本研究では,高等教育機関における初年次キャリア教育科目において主体的に進路を選択す る能力を育成するために,進路選択自己効力の向上を目的として,相互評価学習を中心とした授 業をデザインし,3種類の実践においてその効果を検証した.
短期大学における対面形式の初年次キャリア教育科目において,進路選択課題を対象とした 相互評価学習を実施することによって,進路選択自己効力の高群低群ともに進路選択自己効力 尺度得点の平均値が有意に向上することを確認した.特に進路選択自己効力が低い群に対して 相互評価学習が有効であることが示唆された.また,短期大学の入学生全員の半年間の進路選 択自己効力の変化を調査したところ,受講生と非受講生の間に入学時点では違いはないが,受 講から 2 ヶ月後の時点では差が見られたことから,時間経過が受講生の自己効力の変化に影響 を与えていることを明らかにした.
受講時期の違いによる進路選択自己効力の変化について,短期大学生を対象とした1年間の 調査をもとに検証したところ,後期開講科目における相互評価学習によって,前期と同様に受講 生の進路選択自己効力が向上した.この結果から,キャリア発達段階の異なる学生に対しても本 研究の授業デザインが有効であるとみなすことができる.また,前期の受講生は入学からの 1 年 間で進路選択自己効力が向上するが,非受講生は 1 年間ではほぼ変化がないことから,入学生 全体の進路選択自己効力向上をはかるためには,前期後期を問わずキャリア教育科目受講機会 の拡大が望ましいと言える.
非同期 e ラーニング形式のキャリア教育科目においては,対面授業や全国調査のデータと比 較して進路選択自己効力が高い学生が受講していることがわかった.受講生の進路選択自己効 力は授業の実施前後で有意に向上し,授業開始時に自己効力が低い群が進路選択自己効力を 高めていることが明らかになったことから,対面授業で有効であった学習者間の相互作用に重点 を置いた授業設計が,非同期 e ラーニング科目にも適用可能であることが示唆された.課題とし て,学習進度や評価者の割り当てという問題があり,相互評価学習方法やシステムについて,コミ ュニティづくり,足場かけなどの検討の必要性が浮かび上がった.
以上から,以下の3点についてキャリア教育・教育工学分野に貢献できたと考える.
1) 授業を通じて主体的なキャリア形成能力を向上させる具体的方策の提案:キャリア教育科 目において進路選択自己効力を育成する具体的方策として,相互評価学習を含む授業 デザインを提案し,対面授業と非同期eラーニングの両方において実践・効果の検証を行 った.本研究の成果によって,初年次キャリア教育科目において進路選択自己効力を高 める実践を汎用的に行うことが可能となった.
2) キャリア教育の効果的な実践と質の保証:高等教育機関における教育課程内外を通じた キャリア教育の体系的実施が義務化され,高等教育の質保証が求められる中で,本研究 はキャリア教育の効果的な実践と学習成果の可視化という観点から,有用性や波及効果 が期待される.
3) 相互評価学習研究への寄与: ICT を活用したキャリア教育の相互評価学習実践例は少 ないため,進路選択自己効力の観点から授業デザインと成果を検討し,対面授業と非同 期 e ラーニングの両方で有用な相互評価学習方法を開発することによって,相互評価研 究そのものの進展に寄与した.
謝辞
本論文は,熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻博士後期課程における 7 年間の研究活動の成果を取りまとめたものです.本論文の作成にあたり,多くの方々にご指導,
ご支援いただきました.この場を借りて感謝の意を述べさせていただきます.
はじめに,主指導教員としてご指導くださった鈴木克明教授に深く感謝いたします.本研究を 遂行するにあたり,お忙しい中,研究計画や論文投稿に関して的確なご指導,ご助言をいただく ことで,本論文の完成に至りました.また,研究が進まないときでも,「オプションが大事」というお言 葉に甘えて熊大ナイトや合宿等へ参加することで,研究へのモチベーションを維持することができ ました.鈴木先生からのご指導の折々に,研究者として何がしたいのか,何をすべきか,繰り返し 考えさせられたことを胸に刻んで,今後も精進し研究活動に励んでいきたいと思います.本当にあ りがとうございました.
副指導教員として,学会発表等研究の際にご指導,ご助言をいただきました喜多敏博教授,合 田美子准教授に感謝いたします.喜多先生には,Moodle 等の技術的な面で特にご指導いただ きました.合田先生には,研究方法や投稿論文について詳細にわたってご指導をいただきました.
ありがとうございました.
愛媛大学の根本淳子准教授には,移籍されるまで副指導教員としてご指導いただきました.論 文投稿に際しての丁寧なご指導のみならず,研究と家庭生活の両立についてもご助言いただき ました.ありがとうございました.
他にも,教授システム学専攻の先生方には,専攻合宿や学会発表等の場面でたくさんのご指 摘,ご助言をいただきました.研究指導はもちろん,先生方との幅広いディスカッションを通じて刺 激を受けることが,いつも研究への励みとなりました.また,研究遂行にあたってコメントや励ましを 下さった教授システム学専攻の在学生,同窓生の皆さまに感謝いたします.特に,博士後期課程 の同期,先輩,後輩の皆さまと,関西チームとして研究活動にともに取り組んだ本専攻の平岡斉 士准教授,関西国際大学の中嶌康二助教に心から御礼申し上げます.
社会文化科学研究科事務部の皆様には,諸手続き等でご迷惑をおかけしましたが,いつも親 切かつ迅速に対応していただき,大変お世話になりました.ありがとうございました.
研究活動においては,本研究における尺度の使用にあたって許諾をいただいた南山大学の浦 上昌則先生に御礼申し上げます.また,調査およびデータの収集において支援をいただいた,京
都文教短期大学教育研究支援課をはじめとする教職員の皆様と,本研究の趣旨を理解し調査に 回答していただいた短期大学の学生,大学コンソーシアム京都単位互換科目受講生の皆様に感 謝申し上げます.
大阪大谷大学の大倉孝昭教授には,Moodle および教育工学と出会うきっかけをいただき,教 授システム学専攻への進学を勧めていただきました.大倉先生の研究活動をお手伝いさせてい ただいたことが,今日の研究活動へと繋がっております.ありがとうございました.
最後に,いつも一番近くで応援し続けてくれた家族である高義さん,梓,諒と,出張等の研究活 動を助けてくれた義両親,両親に心から感謝して,本論文の謝辞といたします.
本研究の一部は,科学研究費補助金若手研究(B)(課題番号:26750093)の補助を受けてお ります.
The author would like to thank Enago (www.enago.jp) for the English language review.
発表論文
<学術雑誌>
桑原千幸,喜多敏博,合田美子,鈴木克明(2017)非同期 e ラーニングキャリア教育科目におけ る相互評価学習の実践と進路選択自己効力の変化.教育システム情報学会誌 34(3):238-250
桑原千幸,喜多敏博,合田美子,根本淳子,鈴木克明(2014)初年次キャリア教育科目における 相互評価学習の実践と進路選択自己効力の向上.日本教育工学会論文誌 38(2):79-89
<国際会議>
Kuwahara, C., Kita, T., Goda, Y., & Suzuki, K. (2013). A Case of an Asynchronous E-learning Course in Undergraduate Career Education toward Enhancement of Self-efficacy. A paper presented at ICoME 2013 (International Conference on Media in Education), Nihon Fukushi University, Japan.
<学会発表>
桑原千幸,喜多敏博,合田美子,鈴木克明(2016.9)キャリア教育科目における相互評価学習の 要素と自己効力の変化の関連の検討.日本教育工学会第 32回全国大会(大阪大学)発表 論文集:743-744
桑原千幸,喜多敏博,合田美子,鈴木克明(2016.8)キャリア教育科目における Moodle を活 用した相互評価学習方法の改善.教育システム情報学会第 41 回全国大会(帝京大学)発 表論文集:249-250
桑原千幸,喜多敏博,合田美子,鈴木克明(2015.9)相互評価学習による進路選択自己効力の 変化-尺度項目の分析-.日本教育工学会第 31 回全国大会(電気通信大学)発表論文 集:149-150
桑原千幸,喜多敏博,合田美子,鈴木克明(2015.9)e ラーニングキャリア教育科目の受講生の 特性分析.教育システム情報学会第40回全国大会(徳島大学)発表論文集:231-232