第 1 節 北海道木育推進プロジェクト 1.1 木育の生成の経緯と理念
歴史的にみると「木育」は、2004年度に北海道において発足した「木育推進プロジェク トチーム」の中で検討され、生まれた言葉(造語)である。その後、2007年度には林野庁 の「木づかい運動」の中に「木育」が新たに加えられた。現在、木育は全国に広がりつつ ある。たとえば、北海道では木育のテキストの開発や研修、秋田県では高校生を対象とし た「木育スクール」、岐阜県では「木育のいっぽ」として木育プログラム集や推進員の認定 制度、熊本県ではテキストの開発と研修・認定制度、ものづくり教室の開催などがある。
その他、埼玉県、島根県、宮崎県で各県の特色を生かした取組がなされるようになった。
本節では、北海道で「木育」が開始された経緯について概観する。2004年9月6日に、北 海道庁において、水産林務部木材振興課の「協働型政策検討システム推進事業」の一環と して木育推進プロジェクト会議(第1回)が開催された。これは、道産の木材需要拡大が最 終目的にあり、それを林業関係機関・関係者だけに止まらず協働して、需要拡大を目指す プロジェクトであった。第1回目の会議では、「木育」の意義、理念、検討の方向等につい て審議された。参加者は、実務家として5人、公募道民として4人、公募市町村職員として 2人、公募道職員1人、関係部局職員3人、事務局2人の合計17人であった。職種からみると 公務員が8人で、水産林務部木材振興課、知事政策部(政策企画)、緑化環境部公園と花の 課、企画商工課、教育庁生涯学習部小中・特殊教育課、保健福祉部子ども未来づくり推進 室(子育て支援)、北海道立林産試験場の所属となる。教育関係者として、短期大学保育科
(美術担当)、学校法人理事、また、NPO法人では、子育て、環境、地域おこしに関連す る団体、企業としては、住宅・木製品の製作、木工作家、事務用品販売、出版社などであ った。
これらは、水産林務部木材振興課が目指す「木育」に関連した人員構成であるといえる。
中心は木材の需要拡大であり、それに教育や子育てという視点から道民の木材需要拡大に 対する理解と行動の変様を目指していた。プロジェクトのリーダーとして(財)北海道環 境財団理事長を配置し、環境保全活動や環境教育的な色合いも強い。
北海道木育推進プロジェクトで検討された「木育」の理念は、「子どもをはじめとする 全ての人が木を身近に使っていくことを通じて、人と、木や森との関わりを主体的に考え られる豊かな心を育むこと」とし、木育を通して心や人間を育てるとしている。この理念 が構成された段階では、木材需要拡大という目的は前面に出されず、人間としての豊かな 心や感性の向上を目指す人間教育が強調されている。さらに、「ただ単にじっとしたまま考
プログラムが考案され、道民へ提供されてきている。これらの中では、木育の理念がよく 分かる活動プログラムや先進的なプログラムが開発され実践されている。このような北海 道における木育は、全国に先駆けた事例として、国民運動としての「木育」の発展に影響 を与えた。
1.2 北海道での木育の取組
北海道木育推進プロジェクトでは、「木育がめざすもの」として、以下の 4 点を挙げて いる[煙山・西川 2008]。
①五感とひびきあう感性を育む:木と五感で触れあい、手でつくり、考える経験を通し て人と自然に対する「思いやり」と「優しさ」を育みます。
②共感を分かち合えうる人づくりをめざす:身近な人と木で遊び、木に学び、モノをつ くる経験を通じて楽しさや喜びを共感し、地域や社会、産業への関心につなげます。
③地域の個性を生かした木の文化を育む:地域の森や木の良さを見直し、木が身近にあ る北海道ならではの暮らしや文化を提案します。
④人と自然が共存できる社会をめざす:循環利用が可能な資源である木の可能性や、森 と木に携わる仕事のすばらしさを伝え、持続可能な未来へ向けた社会をめざします。
また、木育が取り組むフィールドとして、以下の3つを挙げている。
① 感性や社会性を育む
・ 木製遊具や木の道具などに触れ親しむことによる五感の育成
・ 森林に親しむことによる情緒の育成
・ 森や木による「遊ぶ力」と社会性の育成
・ 木や緑に囲まれた施設、住環境、街並みや景観の形成
② 人と木のつながりを育む
・ 北海道の木の文化や技術の再発見・再評価と伝承
・ 木材と地球環境に関する知識の向上
・ 木によるモノづくり教育の推進
・ つくり手と買い手、使い手の顔の見える関係作り
③ 人と森のつながりを育む
・ 森林づくりと木材生産・利用のサイクルの理解に向けた森林体験や学習等の推進
・ 森林と地球環境に関する知識の向上
さらに、具体的な取組として、木育の普及活動を行うための組織「木育ファミリー」を つくりメディアによる情報発信を行っている。また、道民と木や森とのふれあいの場の提 供として、ものづくり教室や公園への木製遊具の設置、木育の担い手づくりとしてテキス トの開発と養成講座の実施を挙げている19。
第2節 林野庁の木育
2.1 木育の生成の経緯と理念
林野庁における木育に関連する施策として、2006 年 9 月に「森林・林業基本計画」が 閣議決定された。この基本計画の中で、国民・消費者の視点の重視が施策に取り込まれた。
それが具体的には、「林産物の供給及び利用の確保に関する施策」の中の「企業、生活者等 のターゲットに応じた戦略的普及」で、「木材利用に関する教育活動(木育)の促進」が明 記された。これが国レベルで登場した最初の「木育」と言われている。
また、2007 年 2 月に、「木材産業の体制整備及び国産材利用拡大に向けた基本方針 」 が林野庁より発表され、この基本方針の中の「国産材の利用拡大に向けた基本方針」に、
木育は「木材利用に関する教育活動」であると記述された。この中で、林野庁における「木 育」の定義を、「子どもから大人までの木材に対する親しみや木の文化への理解を深めるた め、多様な関係者が連携協力しながら、材料としての木材の良さやその利用の意義等を学 ぶ、木材利用に関する教育活動」としている。林野庁では、2007 年 6 月に学識経験者や NPO などからなる「木育推進体制整備総合委員会(座長:島根大学・山下)」を設置し、
「木育」の指導者の養成や体験プログラムの作成などを進めている。
その後、林野庁の委託を受け「木育」の推進に取り組んだ(財)日本木材総合情報セン ターでは、「木育」を次のように定義している20。
「木育」とは、子どもをはじめとする全ての人が木を身近に使っていくことを通じ て、人と、木や森とのかかわりを主体的に考えられる豊かな心を育むことである。具体 的には、木材を利用してゆくための単なる普及活動に留まるものではなく、木材を利用 することを通じて、「産まれた時から老齢に至るまで木材に対する親しみをもつこと」、
「木材の良さや特徴を学び、その良さを生かした創造活動を行うこと」、「木材の環境特 性を理解し、木材を日常生活に取り入れること」と位置づけられる。また、これらを通 じて、様々な素質を持った人間(たとえば、森林育成活動へ参画する人間や自然環境及 び生活環境について自ら考え行動できる人間など)を「育む」きっかけとなる活動であ ると位置づけられる。
その推進方については、「木育フラワー」(図 2.2.1)を例示し、「触れる」という段階、
「創る」という段階、そして「知る」という段階の3段階での実践を提唱している。まず、
「触れる」ということは、いろいろな木製品、木製遊具で遊ぶ。または、直接樹木に触れ る。それらを通して、木の良さを体験して理解させるというものである。これは、単に木 材に触れるだけではなくて、木材を使った文化、歴史、社会に触れるという意味も入って
を育成し、それを通して木の材料としての良さ、特徴を理解して欲しいという願望も含ま れる。単にものをつくるだけではなくて、「豊かな社会づくり」もねらっているとしている。
最後の「知る」については、このような活動を通して、木材の利用と環境との関係を理解 してもらう、環境に配慮した行動、森林育成活動などの実際の行動につなげて欲しいとい う願いがあるとしている[山下・浅田 2008,2011]。
図 2.2.1 木育フラワーのイメージ図21
2.2 木育の位置づけと取組
林野庁においても生産者側への取組だけでなく、消費者側への取組が重視されたことに 注目したい。それは、その双方が重要であるにもかかわらず、生産者側からの施策に対し て、消費者への取組が明らかに遅れ、良いものを生産してもそれを理解し、購入できる消 費者を育てていなかったこれまでの国策に対する反省からの変更点といえる。
これらを踏まえ、林野庁は国産材の利用拡大に向けた基本方針の中で、国民への戦略的 普及、木材利用に関する教育活動(木育)、海外市場の積極的拡大、木質バイオマスの総合 的利用の推進、違法伐採対策の推進に取り組むとしている。
また、木育活動への取組について、国産材の利用拡大に向けた基本方針では、以下のよ うな記載がある。
木育を促進するために、関係府省と連携し、NPO や関係企業など関係者の間で木育 に関する意識や認識の共有を図ることが必要である。さらに、木育活動の実施に向けて、