• 検索結果がありません。

第 5 章 キャリア教育科目の受講時期と進路選択自己効力の関連

6.2 方法

6.2.1 授業設計

単位互換制度上の非同期eラーニング科目

財団法人大学コンソーシアム京都は,全国最大規模のコンソーシアム組織であり,その中核事 業の一つとして単位互換事業では,約 50 の大学・短期大学の学生が他大学開講科目を相互に 受講し,単位を修得している.平成 20 年度からは文科省戦略的大学連携支援事業の選定を受 け,教養教育の共有共用化を目的とした e ラーニングシステムの構築を行い,各大学が開講して いる多種多様な教養教育科目をインターネット上で共用し,大学間連携と効率化をはかっている.

授業コンテンツを提供する LMSには Moodle が採用され,シラバスや教務管理,受講登録とい った機能が独自の Web アプリケーションとして開発された.2012 年度には,非同期ビデオオン デマンド(以下VODと記す)型13科目,ブレンデッド型2科目が提供されている.2010年度の 受講生の単位修得率は71.4%であった(阿部ほか 2012).

授業の概要

筆者らは,大学コンソーシアム京都単位互換事業の非同期 VOD 科目として,大学 1,2 年次 を対象とする科目「キャリア形成論」を開講した.各回の授業は 30~60 分程度の VOD コンテン ツとダウンロード可能な資料やリンク等のリソース,課題提出のためのフォーラム(掲示板)モジュ ールで構成されている(図 6-1).e ラーニングコースのトップ画面,VOD コンテンツ,掲示板モジ ュールの画面イメージを付録 B に掲載する.各回のタスクとして,フォーラムへの意見投稿やワー クシートファイルのアップロードを課し,必要に応じて他の受講生の書き込みに対する 1件以上の 返信を義務付けた.また,第 13 回では進路選択課題としてのキャリアプランの作成に取り組み,

第 14 回でアップロードされたキャリアプランのファイルを相互に閲覧してコメントを付与する相互 評価学習を行なった.表 6-1 には,対面授業で採用した授業方法と,それと同等の効果をねらっ たeラーニング科目の授業設計を対比して示す.

表 6-1 授業の流れ

概要 詳細 個人課題

(フォーラム投稿)

対面授業で採用 した授業方法 1

オリエンテーション

~現代社会とキャリア形

キャリアの基本的概念,キャリア形成が求められ る社会の状況について学ぶ

尺度調査の実施

自己紹介 感想文の提出

教員のフィードバック

2 キャリアの概念と生涯発

さまざまなキャリア発達理論を学び,ライフキャリ アについて考える

30歳の私

相互コメント1件以上

ワークシートの提出

3

自分について考えるⅠ

~ 自 分 史 に よ る 自 己 理

自分史の作成と相互インタビューによって自分 を客観視し,長所・短所と価値観を把握する

自分史ワークシートの アップロード 相互コメント1件以上

ワークシートの提出

4

さまざまな働き方に ついて考える

正規雇用と非正規雇用の違いや賃金体系など 雇用形態について学習する

雇用形態の違いについての私 の考え

相互コメント1件以上

オンラインテキスト課題 教員のフィードバック

5

ライフサイクルと キャリア1

ライフサイクルにおけるライフイベントと ワーク・ライフ・バランスについて学ぶ

ライフサイクルについての 私の考え

相互コメント1件以上

6 ライフサイクルと キャリア2

さまざまなライフコースのメリットとデメリットに ついて経済的側面から考える

私の理想のライフコース 相互コメント1件以上

オンラインテキスト課題 教員のフィードバック 7 若年層の問題 フリーター,ニートといった若年層の雇用問題と

その背景について学ぶ

若年層の雇用問題について 相互コメント1件以上

オンラインテキスト課題

8 職業理解

~業界・職種について

職業を選択する際に必要となる業界・職種に ついて学び,興味のある企業情報を検索する

○○業界で見つけた企業 相互コメント1件以上

就職部による講義 感想文の提出 9 自分について考えるⅡ

~価値観・職業観

ワークシートの記入を通して,自分の価値観・

職業観を明確にする

働く理由

相互コメント1件以上

オンラインテキスト課題 教員のフィードバック

10

社会人に求められる能力 社会人基礎力について学び,どの能力を自分 が伸ばす必要があるか考える

社 会 人 基 礎 力 をど のよう に 伸 ばすか

相互コメント1件以上

オンラインテキスト課題

11 キャ リア の 転 機を 考 え る ケーススタディ

キャリアの転機について社会人のインタビュー ビデオを閲覧する

感想

相互コメント1件以上

OG講演会

感想文の提出

12

自分について考えるⅢ

~キャリアの転機とキャリ ア・アンカー

キャリア・アンカーについて学び,診断テストを もとに自分のキャリア・アンカーについて考察す

私のキャリア・アンカー 該当なし

13

自分について考えるⅣ

~夢,目標,10 年後の

キャリアプラン作成のための自己理解と,

キャリアプランのファイル作成

次回までにキャリアプランを 作成

キャリアプランワークシ ートの提出

14

キャリアプランの作成と 相互閲覧

キャリアプランのファイルをMoodleに提出 評価基準の説明と評価の練習

Moodle上でファイルを閲覧して相互評価

キャリアプランの改善

キャリアプランの提出

(ファイル)

相互コメント3件以上

(1)ファイルの提出と相 互評価(5人分)

(2)クラス全体での発表 と相互評価(5人分)

15

振り返りとまとめ 相互コメントや 他の学生の作品を参考 にして,改良したキャリアプランを提出 尺度調査,アンケートの実施

キャリアプラン改良版の提出 授業全体を通じて考えたこと

オンラインテキスト課題

図 6-1 コース画面のスクリーンキャプチャ

授業の流れや各回の講義の内容は基本的に対面授業の授業設計を元にしており,表 3-2 の 相互評価学習の要素と効力感の検討にもとづく具体的方策を適用しているが,各回の課題の実 施方法に違いがある.第1~12回において,対面授業ではワークシートやオンラインテキスト課題 に対して教員が個別にフィードバックするという方法を採っていたが,e ラーニング科目では受講 生全員が閲覧できるフォーラムモジュール上に自分の意見を投稿し,他者の投稿に対して1件以 上のコメントをすることを義務付けている. これは,第13~15回の相互評価学習の実施前から他 の受講生との意見交換を繰り返すことによって学習者のコミュニティ意識を高め,相互評価学習 に円滑に取り組むことに繋げることを意図している.

相互コメント学習の方法

対面授業の相互評価学習ではMoodleのワークショップモジュールを用いて,課題提出と評価 のフェーズを一括で切り替えて学習活動を行っていた.しかし,非同期 e ラーニング科目では学 習者毎の進度が異なり,同時進行を前提とするワークショップモジュールを使うことができない.そ こで,フォーラムモジュールにアップロードされたファイルを相互閲覧し,コメントを付与するという 形式で相互評価学習を行った.評価対象の割当は行わず,「自分以外の3名以上のキャリアプラ ンを閲覧し,採点基準を参考にして,どこが良かったか,どこを改善すれば良いか評価コメントを 返信で記入してください.(できるだけ,返信が少ないキャリアプランにコメントを記入していきましょ う.)」と指示し,評価者1人につき3人の評価を義務付けた.

評価基準を明確にするため,キャリアプランの内容に関する 5 項目(構成とストーリー,自己理 解,キャリアプランの目標,キャリアプランの方策,将来への意欲)と,プレゼンテーションに関する 1 項目(スライドの表現)の計 6 つの評価項目について 5 段階のルーブリックを学習者に提示し た.また,このルーブリックを教員が最終課題としてのキャリアプランを採点する際にも使用するこ とをあらかじめ伝えた.使用したルーブリックの抜粋を表6-2に示す.

表 6-2 相互コメント学習に用いたルーブリック(抜粋)

評価

項目 評価基準 5(たいへん良い) 4(良い) 3(普通) 2(悪い) 1(非常に悪い)

キャリア プ ラ ン の方策

目 標 や 将 来 像 を実現するため の 方 策 を 具 体 的に説明するこ と が で き て い る.

目 標 や 将 来 像 を実現するため の 方 策 は 具 体 的で,実現でき そうな説得力の あ る 内 容 で あ る.

目 標 や 将 来 像 を実現のための 方 策 を 具 体 的 に説明できてい る.

目 標 や 将 来 像 を実現するため の 方 策 が 説 明 されている.

目 標 や 将 来 像 を実現するため の 方 策 が 説 明 さ れ てい る が , あまり具体的で はない.

目 標 を 実 現 す るための方策が 説明されていな い.

対面授業との比較

授業設計に関して,第4 章で取り上げた対面授業と本章の非同期eラーニング科目の比較を 表6-3に示す.表6-1に示したように,非同期形式ではあるが, VODコンテンツとリソースを用い て対面授業と同様の講義を行っている.講義回の課題については,対面授業ではオンラインテキ スト課題またはワークシートの提出に対して教員がフィードバックを行っていたのに対して,e ラー ニング科目ではフォーラム投稿に対する相互コメントを義務付けている.相互評価学習の実施前 から他の受講生との相互コメントを繰り返すことによって相互評価学習に繋げることを意図しており,

対面授業と比較して学習者間の相互作用により重点を置いている点が特徴的である.これにより,

相互評価学習のみならず授業全体を通じて他者の価値観に触れ,代理体験による効力感向上 が期待される.進路選択課題の内容や評価の使用するルーブリックは同様であるが,評価の割り 当て方法や評価人数,評価システム,評価の匿名性の点で違いがある.