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開胸を要する機械的補助循環

2.3.1

体外循環用遠心ポンプ

PCPS

装着後,肺うっ血が改善しない場合や出血などの 合併症で継続困難と考えられる場合,心機能の回復が十分 でなく,さらに補助循環を継続する場合,選択肢として体 外循環用の遠心ポンプを使用した

VA-ECMO

もしくは左 心バイパスがある.開胸下に,

VA-ECMO

であれば右房に 脱血カニューレを装着,左心バイパスであれば左室心尖部 に脱血カニューレを装着し,いずれも上行大動脈に送血を 確立するものである.左心バイパスは,システム的には体 外設置型

VAD

と同様であり,とくに肺うっ血の改善に優 れる.心原性ショックの症例では右心不全や肺疾患を合併 することも多く,左心バイパスでは十分な脱血が困難なこ ともある.そのような症例では,

VA-ECMO

のほうが十分 な流量確保が期待できることもある.もしくは,左心バイ

パスに加えて右房(ときに右室)脱血・肺動脈送血による 右心バイパスを追加することも有効である.

いずれも元来,開心術中の体外循環を想定したものであ り,現在

VAD

としては保険適用されていない.そのため,

2

週間以上の補助循環を必要とする場合には後述の認可さ れた

VAD

にスイッチされることが多い.重症心不全にお けるこの体外循環用遠心ポンプの使用成績やエビデンスは 得られていない.

2.3.2

VAD

の種類と特徴

最近では経皮的に挿入が可能な

percutaneous VAD

もい くつか登場しており,その

1

つは上述した循環補助用心内 留置型ポンプカテーテルであるが,開胸を要する(

surgical

VAD

についてはポンプが体外に露出しているか,体内に植 え込まれているかで,体外設置型と植込型に分類される.

わが国で現在使用可能な体外設置型

VAD

は拍動流ポン プを,植込型

VAD

は非拍動流(連続流)ポンプを採用して いる.

VAD

による外科的左室補助は,左室心尖部から脱 血を行い,駆動ポンプによって上行(ときに下行)大動脈 に送血を行う.このシステムを左心補助人工心臓(

LVAD

とよぶ.体外設置型

VAD

による右室補助も可能で,右房 または右室から脱血し,肺動脈に送血を行う.このシステ ムは右心補助装置(

RVAD

)とよばれる.植込型

RVAD

シ ステムは今のところ保険償還されたものはない.

体外設置型

VAD

と植込型

LVAD

にはその特性上大きな 違いがある.ポンプを体外に設置しているため,体外設置 型

VAD

はわが国においては院内使用限定であり,長期補 助の場合は患者の

QOL

が著しく損なわれる.また,送脱 血管刺入部の感染症,ポンプ内血栓による塞栓症,高い

INR

の維持による出血などの合併症が重篤になりやすく,

ポンプ故障による交換も多い.一方で植込型

LVAD

QOL

と合併症の点で優れるものの,現在わが国において は保険償還上は心臓移植適応患者に限定されている.

2.3.3

VAD

による各種治療戦略

VAD

治療のアルゴリズム(図13)と

VAD

による治療戦 略822)(表68)をまとめた.急性心筋梗塞や劇症型心筋炎 などによる急性発症の心原性ショックに対して,

PCPS

循環補助用心内留置型ポンプカテーテル(図13では経皮 的

VAD

と記載)で治療が不十分であるとき,または離脱困 難である場合,次の治療ステップを判断するまで血行動態 を維持する目的で,体外設置型

VAD

を用いる治療を

bridge to decision

BTD

)とよぶ.この場合,前述した体

BSC:best supportive care

注)主として収縮不全による重症心不全を想定しており,標準治療は本ガイドラインを参照して実施する.

新規発症重症心不全

(急性心筋梗塞・劇症型心筋炎など)

(再灌流・血行再建など特定の治療に加えて)

静注強心薬(±< =>?)を開始 (病態に応じて)

静注強心薬,<=>?, ,経皮的VADなどを開始

離脱

離脱 離脱

血行動態

他臓器機能

移植適応

移植適応

移植適応

LVAD(BTT)植込型 体外設置型VAD

(BTC)

標準治療強化・心臓リハビリ 心機能

心機能 心機能

心 臓 移 植

VAD離脱

(BTR)

VAD離脱

(BTR)

BSC

BSC

BSC

BSC

LVAD (BTB)植込型

LVAD (BTB)植込型

標準治療強化

体外設置型VAD

(BTD)

標準治療強化・心臓リハビリ

(病態に応じて)

PCPS/経皮的VAD 静注強心薬(±IABP)

を継続

慢性心不全急性増悪

(拡張型心筋症・虚血性心筋症など)

標準治療導入

あり

回復なし

回復なし

回復あり

回復あり 回復あり なし

あり

待機 待機

待機

待機 待機

なし 困難

困難 不安定

可能

可能

なし あり 回復なし

困難

不可逆的異常

正常または可逆的可能性

安定 可能

将来的可能性あり

図13 重症心不全におけるVAD治療のアルゴリズム 外循環用遠心ポンプを用いた左心バイパスを施行すること もある.一定期間の

VAD

補助や左心バイパス後,心機能 が改善することでデバイスからの離脱が可能となることも あるが,そのような目的で

VAD

植込みを行うことを

bridge to recovery

BTR

)とよぶ.一定期間の循環補助と最適化 された薬物治療によっても左心機能の改善が得られないも のの,一方で移植登録が完了した場合に植込型

LVAD

付け替えることを

bridge to bridge

BTB

)とよぶ.慢性心

不全の急性増悪時に他臓器障害などを合併していて移植 適応の決定が即座に行えない場合も

LVAD

治療を行うこと がある.血行動態安定後,移植適応となれば登録するが,

このように他臓器障害の改善を期待して

LVAD

治療を前倒 しで行うことを

bridge to candidacy

BTC

)とよぶ.現在 わが国における大部分の

BTC

は体外設置型

VAD

を念頭に 置いているが,

profile 2

における植込型

LVAD

治療事後検 証システムは

BTC

の一種といえる.一方,欧米での

BTC

応も

65

歳未満に限定される.また,ガイドラインで推奨さ れる標準治療を十分施行しているにもかかわらず重度の心 不全が存在することが前提になる.さらに,原則静注強心 薬依存の

profile 2

または

3

が適応とされる.一部例外は

IABP

依存状態と体外設置型

LVAD

依存状態であり,これ はどちらも適応範囲である.より軽症の

profile 4

について も植込型

LVAD

治療のほうが内科治療継続より生命予後に 優れるという最近のデータもあり832),今後の適応拡大も検 討される.また,静注強心薬に依存しない症例のなかでも 薬物治療抵抗性の心室不整脈発作に対して

ICD

の適正作 動を頻回に繰り返す場合には植込型

LVAD

治療が適用され ることがある(

modifier A

810)).悪性腫瘍や膠原病などの根 治不可能な全身疾患や不可逆的な臓器障害を併発している 場合は

LVAD

治療を行っても生命予後の改善が期待できな いとの理由で適応除外となることがある.また,基本的に 長期の在宅治療となるという観点から,患者本人はもとよ り,介護者(家族または同居人)のデバイス操作への習熟 や

LVAD

治療への理解と支援が必要となる.

はほとんど植込型

LVAD

によるものである.適合するド ナーが出現して心臓移植に至るまで安定した血行動態で待 機するための橋渡し治療を

bridge to transplant

BTT

)と よぶ.わが国においては植込型

LVAD

の適応は現在

BTT

に限定されている.悪性腫瘍の既往や高齢などが原因で移 植適応基準に合致しない場合でも,恒久的な植込型

LVAD

治療を行うことがあり,

destination therapy

DT

)とよば れる.

DT

はとくに米国で積極的に行われており823),最近 わが国でも導入が検討されている824)

2.3.4

体外設置型

VAD

の適応と成績

体外設置型

VAD

の適応は,

profile 1

PCPS

などの補 助循環でも血行動態が保てない場合の

BTD

profile 2

当であるが移植適応判断を一時保留せざるをえない場合 の

BTC

である.全身状態が不良のまま緊急手術になるこ とも多く,とくに術後急性期には敗血症や多臓器不全によ る死亡率が高い.わが国の主要施設における体外設置型

VAD

術後の

1

年生存率はおよそ

50

80

%と報告されてい

825 – 827).体外設置型

VAD

術後の生命予後予測因子に関

しては,高齢,低栄養,臓器障害のほか,右心不全の合併 や

profile 1

などが報告されている827 – 830)

2.3.5

植込型

LVAD

の適応と成績

わが国における植込型

LVAD

の適応基準831)を示す(表 69).現在わが国では心臓移植適応が

65

歳未満にしか認 められていないため,

BTT

使用となる植込型

LVAD

の適

表68  VADを用いた治療戦略とその定義

略語 用語 定義

BTD bridge to decision

主として急性発症の心原性ショック症例に おける次の治療ステップまでの橋渡しとし て一時的にVADを使用する

BTR bridge to recovery

VADによる循環補助により自己心機能の 回復とそれに伴うVADからの離脱を目指す BTB bridge to

bridge

体外設置型LVADから植込型LVADへ変更 する

BTC bridge to candidacy

移植適応取得のためにLVAD治療を行って 臓器障害の改善を目指す

BTT bridge to transplant

心臓移植を目指すものの内科治療では血行 動態を維持することが困難であり,移植ま での橋渡しとしてLVAD治療を行う DT destination

therapy

心臓移植適応がない患者に対して恒久的な LVAD治療を心臓移植の代わりとして行う

表69  植込型LVADのBTT(bridge to transplant)

  適応基準

選択 基準

病態

心臓移植適応基準に準じた末期重症心不 全であり,原則NYHA心機能分類IV度,

ガイドラインで推奨された標準治療を十 分施行しているにもかかわらず進行性の 症状を認めるステージD心不全 年齢 65歳未満

体表面積 デバイスごとに規定

重症度

静 注 強 心 薬 依 存 状 態(INTERMACS profile 2または3),IABPまたは体外設 置型LVAD依存状態,modifier A(とくに INTERMACS profile 4の場合)

社会的適応

本人と介護者が長期在宅療養という治療 の特性を理解し,かつ社会復帰も期待で きる

除外 基準

全身疾患 悪性腫瘍や膠原病など治療困難で予後不 良な全身疾患

呼吸器疾患 重度の呼吸不全,不可逆的な肺高血圧症 臓器障害 不可逆的な肝腎機能障害,インスリン依

存性重症糖尿病

循環器疾患

治療困難な大動脈瘤,中等度以上で治療 できない大動脈弁閉鎖不全症,生体弁に 置換困難な大動脈機械弁,重度の末梢血 管疾患

妊娠 妊娠中または妊娠を予定 その他 著明な肥満