第 4 章 運動量・角運動量の保存則 23
4.3 重心系と2粒子衝突
物理で現れる多くの衝突現象は二つの粒子の衝突のあつまりとしてとられること が出来る、または近似することが出来る。物質の最小の構成要素である素粒子の性 質を調べるには、加速器で粒子同士をぶつける手段がもっとも強力であるし、気体 の圧力などの性質も原子・分子の衝突現象としてとらえられる。ビリヤードの玉は 非常に膨大な粒子の集まりであるが、この衝突も2粒子の衝突として近似できるし、
惑星の運動も2個の質点の運動として近似できる。そこでここでは2粒子衝突を考 えよう。
はじめ、2番目の粒子は静止している場合を考え、これを実験室系とよぶ。ここ での運動量の保存則は
m1v1i =m1v1f +m2v2f (4.25) となり、エネルギーの保存則は
m1v21i
2 = m1v21f
2 +m2v22f
2 (4.26)
となる。3次元でこれを解くのはやっかいである(だから入試には出ない)。そもそ も片方を止まっているとしているので、粒子1と粒子2の対称性が崩れてしまって いる。
そこで二つの粒子の重心という対称な位置を考えよう。重心の速度は運動量保存 則により一定である。その速度をVGとして
VG= m1v1i
m1+m2 , vij =vij +VG (i= 1,2 j = i,f) (4.27)
第4章 運動量・角運動量の保存則 28 である。この重心速度で動く系を重心系とよぶ。重心系での速度は
v1i =v1i−VG = m2v1i
m1+m2 (4.28)
v2i=−VG=− m1v1i
m1+m2 (4.29)
である。重心系での運動量保存則は
m1v1i+m2v2i =m1v1f +m2v2f =0 (4.30) エネルギーの保存則は
m1v21i
2 +m2v22i
2 = m1v21f
2 + m2v22f
2 (4.31)
となる。まず(4.30)より
v2i =−m1
m2v1i , v2f =−m1
m2v1f (4.32)
となる。これを(4.31)に代入して、
v1i =v1f , v2i =v2f (4.33) をうる。つまり各粒子のエネルギー(速さ)は重心系では衝突前後で変わらないので ある。
こうして
1. (4.32)のように衝突前後で運動方向が平行 2. (4.33)のように各粒子の速さはおなじまま ということがわかる。これでかなり簡単になった。
Problem 4.3
m1v21i
2 = m1v21i
2 + m2v22i
2 + m1+m2
2 VG2 (4.34)
を示せ。これはどんな意味を持っているか?
Problem 4.4 n個の粒子が運動量pi (i= 1, n)をもっている。互いに相互作用し た後,これらはpi+qi (i= 1, n) となった。
1. 運動エネルギーの増加分を求めよ。
2. 速度V の系で見ても運動エネルギーの増加分は変化しないことを示せ。
第4章 運動量・角運動量の保存則 29 さて、初速度v1i,v2iが与えられたとき、求めたい最終速度v1f,v2fは6成分ある。
ところで(4.32)によりv2f はv1fから決まってしまうので、結局v1f さえわかればよ い。さらにv1f = v1i なので、v1f の大きさははじめからわかっている。そんなわけ で、v1f の方向さえわかっていればよいのである。そこでv1f の方向がv1iからどれ だけずれ、v1iと垂直な面のどの方向に飛んでいくかを調べればよいことがわかる。
そこで実験室系と重心系での角度の関係を調べてみよう。
v1f =v1f +VG (4.35)
より
v1fsinθ = v1f sinθ (4.36) v1fcosθ = v1f cosθ+VG (4.37) となる。これより
tanθ= sinθ
cosθ+VG/v1f (4.38) をうる。
VG
v1f = m1 m1+m2
v1i v1f
= v1i v1f
m1 m2
= m1 m2
より、重心系と実験室系での散乱角は
tanθ= sinθ
cosθ+m1/m2 (4.39)
となる。
Problem 4.5 m2 =∞のとき、θとθの関係はどうなるか?その物理的意味を考え よ。m1 =m2のときはどうなるか?
(4.39)をもう少しよく眺めてみよう。もしθが0からπまで動いたとき右辺の分 母はm1/m2が1より大きいか小さいかで0になることがあるか、決して0ならない かが決まる。
1. m1 ≤m2なら分母が0になれるので右辺はいくらでも大きくなれる。よってθ も0からπのあらゆる角度をとれる。
第4章 運動量・角運動量の保存則 30 2. m1 > m2なら分母が決して0になれない。(4.39)を微分するとわかるように
cosθ =−m2/m1のとき、右辺が最大になるので、
sinθmax= m2
m1 <1 (4.40)
という角度θmaxまで大きくなった後、減少して0になってしまうのである。
Problem 4.6 静止している陽子に電子をぶつけた場合、散乱角は何度まで大きく
なれるか?逆はどうか?
標的粒子に与えられるエネルギーは実験室系で ΔT = 1
2m2v22f = 1
2m2(v2f +VG)2
= 1
2m2(v2f −v2i)2
= m2v2i2(1−cosθ)
= 2m2v22isin2θ 2
となる。よって最大エネルギーの受け渡しが行われるのはθ =πという後方散乱で ある。
実験室系でエネルギーがどのように変換されるかをみるにはT2f/T1iを計算すれば よい。これは
T2f
T1i = 2m2v2i2sin2(θ/2)
m1v1i2/2 = 4m1m2
(m1+m2)2 sin2 θ
2 (4.41)
となる。よってm1 =m2の場合に一番効率よくエネルギーを受け渡すことが出来る ことがわかる。
ここでこの質量が等しい粒子の衝突を詳しく考えてみよう(身近な話題ではビリ ヤードに相当する)。このとき、
m1 =m2 , VG= v1i
2 =v1i=−v2i (4.42) となる。はじめに正面衝突を考える。(4.32)から
v1f =−v2f =−v1i =−v1i
2 (4.43)
v2f =−v2i= v1i
2 (4.44)
となる。こうして
v1f = v1f +VG=0 (4.45)
v2f = v2f +VG=v1i (4.46)
第4章 運動量・角運動量の保存則 31 となる。これはビリヤードをやったことのない人でもわかるだろう。
正面衝突でない場合はどうなるか?これには運動量の保存則から
v21i= (v1f +v2f)2 =v21f +v22f + 2v1f ·v2f (4.47) となる。これとエネルギーの保存則から
v1f ·v2f = 0 (4.48)
となる。こうしてターゲットに質量の等しい粒子が衝突した場合、二つは垂直方向 に飛んでいくことがわかる。
以上、衝突前後でエネルギーが保存する場合を考えてきた。これは弾性衝突と呼 ばれる。粘土をぶつけたときなどは、エネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、
力学的エネルギーは保存されない。この場合は非弾性衝突とよぶ。