強心作用を有する薬剤は,血圧低下,末梢循環不全,
循環血液量の補正に抵抗する患者にも適応される.強心薬 は短期的には血行動態や臨床所見の改善に有効であり,一 般的に左室拡大と
LVEF
が低下した患者に対して用いられ ることが多いが,心筋酸素需要を増大し,心筋カルシウム 負荷を誘導するので,不整脈,心筋虚血,心筋傷害をきた し,生命予後を不良にすることがある.
米国のADHERE
試験における解析では,血圧などを補正しても強心薬を投 与した患者群では血管拡張薬を投与した患者群よりも院内 死亡率が高いことが報告されており741),病態に応じた適応,薬剤の選択,投与量,投与期間に十分注意を払い,必要最 少量および最短期間での使用にとどめるのが望ましい.
リン放出増加により陽性変力作用,心拍数増加,α1受容体 刺激による血管収縮作用を示し,高用量(
10
〜20
μg/kg/
分)ではα1刺激作用が優位となり血管抵抗が上昇すること が,健常人や動物実験のデータで示されている.
心不全患者における低用量ドパミンの腎臓への効果に関 しては,少量のフロセミドと併せて使用することでの腎保 護効果の可能性を示す報告などがあるが745),
ROSE
試験 などの複数のランダム化試験では尿量増加効果や腎保護 効果などの有用性は示されていない746 – 748).また,ROSE
試験のサブグループ解析では,EF
>50
%でむしろドパミ ンの使用によって尿量反応性の悪くなる可能性も示されて おり,病態に応じた選択にも十分注意を払う必要がある.
c. ノルアドレナリンノルアドレナリンは内因性カテコラミンであり,β1刺激 作用により陽性変力作用と陽性変時作用を示し,末梢のα 受容体にも働いて強力な末梢血管収縮作用を示す.他の強 心薬の使用ならびに循環血液量の補正によっても心原性 ショックからの離脱が困難な患者に
0.03
〜0.3
μg/kg/
分の 持続点滴静注で開始する.敗血症性ショックを合併してい る患者はよい適応である.
末梢血管抵抗の増加により平均 動脈圧は増加するが,後負荷の増大や心筋酸素消費量の 増加をきたし,腎,脳,内臓の血流量も減少させるので強 心薬としての単独の使用は控え,できるだけ少量を短期間 用いることを心掛けなくてはならない.大量に用いなくて はならない患者では,早急にIABP
や経皮的心肺補助装置(
PCPS
)などによる機械的な補助循環に切り替え,ノルア ドレナリンの使用量を減らす.肺うっ血と同時に収縮期血 圧が70 mmHg
未満の患者では,ドパミンとノルアドレナリ ンを併用,もしくはドブタミンとノルアドレナリンの併用を 行い,さらに必要に応じてIABP
やPCPS
などによる機械 的な補助循環を行う.4.4.2 ジギタリス
ジゴキシンは強心薬としては他のカテコラミン類似薬に 比して劣るが,急性効果を検討した非対照試験では血行 動態改善に有用であった749).さらに長期予後に関する
DIG
試験を考慮に入れると288),血中濃度に注意すれば,生命予後改善効果は見込めないものの再入院率は減少す る.急性心不全では心房細動など頻脈誘発性心不全に対 して適応とされる.急性心筋梗塞や心筋炎による急性心不 全への投与は推奨できない.
心房細動などにおける心拍数コントロールを目的に,
0.125
〜0.25 mg
を緩徐に静注し,中毒に注意しながら適 宜使用する方法が一般的であり,急速静注飽和療法は現 4.4.1カテコラミン強心薬
カテコラミンはアドレナリン受容体(α1,α2,β1,β2)と結 合して種々の生理作用を示す.心筋に存在するβ受容体の 大部分はβ1受容体であり,心筋収縮増強作用(陽性変力 作用[
positive inotropic effect
]),心筋弛緩速度増加(変 弛 緩 作 用[lusitropic effect
]),心 拍 数 増 加(変 時 作 用[
chronotropic effect
]),刺 激 伝 導 速 度 増 加(変 伝 作 用[
dromotropic effect
])を発揮する.一方,血管平滑筋に存 在するβ2受容体刺激は末梢血管拡張作用を示す.主に血 管平滑筋に存在するα1受容体刺激は血管収縮を示し,心 筋α1受容体刺激では軽度の収縮力の増強を示す.a. ドブタミン
ドブタミンは合成カテコラミン薬であり,β1,β2,α1受容 体刺激作用を有する.血管平滑筋に対するα1とβ2作用が相 殺され,β1受容体刺激作用を発揮する.β2受容体刺激作用 については,
5
μg/kg/
分以下の低用量では軽度の血管拡張 作用による全身末梢血管抵抗低下および肺毛細管圧の低下 をもたらす.また,10
μg/kg/
分以下では心拍数の上昇も軽 度であり,他のカテコラミン薬にくらべ心筋酸素消費量の 増加も少なく,虚血性心疾患にも使用しやすい.わが国で はドパミン,ドブタミンの開発当初に急性心筋梗塞に伴う 心ポンプ失調患者を対象に多施設共同ランダム化およびク ロスオーバー比較試験が行われ,ドブタミンはドパミンに くらべ肺動脈拡張期圧を低下し,肺うっ血の軽減にも有効 であることが示されている742).しかし,血圧維持が不十分 の場合にはドパミンまたはノルアドレナリンとの併用の検 討が必要である.なお,カルベジロール内服中の患者に対 して用いた場合には,心拍出量増加効果が減弱し,血行動 態に与える影響が変化している可能性が報告されており,注意が必要である261).また,ドブタミン投与により心筋お よび血中の好酸球が増加することがある743)
.
中止に際して は,急激な減量や中止は血行動態の悪化をもたらすため,段階的な減量が必要である
.
ドブタミン投与による長期予 後への影響については,FIRST
試験のサブ解析によって 心事故発生率を高める可能性が示されており744),必要最 少量および最短期間での使用にとどめるのが望ましい.b. ドパミン
ドパミンは内因性カテコラミンであり,ノルアドレナリ ンの前駆物質である.低用量(
2
μg/kg/
分以下)ではドパ ミンシナプス後(DA1
)受容体を刺激し,腎動脈拡張作用 による糸球体濾過量の増加と腎尿細管への直接作用により 利尿効果を示し,中等度の用量(2
〜10
μg/kg/
分)ではβ1 受容体刺激作用と心臓および末梢血管からのノルアドレナ推奨 クラス
エビデンス レベル
Minds 推奨 グレード
Minds エビデンス
分類 利尿薬
ループ利尿薬
急性心不全における体液貯留
に対する静注および経口投与
I C B II
1回静注に抵抗性のある場合
の持続静脈内投与
Ⅱa B B IVb
バソプレシンV2受容性拮抗薬(トルバプタン)
ループ利尿薬をはじめとする 他の利尿薬で効果不十分な場 合の体液貯留に対しての投与
(高ナトリウム血症を除く)
Ⅱa A B II
低ナトリウム血症を伴う体液
貯留に対しての投与
Ⅱa C C1 II
MRA
ループ利尿薬による利尿効果
減弱の場合の併用投与
Ⅱb C C1 III
腎機能が保たれた低カリウム
血症合併例に対する投与
Ⅱa B B II
腎機能障害,高カリウム血症
合併例に対する投与
Ⅲ C D VI
サイアザイド系利尿薬 フロセミドによる利尿効果減
弱の場合の併用投与
Ⅱb C C1 III
血管拡張薬 硝酸薬
急性心不全や慢性心不全の 急性増悪時の肺うっ血に対す
る投与
I B A II
ニコランジル
急性心不全や慢性心不全の 急性増悪時の肺うっ血に対す
る投与
Ⅱb C C1 II
カルペリチド
非 代 償 性 心 不 全 患 者 で の
肺うっ血に対する投与
Ⅱa B B II
難治性心不全患者での強心薬
との併用投与
Ⅱa B C1 II
重篤な低血圧,心原性ショッ ク,急性右室梗塞,脱水症患
者に対する投与
Ⅲ C C2 VI
カルシウム拮抗薬
高血圧緊急症に対するニフェ
ジピンの舌下投与
Ⅲ C D IVb
表58 急性心不全に使用する薬剤の推奨とエビデンスレベル
推奨 クラス
エビデンス レベル
Minds 推奨 グレード
Minds エビデンス
分類 強心薬・昇圧薬
ドブタミン
ポンプ失調を有する肺うっ血
患者への投与
Ⅱa C B II
ドパミン
尿量増加や腎保護効果を期待
しての投与
Ⅱb A C2 II
ノルアドレナリン
肺うっ血と同時に低血圧を呈 する患者へのカテコラミン製
剤との併用投与
Ⅱa B B III
PDEIII阻害薬
非虚血性のポンプ失調と肺
うっ血に対する投与
Ⅱa A B II
虚血性のポンプ失調と肺うっ
血に対する投与
Ⅱb A B II
心拍出量の高度低下に対して
のドブタミンとの併用投与
Ⅱb C C1 IVb
心拍数調節薬 ジギタリス
頻脈誘発性心不全における心 房細動の心拍数コントロール
目的での投与
I A B II
ランジオロール
頻脈誘発性心不全における心 房細動の心拍数コントロール
目的での投与
I C B II
在では用いられることが少ない.
ジギタリス投与の禁忌例として,徐脈,第
2
〜3
度房室 ブロック,洞不全症候群,WPW
症候群,閉塞性肥大型心 筋症,低カリウム血症,高カルシウム血症があげられる.4.4.3
PDEIII
阻害薬PDEIII
阻害薬の長所としては,1
)β受容体を介さずにサ イクリックAMP
の分解を阻害することで効果を発揮するの表59 急性心不全の急性期に静脈投与する薬剤の用法・用量
薬剤 用法・用量
モルヒネ 5〜10 mg/Aを希釈して2〜5 mgを
3分かけて静注
フロセミド
10〜120 mgを1回静注もしくは 1〜2 mg/時で開始し,1〜5 mg/時で 持続投与
カンレノ酸カリウム
1回100〜200 mg を10〜20 mLに 溶解して緩徐に静注. 漫然と長期にわ たって 投 与 せ ず,1日 投 与 量 と し て 600 mgを越えないようにする ジゴキシン 0.125〜0.25 mgを緩徐に静注
ドパミン
0.5〜5 μg/kg/分 で 開 始,0.5〜20 μg/kg/分で持続投与.中止時は漸減し,
最少量・最短期間を心がける
ドブタミン
0.5〜5 μg/kg/分 で 開 始,0.5〜20 μg/kg/分で持続投与.中止時は漸減し,
最少量・最短期間を心がける
ノルアドレナリン 0.03〜0.3 μg/kg/分で開始し,持続 投与
ミルリノン 0.05〜0.25 μg/kg/分で開始し,0.05
〜0.75 μg/kg/分で持続投与 オルプリノン 0.05〜0.2 μg/kg/分で開始し,0.05
〜0.5 μg/kg/分で持続投与
コルホルシンダロパート 0.1〜0.25 μg/kg/分で開始し,持続 投与
ニトログリセリン 0.5〜10 μg/kg/分で開始し,持続投与 硝酸イソソルビド 1〜8 mg/時で開始し,持続投与 ニコランジル 0.05〜0.2 mg/kg/時で開始し,持続
投与
ニトロプルシド 0.5〜3 μg/kg/分で開始し,持続投与 カルペリチド 0.0125〜0.05 μg/kg/分で開始し,0.2
μg/kg/分までの用量で持続投与
ランジオロール
1 μg/kg/分 で 開 始 し,心 拍 数,血 圧 により漸増・漸減し1〜10 μg/kg/分 で持続投与
で,カテコラミン抵抗状態にも有効,
2
)血管拡張作用と強 心作用を併せ持ち,心筋酸素消費量の増加がカテコラミン 薬に比し軽度,3
)硝酸薬に比し耐性が生じにくいことがあ げられる.急性心不全では静注投与開始後作用発現がすみ やかであり,血行動態改善効果はほぼ用量依存性である750).β遮断薬が投与されている慢性心不全の急性増悪では,
交感神経受容体がブロックされているので,ドパミンやド ブタミンなどの強心効果は制限される.一方,β受容体を 介さない
PDE
阻害薬やコルホルシンダロパートなどのアデ ニル酸シクラーゼ賦活薬は,優れた心拍出量増加と肺毛細 管圧低下作用を発揮する751).ADHERE
での検討では,ミルリノン投与例の院内予後がドブタミン投与例よりも良好であったが752),プラセボを 対照としたミルリノンの比較試験
OPTIME-CHF
ではミルリ ノン投与群に血圧低下,新規の心房性不整脈の副作用が多 く認められた753).本研究は,本来ミルリノンを必ずしも必 要としない低リスク心不全患者を対象としたものであり,こ れらのことからもカテコラミン強心薬と同様に病態に応じた 適応,投与量,投与期間に十分注意を払い,必要最少量を 最短期間で使用する必要がある.
一般的には血圧低下や不 整脈の出現に注意しながら持続静注にて開始する.4.4.4
アデニル酸シクラーゼ賦活薬
(コルホルシンダロパート)
わが国でのみ使用可能な強心薬である.
PDE
阻害薬と 同様に強心血管拡張薬(inodilator
)として作用するが,効 果発現がPDE
阻害薬にくらべ遅いこと,心拍数増加が大 きいこと,催不整脈性などに留意しなければならない.PDE
阻害薬との少量併用療法の有効性が示唆されている.4.4.5
カルシウム感受性増強薬(ピモベンダン)
ピモベンダンは,心筋収縮調節蛋白トロポニンのカルシ ウム感受性を増強することにより,細胞内カルシウム濃度 の上昇をきたすことなく心筋収縮力を増強する.さらに,
PDE
活性を抑制することにより血管拡張作用を示し,心拍 出量の増加と肺毛細管圧の低下が得られるが,急性心不 全に対する明確なエビデンスはない.4.5