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2. 鏡視下手術から見た解剖と構造の理解

バルーンなどで拡張した後腹膜腔に入るとpara‑renal fatと腰方形筋などの背筋が見える.Para‑renal fatを除去

し外側円錐筋膜を切開,この中に入ると,この外側円錐

羽j刻j友買J 秋田大学医学部泌尿器科I

筋膜は背筋の筋膜 (psoassheath)に移行して行く様にみ える (Fig.

1 .  

6).腎の前面には腹膜と薄い被膜(いわゆ る 腎筋膜前葉"anterior renal fasciaと思われる)が ある.後腹膜からのアプローチで、はその内側で、peri‑renal fatを腎に丁寧に付着させたまま剥離を進める必要がある

(Fig. 

1 .  

10). このperi‑renalfatは薄い被膜で包まれてお り

, これを乱さないように摘除することが大切である.

peri‑renal fatを覆う薄い膜は非常に弱く紺子の牽引などで 容易に破れ腎固有被膜が露出するので注意が必要である.

後腹膜アプローチの鏡視下の腎周囲,腎動脈,腎静脈の 見え方は独特で,これに慣れることが必須である.右では 腎動脈と下大静脈,腎静脈,左では腎動脈と副腎静脈,腰

Fig.l  鏡視下手術から見た解剖と構造の理解

バルーンダイセクターなどで後腹膜腔を広げ,内視鏡下に para‑renal fatと外側円錐筋膜,そして腰方形筋などを認知する 必要がある.para‑renal fatを除去し外側円錐筋膜を腰方形筋 に沿って大きく切開すると外側円錐筋膜は背筋の筋膜に移行す るようになっているのがわかる (Fig.6参照)• この筋膜より薄 い膜に包まれたperi‑renalfatを丁寧に腎に付着させるように腎 背面を展開していくことが必要である.腎前面では腹膜とperi‑ renal fatの間にある泡のような層に入り腎前面を広く展開して いく.

静脈,性腺静脈などの関係を側方視野から理解できるよう にする.特に左腎静脈とその枝のみえかたは症例により 様々である (Fig.2, 3). またどの位置で左腎静脈を切断 するのかを術中に良く考えながら剥離を進めることが大切 である.

3 . 体位と器具

体位は完全側臥位とする.筆者は300の光学視管を用い ている .0。の光学視管を使っても問題ないが腎動静脈の処 理の際などでクリップの先端の確認などの際には300も併 用したほうが良いだろう.

トロカールは習熟した術者であれば3本で良いが,良好 な視野の確保と左右の手を剥離に使え,手技が容易であ ることから4本のトロカールを薦める (Fig.4).先 ず12肋 骨先端を指標に肋骨弓の下端付近の腕嵩中央線上に約 2~

3cmの横切聞をおく (Fig.4).筋層をスプリットして,指 を後腹膜腔に入れ,用手的に腹膜を前方の腹壁から剥離 しておく.バルーンダイセクター (PDBバルーン)で 1~

腹膜腔を作成後,背筋群外縁と12肋骨下縁がつくる三角部 にさらに背側12mmトロカールを挿入する.この背面トロ カールの可動性を良くするために,これを背筋群外縁に 近すぎない様に1横指程度腹側におく. したがって手術に

GV  RA 

LuV 

Fig.2  後腹膜鏡下の左腎動脈と腎静脈の見え方

後腹膜鏡下での腎静脈の支流の見え方に慣れる必要がある.多 くの場合,図のように腰静脈 (LuV)が光学視管に向かうよ うに見え,その頭側に腎動脈 (RA)が見える.左副腎静脈 (AdV)の同定剥離は腎動脈切断後に行う方が無難な場合が多 い.GV=性腺静脈.

腹膜鏡下腎摘除術(後腹膜到達法)・安心できる手術のために

Fig.3  後腹膜鏡下の主要血管の様々な見え方

A:腰静脈 (LuV)が腎動脈 (RA)に張り付くように観察さ れ,腎静脈に移行するように見える例.B 腎動脈切断後.腰 静脈は比較的頭側に伸びている.この視野では副腎静脈まで見 えない(もっと起始部側にある).C:腎動脈 (RA)切断後.

副腎静脈 (AdV)がわずかに見えている.性腺静脈 (GV)は 切断されている.何れのイメージも広い視野で腎動静脈の剥離 が行われており,決して 穴ぐら"のなかで静脈を捜すような 視野になってないことが大切である.

Fig.4  後腹膜鏡下右腎摘除におけるトロカールの位置 光学視管トロカール(①)は第12肋骨先端または肢街中央線 で肋骨弓下縁とする.腎上極の観察の際に光学視管を倒すと腸 骨上縁が邪魔になり可動性に支障が出ることがあるので,肋骨 弓下縁寄りの方がよい 背側トロカール(②)も可動性に十分 な注意を払い背筋群外縁よりー横指ほど外側で第12肋骨下縁か らも一横指ほど下げる.摘出腎は尾側のトロカール(④)の創 を下方に4cm程度に延長し(矢印),収納袋に納めて細切後摘 出する.①②④=12mm,③=5mm

先立ち背側トロカールの位置を最初に決定し 5cm以上離 れた位置にカメラトロカールを配置する.2本のトロカー ルをおいたら腹壁に付着した腹膜翻転部を確認しこれを 必要に応じて腹壁から剥離し後腹膜腔を広げる.5cm以上 の距離がとれたら

3

番目,

4

番目のトロカールを挿入する (Fig. 4).②または④の12mmトロカールより腎動脈のク リップ操作,腎静脈の自動縫合器による処理を行う (Fig. 4) .腎摘出創は下方であるほど痛みも少なく, cosmetic~こ

も良いという点から,

4

番目(④)のトロカール創を下方 に延長し臓器を摘出する了

4 . 右側の手技 ( A )

概略

ステップの概略をFig.5に示す.①外側円錐筋膜の切 開,腎背面の展開と腎茎部処理,②腎上極背面の剥離,③ 腎前面と中央部から上極へと腹膜から剥離,展開,④腎前 面を中央部から下極まで腹膜から剥離,展開,⑤腎上極と 横隔膜の離断,副腎の処理,⑥腎下極,尿管の処理,であ

る.

コツは,①では外側円錐筋膜を腎上方から下方まで十分 に長く切開すること,②腎背面の剥離は,外側円錐筋膜を

① 

Fig.5  経後腹膜の腎摘除の概略

①先ず外側円錐筋膜を切開.続いて腎背面を展開し腎茎処 理 ②背面を横隔膜下まで展開 ③腎中央から上極前面の剥 離・展開.④腎中央から下極極前面の剥離・展開.⑤腎上極の 脂肪を離断し腎を外側下方に牽引し内側ー腹膜側を上から下 へと離断.⑥腎下極で脂肪と尿管の切断で腎の遊離,と言う手 順である.大切なことは④のステップが終了した時点、で腎があ たかも上極(あたま)と下極(尻尾)のみでつながった サツ マイモ"のように背側と腹側が十分広く展開されていることで ある.

切り,この筋膜が腰方形筋や腸腰筋への筋膜へと移行して い く の を 観 察 し 脂 肪 組 織 (peri‑renalfat)を腎に付着さ せるように筋膜を露出させるように剥離していくことであ る.同様に③や④では,腎前面を腹膜(+腎筋膜前葉)か らperi‑renalfatを乱すことなく丁寧に剥離していく必要 がある.

(8)腎背面と腎茎部の展開

まず傍腎脂肪組織 Wankpad)をなるべく外側円錐筋 膜からはがしとる.最初の解剖学的指標は腰方形筋であ り,これを確認し外側円錐筋膜を腰方形筋にそって上 下に十分切開する (Fig.6). コツは外側円錐筋膜を腎上 方から下方まで十分に長く切開すること,これで腎背面を 上方から下方まで十分展開すると腎を無理なく前方に倒す ことができ,広い操作野で腎茎部の処理ができる.外側円 錐筋膜内から腰筋群を観察しながらperi‑renalfatに固まれ た腎を下方腹側のトロカールよりリトラクター (Diamond‑ Flex Retractor;  Genozyme杜)等を用いて腹側に倒す.

腎背面の剥離は,腰方形筋や腸腰筋の筋膜を露出させるよ うに,脂肪組織 (peri‑renalfat)を腎に付着させるように 剥離していく.前述したようにperi‑renalfatを覆う線維被 膜があるが, しっかりとした膜ではないのでこれを乱すこ となく,脂肪組織を丁寧に腎に付着させて剥離を進めない と,腎の被膜が露出してしまい,腎腫蕩などでは根治手術

Fig.6  外側円錐筋膜の切開

外側円錐筋膜を切開し(矢印),腰方形筋 (M)をその内側か ら観察したところ.外側円錐筋膜は腰方形筋を覆う筋膜に移行 しており,この筋膜からperi‑renalfatを乱すことなく腎に付着 させるように腎背面を展開していく.

腹膜鏡下腎摘除術(後腹膜到達法):安心できる手術のために

としては疑問符のつく手術になるので注意が必要である. も良い.腎静脈の切断前には必ず腎側の腎静脈が怒張して 十分に腎背面の展開を行うと,腎周囲脂肪組織が乏しい いないことを確認する (Fig.9). 

例では下大静脈の波動状の動きゃ腎動脈の拍動が観察され る.脂肪に富む症例では腎茎部よりやや尾側で下大静脈右 壁を同定し,その剥離を頭側へ進めると自然に腎動脈に出 会う.腎動脈周囲には腎動脈に平行,下大静脈に垂直方向 に太いリンパ管の束が現れるのでこれが指標となる

向)腎動静脈の処理

腎動脈を同定したら腎動脈周囲が広く展開されるよう周 囲組織やリンパ管を処理する.腎動脈を十分な長さが取れ るよう剥離する.背側または下方の12mmポートより,近 位(大動脈)側にクリップをメタルクリップなら

3

本,ヘ モロック (Hem‑O‑Lock: Weck Closure System)なら2 本かけ,腎動脈を切断する (Fig.7).腎動脈切断後すぐ に腎静脈の剥離を試みず,腎の挙上を続けながら下大静脈 の右壁の剥離を頭側に向かい進めていく (Fig.8)  腎動 脈が複数ある場合にもこの過程により同定できる.下大静 脈の剥離を頭側に進めると,腎静脈が下大静脈から煙突の ように突出する形で現れてくる (Fig.8.  9).  30度光学視 管の視野角を利用して腎静脈とその周囲の下大静脈の前壁 の剥離と展開を十分に行い自動縫合器が挿入できるように する (Fig.8).長さが十分にあればヘモロックを用いて

Fig.7  右腎動脈切断

右腎動脈の同定は下大静脈壁を尾側から頭側へと剥離するよう にすれば確実である.腎動脈は十分な距離を剥離し余裕を もって近位側に3本のクリップをかけ,切断する.IVC=下大静 脈.RV=腎静脈起始部.RA=腎動脈.LuV=腰静脈

Fig.8  右腎静脈の同定と剥離

腎動脈を切断後,続けて下大静脈右壁を頭側へと剥離する.そ うすると下大静脈から「煙突」のように出ている右腎静脈が認 知できる.複数の腎動脈があってもこの過程で同定できる.腎 静脈起始部の腹側にも十分にスペースをつくり自動縫合器が背 側から容易にかけられるようにする.IVC=下大静脈.RV=腎 静脈.RA=腎動脈切断端

Fig.9  自動縫合器による腎静脈切断

腎静脈の切断に自動縫合器を使用する場合には特に静脈周囲を 広く展開しておくことが大切である また自動縫合器にある マーカー(矢印)の聞に目的の静脈が確実に収まっていること を確認する.さらに切断する前に腎側の腎静脈が怒張していな いことを確認する.怒張が見られたら動脈血流の完全な遮断が されてないと考えてさらに動脈を捜したほうが良い.RA=腎動 脈切断端

(0)腎周囲の剥離 中央部から上と下ヘ

腎静脈を切断すればさらに腎背面の剥離を頭側へと進め 腎上極のイメージをえる.腎背面から横隔膜起始部が十分 露出できたら,腎前面の剥離へと移行する (Fig.10).前 面の剥離は腎の中央部が一番簡単なので,まず切開した外 側円錐筋膜を紺子で前面に挙上しながら腹膜(+腎筋膜前 葉)ぎりぎりの層で「泡」のような疎な結合組織層を鈍的 あるいは電気メスなどを用いて展開していく (Fig.11).  [腎が大きい場合などでは腎の前面の展開の際に,外側円 錐筋膜を腹膜の翻転部に平行に切開し入ってもよい (Fig 1). ]腎上極前面では腹膜は薄く,脂肪組織も乏しいので 腹膜損傷を来たし易い部位でもあり注意する (Fig.10・b). 

肝下面付近の腹膜を指標にしてperi‑renalfatと腹膜の粗な 部分を鈍的に剥離していくと副腎がみえてくる 次に腎 中央部から腎下極,下方の腹膜と腎前面の剥離と展開を行 う 腎の背側,腎の腹側の展開を十分過ぎるほど行い,広 い後腹膜腔のなかに腎が上極と下極のみで付着されたよう になり,ちょうどハンモックに横たわった腎が上極と下極 でつながったようなイメージまで広く展開することが大切 である (Fig.5). 

a  b 

Fig. 10  腎前面の展開

腎前面の展開は中央部より行う (a).腹膜(白い矢印)が透け るような層に入り,泡のような組織に入ることができる.腎前 面を広く十分にひろげ中央から上極へと展開する (b).次に中 央から下極へと展開し上極と下極で、腎がハンモックにつられ たように見えるようにする.Peri‑renal fatを包む薄い膜を乱す ことなく展開していくことが大切である.副腎を残す場合も上 極の剥離をperi‑renalfatの外側で、十分に行えば腎被膜を露出す ることなく摘出できる(c).黒い矢印は外側円錐筋膜 K=腎, Ad=副腎.

副腎を温存する場合には腎上極のイメージが得られた 時点 (Fig.10‑c.  11)で副腎を同定し,この下縁でperi‑ renal fat内に入札副腎と腎被膜の聞の脂肪層を電気メス やLCSを用いて切離していく (Fig.11).腎上極の腹側と 背側を十分に展開してから副腎の処理を行うと副腎を温存 する場合でも腎の上極の脂肪が付着されたまま摘除でき る.この上極の展開が不十分だと腎の上極で腎被膜が過剰 に露出されてしまう.副腎を合併切除する場合には横隔膜 からperi‑renalfatと副腎・腎をそのまま剥ぎ取るように展 開を進める (Fig.11).  peri‑renal faHこ包まれた腎を下方 に引くと下大静脈から下方に伸展した副腎静脈が前方から も同定できるようになるのでこれを剥離しクリップし切 断する.

副腎付近の処理が終わったらリトラクターで腎上方を外 側下方に牽引しながら,腎と下大静脈問のリンパ管や結合 組織を前方より観察しながら電気メスやLCSを用いて切断 していく.腎上極から腎茎下方までの内側付着部も完全に 離断し腎が下極の尿管付近のみで付着されたような状態 となれば今度は腎全体を頭側に挙上し尿管を剥離切断する と腎は完全に遊離される.

Fig. 11  右腎上極と副腎の処理

右腎上極で、はperi‑renalfatの中に入ることなくこれを締麗に保 ちながら副腎がみえるまで展開する.副腎がみえれば副腎に近 いところでperi‑renalfatを切り込んでいくと(白い点線のライ

ン)腎被膜をみることなく副腎を温存しながら腎摘除ができ る 早めにperi‑renalfatの中に入ると腎の上極が過剰に露出さ れた腎摘除になる(黒の点線).副腎を合併切除する場合には ここからさらに副腎前面と腹膜の聞の剥離をすすめ副腎静脈の 処理を行う

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