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鉱業関連の社会情勢

I. 鉱業関連一般概要

3. 鉱業関連の社会情勢

(1)

鉱業界の現況

カナダで唯一のウラン生産州であり世界のウラン生産量の22%を生産するSK州は、ウランの生産、

探鉱において世界で主導的な立場に立つのみならず、SK州で生産されるウランの88%が世界各国の 原子力発電用に使用されていることより、エネルギー供給面においても世界的に重要な位置にある と言える。

しかし、2011年の福島原発事故以来、ウラン価格は70%以上下落し、SK州に拠点を置くウラン生産 で世界最大のCameco社がSK州内のKey Lake鉱山及びMcArthur River鉱山を一時的閉鎖するなど、ウ ラン業界にとっては厳しい状況が続いている。

ウラン価格は2011年の約75US$/lbから2016年11月には18US$/lbまで落ち込み、2017年から2018年にか けて徐々に回復の方向に向かい2018年11月には約29US$/lb 53まで回復した。このウラン価格の上昇を 受け、Cameco社は2017年には赤字を計上したものの、2018年第一四半期の売り上げは昨年の同時期 より約12%上昇し439百万C$となり黒字に転換している。また、Cameco社のウラン鉱山一時閉鎖と カザフスタンのウランの生産量の低減に伴いウランの世界的な供給量は大幅に低下し、一方で継続 的に操業をしている原子力発電所に加え、日本で稼働停止していた原子力発電所の一部再稼働54も含 め、世界各地での新規原子炉の建設、計画も進んでいることなどから、今後は需要に供給が追い付 かずウランの価格は上昇するという見方も強い。

1-16

ウラン価格の推移

Natural Resources Canada

https://www.nrcan.gc.ca/energy/facts/uranium/20070#L1

World Nuclear Association

2017

9

月に発表した

Nuclear Fuel Report: Global Scenarios for Demand and Supply Availability 2017-2035

の概要55によると、ウランの需要は、2017年現在

391GWe

であると ころ、悲観的シナリオ(Lower Scenarios)では

2030

年まで低迷を続けその後

2035

年までに多くの原 子力発電所が閉鎖され下落すると予想される反面、標準的シナリオ(Reference Scenarios)では

2025

年には

455GWe

に、2035年までには

482GWe

まで上昇、さらに、楽観的シナリオ(Upper Scenario)

では、2025年までに

455GWe、2035

年までに

625GWe

まで上昇すると予想されている。

53 Cameco ウェブサイトhttps://www.cameco.com/invest/markets/uranium-price

54 原子力発電所の現状、資源エネルギー庁

http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf

55 Global Scenarios for Demand and Supply Availability 2017-2035, World Nuclear Association http://www.world-nuclear.org/our-association/publications/publications-for-sale/nuclear-fuel-report.aspx

28 (2)

環境問題

1)

カナダ環境評価法改正

2018年2月に連邦政府はカナダ環境評価法(Canadian Environmental Assessment Act, 2012)を環境影響

法(Impact Assessment Act)に改正する法案(Bill C-69)を国会に提示し、2018年11月現在上院での 審議が進められている。改正法案は、より確実、予想可能な、迅速、透明性のある環境影響評価、

先住民の権利を保証し、その知識を生かした評価、一般参加、科学に基づく審査等を目指したもの であるとされている。主な改正点はカナダ環境影響評価法のセクションで説明する。

2)

温室ガス汚染価格法制定

連邦政府は2018年3月に炭素税を全国的に導入するための温室ガス汚染価格法(Greenhouse Gas

Pollution Pricing Act - GGPP)

56法案を議会に提出し、6月21日に国王裁可を受けたが、これに対しSK

州政府57は、連邦政府にはSK州民に炭素税を課す憲法上の権利はないとして当該法の制定の合憲性 を確認すべくSK州の上訴審に判断を求めた。SK州はSK州には炭素税より有効な温室ガス抑制措置 があり、炭素税は高価でかつ非効果的な措置であるとして反対している58。これに対し連邦政府は炭 素税課税は連邦政府の管轄であると主張し、SK州がGGPP法に従った措置を取ることを求めてい る。裁判所の判断は2019年の春以降になる予定である。

(3)

先住民

1) SK

州の先住民と連邦、SK州政府との関係

2016

年国勢調査によるとカナダ全体で約

167

万人が自らを先住民と認めており59、そのうち

SK

州の 先住民は総数で

175,015

人、そのうちファースト・ネーションが

114,570

人(約

65.5%)、メティス

57,880

人(約

33.1%)、イヌイットが 360

人(約

0.2%)となっている

60

鉱業活動が環境や先住民の文化に与える影響などより、鉱山活動を行うに当たっては、通常、先住民 との抵触が生じることが多い。しかし、後に記載する

Fraser Institute

の調査でも明らかにされている とおり、カナダの州のうち、

SK

州は先住民と鉱山会社とが連携して鉱業活動を進めるケースが多く、

また、ウラン鉱山作業員の多くが先住民であることからも、SK 州における鉱山活動には先住民との 協力が得られることが多い。

Fraser Institute

の調査によると、SK州はカナダの他州に比べ先住民との問題が生じる可能性が少ない

州であると探鉱会社より見られている。これは、図

1-17

に示す通り

SK

州全域が歴史的条約及び条約 地権利合意(Treaty Land Entitlement agreements)の対象地となっており、先住民と連邦政府との間で 土地に関する合意がなされているため、BC 州のような先住民と政府との土地に関する争いが生じる 可能性が少ないためであると考えられる(図

1-17

の赤の斜線部分が先住民が土地の所有権に対し権 利の主張を行い政府と現在も交渉中である地域、緑の斜線部分がその結果合意が達成した地域であり、

SK

州には当該主張がなされた地域はない)。即ち、SK州では先住民による土地所有権主張が鉱業活 動に与える可能性は非常に少なく、これが

SK

州が鉱業投資について魅力的な投資先であるとみられ ている大きな原因の一つであると考えられる61

56 https://laws-lois.justice.gc.ca/eng/acts/G-11.55/

57 オンタリオ州も同様に連邦の炭素税課税に反対している。

58 https://www.saskatchewan.ca/government/news-and-media/2018/april/25/carbon-tax-case

59 Indigenous peoples and communities (Crown-Indigenous Relations and Northern Affairs Canada): https://www.rcaanc-cirnac.gc.ca/eng/1100100013785/1529102490303

60 Statistic Canada, Aboriginal peoples in Canada: Key results from the 2016 Census https://www150.statcan.gc.ca/n1/daily-quotidien/171025/dq171025a-eng.htm

61 Mining and First Nations collaboration thriving in the land of living skies, Fraser Institute

https://www.fraserinstitute.org/article/mining-and-first-nations-collaboration-thriving-in-the-land-of-living-skies

29

1-17

包括的土地所有権

https://www.nrcan.gc.ca/sites/www.nrcan.gc.ca/files/earthsciences/pdf/treaties_and_comprehensive_land_claims_in_canada_WCAG.pdf

30 (4)

外国投資

1)

カナダの外国直接投資

カナダにおける外国直接投資の形態としては、既存企業の買収を通じての投資が、新規事業立ち上げ による投資よりはるかに多い。

2017

年度(2016年

6

月∸2017年

6

月)にカナダ投資法に基づき通知を 行った外国投資件数は

737

件、企業価値にして

50.31

十億

C$で、そのうち通知のみで承認されたもの

715

件、外国投資審査を受け承認された件数は

22

件であった62

1-18

外国投資審査・通知数より見たカナダにおける外国投資状況63

20132014201520162017

買収/新規設立数 企業買収

487 478 524 498 529

新規事業

177 177 180 128 186

外国投資審査

/

通知

承認数

審査承認

18 11 15 15 22

通知承認

664 655 704 626 715 2017

年度の投資審査にかかった期間は平均

84.6

日であったが、これは

3

件の大規模投資の審査が長 期の及んだためであり、平均的な審査期間は

71.5

日であった。

投資先セクター別にみるとサービス業が最も多く、

2017

年の天然資源関連事業(石油・ガス、その他 鉱業、鉱業関連事業)への投資は全体の約

21%を占める。鉱業への投資は 2015

年に一旦減少した後

2017

年まで増加傾向を示している。

1-19

カナダへのセクター別外国投資額64 (百万

C$)

セクター 2014201520162017

鉱業

36,871 21,064 24,357 28,242

石油・ガス

122,548 133,470 136,476 119,865

鉱業関連

14,724 14,273 14,301 14,122

製造業

198,325 181,061 176,696 176,200

卸売業

54,990 61,884 68,741 74,670

小売業

38,536 31,114 34,301 35,790

財務・保険業

99,259 115,853 126,833 136,974

企業管理業

123,467 158,838 167,399 170,885

その他

55,951 65,355 59,634 67,287

合計

744,671 782,912 808,738 824,035

カナダへの直接投資の投資国では、2017年の投資件数で米国が全体の約

54%(397

件)を占め、こ れに次ぎ、中国

6%(46

件)、英国

6%(41

件)、ドイツ

5%(36

件)、フランス

4%(32

件)、日本

3%(21

件)となっている。

62 Annual Report, Investment Canada Act 2016-17

https://www.ic.gc.ca/eic/site/ica-lic.nsf/vwapj/2016-17AnnualReport.pdf/$file/2016-17AnnualReport.pdf

63 Comparative Data Between Last Twelve-month Period and Cumulative Period https://www.ic.gc.ca/eic/site/ica-lic.nsf/eng/h_lk00015.html

64 Annual Report, Investment Canada Act 2016-17

https://www.ic.gc.ca/eic/site/ica-lic.nsf/vwapj/2016-17AnnualReport.pdf/$file/2016-17AnnualReport.pdf

31

C$C$

1-18

カナダへの国別外国投資割合(2017年)

出典:2018 Canada’s State of Trade, Global Affairs Canada

https://www.international.gc.ca/economist-economiste/assets/pdfs/performance/state_2018_point/SoT_PsC_2018-Eng.pdf

(5)

投資環境調査

Fraser Institute

が毎年世界各国の鉱山、探鉱会社に対して行っている鉱業投資環境調査65によると、

SK

州は、表

1-20

に示す通り、投資魅力度で世界第

2

位、鉱業政策指数で第

3

位、ベストプラクテ ィス鉱物ポテンシャルで世界第

2

位となっている。

カナダ国内では環境規制の不安定さが投資抑制とならない州について第

2

位であるのを除き、いず れの指標についてもトップに立ち、カナダ国内で最も投資環境が良い州と見られていると言える。

これは、SK州が石こうの埋蔵量で世界第一位(世界の約

50%)であることや石油、ガスの生産にお

いても上位に立っていることもその要因と考えられるが、ウランの埋蔵量及び生産量において世界 で上位を占めることも大きな要因であるとみられる。

また、同じく

Fraser Institute

が行った鉱業活動に係る許認可の取得にかかる期間についての調査によ ると、SK州における鉱業許認可は

83%が 6

カ月以内に取得できており、遅くとも

18

カ月以内には 全調査対象会社が許認可を取得できている(表

1-21)。

当局自体が設定しているタイムラインの実現状況に関しては、SK州については、80%以上実現され ていると答えた会社は

83%、60%~80%実現していると答えた会社は 17%に上り、SK

州では設定 されているタイムラインが守られているケースが多いことを示している(表

1-22)

65 Survey on Mining Companies: 2017

https://www.fraserinstitute.org/sites/default/files/survey-of-mining-companies-2017.pdf

米国 54%

中国 6%

英国 6%

ドイツ 5%

フランス 4%

日本 3%

オランダ 2%

オーストラリア 2%

インド 2%

韓国 1%

アイルランド

1% その他EU

7% その他

7%

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