一 一 1 9 8 3 年までの市場創設論争の系譜一一
I
は じ め に世界経済の相互依存関係の深まりとともに国際間の金融取引は,急速に拡大 している。それにともなってわが国の金融の国際化も,ますます進展してきてい る。
1 9 7 0
年から8 0
年までに名目GNP
は3 . 2
倍になったのに対し,対外資産は7 . 9
倍,対外負債は9 . 5
倍に達している。そして対外資産は民間部門ならびに長期 資産の比率を高めているのに対し,対外負債は短期負債の比率を高めている。これは日本がまだ「未成熟債権国」の段階ではあるものの,国際金融市場とし ての役割を果たしはじめ, I短期借り,長期貸し」を行う「銀行国」となりつつ あることを意味している。
このような金融の国際化,円の国際化とともに,東京金融市場の国際金融セン ター化への提案とそれに対する批判は,本章の参考文献からも類推されるよう に枚挙にいとまがない。しかしながら,本章の参考文献はそれらの議論の一部 にすぎないものの,限られた文献においてでさえ金融の国際化,円の国際化の 概念が論者により必ずしも一致をみているわけではない。
したがって本章においては,
1 9 8 1
年〔昭和5 6
年)1 2
月,ニューヨーク1B F
C I n t e r n a t i o n a l Banking F a c i l i t i e s
,国際金融勘定〉創設に触発され, 日本で もオフショア市場を東京に発足させようとし、う気運が急速に高まった1 9 8 3
年ま での論争の系譜をたどるとともに,金融の国際化と円の国際化,東京オフショ ア市場に関する議論を整理することにしたい。66 第2部 金融の国際化と円の国際化
I I 日本の金融の国際化の現状 1 .
金融の国際化の定義金融とは貯蓄と投資を結びつけることであり,資金の調達と運用の関係を指 す。したがって資金の調達・運用の主体と対象(市場〉を,国内(居住者〕と 海外(非居住者)に分けると次の
8
分類が可能である九① 日本人(居住者〉が圏内(日本〉市場で資金調達する。
② 日本人(居住者〉が国内(日本〉市場で資金運用する。
③ 日本人(居住者〉が海外市場で資金調達する。
④ 日本人(居住者〉が海外市場で資金運用する。
⑤ 外国人〔非居住者〉が国内(日本)市場で資金調達する。
⑥ 外国人(非居住者〉が国内(日本〕市場で資金運用する。
⑦ 外国人(非居住者〉が海外市場で資金調達する。
⑧ 外国人(非居住者〉が海外市場で資金運用する。
①と②は圏内金融であり,③,④,⑤,⑥の進展が狭義の金融の国際化であ る。また⑦と⑧はユーロ市場の概念に相当しそれを東京で行おうとするのが
「東京オフショア市場」構想であるといえ,広義の金融の国際化は③から⑧まで を含めたものである。
すなわち金融の国際化には
3
方向があると思われる。第l
は日本の金融機関 が海外市場に進出し,現地通貨による資金取引やユーロ・カレンシー取引,為 替取引を行ったり,現地に進出している日本企業への貸付けや金融サーピスの 提供,さらに現地企業との取引を行う場合である。第2は海外の金融機関が日本へ進出し,それぞれの本庖の対日業務拡大,外 貨建て業務に限らず,円資金取引や日本国内の顧客に対する貸出しを日本の金 融機関と競合しながら行う場合である。
そして第
3
には,日本国内に真に国際的な金融市場 ユーロ市場の創設を 行う方向である。一方で、内から外へ,他方で外から内への金融機関の相互進出 が進展するだけで,一国の金融の国際化が達成されたとはいえないであろう。日本の金融の真の国際化のためには, 日本国内に国際的な金融市場が存在する
3 67 という要素をさらに付け加える必要があるといえるだろう。
ところで①から⑧の資金の調達と運用を円と外貨で検討しよう。①と②が外 貨で行われることによりドル・コール市場が発展してきたといえる。また③か ら⑧が円で行われることが金融面における円の国際化を意味している。そして
⑦と⑧が円を中心に発展したのがユーロ円市場であり,それを東京で行うと円 取引を含んだ東京オフショア市場が実現することになる。
2 .
銀行・証券の内外進出状況第
1
表は内外銀行相互進出状況を,第2
表は本邦証券会社および外国証券業 者相互進出状況を示したものである。日本の金融機関はこれらの表でみると昭 和4 0
年代後半とくに4 6
,4 7
年が本格的国際化の出発点であったということができるであろう。
もちろん,それ以前にも外為専門銀行や上位都市銀行を中心に, 日本企業の 国際競争力増大にともなう貿易量の拡大や企業の海外進出を背景として,国際 化が進展していた。そして,昭和
4 6
年末で邦銀の海外支庖数は1 3
行5 9
支広に達し
, これらの海外支庖を通じ日系企業への貿易金融を中心に海外取引が活発化 するとともに,日本国内における貿易関連サービスや基幹産業へのインパク
卜・ローン供与も行われていたのである。
しかしながら昭和
4 0
年代後半からは,金融機関の国際化がいっそう本格化し たのである。都銀ではシンジケート・ローンなとや中長期貸付への参加やロンド ンでの証券業務取扱現地法人の設立等も行われ,海外拠点網の拡充も進められ,国際業務が多様化,本格化していった。
また長期信用銀行は都銀に比べ,国際化が遅れていたが,昭和
4 6
年海外支庖 を初めて設立し,急速に国際化していった。さらに信託銀行は昭和4 6
年,ニュー ヨークに駐在員事務所を合同で設け,昭和4 9
年以降国際金融市場に支庖を設置 し,国際業務の拡充を図っている。そして生命保険会社も昭和
4 6
年から外国株式投資を開始し,海外拠点強化を 図るとともに外債投資や円建シンジケー卜・ローンへの参加を通して資産運用 の園際化を進めている。証券会社についても昭和4 0
年代後半から,対日公社債68 第2部 金 融 の 国 際 化 と 円 の 国 際 化
第1表 内 外 銀 行 相 互 進 出 状 況 ( 暦 年 別 )
(昭和60年12月末現在)
本 邦 為 銀 外 国 銀 行
支 庖 出張所 現 地
駐事在務員所 計 (銀行) 支 庖 駐事在務員所 法 人
昭25‑30 13 3 4 21 14 35 31‑35 15 1 5 22
36‑40 19 2 1 9 31 3 4 7
41 3 3 2
42 2 2 l 2 1
43 l 3 1 6 l 1 5 44 3 5 9 2 2 17 45 1 I 2 11 15 l 10 46 4 4 23 32 4 4 12 47 15 5 18 39 11 15 7 48 10 11 22 44 8 8 19 49 14 14 18 46 10 10 16
50 3 27 31 l 6
51 6 7 23 36 4 4 6 52 11 7 12 30 6 6 7 53 4 10 16 30 3 3 9 54 5 1 22 28 2 4 7 55 12 3 8 24 47 l 8 56 12 2 7 23 44 5 9 8 57 8 3 14 55 80 5 7 12 58 9 2 15 42 68 2 4 10 59 10 2 16 34 62 l 5 8 60 13 33 63 109 3 9 17 現 在 数 191 155 370 716 77 114 116
((t) 1. 現地法人」とは「本邦為銀」の出資比率50%以上の金融機関をいう。
2. 外国銀行側の L銀行)は本邦に支庖を有する銀行の数を示す。
3. 現在数と計の数が合致しないのは廃止,統合によるものである。
4 . 開設ベース(駐在員事務所数は,輸銀は含まな" )。 く出所>
r
大蔵省国際金融局年報J昭和60年版.p.156.昭和61年版.p.151より作成。
言 十 35 11 2 3 6 19 11 16 22 27 26 7 10 13 12 11 9 17 19 14 13 29 233
投資の増大,企業の外債,転換社債発行の定着とともに対外証券投資,円建債 発行が本格化することとなった。
このようにしてシンジケート・ローンの上位に邦銀が名を連ねるようにな り,昭和57年のシンジケート・ローンの主幹事実績順位で,東京銀行が226件,
第2表 本邦証券会社及び外国証券会社相互進出状況(暦年別)
(昭和60年12月末現在〉
本 邦 証 券 会 社 外 国 証 券 業 者 支 庖 法現 地人 事駐務在所員 参出 力資日 計 支 広 駐事務在所員
2
十 昭46以前 4 12 10 12 38 14 1447 5 5 8 18 1 3 4 48 2 5 7 19 33 23 23 49 4 4 6 14 l 8 9
50 3 4 8 2 2
51 3 2 5 2 2
52 2 6 1 9 2 2
53 5 2 5 12 2 9 11 54 3 4 3 11 1 11 12
55 2 2 7 11 5 5
56 4 5 1 10 1 4 5 57 1 7 3 l 12 l 9 10 58 4 7 2 13 2 13 15 59 3 9 1 13 2 15 17 60 6 22 1 26 11 30 41 計 13 67 93 66 239 22 150 172 現 在
。
62 55 52 170 22 117 139(注 現地法人とは,本邦証券会社の出資比率が50%超である外国法人をいい,その子会社を含 む。また.出資参加とは,同じく50%以下のものをいう。
2 支庖,駐在員事務所は開設ベ ス,現地法人,出資参加は届出へースで計上している。
〈出所> ~大蔵省国際金融局年報』昭和61年版. p.450.
5 6 6
億ドルで世界第1
位になるにいたったのである。この背景には園内円貸し需 要の伸び悩みなども影響しているが,大蔵省が昭和57年5月,従来,非居住者 向け円建ローンに設けていた日本のノミイヤーズ・クレジットなど貿易金融や国 際金融機関向けに限るなどの要件を撤廃し,円ローンを実質的に自由化したことによる円建シンジケート・ローンの拡大が大きいといえるだろう九
ところで第3表は東京市場における円建外債の発行状況であり,第4表は東 京市場における円建貸付残高状況である。円建外債や円建貸付けは海外の借手 にとり,比較的低い固定金利で長期資金を調達できる。また貸手にとっては国 内景気の低迷からの圏内円貸出しの伸び1悩みの中で資金運用先を多様化できる。
および邦銀にとってユーロ通貨に比べ調達面での問題が小さい, さらに日本の
70 第2部 金 融 の 国 際 化 と 円 の 国 際 化
第3表 東京市場における円建外債の発行状況
(単位.億円)
メ
F寸A¥ 募 {責 私 募 債 Ztコh 言十
年 月
件 数 発 行 額 件 数 発 行 額 件 数 発 行 額
昭45 60 60
46 3 330 3 330 47 6 850 1 106.9 7
48 3 400 6 400.5 9 800.5 49
50 2 200 2 200 51 6 650 6 650 52 15 2.960 3 300 18 3.260 53 29 7.220 11 1.050 40 8.270 54 16 3.330 6 672 22 4.002 55 14 2.610 14 2.610 56 27 4.950 13 1.175 40 6.125 57 37 6.630 30 1.930 67 8.560 58 41 7.200 32 1.790 73 8.990 59.1‑ 3 7 1.150 7 390 14 1.540 4‑ 6 11 2.100 8 500 19 2.600 7‑ 9 8 2.350 10 615 18 2.965 10‑12 11 3.550 9 490 20 4.040 59計 37 9.150 34 1.995 71 11.145 60.1‑ 3 7 2.500 5 275 12 2.775 4‑ 6 16 3.800 5 300 21 4.100 7‑ 9 6 2.700 6 300 12 3.000 10‑12 6 2.150 8 700 14 2.850 60~十 35 11.150 24 1.575 59 12.725 累 計 272 57,690 160 10,994.4 432
〈出所>
r
大蔵省国際金融局年報』昭和61年版.p. 135.経常収支黒字幅調整の効果的手段たりうる等々により,ますます活発に取引さ れるようになってきた。
このようにして昭和
5 7
年の新規契約ベースでの円ローンは大きく増大し,ユーロ市場で組成されたローン全体に対する割合も
4%
を超えることとなった。円建外債の昭和