第 5 章 東京オフショア市場創設とその問題点
I
は じ め に日本における東京オフショア市場創設については,
1 9 8 0
年(昭和5 5
年)4
月『東京オフショア・センターの展望』と題して,細見卓海外経済協力基金総裁 が強く提案されていることも周知のとおりである。その後昭和
5 7
年2月には大 蔵省内に「国際金融基本問題研究会」がつくられ, I東京ダラー市場」として検 討されたり,同年4月には細見総裁を団長とする「オフショア・バンキング調 査団」が海外の実態調査を行い,昭和5 8
年1
月の『東京IBF
創設についての 細見私案j(第1
次細見私案〉が発表され,東京オフショア市場創設の気運が急 速に台頭してきた。しかし第
3
章で考察したように,政策当局や金融機関相互,業態聞の利害が 絡み, コンセンサスづくりが難行した。さらに昭和5 7
年8
月に突発したメキシ コの累積債務問題は,当時5 0 0 0
億ド、ルを超す発展途上国全体の対外債務残高に デフォルトの危倶を与え,昭和5 7
年から5 8
年にかけて,この問題で国際金融界 は大きく動揺した。このような状況下で「東京オフショア市場構想」も一時棚 上げされることとなった。その後昭和
5 8
年1 1
月のレーガン大統領訪日, 日米蔵相の共同新開発表, 日米 円ドル委員会開催という日本の金融自由化・円の国際化に関する方向が推進さ れた。とくに円の国際化についてユーロ円市場の拡大が建議され,昭和5 9
年5
月の「日米円ド、ル委員会報告書」発表以降は,ユーロ円C D
, ローン,ボンド 等のユーロ円商品が公認され,実施されるにいたった九そのため東京オフショ ア市場については,昭和5 9
年5
月の「金融の自由化及び円の国際化についての 現状と展望」の中で,円の国際化の今後の展望と対応の一連の措置として,創 設を検討するとし、う言及にとどまった。しかし園内金利とくに大口預金金利の自由化の進展やユーロ円取引の自由化
第 部
が大幅に進んだ結果,従来の金利の自由化を促進するからという理由からのオ フショア市場慎重論やユーロ円取引自由化反対論の根拠が薄くなった。また日 本政府自身も金融の自由化が,長短分離,銀行信託分離,銀行証券分離等々の 圏内金融制度の壁にぶつかったため,東京オフショア市場早期実現をとりあげ ることによって,世界の対日金融摩擦問題のホコ先を変えようという意図もあ り,政府当局がむしろリーダーシッフ。を持って市場創設を推進することとなっ た。
東京オフショア市場創設案は,昭和60年 3月の外国為替等審議会の「積極的 検討」答申を経て,同年
4
月,同審議会の「東京市場の国際化に関する専門部 会」の審議と提言を受け,同年9
月オフショア市場の骨格とその早期創設をう たった報告書がとりまとめられた。そして大蔵省国際金融局・主税局合意が同 年1 2
月にみられた。そしてオフショア市場創設のために必要な,外国為替及び 外国貿易管理法(以下「外為法J)および租税特別措置法の改正法が,第1 0 4
回 国会において成立し,関係政省令も公布され,昭和6 1
年1 2
月1
日,東京オフショ ア市場が正式に発足した。そこで本章においては,東京オフショア市場の概要とその問題点について検 討することにしたい。
I I 東京オフショア市場の概要
1.オフショア勘定の定義昭和
6 1
年1 2
月1
日創設された東京オフショア市場の仕組みは,第1
図に示さ れている。(1) 勘定の開設主体
オフショア勘定の開設主体は, 日本にある外為銀行のうち大蔵大臣の承認を 受けたものである。オフショア市場創設の目的は,より多くの外為銀行に国際 的取引に参加する機会を与えることにあり,オフショア取引と他の取引を区分 経理する等の事務処理能力があり,外為検査等で問題のないところについては 幅広く承認される。
( 2 )
取引の相手方121 東 京 オ フ ン ョ ア 市 場 創 設 と そ の 問 題 点 第5章
オ フ シ ョ ア 市 場 の 仕 組 み 第I図
支 庖 海 外 邦 銀
外 国 政 府 ・ 国 際 機 関 (オフショア市場)
(園内市場)
行 銀
オフショア勘定
預金・借入
人 法 外 国
オフショア勘定 一 般 勘 定
一 般 勘 定
銀 付
『国際金融』昭和61年8月15日, p.8.
〈出所〉
日本のオフショア市場は,圏内取ヲ│と遮断して金融税制上の措置を講ずるこ 国外から調達した資金を国外へ運用する, いわゆる「外 一一外」取引である。
このため取引の相手は,
i
外一一外性原則」を担保するため,i
非居住者(外 国法令に基づいて設立された法人その他政令で定める者に限る)Jおよび「他のとを原則としており,
オフショア勘定」に限定している。このうち非居住者には,外国法令に基づい て設立されたいわゆる外国法人以外に改正外為令12条6項で国際機関等の外国 に主たる事務所を有する法人や本邦外為銀行の海外支庖が,非居住者の範囲に 含まれている。
したがって外為法上,非居住者であっても,外 外性原則を担保するのに 必要な相手方の非居住者性の認識が困難である「個人」や,本支庖間送金によ
り迂回取引可能となる「本邦法人(外為銀行を除く)Jの海外支屈は,取引の相 手方になることはできない。
( 3 )
取引の「外 外」性日本のオフショア市場は,基本的にはニューヨーク
IBF
型であるが, 日本 国内の金融・税制上の制約から,ニューヨーク 1B Fよりも制約された市場で あるといえる。したがって効果的な内外遮断措置を実施する観点から,外為令1 2
条7
項において,①金融機関その他大蔵省令で定める者(改正外為令2 1
条1
項により,外国政府等および国際機関が定められている)との聞の預金契約で は,オーバーナイト以上のもの,②その他の者との預金契約は,預金期間が2
日以上で 1億円以上と規定されている。
2 .
オフショア勘定に関する要件 (1) オフショア勘定の区分経理オフショア勘定は,その他の勘定と区分して経理することが基本であり,大 蔵省令ではこの帳簿書類を仕訳帳および勘定元帳としての機能を持った書類と
している。また次のような基準や方法で記録するように定められている。
@オフショア勘定は,独立した決済勘定を持っていないため,オフショア取 引に係る債権債務決済は,その他の勘定を通じて行う。
@オフショア勘定とその他の勘定聞の資金振替額は,オフショア勘定に経理 されている資金運用に係る金額と,資金調達に係る金額の差額として把握する。
。オフショア勘定の経理を開始した日から翌月の末日までの聞は,その他の 勘定で経理されている取引のうち,改正外為法
2 2
条2
項1
号または2
号に揚げ る取引に該当する,いわゆる「適格資産負債」をオフショア勘定に付け替える ことができる。ただ当該末日においての付替額の運用に係る金額と調達に係る 金額は同額でなければならないものとする。(なお付替可能な取引は,オフショ ア勘定承認日前に取引が開始されているものに限られている〕θ
オフショア勘定の経理に使用する勘定科目は,勘定開設承認申請書に記載 した勘定科目で,その他の勘定における勘定科目に準じた科目および資金の振 替に係る勘定科目とする。第5章 東京オフショア市場創設とその問題点 123
@オフショア勘定の経理で,外貨建資産負債を円貨換算する場合に使用する 換算率は,その他の勘定において使用している仮換算レートとする。
( 2 )
その他の勘定との聞の資金振替オフショア勘定とその他の勘定との閣の資金振替は,原則として認められな いが,市場の円滑化のため一定限度内の両勘定聞の資金振替を認めることとし ている。改正外為令
1 2
条1 1
項では,この限度額を次のように定めて,これらの 限度を満足すべきであるとしている。すなわち日々のオフショア勘定とその他の勘定聞の資金振替は,流出,流入 ともオフシヨア勘定の対非居住者運用資産前月中平残の
5%
を超えてはならな い。なお前月中に対非居住者運用資産がない場合は,5 0
億円を基準とする。ま たオフショア勘定の経理開始日から翌月末日までは,各外為銀行の非居住者向 貸付等の状況を勘案して,大蔵大臣が定める金額を限度とすることとされている。また毎月中のオフショア勘定から,その他の勘定への振替合計額は,その月 中のその他の勘定からオフショア勘定への振替合計額を超過してはならないと
しており,いわゆるネット流入超過を禁止している。
(3)相手方の非居住者性の確認
@確認手続の原則
具体的な確認方法については,
r
オフショア通達」で定められているが,r
当 該相手方が所在する国又は地域の官公署から発行され,又は発給された書類そ の他の書類」とは,次の順位で徴する書類となっている。(i) 所在国の法令の規定に基づき官公署から送付を受けた許可,認可もしくは 承認に係る書類またはこれらの書類の写し。
(ii) 所在国において交付を受けた国税もしくは地方税の領収証書,納税証明書 もしくは社会保険料の領収証書または, これらの書類の写し。
G i O
当該取引に係る弁護士のリーガル・オピニヨンを記述した書類またはコル レス先金融機関が作成した取引相手方に関する信用状況調査書。そして確認方法は,当該取引の相手方の商業登記簿謄本,抄本またはこれら の書類の写しと前述の書類か次の書類と照合することにより行うものとされる。
(i) 相手方との聞の当該取引に係る契約書