第 3 章 進路選択自己効力に関する研究の概観
3.6 進路選択自己効力を高めるための相互評価学習方法の提案
3.6 進路選択自己効力を高めるための相互評価学習方法の
表 3-2 相互評価学習の要素と効力感の検討にもとづく授業設計方策 効力感を育む
4つの源
キャリア教育における 相互評価学習の要素
本研究における具体的方策と 授業設計への適用 遂行行動の
達成
進路選択に関わる課題の達成
相互評価学習の達成
評価能力の向上(藤原ほか 2008)(桑原 2012)
進路選択課題として「キャリアプラン」を作成 する
相互評価学習をもとに課題の質向上を実感
課題達成に必要な知識習得や自己理解を 目的とした講義を事前学習として行う 代理体験 他者を評価する
他者の価値観に触れる
他者の課題を閲覧することにより,他者の価 値観に触れる
相互評価学習のねらいをあらかじめ伝える 言語的説得 他者から肯定的評価を受ける 相互評価学習のねらいをあらかじめ伝え,肯
定的評価を促す
ルーブリックにより評価基準を明確化 情動的喚起 進路選択に関わる課題や相互
評価学習に対する情動(「楽し かった」「嬉しかった」等)
ARCSモデルを参考に認知を評価
(Kuwaharaet al. 2013 をもとに作成)
「遂行行動の達成」については,「キャリアプラン」の作成を進路選択課題とする.具体的な課題 の内容は,現在の自分についての自己分析をもとに,卒業から 10 年後までの目標と目標達成の ための方策を考えてプレゼンテーションスライドを作成するというものであり,進路選択自己効力の 下位要素である「自己評価」,「職業情報の収集」,「目標選択」,「将来設計」,「課題解決」に関 わるため,課題を達成することによって進路選択自己効力を高めることができると考えられる.また,
課題に対する相互評価学習を行い,その結果をもとに課題を改善することによって,学習者が自 身の進路選択課題の質向上を実感することを目指す.さらに,相互評価学習の事前学習として,
キャリアプランの作成に向けて必要となる知識の習得や自己理解を目的とした講義を行うことによ り,授業全体の流れとして進路選択課題への取り組みを促進する.「代理体験」については,相互 評価学習のねらいである他者評価を通じて自分の課題について客観的に振り返ることの重要性を あらかじめ学習者に説明し,相互評価学習で他者の価値観に触れ,自身のキャリアプランを見直 し,課題の改善に繋げる.他の受講生の進路選択課題を閲覧することにより,「自分にも課題達成 ができそうだ」「自分も頑張らなければ」と考えて効力感が得られることが期待される.「言語的説得」
については,評価することが相手の課題作成や発表の改善につながり「相手の役に立つこと」とい う相互評価学習のねらいを学習者にあらかじめ伝え,評価の際には「相手の良いところを見つけ て積極的に褒めよう」と伝えることにより,肯定的評価の入力を促す.また,相互評価の基準をル ーブリックとして明確に示すことにより,互いに納得できる相互評価の実現を目指す.「情動的喚
起」による効力感向上を促す具体的な方策はないが,前節で取り上げた ARCS モデルに基づく 質問紙調査によって,進路選択課題や相互評価学習に関する認知を評価し,自己効力の変化と の関連を検討することによって学習方法の改善策を探る.このように,効力感を育む 4 つの源に着 目した具体的方策を授業設計に適用することによって,キャリア教育科目における相互評価学習 による進路選択自己効力の向上が期待できると言える.
本研究では,進路選択自己効力の向上を学習目標として相互評価学習を実践するが,その効 果の検証においては,前章で論じたように ID の観点からレベル 2 の尺度を用いた評価を軸とし てレベル1の学習意欲に関わるデータも参考にするのが望ましい.レベル2の評価方法としては,
進路選択自己効力に関する研究動向をもとに,日本でもっとも用いられている尺度である「進路 選択に対する自己効力尺度」(浦上 1995a)を採用する.尺度の項目を付録 A に示す.また,レ ベル1の学習意欲の評価については,ARCSモデルの「自信」の要因が進路選択自己効力に関 連していると考えられるため, ARCS モデルに基づく質問紙調査を採用し,課題の認知・解釈・
主観的な意味づけ等が自己効力の変容に密接に関連している可能性(下村 2000)を検討する.
相互評価学習システムについては,相互評価学習に関する研究動向の検討から,キャリア教 育の正課科目におけるICTを用いた相互評価の実践について研究の余地があることがわかった.
そこで本論文では,キャリア教育科目においてオープンソース LMSであるMoodle のワークショ ップモジュールを用いた相互評価学習を実践する.汎用的な LMS の標準機能を用いることによ り,煩雑な設定を行わなくとも相互評価学習を実践することが可能である.また,LMS 内のモジュ ールを用いることにより,オンラインでの課題提出等,授業で提示される他の資料,学習課題と連 携して学習課題に取り組むことができるといった利点がある.
以上,本節では先行研究の知見とこれまでの実践をもとに,進路選択自己効力を高める相互 評価学習の方法と評価方法を提案した.進路選択自己効力を高めるキャリア教育科目のデザイ ンの有効性を明らかにするための実践と効果検証については,次章以降で論じる.