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自己効力と進路選択自己効力

第 3 章 進路選択自己効力に関する研究の概観

3.1 自己効力と進路選択自己効力

自己効力(self-efficacy)とは,Bandura(1977)が社会的学習理論から発展させて提唱した概 念であり,与えられた状況において満足に対処できる自分の能力の知覚または評価を意味する.

自分にその行動ができるという予測は活動や環境の選択に影響を与え,パーソナリティの形成に 重要な役割を果たす(西本ほか 2009).効力に関する信念は以下の 4 つの主要な影響力(源)

によって育むことができる(Bandura 1977;バンデューラ 1997).

① 遂行行動の達成(performance accomplishments)

効力感の強さには,忍耐強い努力によって障害に打ち勝つ体験が要求される.体験に よって,成功するために必要なことはなんでもできるという確証を与えることになる.

② 代理体験(vicarious experience)

自分と同じような人びとが努力をして成功するのを観察することによって,自分もそのよう なことができるのだという信念をわきあがらせる.

③ 言語的説得(verbal persuasion)

ある行動を習得する能力があると言われてその行動を勧められた人は,問題が生じた時 に,その行動により多くの努力を投入し続ける.

④ 情動的喚起(emotional arousal)

自己効力感は肯定的な気分で強まり,落胆した気分で下がる.

効力の信念は,期待-価値分析を下地にしており,選択肢を課すだけではなく,意思決定の 他の側面にも影響を与える.集めた情報のタイプにも影響を与え,それが環境への挑戦のための 手段としてどのように解釈され,伝達されていくかに影響を与えていくのである(バンデューラ 1997).そのため,個人的な効力感の信念は,キャリア・ディベロップメントを追求していく時に中 心的な役割を果たす.職業選択と発達に関する領域において,Bandura(1977)による自己効力 の概念を取り入れたキャリア・セルフエフィカシー(Career Self-Efficacy)研究がHackett&Betz

(1981)によって始まり,Taylor&Betz(1983)は「進路選択に対する自己効力(career decision-making self-efficacy」の概念を提唱した.この研究による一つの仮説は,職業の効果的な意思 決定には,技能の開発だけでなく,自分の決定能力に自信を持つことが必要であるというもので あった(バンデューラ 1997).進路選択自己効力は,進路を決定する過程で必要な行動に対す る遂行可能感を指しており,介入により変容させることが可能である.この自己効力が弱い場合,

職業探索行動や決定能力の発達を阻害し,意思決定の際に進路不決断等の問題をもたらす可 能性がある.また,若林ら(1983)は,自己の有能性に関する肯定的概念と職業レディネスとの間 に正の相関が見られることを指摘している.進路選択に関わる自己効力感は,進路の選択力,計 画力を包含する概念であり(浦上 1995a),キャリア教育における主体的なキャリア形成能力を育 成するためには,進路選択自己効力を向上させることが必要不可欠であると言える.

キャリア発達段階としての大学生という時期は,暫定的に選択した職業について準備し,それを 試行することによって現実吟味し,自分にとってふさわしい職業かどうかを考える探索段階として 位置づけられる(日本キャリア教育学会 2008)ため,進路選択が大きな課題である.2.4で参照し た「大学生が達成すべきキャリア課題」は,大学生という時期にキャリア発達において具体的にす るべき行動を示している.3年次には「卒業後の職業を選択する」という課題が含まれているが,他 の年次のキャリア課題も進路を決めるための計画や行動,進路決定後の活動に関するものであり,

「大学生が達成すべきキャリア課題」全体が進路選択に関わると言える.進路選択自己効力の強 い者は,進路選択行動を活発に行ない,努力もする(浦上 1995a).また,実際に進路を決める ための行動の頻度や程度,活動の持続性とも関連する(日本発達心理学会 2013).したがって,

進路選択自己効力は「大学生が達成すべきキャリア課題」全体に影響すると考えられる.キャリア 発達の概念と比較すると,進路選択自己効力は「自分の進路を自分で決める」ことに主眼を置い た概念であり,援助的介入に向けた方向や方法をより強く示す(浦上 1995a)ため,キャリア教育 において大学生のキャリア発達を支援するにあたって有用な概念であると言えよう.

近年の社会構造や労働環境の変化にともない,安定した社会において学卒後に正規雇用で 働き続けることを基本とした従来のキャリア発達理論では対応できない点に対して,社会的認知の 考えを取り入れた社会・認知的キャリア理論(social cognitive career theory:SCCT)が提唱さ れた(Lent et al. 1994).社会・認知的キャリア理論において,キャリア選択は生涯を通じて繰り 返される発達的プロセスとして説明され,個人・環境・行動の3要因の関係性に焦点が当てられて いる.社会・認知的キャリア理論は既存の心理学の諸概念を部品として組み立てられているが,

個人の認知を重視しており,なかでも自己効力がその中核を成している(図 3-1).キャリアに対す る自己効力は,内容(content)と過程(process)に大別できる.内容(content)とはどのような領 域に高い自己効力を持つかを意味する.過程(process)に関する自己効力を代表する概念が,

キャリア選択に必要な諸活動に焦点を当てた進路選択自己効力研究である.キャリア発達研究の 中でも最も多くの研究が蓄積されているものの,定義や測定方法が一致しないこと,介入事例の 一般化が困難であることが研究課題である(安達 2012).次節では,進路選択自己効力研究の 動向を概観し,課題を検討する.

図 3-1 キャリア興味の発達モデル

(Lent et al. (1994)より訳出)