ラ イ フ オ ヴ プ ロ テ イ ン ズ の裏街道
の根元に結合していることを示し,このユビキチンリガーゼに よる認識様式はERADにおいて標的となるアンフォールド状 態の糖タンパク質との結合に特異的なものであることを示し た。さらに3種のFbslホモログがいずれも変性糖タンパク質 と結合することなどを示した。
徳永文稔さん(大阪市立大医学研究科)は,酸化修飾を受け た鉄代謝制御因子(IRP2)を認識するE3ユビキチンリガーゼ としてのHOIL-1と結合する新規因子を探索しHOIPを新しく 同定した。HOIPはRING-fingerドメインと共にUBAドメイ ンやZinc-fingerドメインも有し,UBAドメインを介して HOIL-1N末端のユビキチン様ドメインと相互作用する。HOIP は,HOIL-1およびB型肝炎ウイルス産物HBxと3者複合体 を形成し,HBx依存性のNF-kB活性を特異的に活性化する。
興味深いことにHOIPのUBAドメインあるいはRING-finger ドメインを欠失させるとNF-kBを活性化できない。これらの 結果から,HOIPが肝炎,肝癌の発症メカニズムに重要な機能
を果たしていることが考えられる。以上の結果から,HOIL-1 は酸化型IPR2のみならず,活性型PKCやHBxのトランス活性 化領域に会合し,その機能を調節する多機能性E3であることが
当時中国では,毛沢東が既に紅衛兵の武装解 除を指示,主人公も貧しい僻地の寒村に「下 放」される。傲慢さの行動の代償・・・。も ちろんそこはドッグヴィルとは異なり,中国 共産主義の壮大な実験場の一部だ。主人公は ただ息を潜めるように人間性を押し殺して,
極貧の生活に30年間耐える。そして毛沢東思 想の呪縛が消え,経済開放政策により,かつ ての都会から農村ではなく,農村から都市へ の出稼ぎによる移動の時代になってやっと,
主人公は浦島太郎のように,(密航ではあるが)
日本に戻ってくる。
こちらは矢作俊彦の小説「ららら科學の子」
の設定である。かつて描いた未来とは異なる ものの豊かな20世紀末の東京に再び立った主 人公にとって,中国は再び遅れた国に成り下 がる。この圧倒的な水位差に直面した主人公 は,村から都市へ出稼ぎに行ったまま戻らな くなった中国妻も,30年間の生活もすべて無か ったことにしようとするのだが・・・。帰国 後の蛇頭一派との闘いをめぐるハードボイル ドな展開(カッコいい!)を通じて,主人公 は,結局はすべてを見捨てるという傲慢さか ら解放されていく。これはトリアーが描けな かった,もう一つの傲慢さの克服のあり方か もしれぬ。
* * * 筆者の研究室では,新しく研究室に入って きた 4 年生や他大学からの大学院生には,最 初 に 「 エ ゴ グ ラ ム 」 と い う 性 格 診 断 テ ス ト
(インターネット上あちこちに転がっている)
をしてもらっている。軽いお遊びだが,デー タが蓄積してくると A 君と先輩の B 君は性格 が実は同じ,といったことが色々分かるので,
面白い。しかし,筆者と同じ診断結果が当研 究室に来る学生に一度も出たことがないこと が , 筆 者 を 困 惑 さ せ て い る 。 筆 者 の 性 格 は
「厳しいことと,頑固で気ままなことは天下一
品であり,心の冷えきったタイプ」だそうで,
その人生たるや「谷から谷へ,張り渡したロ ープの上を,意気がったり,得意がったり,
悲壮がったりしながら,綱渡りしているよう なもの」だそうで,「谷底へ転落したところで,
あまり同情してもくれなければ,助けにも来 てくれないでしょう」とのことである。存在 論的孤独はむしろ筆者が憧れるところだが,
傲慢になりやすい資質ということであるなら,
まことに悩ましいことである。
* * * ところで矢作俊彦の小説のタイトルは,も ちろん主人公の「懐かしい未来」の象徴とし ての鉄腕アトムの主題歌からのフレーズ。し かし筆者にとっての懐かしい未来は,鉄腕ア トムなぞではなく,当時マイノリティであっ たエイトマンにあったことをはっきりさせて おきたい(実は某特定領域研究ニュースレタ ーで編集長 Y 氏がアトムのことを書いていた ので,一言いいたくなっただけなのだが)。桑 田次郎(画)/平井和正(原作)の名コンビに よるエイトマンは,アメコミ特有の屈折した ヒーロー像を日本向けにもう一段階ひねって 屈折させた,極めて異色なマンガだった。桑
田次郎の拳銃不法所持による逮捕によって急 きょ連載打ち切りという不幸な運命にもかか わらず,クラーク・ケントならぬ東八郎の正 体が実はエイトマンであるという究極の秘密 が,想いを寄せる東探偵事務所アシスタント のさちこさんに知れて,皆の前から永久に姿 を消すというエンディング。その見事さには,
全く脱帽であった。人類のための正義のヒー ローという傲慢さなぞ全くない,実に屈折し た主人公である。(ちなみにエイトマンはスー パーロボットだがやたら弱点(加熱,超短波,
強い電磁場等)が多く,いつも痛い目にあっ てピンチに陥る。しかし強くなる改造は,た とえ正義のためであろうと殺人兵器にはなり たくないと拒否するのである。)
となると,かつて筆者が愛したエイトマン が40年ぶりに復活,というニュースにはどう しても言及しないわけにはいくまい。単行本 を買いそろえて息子達に読ませておいたおか げで,「エイトマン復活したの,知ってた?田 中警部も出てたよ。」との情報を長男から入手。
単なるリバイバルではオリジナルを越えられ ないなあ,と心配したものの,復活した「エ イトマン・インフィニティ」(月刊少年マガジ ン Z 連載)は,エイトマンにインスパイアさ れて描かれた,エイトマンとは似て否なる,
全く別の電脳時代の SF マンガだった(映画
「マトリックス」の影響も少なくない)。生ま れ変わったエイトマンネオは,8の字を横にし て「∞に挑む者・・」だそう。確かに,真に エイトマンファンならば,こうした形での復 活しかありえない筈,と妙に感心した。とり あえず,エイトマンを知らぬ世代の少年たち を相手に物語をどう展開していくのか,あの オリジナルのメランコリーは現代に移植可能 なのかを見極めるためにも,今後をフォロー するつもりだ。興味ある向きは,ぜひチェッ クを。
エイトマン(1965年 3 月)
豪雨のため帰りの飛行機が遅延して・・・。結局欠航にならず何とか皆さん帰路につくこ とができました。
示され,酸化修飾認識ユビキチンリガーゼ(HOlL-1)のタンパク 質品質管理における新しい役割が明らかにされた。
嘉村巧さん(九大生体防御研)は,Culin2型及びCullin5型 E3ユビキチンリガーゼについて話をされた。VHLタンパク質 にはCul2-boxが存在し,Cul2/Rbx1と結合する。Cul2の結合 タンパク質をいくつか同定したところ,これらのタンパク質に はVHLと共通の配列(VHL-box)があることを見出した。一 方,SOCS-boxタンパク質のC末端側にはCul5-boxが存在し,
Cul5/Rbx2と結合する。興味深いことに,VHLタンパク質と Cul5-box融合タンパク質はCul5/Rbx2と結合し,SOCS-boxタ ンパク質とCul2-box融合タンパク質はCul2/Rbx1と結合する。
嘉村さんは,これらが実際にE3ユビキチンリガーゼとして機 能することを証明し,これらのノックダウンによって引き起こ される分解異常についても解析を進めている。これら新しい E3ユビキチンリガーゼファミリーの新しい機能について,こ れからも驚くほどのスピードで全容が明らかにされていくに違 いない。
小林英紀さん(九大医学研究院)はこれまで,アフリカツメ
ガエルの系を用いて,サイクリンAの細胞周期特異的分解に 関わる新規因子として2型ユビキチン様タンパク質XDRP1を 同定されている。XDRP1の出芽酵母ホモログDsk2を過剰発 現させると酵母の生育は阻害されるが,今回小林さんはこの表 現型のサプレッサー変異としていくつかのプロテアソームサブ ユニットと同時にSem1変異を同定された。小林さんはSem1 が26Sプロテアソームの新規構成成分であること,Rpn10サ ブユニットとともに26Sプロテアソームの分子構築に必要で あることなどを生化学的・遺伝学的に示され,Sem1の機能的 重要性を証明された。サイクリン分解に関わるユビキチン様タ ンパク質の重要性は小林さんがオリジナルに開拓された分野で あり,Sem1とDsk2がどのような機構でサイクリンAタンパ ク質の機能調節に関わっているのか今後の進展が楽しみであ る。
川原裕之(筆者:北大薬学研究科)は,プロテアソームのユ ビキチン結合サブユニットのひとつRpn10cが,シャペロンと 相互作用することが知られているBAGドメインタンパク質 Scytheと特異的に相互作用することを報告した。ScytheのN
今回,『タンパク質の一生』班会議に参加させていただき,さらに名 誉ある賞までいただき,誠に感謝しております。班会議ですごした,4 日間はとても有意義でした。タンパク質科学の最前線を行く,様々な 先生方の成果報告および,それを支える若手研究のポスターは本当に 勉強になりました。また懇親会では,様々な研究室の様々なポストの 人と幅のある話ができ,生きた声を聞くことができたと感じておりま す。
私は,学部を徳島大学ですごし,修士の際に現在の研究室に移って きました。一昨年の5月,遠藤先生から研究テーマをいただきました。
それは『新規因子を探してよ』の一言でした。ビックリしました。新 参者で何も分からなかったですが,テーマの重要性と不安を感じつつ,
ひたすらに実験をしました。新規因子の探索を始めて3ヶ月後の8月,
新規因子候補が見つかりつつある最中,一つの候補にデータベース上 で Pam18と名前がつけられていました(Pfanner 研により)。そのた め最優先で解析を行い,ようやく抗体ができた10月,Tim14/Pam18 として論文が出されてしまいました1,2。気を取り直し,もう一つの候 補に対象を絞り解析を行っていた11月,その候補も Sam50/Tob55と して論文が出されてしまいました3,4。この2度に渡ってやられてしま った事と,残りの候補がゼロになってしまったことで,私のモチベー ションは完全に下がり,気づいたら競艇場でどこかの紳士と愚痴を言 い合っていました。12月,上がらないモチベーションのまま,様々な プロテオームの結果などを参考に,競艇場の予想屋から学んだひらめ きで,大予想を試みました。結果,二つの候補があがりました。1月,
就職活動もあったので人並みに実験をしました。2月,ある女性に「最 近,ガツガツしてないね」といわれ気づく,「俺,腐ってるな〜」。そ れからは,就職活動は4社に絞り,寝ずに実験をしました。3月,実験 実験実験。4月,実験実験実験。5月,実験実験実験,論文投稿,健康
診断に引っかかる。6月,実験実験実験。7月7日,午前3時頃,姪っ 子が誕生。同日午前6時,研究棟を移動中に四葉のクローバーを見つ ける。7月8日,再投稿。7月10日,ト○タ自動車内定。7月15日,
論文アクセプト。万歳,バンザーイ,バンザーイ。
名古屋に来て1年9ヶ月,小さいですけど挫折も努力も成功も経験 しました。学んだことは『腐るな』。
ここ1年半でミトコンドリアでのタンパク質輸送に関わる新規因子 は11個も報告されています。そして,そのほとんどが,複数の研究室 からの報告です。これほどの激戦区で一矢報いたことを本当に嬉しく 思い,私の自信に繋がっています。また,遠藤研には優秀なヒトがた くさんいます。遠藤先生をはじめとしたスタッフおよび院生。みんな,
ユーモアとバイタリティーにあふれています。この人たちと共に,ラ イバルとして世界を意識しつつ,研究をできたことは,本当によい経 験,よい勉強でした。たぶん,論文50報読むよりも私を賢くしてくれ たと思います。
1. Mokranjac, D. et al.: EMBO J. 22, 4945-4956(2003)
2. Truscott, K. N. et al.: J. Cell Biol. 163, 707-713(2003)
3. Kozjak, V. : J. Biol. Chem. 278, 48520-48523(2003)
4. Paschen, S. A.: Nature426, 862-826(2003)
第 2 回ポスター準大賞受賞記念コラム
新規因子の同定と,
それに至るまでの苦悩
石川大悟
(名古屋大学大学院理学研究科遠藤研)ポスタープレビューでの宣言が実現した石川君(中央)