第 3 章 半導体量子ドット 59
3.4 近藤効果
0 0.1
G
1, + − G
1, −
(a) (b)
-3 -2 -1 0 1 2
3 3 2 1 0 -1 -2 -3
( e
2/ h )
図3.3 2準位モデルにおけるリードが3本の場合のスピン偏極電流[∝(G1,+−G1,−)]。 図に示したスピン偏極電流は2準位の平均準位ε¯= (ε1+ε2)/2 をゲート電圧によって掃 引したときのリードD1への計算結果。スピン量子化軸の向きはhSOである。準位間隔は (a) ∆ =ε2−ε1= 0.2Γと(b) Γ。リードS、D1へのトンネル結合は変えず、その線幅は それぞれΓS= ΓD1 ≡Γで固定されている(eS,1/eS,2= 1, eD1,1/eD1,2=−2/3)。一方、
リードD2へのトンネル結合は徐々に強くし、その線幅はΓD2 = 0.1Γ(赤実線)、Γ(緑破 線)、および2Γ(青点線)である(eD2,1/eD2,2= 2)。SO相互作用の強さは∆SO = 0.2Γ。
スピン偏極電流の増大は条件4. に従っている。図3.4(a)では(ΓD2 = 0.1Γ)、σ =−1の電 気伝導度がディップにおいてほぼG1,− ≃ 0にまで抑制されている。その結果、スピン偏極 P = (G1,+−G1,−)/(G1,++G1,−)がほぼ100% にまで増大している。
-2 -1
0 1
0 2 0 G
1,+− ( e
2/ h )
(a)
(b)
(c)
1 (d) 0 1 0 1 1
-0.4 0
0.4 G
1,+− G
1,−0 0.3
図3.4 2 準位モデルにおけるリードが3本の場合で、“phase lapse” が起こる場合で のスピン依存電気伝導度G1,± の計算結果。平均準位ε¯= (ε1+ε2)/2 をゲート電圧に よって掃引している。hSO の方向をスピン量子化軸として、スピン σ = ±1に対して 赤実線はG1,+、青破線はG1,− を示している。準位間隔は∆ = ε2−ε1 = 0.5Γ。リー ドS、D1 へのトンネル結合は変えず、その線幅はそれぞれΓS = ΓD1 ≡ Γ で固定さ れている(eS,1/eS,2 = 1, eD1,1/eD1,2 = 2/3)。一方、リード D2へのトンネル結合は 徐々に強くし、その線幅は(a) ΓD2 = 0.1Γ、(b) 0.5Γ、(c) Γ、および (d) 2Γである (eD2,1/eD2,2 = 2)。(a)では、phase lapseに起因した鋭いディップが得られる。SO相 互作用の強さは∆SO = 0.2Γ。Inset: スピン依存電気伝導度の差(G1,+−G1,−)。単位 はe2/h。横軸は平均準位(¯ε−εF)/Γである。それぞれΓD2 = 0.1Γ(赤実線)、0.5Γ(緑破 線)、2Γ(青点線) の場合の結果。
知られた SU(2)近藤効果である。∆ < TK の場合には、上の準位も共鳴準位の形成に寄与
し、SU(4)近藤効果によって準位に対する擬スピンもスピンと同様に遮蔽される*5。この領
域において条件2.が満たされる。
*5一般にN 本のリードが結合されている場合でも、2準位の量子ドットに有効的に結合しているチャンネル数 は2である。このSU(4)近藤領域では、(軌道2)×(スピン2)の自由度が2つのチャンネルによって遮蔽 されるfull-screeningの場合となっている。
3.4.1 スレーブ・ボゾン平均場近似
SU(2)およびSU(4)近藤効果を半定量的に記述するために、slave-boson平均場近似を用
いる [60, 140]。この理論は近藤共鳴準位が形成されることを仮定した上でその振る舞いを記
述するもので、絶対零度における近藤共鳴準位を介した電気伝導度を求めることができる。
クーロンブロッケイド領域では電子間相互作用が量子ドット内の電子状態に重要な役割を 果たす。Anderson modelを考え、電子間相互作用は
Hint =U∑
j
nj+nj− +U′∑
σ,σ′
n1σn2σ′ (3.20)
とする。ここで、njσ = d†jσdjσ である。電子間相互作用が準位間隔と線幅に比べて十分大 きいとする(U, U′ ≫ ∆,Γα)。U, U′ → ∞として、2準位がリード中の Fermi エネルギー 付近以下にある場合、量子ドット内の電子状態は電子がない状態|0⟩と軌道j = 1,2にスピ ンσ = ± の電子が1つ入っている状態|jσ⟩の5つを取りうる。この5個の状態(一般には 2m+ 1個)にヒルベルト空間を限定して演算子を構成する方法にslave-boson法がある。
量子ドットの生成、消滅演算子d†jσ, djσ を
d†jσ =fjσ† b, djσ =b†fjσ (3.21)
と記述できるとする。ここで、b†, bは「電子がいない状態」の生成、消滅演算子、fjσ† , fjσは
「軌道j にスピンσ がいる状態」の生成、消滅演算子である。ここで、b、fjσ はそれぞれボ ゾン、フェルミオン演算子で、交換関係と反交換関係
[b, b†] = 1, {fjσ, fj†′σ′}=δj,j′δσ,σ′ (3.22) を満たす。量子ドット内の電子数はたかだか1つなので、電子間相互作用Hint は拘束条件
b†b+∑
jσ
fjσ† fjσ = 1 (3.23)
と読み換えられる。従って、(3.21)式をハミルトニアン(3.4)に適用すると H = ∑
σ=±
(f1σ† , f2σ† ) (
¯ ε− ∆
2τz+σ∆SO 2 τy
) ( f1σ
f2σ )
+∑
α
∑
kσ
εka†α,kσaα,kσ+∑
j
∑
α
∑
kσ
(
Vα,jfjσ† aα,kσb+ h.c.
)
+λ (
b†b+∑
jσ
fjσ† fjσ−1 )
(3.24)
となる*6。ここで、λはラグランジュの未定乗数である。
ハミルトニアン(3.24)に対して平均場近似を行う。bを平均値⟨b⟩に置き換え、そのまわ りでの揺らぎを無視できるとすると
HMF = ∑
σ=±
(f1σ† , f2σ† ) (
˜ ε− ∆
2τz+σ∆SO
2 τy
) ( f1σ f2σ
)
+∑
α
∑
kσ
εka†α,kσaα,kσ+∑
j
∑
α
∑
kσ
(V˜α,jfjσ† aα,kσ+ h.c.
) +(˜ε−ε)¯ (
|⟨b⟩|2 −1)
(3.25) となり、電子間相互作用を無視したハミルトニアンと数学的に同じ形に帰着する。ここで、
˜
ε= ¯ε+λ、V˜α,j =Vα,j⟨b⟩である。このHMFから、分配関数Z = Tr exp{−β(HM F−µN)} を用いて、自由エネルギー
F =−1
β lnZ =−1 β
∫ ∞
−∞dερsys(ε) ln (
1 +e−β(ε−µ) )
+ (˜ε−ε)¯ (
|⟨b⟩|2−1)
(3.26) を求める。ここで、ρsys(ε)は系の状態密度で量子ドットのグリーン関数(3.14)を用いて
ρsys(ε) =−1
πIm ∑
α,kσ
1
ε−εk+iδ − 1 π
∑
σ
Im { ∂
∂εlog [
det (Gˆσ
)−1]}
(3.27)
と求めることができる*7。第1項はリードの状態密度ν(ε)に対応する。この項は⟨b⟩、λに 依らず、後で行うF の微分に寄与しないため、ここで無視する。(3.27)式を自由エネルギー に用いると、
F = 1 π
∑
σ
∫ ∞
−∞
dεf(ε)Im {
log [
det (Gˆσ
)−1]}
+ (˜ε−ε)¯ (
|⟨b⟩|2−1)
. (3.28)
f(ε)はFermi分布関数。Im log(a+ib) = tan−1(b/a)なので、自由エネルギーは F = 1
π
∑
σ
∫ εF=0
−D0
dεtan−1
[ (ε−ε)(Γ¯ 1+ Γ2)− 12∆(Γ1−Γ2) (ε−ε)¯2− 14 {∆2 + (∆SO)2}+ (Γ12)2−Γ1Γ2
]
+(˜ε−ε)¯ (
|⟨b⟩|2−1)
(3.29) となる。ここで、絶対零度として積分区間をεF までとした。また、下限にバンド端D0 を 導入した。
∂F
∂˜ε = 0, ∂F
∂|⟨b⟩|2 = 0 (3.30)
*6Hdotについては一度ユニタリ変換dσ = ˆUd˜σ により対角化してからslave-boson法を適用し、数演算子 に対してd˜†jσd˜jσ →f˜jσ† f˜jσとした後、逆変換でfjσに戻す。
*7補遺C参照
の2式から自由エネルギーが極小となるε˜、|⟨b⟩|2 を求めることで、近藤共鳴準位のエネル ギー準位ε˜とトンネル結合V˜α,j を得る。これらくり込まれたパラメータのもとでハミルト
ニアン(3.25)から、近藤効果による電気伝導度を求める。このとき、近藤共鳴準位の線幅Γ˜
によって近藤温度が見積もられる [60]。
3.4.2 近藤効果による電気伝導度
リードが3本の場合について、近藤共鳴準位を介した電気伝導度を議論する。平均場のハ ミルトニアン(3.25)が自由電子のハミルトニアンと数学的に同じ形であることから、自由エ ネルギー(3.29)が極小となるε˜、|⟨b⟩|2を数値的に求め、くり込まれたパラメータを(3.15) 式に適用することで近藤効果による電気伝導度が得られる*8。
図3.5は量子ドットの平均準位ε¯をFermiエネルギーεF から下げていった(図中で右か ら左へ)ときのスピン依存電気伝導度G1,±とスピン偏極電流[∝(G1,+−G1,−)]である。パ ラメータは図3.2で用いたものと同じである。図3.5(a) において、2端子の状況(ΓD2 = 0) では、G1,+ =G1,− である。量子ドットの準位をε¯をFermiエネルギーから下げていくと、
電気伝導度はe2/hを単位としてG1,±/(e2/h)≃0から≃1 にまで急激に立ち上がる。これ らの領域はそれぞれ電荷揺動領域と近藤領域を示している。ΓD2 ̸= 0の場合、近藤領域に入 り始めるあたりでスピン偏極電流が得られている。さらにε¯を下げていくと、G1,+ ≈G1,− となり、スピン偏極電流は得られなくなる。これは、近藤共鳴準位が形成され始める領域で は近藤温度が大きく、SU(4)近藤領域(∆ < TKで条件2. を満たす)となっているが、ε¯が 下がるにつれて共鳴準位が鋭くなり、SU(2)近藤領域(∆> TK) となるためである。以上の 振る舞いは準位間隔∆が大きい場合でも定性的に変わらない[図3.5(b)]。
図3.5(c)、(d)を見ると、ε¯に対するSU(4)からSU(2)近藤効果へのクロスオーバーを反 映してスピン偏極電流がピークの振る舞いを示している。リード D2へのトンネル結合を 徐々に強くしていくと、ピークの高さは初めに増加し、あるΓD2 で最大となる[ΓD2 = Γ、 図(a)、(b)の線ivの場合]。さらに結合を強くすると、ピークは小さくなっていく。この振 る舞いは条件4. と一致する。