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木育運動推進のための資源の獲得と拡充

第 1 節 木育運動推進のための資源

運動を資源動員論からみると、成功させるためには幾つかの資源が必要となる。換言す れば、「不満はどんな社会にもあるが、利用可能な資源を獲得してはじめて社会運動が起き る」というのが資源動員論の中心的な主張ともいえる[帯谷 2003]。この場合の資源とは、

「運動組織にとって利用可能な一切の属性、環境、所有物」と定義することができる。具 体的には、社会運動組織が活動するのに必要な「ヒト」「カネ」「ネットワーク」などであ り、これらの資源を重視する。

帯谷は、J.Freeman(1979)による区分を参考に、金銭や場所などの「物的(有形)資 源」とネットワークや専門家などの「人的(無形)資源」とに大別し、「森は海の恋人」運 動の資源について表9.1.1のように整理している[帯谷 2003]。

表 9.1.1 「森は海の恋人」運動の主な資源

資源の種類 内 容

物 的 資 源

①金銭 若干ある(シンポジウム開催費用など運動費用)

②場所 牡蠣処理作業場(事務所)

=「合意形成の場」

人 的 資 源

③商売上のネットワーク 部落内外の養殖業者 都内料理店・市場関係者 業界(水産)、新聞の編集長

④他地域(流域)との人脈 上流部・室根村農林課職員 中流部・「反対同盟」リーダー

下流部・市役所職員や市内有力自営業者

⑤地縁 地元部落の漁業者など

⑥専門家の関与と理論 大学教員・シンポジウム(人的・情報的資源)

表 9.1.1 の資源の種類を一般的な項目に直すと、物的資源として資金、活動場所、人的

資源として活動する人、ネットワーク、専門家のノウハウ・ノウホワイに分類することが できる。林野庁の木育は、理念も目標も明確といえるが、実際にどのように進めるかにつ いては不明確であった。林野庁の木育運動を資源動員論的にみると、木育運動をすすめよ うとする組織が活動するのに必要な「ヒト」「カネ」「モノ」「ネットワーク」などの資源が

熊本ものづくり塾を中心とした木育運動は、これらの資源を獲得し、あるいは自ら生成 することにより、活動を拡充していったといえる。熊本ものづくり塾が用いた資源につい て、以下に整理する。

第 2 節 先導的担い手の獲得と拡充

環境保全運動の推進や森林化社会の実現のためには、それらの一翼を担うヒトを組織化 しなければならない。また、組織化のためにはヒトを集め、集合的に変革させなければな らない。この機会となるのが緩やかではあるが「くまもとものづくりフェア」であり、さ らには、運動の対象となる都市住民(一般市民)をリードする者・指導者(先導的担い手)

の育成が「木育推進員養成講座」等である。ここでは指導者の獲得と拡充について考察す る。

子どもやその保護者に木育を行うための能力(木育運動を推進するための能力)として、

①木や森、木育についての知識、②木を素材にしたものづくりの技術、③子どもやその保 護者に分かりやすく伝える教授力、④木育を企画・運営する能力が必要である[田口 2010]。

これらの基本的な部分を6時間の講義と演習で学ぶ機会として「木育推進員養成講座」等 を設定した。

参加者は木材の専門家、教育の専門家、行政の専門家、一般市民、学生など多様であり、

それぞれに得意・不得意分野(履修・未履修分野、経験・未経験領域)がある。本講座で は、ある分野に特化した内容とはせず、すべてにおいて基本的なところを押さえるレベル とした。さらに、5〜6人の異業種によるグループの混合編成により研修を行った。この中 で、「教え・教えられ」の学びが発生するように意図的に編成している。また、「正統的周 辺参加」論に基づき、講座のカリキュラムを構成している[Wenger 1993]。さらに、講 座以外に直接ものづくりを教える場面(実践場面)として「くまもとものづくりフェア」

を設定し、この中でも「正統的周辺参加」論に基づき、緩やかに知識や技能が伝わる仕組 みをとる67

林野庁の木育では先導的担い手を育成する講座として「木育インストラクター研修会」

があった68。その受講対象では「林業関係者」を中心に据えていたのに対して、本実践で は、当初から対象を限定せずに実施したことも特徴の 1 つである。林野庁は、「木工技術 を持った者」、「木材需要拡大の直接的に関わる者」が、先導的担い手として有効と考えて いたことが分かる。しかし、この考えは運動を一部の受益者による狭い範囲のものとし、

間口を狭める結果になることが懸念される。

一方、熊本ものづくり塾による講座は、2年間で8回開催し319人の参加者を得ること ができ、その中の約7割が「くまもとものづくりフェア」でスタッフとして活動を行って 83人(26.0%)、

行政が40人(12.5%)、企業が93人(29.2%)、NPOが103人(32.3%)であった。林 野庁が養成しようとした「林業関係者」は 79 人(24.8%)であったが、本講座は多種多 様な人が参加しており、それぞれの立場で木育の視点を新たに加え活動を充実させること ができた。これは後のアンケートや聞き取り調査においても明らかとなった。たとえば、

修了生が独自(または共催)に、各地で木育(主にものづくり教室)を実施している。実 施県を挙げると、福島県、高知県、福岡県、熊本県、大分県、鹿児島県、沖縄県の7県で ある。主催となっている主な団体・個人は、個人が経営する公務店、建設業、ハウスメー カー(企業として実施)、木工所、所属する学校のPTA活動、自然の家、大学(大分大学 教育学部)などである。熊本県内にある自然の家では、これまでのカリキュラムの中に木 育を積極的に取り入れていこうという動きがみられるようになった。また、教員は森林環 境教育に関連する授業の中で、子育てや福祉、環境に関わるNPOではそれぞれの活動の 中で木育を導入している。

第 3 節 物的資源の獲得と拡充

木育運動を進めるにあたり、物的資源の獲得も重要な要因となる。まず、「カネ」では、

くまもとものづくりフェアを開始した 2005 年度から数年間は熊本大学の教員予算、県技 術・家庭科研究会の予算、さらには、社団法人熊本県木材協会連合会より木材を無料で提 供され開催していた。スタッフはボランティアでの参加で、弁当のみ支給されるという体 制で、これでは年間 1〜2 カ所での開催がやっとであった。また、その活動も小規模なも のであった(ブース数が少ない)。その後、熊本ものづくり塾の設立により、これた活動の 母体となり、「伝統文化子ども教室」には文化庁から、「くまもとものづくりフェア」には、

林野庁や熊本県林業振興課からの資金提供を受けるようになった。2009年度以降は、熊本 県から「水とみどりの森づくり税」の活用事業(「くまもとの木育体験事業」)として、「く まもとものづくりフェア」に資金提供があり安定した運営が行われるようになった。これ らのことから、2009年度以降は、県内5カ所(6日間)でくまもとものづくりフェアを開 催することが可能となっていった。このように、「カネ」の面では行政による支援が大きな 支えとなった。

指導者養成として実施している木育推進員養成講座等を開催するためには、効率よく知 識や技能を身につけさせるためのテキストが必要となる。林野庁の補助事業として 2009 年度に活木活木(いきいき)森ネットワークを中心にテキストの開発が行われた。第1段 階のテキストは、「モノ」中心のテキストであり、「ヒト・クラシ」の観点が脆弱であると 言わざるを得ない状況であった。第2段階からは作成に筆者も加わり、その改善に努める とともに熊本独自のテキストを開発した。現在の木育推進員養成講座等では、この熊本独

用するとともに、受講者には無料配布している。これは、受講者が今後、それぞれの地域 で木育を実施する場合の資源として活用することを意図している。これらは、営利を目的 としない熊本ものづくり塾による主催事業であればこそ可能な取組である69。なお、北海 道における木育では、テキストとして「木育達人(マイスター)入門」を 2010 年に作成 し活用している。木や森についての基礎知識の他、木育の理念、木育の効果、木育の事例 紹介など充実した内容となっている。

しかし、これまで述べてきた社会教育を通して、木育運動を多くの人に広めるには限界 がある。最も効果的なのは、学校教育のカリキュラムの中に木育を位置づけることである。

おりしも、今回の学習指導要領の改訂により、小学校・社会科の5年生に「森林環境教育」

に関する事項が大幅に拡大された。その副読本としての「森はともだち70」の影響は大き い。同様に、教師用の指導書や学習指導案、ワークシート、授業で使用するデジタルコン テンツを開発し、提供することは、木育運動の推進に大きな影響を与える。また、教室で の座学に加えて、小学校高学年で実施される「集団宿泊的行事」で訪れる少年自然の家に おいて、施設内外に広がる豊かな森林を活用したプログラムを提供できたことによる効果 も大きい。

行政による支援も含め、これらの物的資源を複合的に利用することにより、森林親和運 動はさらに前進することができる71

第 4 節 人的ネットワークの獲得と拡充

熊本ものづくり塾は、第4章で分析した3人の合議により運営されている。また、それ ぞれが持つ人的ネットワークを資源として運動は進められた。代表の原嶋は、熊本県内の 企業の役員を務めるとともに、自らも県のインキュベーション施設に入居し環境教育用の 教材の開発と販売を行う。県内企業とのネットワークを生かすとともに、熊本ものづくり 塾の活動全般の経理・渉外を担当する。塾頭の佐藤は土木建築会社の代表を務め、九州内 外の事情に精通している。ものづくりの経験も豊かで、製作題材の開発や加工を担当して いる。田口は教育学部に所属し、現場の教員、学生との連携事業を以前から行っており人 的なネットワークとイベント開催のノウハウ・ノウホワイを持っている[西本・田口 2005]。

このような3人の特色を生かしながら活動は進められた。

くまもとものづくりフェアなどを含めた活動は、当時は珍しく新奇な対象・話題となり マス・メディアに多く取り上げられ、それにより認知度を高めると同時に行政や学校関係、

69 2011年度からは、林野庁の補助事業として、東京おもちゃ美術館が主催する講座が開設さ

れているが参加は有料であり、これらのコンテンツは提供されていない。

70 「森はともだち −くまもとの森林を考える」小学校5年生用は、社会科副読本で熊本県農

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