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脳動脈瘤コイル塞栓術の治療効果予測

5.1 緒言

第2章から第4章において、computational fluid dynamics(CFD)を用いたヒト脳主幹動脈に おける血流シミュレーション手法の改善を図ってきた。その目的は、CFD を用いた血流シミ ュレーションの臨床への応用に他ならない。臨床行為は大きく、診断と治療に大別される。脳 血管の血流シミュレーションを診断に生かそうとする試みが、第4章の脳動脈瘤壁における動 脈硬化性変化の予測であった。本章では、脳動脈瘤の治療に、脳血管の血流シミュレーション を役立てることを試みる。

5.1.1 脳動脈瘤コイル塞栓術後の再開通

脳動脈瘤に対するコイル塞栓術は、標準的治療法として確立されたものであり、血管から 脳動脈瘤内へと誘導したカテーテルを通じて、脳動脈瘤内に金属性のコイルを充填し、脳動脈 瘤の血栓化を促進する血管内治療法である [1-4]。開頭クリッピング術と比較して低侵襲であ ることが長所である [5-8]。しかし、治療後に約20%の症例において、血流の再開通に伴う脳 動脈瘤の再発が起こる [9-11]。脳動脈瘤の再発は、患者の生活の質を著しく損ない、再治療を 要することで本邦の医療経済を圧迫する。

再開通に影響する因子として、脳動脈瘤の大きさ、位置、開口部の大きさ、破裂の既往、壁 在血栓の有無、コイル充填率の大小が報告されている。これらのリスク因子は、統計学的手法 を用いたコホート研究から明らかにされたものである。しかしながら、それらが基づく病態生 理またはバイオメカニカルな理由は不明である。CFD を用いて、血行動態の面からの解明を 企図した先行報告も散見されるが、確固たるエビデンスは得られていない [12-15]。

5.1.2 研究目的

臨床の現場においては、コイル塞栓術後の再発に、血行動態が大きく関与しているのではな いかとの認識があった。すなわち、脳動脈瘤への流入血流の大小が、コイル塞栓術の奏功率に 影響を与えているのではないかとの仮説である。そこで、筆者らは、CFD を用いた血流シミ ュレーションによって、その仮説を証明することを企図した。本研究は、コイル塞栓術後の再 開通リスクが高い脳底動脈先端部動脈瘤について、その血行動態との関係を調査したものであ る。加えて、その血行動態と親動脈形状との関係についても検討した。

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5.2 方法

5.2.1 研究対象

2008年1月から2014年12月までの7年間に、脳底動脈先端部動脈瘤に対してコイル塞栓 術が行われた連続111例を後方視的に検討した。対象症例の選択基準は以下のごとくである。

(1)脳底動脈先端部の嚢状動脈瘤であること

(2)コイル塞栓術後、1年間以上にわたって経過観察されていること

(3)形状入力データとして、3次元脳血管撮影が使用可能であること

経過観察は、6ヶ月毎にmagnetic resonance angiography (MRA) を用いて行われた。MRAで 再開通が疑われた場合には、直ちに脳血管撮影を行って診断を確定し、必要な場合には追加治 療を行った。

脳血管撮影において、コイル塞栓術後の再開通が行っていると確定診断された症例群を再開 通群(recanalized group)、再開通をきたさなかった症例群を非再開通群(nonrecanalized group)

と定義した。

5.2.2 計算方法

前処理における形状構築は、3次元脳血管撮影データを入力とし、第2章において概説した multi-slice half-threshold segmentationを用いて行った。作成した血管モデルに対し、汎用STL編 集ソフトウエア(3-matic, Materialize, Belgium)を用い、計算領域を抽出した。流入血管として、

入り口形状を中心線方向へと等価直径の5倍に延長し、流出血管として、出口形状を中心線方 向へと等価直径の10倍に延長した。商用流体解析ソフトウエア(hemoscope, EBM corporation,

Japan)を用い、0.05 [mm]から0.25 [mm]の範囲で四面体型格子を作成し、壁近傍には5層の六

面体型格子を生成した。計算対象によって異なるが、100万要素数から200万要素数の計算要 素を用いた。

血液は非圧縮性ニュートン流体と仮定し、密度を1050 [kg/m3]、粘度を0.004 [Pa・s]に設定 した。流入および流出境界条件は、第3章で述べたごとく、constant wall shear stress theoryに基 づいて設定した。流体の支配方程式である3次元Navier-Stokes方程式と連続の式を、前述の有 限体積法ソフトウエア(hemoscope)によって解いた。対流離散化手法には、オイラー法およ び二次風上差分スキームを使用した。

5.2.3 ポスト処理

本研究では、計算結果の新しいポスト処理手法として、動脈瘤血液流入率(aneurysmal inflow rate coefficient)を提案する。ここで、血液流入率とは、血流シミュレーションの結果を用い、

図5.1のQa/Qbで計算される。ここで、親動脈の血流量をQb [mL/s]脳動脈瘤への流入血流量

をQa [mL/s]とする。

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Fig 5.1: Definition of aneurysmal inflow rate coefficient.

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5.3 結果

研究対象となった患者背景について、再開通群と非再開通群に有意な差を認めなかった(表 5.1)。治療内容に関わる因子として、コイル塞栓術支援用ステント使用の有無、あるいは、

Raymond-Roy分類([9])に有意な差を認めなかった。しかし、最終的なコイル充填率が30%

未満であった症例が、再開通群で有意に多いという結果であった(表5.2)。

血液流入率は、再開通群で有意に高く、そのcut off値はreceiver-operating characteristic curve を用いて0.5と算出された(表5.3・図5.2)。また、脳動脈瘤の形状について、ネック面の大き さ、動脈瘤の高さ、aspect ratioが、再開通群において有意に大きかった(表5.3)。

コイル充填率30%未満、血液流入率、および動脈瘤のネック面の大きさの3 因子に関する 多変量解析を行ったところ、コイル充填率30%未満(p=0.0275)と血液流入率(p=0.0143)が、

独立で有意なコイル塞栓術後再開通の予測因子であった。

Recanalized group (n = 19)

Non-recanalized group

(n = 38) p value

Age 58.5 (34-77) 60.7 (30-80) 0.4917

Male sex 3 (15.8%) 11 (28.9%) 0.2766

Ruptured aneurysms 7 (36.8%) 14 (36.8%) 1.0000

Mean observation period

[days] 1765.4 (436-2598) 1553.6 (367-2776) 0.2927

Table 5.1: Patient characteristics.

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