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都市部の住民を対象とした木育

第1節 運動の社会学的位置づけ

第1章第2節で取り上げた「森は海の恋人」運動のような環境保全運動について、帯谷

は表8.1.1に示すように4つの時期に分けて整理している[帯谷 2003]。

第1期において、立地点の住民や自治体を中心にはじまった運動は、主として生活を守 るために補償の充実を求めるという作為要求型の運動であった。このような担い手が立地 点の住民や自治体である「生活保全運動」に対して、担い手が地域のアクターによる「自 然保護運動」も同時期にみられた。

第2期は、作為阻止型の住民運動が各地で興隆していく時期である。権利防衛を志向し た運動は主に立地点の住民によって担われ、中には革新系の政党など都市部のアクターと の連携を図る運動もあったが、担い手の多様性や運動の空間的な広がりという点では限定 的なものであった。

第3期の80年代後半に入ると、運動は立地点の住民に加えて、都市部の環境NPOや研 究者、一般市民など他地域の多様な主体がその担い手となって関わってくる。いわば、ネ ットワーク型の運動の生成と展開期である。多様なメディアの活用を通じて世論に訴えか けていくという戦略は、硬直した事業過程への批判となって世論を喚起することとなった。

第4期の90年代後半に入ると、新たな特質を有する運動が顕在化した。行政が排他的 に担ってきた「公共性」に対する新たな「市民的公共性」の提起がなされ、オルターナテ ィブを提示・実践する運動が顕著になってくる。また、運動の担い手が急速に多様化し、

運動がコミュニティレベルからナショナルなレベルへと重層的に拡大していった。

1990年代後半の「森は海の恋人」運動について、帯谷は、次のように分析し、位置づけ ている[帯谷 2003]。

「森は海の恋人」運動も、1990年代後半になると子どもを中心とした環境教育に重点 を移しながら、よりソフトな運動スタイルへと舵を切っていく。具体的には、植樹祭に 合わせて、地元の特産品や漁業者の協力による牡蠣などの海産物を販売し、郷土芸能を 地元の子ども達が披露する「水車まつり」を展開している。このようにより普遍的な「環 境保全」と「地域づくり」という志向性を、運動のリーダーたちが「環境教育の実施」

を含めた運動実践の中で強めていった。(中略)

「森は海の恋人」運動の性格変容を整理すると、当初はダム開発から流域環境を守る という意味で環境保全運動であった。しかし、80 年代以前に主流であった生活防衛の ための告発型・対抗型の運動ではなく、「木を植える」ことによって新たな流域環境の

表 8.1.1 各時期の運動の主要な特徴

運動の形態 担い手 志向性(争点)

1

(昭和初期

〜1950 代)

生活保全運動

(作為要求型)

立地点の住民や自治体 補償の充実

自然保護運動 都市部の研究者や文化 人、行政関係者

学術的に貴重な自然環境の保存

2

(60 年 代

〜80年代)

地域完結型(作為 阻止型と作為要求 型の混在)

立地点の住民

(運動によっては)地 区労など労組や革新系 政党、研究者、弁護士

計画の妥当性や公共性への疑義、権利防

補償の充実 3

80 年 代 後半〜)

ネットワーク型、

流域連携型の運動

(多様な運動の合 流)

立地点の住民(運動が衰 退・消滅した地域もあ る)

都市部や下流部など他 地 域 の ア ク タ ー(環 境 NPO、研究者・専門家、

文化人、一般市民など)

計画の妥当性・科学性とリスク 自然環境の保護

多様なメディアを通じた市民的公共圏の 形成

4

90 年 代 後半〜)

+オルターナティ ブ志向型(地域再 生・環境創造)

+ オ ル タ ー ナ テ ィ ブ の 提 示 と 実 践 ( 治 水・利水の代替案作成、植林活動、公共 事業に頼らない村づくりなど)、自己決定

「森は海の恋人」運動の中でもとりわけ注目に値するのが、漁業者を主体とした植林運 動である。80年代後半に北海道および宮城県唐桑町で相次いで開始されたこの動きは、90 年代以降、全国規模で急速に拡大している。森林の多様な機能や水および物質の「循環」

に注目した下流部の漁業者が上流部に植林を行い、流域環境を守ろうとするこの運動は、

山から海までを一体のものとして捉える「流域管理」の理念に裏打ちされたものである。

同運動は、その表出的な運動スタイルと相まって各地に運動が波及するという運動面だけ でなく、農水省(水産庁)や環境省といった中央省庁の政策変化を惹起するという政策面 への影響など、多面的な社会的影響を有した。

これらの植林運動や森林づくりに関するボランティア活動は、1980年代後半以降全国的 に興隆し、90年代に入ってさらに活発化し現在も増え続けている64。これらの活動の目的 や担い手は多様であり、活動形態においても様々なものがみられる。これらの運動が興隆 した背景には、自然との関わりを求める都市部の住民と、過疎化・少子高齢化に直面する 農山村部の住民との交流が住民レベルで活発化したことがある。また、林業不振による森 林の荒廃や担い手不足、地球環境問題の顕在化に代表される環境問題全般に対する人々の

関心の高まりが共通の要因としてある。さらに近年になっては、京都議定書による温暖化 防止対策や生物多様性保全に対する市民の意識の高揚が影響している。

このように植林運動が多くの人々の関心を引きつけるのは、コンフリクト状況下で特定 のイッシューに関わる問題解決を志向する告発型・対決型の運動とは異なって「誰でも参 加できる」という運動の開放性や参加の容易さ、「木を植える」行為がもつ実践志向性や表 出性、「将来世代のために」という未来志向性が包含されているためであると帯谷は指摘し ている[帯谷 2003]。

ここで、本論で取り上げた木育運動についてみていくこととする。まず、運動の時期区 分としては、明らかに第 4 期に位置づけられる。1990 年代以降の「森は海の恋人」運動 と同様に、環境教育、森林環境教育、ものづくり教育など子どもを中心としたソフトな運 動スタイルをとっていることが特徴である。さらに、運動の担い手は環境や子育て、福祉、

地域おこしに関わる NPO や行政、研究者、一般市民など多様であり、運動自体も重層的 に行われている。

担い手について細かくみていくと、都市部の住民が中心となっており、自然との関わり や環境問題、子育て問題など自身の課題と、林業不振による森林の荒廃や担い手不足・高 齢化、地球環境問題の顕在化に代表される環境問題全般の課題に関心の高い人が関わって いる。また、コンフリクト状況下で特定のイッシューに関わる問題解決を志向する告発型・

対決型の運動とは異なり「誰でも参加できる」という運動の開放性や参加の容易さも特徴 で、間口の広い運動である。「木を素材にしたものづくり」とういう行為がもつ実践志向性 や表出性、子どもの健全育成との観点から未来志向性も包含しているところも共通してい る。

第 2 節 都市部の住民を対象としたことによる成果

林野庁の「木材の需要拡大を目指した木育」は、消費者教育であり行政主導になると「上 からの教育」、「経済優先型木育」に陥る可能性がある。本論文で提案した木育は、広くは 森林保全教育に位置づけられるが、外縁的な位置づけとなり、それゆえに緩やかで間口の 広い活動となった。都市農村交流・グリーンツーリズムなどに近似しており、その性格は

「主体生を生かした」、「経済的な運動でなく」、「参加者も楽しみたい、主催者も楽しみた い」という主体性・感受性を重視した運動であるといえる。目指す価値観にも柔軟性があ り、お互いに考えていく運動であった。さらに、木育を通して「生活見直し」を行う参加 者もみられ、「森林化社会」を作る活動としてその第一歩を踏み出したといえる。森林や木 と自分たちの暮らしが繋がっていることが、人にとっては安定感を、森にとっては安泰を もたらす[浜田 2008]ことを、伝える運動である。このようにある一部の集団・職種の 閉鎖的な運動でなく、一般の人々が広く共通の関心を持ちうる問題としたことによって、

多くの賛同者を得るという結果に繋がった。次に、対象者ごとに成果について分析する。

① 子ども

子どもは、森林化社会の一翼をになう「未来の担い手」と考えた場合重要であり、ま た、感受性が強く、この時期の生活体験が木材需要に関する意識形成にも関わっている ことから重要な対象となる。子どもを対象とした取組は、まず、くまもとものづくりフ ェアがあり、参加者は年少から小学校 4 年生までが多い65。イベント方式を運動戦略に 採ることにより、子どもにも受け入れやすい運動となった。小学校5年生以上は、学校 での行事・部活動などで参加者が急激に減少する。この学年に対応するのが、学校教育 の一環で実施される「集団宿泊的行事」の中で実施する木育となる。さらには、小学校 5 年生社会科の「森林環境教育」で全員が学習することとなる。同様に、中学校では技 術・家庭科技術分野の「材料と加工に関する技術」や「生物育成に関する技術」で学習 する機会がある。

② 教育学部学生

小学校や中学校の教員を目指す学生に対して、森林環境教育を行うことは効果的であ る。これまで、森林環境教育は学校教育では軽視されており、2011年度全面実施の小学 校学習指導要領から大きく取り上げられるようになった。しかし、学生自身、小中学校 で学んだことがない分野であり、大学教育でもこの領域に対応した講義はない(一部、

社会科に関連する内容ではあるが、実施されているとは限らない)。その中で、教員養 成系の講義として位置づけることは、波及効果が高いといえる。なお、現在実施されて いる現職教員を対象とした「免許更新講習」や「社会教育主事の養成講座」においても、

熊本大学では実施しており、効果が期待される66

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