Meeting Report
田口奈緒子
(九州大学大学院医学研究院・三原研)
具現化したものだったのかもしれません。けれど,研究者のタ マゴなるもの一度の失敗にクヨクヨしてはいられません。次の 機会こそはっ…!きっと皆様の心を射止めるような秘策を…。 福岡空港から40分ほどで着いてしまう宮崎空港。そこは,近 いと雖も開放感あふれる南国ムード。まぶしい太陽,高くそび え立つフェニックス,どれをとっても私には新鮮に映るものば かり…のはずでした。が,あいにくの雨。おまけに,少し肌寒 く,空港のヤシの実ジュースも物悲しく感じてしまうほどでし た。先ほど,天候が私の心象を表したと言いましたが,やはり 班会議中の天候は私の心を如実に反映していたと思います。後 悔の象徴である台風が宮崎直前で熱帯低気圧に変わり,その後 2日目・3日目と晴天だったのは班会議でのセッションが本当 にすばらしくて,私の知的好奇心が満たされたからだと思いま す。研究室でのセミナー居眠り常習犯(三原先生,そして一生 懸命発表してくださっている研究室の皆さんごめんなさい)の 私が,全く夢の世界へいざなわれず,ほぼ全てのセッションを 聞くことができました。約10分という短い時間で1年間の業績 をお話しされる先生方はとても大変そうではありましたが,逆 に発表が明快であることと,短い時間でめまぐるしく変わる演 題のホットな内容が私の集中力を途切れさせなかった要因だっ たと思います。
一日の最後のセッションが終わると若手討論と題した,言わ ば親睦会のようなものが連日連夜催されました。この場で用意
されていたお酒は百薬の長というだけではなく,交流の潤滑油 としてもとても効果的な役割を果たしていたと思います。私は M1ということもあり,接するほとんどの方が同じ年かそれ以 上のため,打ち解けられるか正直なところ心配していました。
ところが,その心配も幸いなことに取り越し苦労で終わってく れました。それよりもむしろ,先生方からサイエンスのお話は もちろんのことそれ以外のお話もお聞きすることができ,とて も有意義な時間を過ごすことができました。教授の先生方とこ のような会話ができるのは,班会議ならでは!だと思います。
班会議にいらっしゃる先生方は第一線で研究をされて,すばら しいお仕事をなさっている方ばかりなのですが,その先生方に 共通することは多彩な趣味をお持ちだということです。サイエ ンスとは別に趣味の分野でもそれを極められている方がたくさ んいらっしゃいました。やはり,研究者の性とでも申しましょ うか。きっと気になりだすと,とことんノという方がほとんど なのだと思います。そして,何よりも皆さんお話がうまい!!サ イエンス等少し難しいお話でもついついその世界に引き込ま れ,気がつけば夢中で時間が経つのも忘れていました。好きな ことを話している人のお話は聞いているこちらまで何だか嬉し くなったりするものです。先生方は本当にサイエンスが大好き なんだなぁと心が温まりました。
さて,皆さんの心も温まったところで(?)少し私の研究の お話も。私は学部4年生の春から三原研でお世話になっていま す。研究テーマはズバリ『細胞周期とミトコンドリア』です。
中でも,私は細胞周期とミトコンドリアの形態変化について,
特にミトコンドリアの分裂に関与するDrp1という因子に着目 し,研究しています。まだ,世界的にも明らかにされていない 大きなテーマということもあり,毎日ドキドキワクワク,結果 に一喜一憂しながら取り組んでいます。研究者としては,結果 に一喜一憂なんてけしからん!と怒られそうですが,まだまだ タマゴということで何よりも毎日楽しく実験できることが一 番!!と思い励んでいます。細胞周期を扱っているので夜中に学 校へ赴くということもしばしばですが,体力だけが取り柄の私 にはぴったりのテーマなのかもしれません。このように毎日楽 しく実験している私ではありますが,今回の班会議への参加が 刺激になったことはいうまでもありません。先生方のお話が聞 けて本当によかったと思います。これから,結果がなかなか出 ずにすっかりやる気をなくしてしまった時,今回のことを思い 出して頑張れるといいな,次への活力になるといいな,と思い ます。
最後になりましたが,このようにすばらしい機会を与えてく ださった諸先生方や三原先生,またお世話になった皆様方に深 く感謝申し上げます。
教授たちとのディスカッションにも活発に参加されていた田口さん
004年4月14日から18日まで,大島泰郎先生の学会委員長のもと,横浜みなとみらいの パシフィコ横浜においてThe 1st Pacific-Rim International Conference on Protein Scienceが 行われた。この国際学会は第4回日本蛋白質科学会年会をアメリカのProtein Societyと合同で 行ったものである。Protein Societyは1987年に発足し,毎年夏にアメリカの西海岸と東海岸で 交互に学会を開催している。アメリカだけでなく,ヨーロッパや日本,韓国,中国などのアジ アからの参加も多いので,10年ほど前からは2年毎にヨーロッパでProtein Society Symposium が開催されている。聞くところによると,その頃(10年程前)郷信広先生(当時京都大学)が 日本蛋白質工学会にEisenberg教授を招待したとき,アメリカのProtein Society Meetingと合 同で日本で国際会議を行ってはどうかと勧められたという。しかし,当時の日本蛋白質工学会 は学会としては規模も小さく,国際合同会議の受け皿としては時期尚早として見送られたよう である。その後,日本国内でのいくつかのタンパク質関連研究集会や学会が合同シンポジウム を行い,ついに2001年に日本蛋白質科学会を設立した。この経緯の詳細は以前私がChaperone Newsletter, No.9, p15-16(2001)に記載したのでそちらを参照されたい。1000人余りの学会員 を擁する日本蛋白質科学会ができあがりこれを基盤にして,ついに環太平洋国際蛋白質科学会 として第1回目の会議が行われたのである。
会議の出席者は770名で,うち招待講演者は約100名(海外60名)であった。Christopher Dobson 教授(Cambridge大学),長田重一教授(大阪大学),Sung-Hou Kim教授(カリフォル ニア大学)の3名によるPlenary Lectures,そして6つのシンポジウム(発表者40名),15のワ ークショップ(発表者75名),約500のポスター発表があり,内容は大変濃いものであった。参 加者の内訳は,国内から約500名,海外から270名。昨年6月の札幌での蛋白質科学会への参加 者が約900名であったことと比べれば,国内からの参加者がかなり減っている。国際学会とい うことと参加費が少し高めということが関係しているのかもしれない。パシフィコ横浜の会場 は日本生化学会大会などでお馴染みであるが,地下鉄みなとみらい線がJR横浜駅から中華街 まで最近新たに運行され,様々な客寄せ施設の新設に伴って益々この地域は華やかになり,特 に週末には一般観光客で賑わっていた。そのせいか,あるいは学会会場が広すぎたためか,参 加人数に見合うような混雑さはあまり感じなかった。ある意味ではゆったりとポスター発表な どを見ることができてよかったかもしれない。
Plenary LectureからDobson教授の講演を少し紹介しよう。タンパク質の構造形成は機能発 現に必須であることは言うまでもないが,ミスフォールディングしたタンパク質がアミロイド 線維を形成し,これがヒトの病気と密接に関わっていることをこれまで知られているタンパク 質と病気を対応させて説明し,アミロイド線維形成に関する研究がいかに大切かを強調した。
また,固体NMR等やフォールディング経路のシミュレーションを含めた独自の物理化学的手 法の結果をもとに,タンパク質のダイナミックな形の変化,アミロイド線維形成機構について 発表した。さらに,彼は病気とは関連性のないタンパク質も条件次第でアミロイド線維形成が 起こることを強調し,進化してできたはずのすべてのタンパク質でもアミロイド線維形成を含 むアグリゲーションという現象を避けられないと考えているようである。このような概念を,
すなわちタンパク質が関連して病気になることを「Post Evolutional Disease」という言葉を使 用して説明した。このようなアミロイド病を抑制するためにはネイティブ構造を認識する抗体 が有効であることも示した。いずれにしても,アミロイド線維の構造とそのでき方(機構),
細胞に与える影響を明らかにすることが,この病気の抑制・治療につながることは言うまでも
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The 1st Pacific-Rim International Conference on Protein Science
(第4回日本蛋白質科学会年会)に出席して
Meeting Report
河田康志
(鳥取大学工学部生物応用工学科)