといえる。よって実態としては、報酬は給与 所得 に該当するといえる。しかし、個人 事業主 となった者 は事 業所 得として課税 を受けるため、社 員時 代とほぼ同様の働き方、待遇であるにもかかわらず、契約形態の差により、課税方法が異なることに なる。個人事業 主となってから追加的な業 務を請 け負って報 酬が増えた部分や、他社から仕事 を 新たに請け負った部分について、事業所得として課税を受けることは妥当だと思われるが、正社員 時代と同様の仕事で同様の報酬が保証されている部分については、その性質上、給与とみなすの

90 谷田千 里 『タニタの働き方改 革』 (日 本 経済 新聞 出版 2019) 参考

が適切ではないかと考えられる。給与所得該当性の判断において、法律関係の形式は重視されな いとしながらも、ここでは、契 約内 容の違いにより、給与 所得と事業 所得が区 別されていることにな る。

2. 電通の例

『電通、社員 230人を個人事業主に 新規事業創出ねらう』

「日本経済新聞」(2020 年 11 月 11日)によると、「電通は一部の正社員を業務委託契約に切り 替え、「個 人事業 主」として働いてもらう制度を始める」。これにより、「兼業や起業が可 能になる」と いい、40代以上の社員約2800人を対象に募集したところ、約230人が適用を希望したという。

仕組みとしては、「適用者は早期退職したうえで、電通が 11 月に設立する新会社と業務委託契 約を結ぶ。契約期間は 10 年間」となる。電通が公表している資料91によると、「固定報酬は㈱電通 に勤めていた時の給与を元に算出され、段階的に減るように設計」されている。そして、「各業務か ら生まれた事業利益は、あらかじめ決められた割合で、出資者である㈱電通に還元されるとともに、

メンバーにもインセンティブ報酬として配分される。」という。

電 通のケースも、一定の報酬を保証した上で、社員を個 人事 業主化しており、タニタのケースと 類似する。個人事業主といっても、契約相手は受け皿として設立される新会社1社に依存し、報酬 も固定 報酬 が保 証されているため、従属 的かつ非 独立的であるとして、実質は給与 所得とみなす 考えもある。しかし、仕事の内容は社員時代と必ずしも同じとは限らず、固定報酬の部分は段階的 に減少することになっている点、特に広告業 界等 のクリエイティブな職種においては、業 務の成果 やプロジェクト単位ごとに、仕事を請け負うという考え方とも親和性があるように思われ、報酬が独立 的であれば事業所得に該当するということもできそうである。

上記二例のように、大手企業は、そのスケールを生かして、一定の報酬と、一定の業務の発注を 保証しながら、フリーランスとしての自由 な地 位も提 供するという、被 用者と事業者 のメリットを併せ 持つ働き方を可能にしている。会社と社員双方にとってメリットであれば、このような働き方が今後増 える可能性もある。一層、被用者(給与所得者)と個人事業主(事業所得者)との境目のグラデーシ ョン化が進むといえ、適切な課税について検討される必要がある。

次は、翻って、自営業者が給与所得として課税を受けていた事例である。

91 「ライフシフトプラットフォーム 概 要説 明資料 」 株 式会 社 電通 ライフシフトプラットフォーム事 務局

3. ヤマハ音楽教室講師の例

『コロナで休業、補償なし ヤマハ英語教室講師の1200人 給与所得者を個人事業主扱い』

「毎日新聞」(2020年 6月 5日朝刊)によると、「楽器大手ヤマハの子会社『ヤマハミュージックジ ャパン』が、47都道府県で展開する英語教室の講師約1200人に対し、報酬を税法上の給与とみ なして社員と同様に所 得税を天 引きする一方、雇用契約を結んでいない個人事業主として扱い、

新型コロナウィルス感染拡大による休業補償をほとんどしていないことが3日、分かった。」とのことで ある。

音楽教室や英語教室の講師らは、ヤマハの講師試験合格後、講師認定研修を経て、年に一度 委任契約書を交わし、ヤマハとの契約を継続していた。業務遂行上の指揮命令はヤマハにあり、指 導内容や年間レッスン計画は細かく決められていた。講師らは時間的場所的にヤマハに拘束され ているといえる。使用教材等はすべてヤマハで用意されており、講師の自由な裁量でレッスンを行う ことはできなかった。報酬は、時間単価ではなく、レッスン数に応じて支払われ、生徒一人当たりで 単価が設定されていた。92

このような労務状況から、過去にヤマハ側は、講師らが税法上は給与所得者であるとの指摘を税 務署から受け、講師らへの支 払いを給 与として行 っていた。契約上は委任 契約 のため、社会保険 料等は負担していなかった。

2020 年、コロナウィルスの影響で、教室は一定期間休校となり、その間の講師らへの支払いはス トップし、ヤマハ側からの補償もなかった。しかし、政府が補償する持続化給付金の対象者は、「事 業所得者である個人事業主」とされていたため、給与所得者である講師らは、その給付も受けること ができなかった、というケースである。

コロナ禍において、このような、雇用契約以外の契約形態で給与として主たる収入を得ている者 の存在が明らかとなり、政府 は急 遽、持 続化給 付 金 の対 象を「主たる収入 を雑 所得 ・給 与所 得で 確定申告した個人事業者」に対しても広げる対応を行った。

この例は、個人事業者でありながら、税法上の給与所得者となる者の様々な問題を内包している。

雇用契約以外の給 与所 得者の取扱いをどのように考えるか、今後検討が必要であると思われるが、

今回のヤマハの講師らのように、制度の狭間に位置する者の存在が明らかになったことは、今後の 制度設計を考える上で意義があると思われる。

92 脇田滋 『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人 事 業主 』 (学習の友社 2020) 57頁

ドキュメント内 2020 年度テーマ研究論文 (ページ 62-67)

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