第1章にて、脳動脈瘤には好発部位があることを詳述した。それぞれの好発部位を形成する 親動脈の位置関係は、各部位に特徴的ではあるものの、大きく分けて終末型分岐部と側壁型の 2つに分類可能である。そして、終末型動脈瘤に生じる流れ場と側壁型動脈瘤に生じる流れ場 は、まったく異なることが知られている。
これまで、本章で扱ってきた脳底動脈先端部動脈瘤(BA-tip動脈瘤)は、終末型動脈瘤の代 表的なものである。一方で、側壁型分岐部に分類される脳動脈瘤の好発部位として、内頚動脈 -後交通動脈分岐部動脈瘤(IC-PC動脈瘤)がある。側壁型のIC-PC動脈瘤では、終末型と全く 異なる流れ場が生じているため、BA-tip動脈瘤において証明されたような血液流入率の大小と コイル塞栓術の奏効率との相関関係が成立するのかどうかは未知である。そこで、IC-PC動脈 瘤に対するコイル塞栓術の奏効率と血液流入率との関係について、追加研究を行うこととした。
5.6.1 対象と方法
コイル塞栓術によって治療された未破裂IC-PC動脈瘤40例および未破裂BA-tip動脈瘤24 例を対象とした。対象症例の選択基準は以下のとおりである。
(1)内頚動脈-後交通動脈分岐部の嚢状動脈瘤であること
(2)コイル塞栓術後、1年間以上にわたって経過観察されていること
(3)形状入力データとして、3次元脳血管撮影が使用可能であること
経過観察は、6ヶ月毎にmagnetic resonance angiography (MRA) を用いて行われた。MRAで 再開通が疑われた場合には、直ちに脳血管撮影を行って診断を確定し、必要な場合には追加治 療を行った。
脳血管撮影において、コイル塞栓術後の再開通が行っていると確定診断された症例群を再開 通群(recanalized group)、再開通をきたさなかった症例群を非再開通群(nonrecanalized group)
と定義した。
CFDを用いた血流解析の方法は、前述した通りである。3次元脳血管撮影データを入力とし、
multi-slice half-threshold segmentationを用いて血管モデルを作成した。商用流体解析ソフトウエ
ア(hemoscope, EBM corporation, Japan)を用い、0.05 [mm]から0.25 [mm]の範囲で四面体型格 子を作成し、壁近傍には5層の六面体型格子を生成した。計算対象によって異なるが、100万 要素数から200万要素数の計算要素を用いた。
血液は非圧縮性ニュートン流体と仮定し、密度を1050 [kg/m3]、粘度を0.004 [Pa・s]に設定 した。流入および流出境界条件は、constant wall shear stress theoryに基づいて設定した。流体の 支配方程式である3 次元Navier-Stokes 方程式と連続の式を、前述の有限体積法ソフトウエア
(hemoscope)によって解いた。対流離散化手法には、オイラー法および二次風上差分スキー
ムを使用した。
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ポスト処理において、各症例の血液流入率を算出した。まず、IC-PC動脈瘤40例について、
コイル塞栓術後の再開通群と非再開通群の2群に分け、血液流入率を比較した。さらに、IC-PC 動脈瘤群とBA-tip動脈瘤群の2群について、両者の血液流入率を比較した。
5.6.2 結果と考察
図5.7に、IC-PC動脈瘤の代表症例について、流れ場を流線で表示した。終末型動脈瘤と異 なり、側壁型動脈瘤では流れが進行方向へと回転しながら分枝へと流出していく。
図5.8に、血液流入率についての再開通群と非再開通群との比較を示す。BA-tip動脈瘤の場 合と異なり、IC-PC動脈瘤においては、血液流入率について再開通群と非再開通群の間に有意 差を認めなった。
図5.9に、コイル塞栓術後の再開通リスクについて、IC-PC動脈瘤群とBA-tip動脈瘤群とを
比較したKaplan-Meier曲線を示す。Log-rank検定を行ったところ、BA-tip動脈瘤群はIC-PC動
脈瘤群と比較して、再開通のリスクが有意に高かった。さらに、図 5.10 に示す通り、両群の 血液流入率を比較すると、BA-tip動脈瘤群はIC-PC動脈瘤群と比較して、有意に高値であるこ とが分かった。
以上の結果から、側壁型動脈瘤の代表であるIC-PC動脈瘤においては、もともと血液流入率 が低く、コイル塞栓術後の再開通リスクが低いことが示唆された。つまり、側壁型動脈瘤は、
コイル塞栓術の良い適応であると考えられる。一方で、終末型動脈瘤は血液流入率が高く、コ イル塞栓術後の再開通リスクが高いことが再確認された。
Fig 5.7: A representative case with an aneurysm at the bifurcation between an internal carotid artery and a posterior communicating artery. Streamlines are colored by the velocity magnitude.
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Fig 5.8: Aneurysmal inflow rate coefficient (AIRC) of the recanalized and nonrecanalized groups.
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Fig 5.9: Kaplan-Meier curve.
BA tip: Basilar artery tip, IC-PC: Internal carotid artery-posterior communicating artery.
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Fig 5.10: The difference in the aneurysmal inflow rate coefficient between the basilar tip aneurysms and the internal carotid artery-posterior communicating artery aneurysms.