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インストラクショナルデザインの諸理論と自己効力

第 3 章 進路選択自己効力に関する研究の概観

3.5 インストラクショナルデザインの諸理論と自己効力

インストラクショナルデザイン(Instructional Design: ID)は,教育活動の効果・効率・魅力を 高めるための手法を集大成したモデルや研究分野,またはそれらを応用して学習支援環境を実 現するプロセスである(鈴木2005).IDにはさまざまな理論・モデルが存在し,広く研究・実践され ている.その基本となるのは,学習目標(何を学んでほしいのか),評価方法(学んだかどうかをど のように判断するのか),教育内容・方法(学びをどのように助けるのか)の 3 つの要素を確認しな がら教育活動を改善・向上させていくことにある(市川・根本 2016).

インストラクションの評価研究において,学習者に影響を与える変数の一つに動機づけがある.

動機づけの要因には期待感が含まれ,成功するための能力に関する学習者自身の信念(自己効 力感)は,学習者の成功しようとする意欲に大きな影響を及ぼす(ガニェ 2007).

ジョン・ケラーが 1983 年に提唱した ARCS モデルは動機づけに関する代表的なモデルの一 つであり,授業や教材の「魅力」を高め,学習者を動機づけるための工夫を支援し,学習意欲をデ

ザインする.ARCS モデルは,学習意欲を「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信

(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の 4 要因で捉えるが,それぞれの要因に対して主要な 学習意欲の変数に基づく下位分類が定義されている.ARCSモデルの4 要因と下位分類と主な 支援方略を表3-1に示す(鈴木 2002).ARCSモデルは,さまざまな心理学的理論にもとづいて 提唱されたものであるが,BANDURA の自己効力理論もその一つであり,「自信」を構築する際の 個人の制御に関わる概念である.自己効力感の個人的予測はゴールの選択に影響を与え,どの 程度努力をするかにも関係する.一般的に高い自己効力を持つ学生はよい結果を出すため,学 業成績の良い指標となる.また,自己効力感は準備活動の方法にも影響し,成功に対して不確実 性を感じる場合に,成功の可能性を高めるために計画や学習に多くの時間を費やす.すなわち,

高い自己効力感と不確実な成功とを組み合わせることによって,高いレベルの努力を刺激するこ とができる(ケラー 2010).

表 3-1 ARCSモデルの4要因と下位分類

要因 下位分類

注意

(Attention)

A1 知覚的喚起:目をパッチリ開けさせる A2 探究心の喚起:好奇心を大切にする A3 変化性:マンネリを避ける

関連性

(Relevance)

R1 親しみやすさ:自分の味つけにさせる R2 目的志向性:目標を目指させる R3 動機との一致:プロセスを楽しませる 自信

(Confidence)

C1 学習要求:ゴールインテープをはる C2 成功の機会:一歩ずつ確かめて進ませる

C3 コントロールの個人化:自分でコントロールさせる 満足感

(Satisfaction)

S1 自然な結果:ムダに終わらせない S2 肯定的な結果:ほめて認める S3 公平さ:裏切らない

このように,ARCS モデルの「自信(C)」の要因は,本研究で焦点を当てる進路選択自己効力 が基盤とする自己効力の概念に深く関連していることから,適切な学習課題を設定し,成功の機 会を与え,自分で課題を遂行できたと思わせることによって,進路選択自己効力を高めることがで きるのではないかと考えられる.

ARCS モデルの利用方法としては,教授設計の枠組み,指導方略の検討等が考えられるが,

鈴木(1995)は ARCSモデルに関する研究の方向性として以下の 5つのアプローチを挙げてい る.

1. 教材や学習環境の特性分析:記述的研究

2. モデル適用による授業/教材の設計:処方的研究

3. 学習意欲を高める指導方略の実態把握と整理:授業分析への適用 4. 学習意欲の実態調査方法の確立:評価研究

5. 学習技能としての学習意欲の育成:学習内容としてのARCSモデル

下村(2000)は,課題の認知・解釈・主観的な意味づけ等が自己効力の変容に密接に関連し ている可能性を示唆している.先述のように,ARCSモデルの「自信(C)」の要因が進路選択自己 効力に関連していると推察でき,ARCS動機づけモデルを活用して学習意欲の実態を捉えるアン ケート調査の先行研究も多い(鈴木 1995)ことから,本研究では学習者の進路選択課題に対す る認知と進路選択自己効力の変容の関連を検討する方法として, ARCSモデルに基づく質問紙 調査を採用することとする.

3.6 進路選択自己効力を高めるための相互評価学習方法の