シャペロンと切っても 切れないプロテアソーム
平野祐子
(東京都臨床医学総合研究所 分子腫瘍学研究部門)平野さん(左)と吉田雪子さん(右)
Plc1ノックアウト細胞ではv-SNARE(輸送小胞上の膜融合タ ンパク質)が減少しており,輸送に異常が見られることが分か った。これらの遺伝学的研究により,カルシウム・シグナルに よるタンパク質の輸送や分解のメカニズムが明らかになること が期待される。また,Rabは小胞輸送の選択性を規定し,オル ガネラや細胞内膜系のドメイン構造の形成を制御すると考えら れているGタンパク質である。西村範行さん(徳島大)は,
Rab13とその標的タンパク質として同定されたJRABが,細胞 膜ドメイン構造であるタイトジャンクション(TJ)を構成する 膜タンパク質クローディンおよびオクルーディンの選択的輸送 を制御することを示した。JRABはTJに局在し,そのドミナ ントネガティブ変異体は機能的なTJの形成を阻害した。今後,
TJの形成・分解過程におけるRab13-JRAB系の作用機序が明 らかにされていくことが期待される。
膜輸送と他の細胞機能の関連として,中村太郎さん(大阪市 立大学)の研究も興味深かった。シンタキシンは,輸送小胞が 融合するターゲット膜を規定するt-SNAREである。分裂酵母 のシンタキシンPsy1は栄養増殖時には細胞膜に局在するが,
胞子形成時になると,将来胞子の細胞膜となる前胞子膜に劇的 に局在変化する。中村さんは,この局在変化の分子機構を明ら かにするために,Psy1の動きをエンドサイトーシス追跡蛍光 試薬FM4-64と共にタイムラプス観察し,両者の挙動が一致す ることを示した。また胞子形成時には,エンドサイトーシスに 必要な1型ミオシンMyo1とSec9(Psy1と共にt-SNARE複合 体を構成する膜タンパク質)の発現が著しく上昇し,これらを 同時に強制発現させると栄養増殖時においてもPsy1の局在変 化を起こすことができた。これらのことから,Psy1は1型ミ オシンの働きにより,エンドサイトーシスで細胞内に取り込ま れることが明らかになった。この局在変化は,小胞輸送の方向
を変化させるメカニズムとして重要なのかも知れない。また,
吉森保さん(国立遺伝研)は,外部から侵入した細菌がオート ファジーによって排除される新しいメカニズムについて発表し た。オートファジーは真核細胞が自己成分を分解するためのシ ステムであるが,これにより非貪食細胞に侵入したA群レン サ球菌が効率よく除去されることが新たに見いだされた。この 病原細菌は,エンドサイトーシス経路を通って細胞内に侵入後,
細菌毒素SLOを使ってエンドソームから細胞質に逃れること で分解を免れていた。しかしA群レンサ球菌が細胞質に現れ るとオートファジーが誘導され,オートファゴソームが菌を捕 捉し分解していた。このオートファゴソームは通常観察される ものより10倍以上巨大であった。オートファゴソームの形成に 必須のATG5遺伝子を破壊した細胞内では,A群レンサ球菌は 増殖し,再び細胞外に出ていった。従来オートファジーは非選 択的な過程と考えられていたが,この新しく発見されたオート ファジーは,菌を感知し選択的に捕獲していた。これらの結果 は,オートファジーが細胞質に侵入してくる病原体に対する防 御機構として働きうることを示している。
核におけるタンパク質の修飾や分子シャペロンによる制御 は,未だ十分な解析がされていない新しい研究領域である。小 瀬真吾さん(理化学研究所)は,核内輸送担体分子importinβ の核から細胞質へのリサイクリングの解析を報告した。セミイ ンタクト細胞を用いたアッセイ系を利用し,hsc70がimportin βおよびtransportinの核外移行を促進することを示した。また hsc70のこの活性には,核への移行が必要であることが示唆さ れた。興味深いことに,hsc70の核内移行経路はimportinβや
transportinには依存しない可能性が高く,この輸送経路が
importinβやtransportin依存的輸送経路を制御していると思わ れる。このように異なる輸送経路が互いに制御し合う仕組みが,
ディスカッション会場も広く,大人数を収容
細胞でどのように利用されているのか,今後の研究の進展が期 待される。また,斉藤寿仁さん(熊本大学)は,ユビキチン様 SUMOタンパク質による修飾に着目し,この修飾システムの 特性を大腸菌体内によるSUMO化システムやセミインタクト 動物細胞におけるSUMO化システムといったユニークな手法 を用いて解析している。今回の発表では,SUMO化因子を認 識する核内シャペロンタンパク質が存在し,これがクロマチン の凝縮に関わる可能性を示した。また,SUMO E3リガーゼ RanBP2の活性調節が,RING型やHECT型のリガーゼとは異 なることや,RanBP2によるSUMO化調節が核膜孔と核輸送 の制御に関わるモデルを示した。
p97/VCPはERADやオルガネラ形成に重要であり,この班 会議でも堀清次さん(京都大学),吉田雪子さん(東京都臨床 研)らがその機能について述べられていた。長浜正巳(筆者,
東京薬科大)は,p97/VCPと相同性の高いAAAタンパク質 NVL2が核小体に局在し,RNAヘリカーゼとの相互作用を介 して60Sリボソームの生合成に関係するモデルを示した。興 味深いことに,NVL2の核小体への局在化そのものも,リボソ ームタンパク質であるL5との結合を介してなされていた。今 後,リボソーム・バイオジェネシスにおける複雑な分子集合過 程に,このような分子シャペロンが介在する分子機構が明らか にされていくことが期待される。また,遺伝子DNAは,塩基 性タンパク質であるヒストンなどのクロマチンタンパク質と複 合体を形成して存在している。多くのRNAも,塩基性タンパ ク質と複合体を形成している。百瀬文隆さん(北里大)は,塩 基性タンパク質と核酸との複合体形成を調節する機能的酸性領 域を持つ因子について,「酸性分子シャペロン」という概念を 提唱している。この班会議で百瀬さんは,インフルエンザウイ ルスゲノムRNAと塩基性タンパク質NPの複合体形成に関与 する宿主因子RAF-2について発表した。RAF-2の活性サブユ ニットであるp48/UAP56が,NPの安定化とRNP形成の促進 に関与すること,さらにp36サブユニットがp48およびNPと 相互作用し,これらをウイルスRNA上へと導く可能性につい て示した。百瀬さんは,アデノウイルスを用いた系でDNA-タ ンパク質複合体形成に関わる因子の解析も進めており,これら を含めた概念の確立と一般化が期待される。
本稿では,私がカバーできるごく限られた範囲の発表しか紹 介することができず心苦しく思う。とにかくあっと言う間の4 日間であった。雨天のため,飛行機で帰られた方の中には,空 港でだいぶ心配しながら待たれた方もいらしたのではないだろ うか。しかし,皆さん無事戻ることができたとうかがっている。
今回の班会議では,それぞれの方が研究面はもちろん,交流を 深めるという意味でも充実した4日間を過ごされたのではない かと思う。私自身,日頃自分の研究テーマに明け暮れ,ともす れば一面的な考えに陥りがちであるが,今回の班会議を通して,
多くの同業の方々の考えに触れる機会を持つことができ,今後 の大きな励みとなった。最後に,このような素晴しい班会議の
運営にご尽力下さった小椋先生をはじめ,多くの先生方,どう もありがとうございました。
ポスター発表は二日間にわたって行われた
州は宮崎の地で開催された今年の「タンパク質 の一生」班会議。総勢約260名が集まり4日間 に渡って連日活発な発表と討論が繰り広げられた。
自由闊達かつ知的刺激いっぱいの本会議にどこかエ キゾチックな雰囲気(まるで海外の学会を訪れたか のような!)を感じたのは,はるか北国からやって 来た私だけではあるまい。素晴らしい会場と周辺の 環境については座古さん,長浜さんのレポートに詳 しいので,本稿ではタンパク質分解やユビキチン系
に関連したトピックスを中心に紹介していきたい。以下にそのレポートを簡単にまとめてお届 けする。
瀬原淳子さん(京大再生研)は,ADAMファミリーに属する膜プロテアーゼであるメルト リンβと膜型増殖因子ニューレグリンが,ともに発生過程において神経細胞の膜ラフトに局在 し,メルトリンβがニューレグリンを切断する様子をとてもエレガントな方法で直接示された。
まずニューレグリンのN末端,C末端それぞれを蛍光タンパク質であるRFP,GFPと融合し,
膜貫通ドメインをはさんでニューレグリンの細胞外,細胞内ドメインをそれぞれ標識した。こ の標識ニューレグリンは,切断されなければ赤と緑が融合した黄色として観察されるが,メル トリンβによって切断されると赤と緑のシグナルが分離されて検出される。瀬原さんは,マウ ス胎児後根神経節にてライブで赤と緑の色の重なりをモニターし,細胞接触が起こっている場 所で切断(可溶性ニューレグリン断片の生成)が起こっていることを示した。生細胞内でタン パク質切断が起こる場所とタイミングを直接可視化できるこの系は,今後のプロテアーゼ機能 解析の強力な武器になると期待され,今後の進展が楽しみである。
三浦正幸さん(東大薬学研究科)は,ショウジョウバ工を用いて神経細胞死スイッチに関与 する遺伝子群の網羅的スクリーニングを行っている。その結果得られたタンパク質輸送に関与 する因子Sec61αについて詳しい解析結果を報告された。Sec61αは,分泌経路で合成されるタン パク質の小胞体への移行と,ERADにおいて小胞体から細胞質への不良品タンパク質の輸送
九
全体班会議レポート Part 3
Meeting Report
川原裕之
(北海道大学大学院薬学研究科)
懇親会でも議論がつきない