石附 かおり 1. はじめに
私は昔から人の家を見るのが好きだった。そのため、今回の実習調査では、城端独自 の家屋について関心を持ち、家屋の構造をテーマに調査をおこなった。ただし、調査を 始めてみると、同じ城端であっても田畑に囲まれた農村部(「里」)と江戸時代から絹織 物生産や商業で栄えた町部(旧町)とでは、ずいぶんと家のつくりが異なっていること がわかった。そこで、農村部と町部のそれぞれで一軒一軒民家を訪問し、観察と聞き取 り調査をおこなった。主に聞いて回った事としては、家の間取りがどのような構造にな っているのか、住んでいる人は住み心地をどのように感じているのかなどについてであ る。この章では、聞き取りと観察から得られたデータをもとにして、農村部と町部の家 屋の構造の違いや居住者の家屋に対する認識について報告する。
2. 調査地の概要
まず農村地域の家屋の調査地として、是安
これやす
という地域を選んだ。是安は城端駅の北に 位置し、東に山田川が流れ、西には県道城端福野線が通る(図 1)。調査時点で人口は 男性150人、女性155人の計305人、世帯数は87世帯であり、ほとんどの世帯が農業 を営んでいる。是安では、家屋が水田を挟んで点在し、家屋は広い敷地の中にある。
図1. 是安の位置
次に、町部の家屋の調査は、主に西新田町でおこなった。西新田西新田町はいわゆる
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「町屋造り」(後述)の家が立ち並び、農村部とは対照的に家と家とが隣接している。
西新田町の人口は、調査時点で男性180人、女性205人の計385人、世帯数は141世 帯である。ただし、西新田町の調査だけでは十分なデータが得られなかったために、周 辺の東上町、東下町、東新田町、大工町などの家々についても調査をおこなった(図2)。 これらの地域も、西新田町と同じく、家屋が隣り合っている。ただし、東新田町では西 新田町に比べて横幅が広い家がいくつか見られた。
図2. 町部の各町
3. 農村部の家屋
3-1. 農村部の家屋の概要
まず、農村部の家屋について紹介する。是安は、各家との間に水田があり、また家が 広い敷地の中に建てられているため、各家が離れて建っている散居村となっている。図 3に示したように、敷地の中には、家の他に、蔵、納屋、畑などがある家が多い。是安 では農業を営んでいる世帯がほとんどであるが、納屋には農作業用具が置かれている。
蔵は、住民によると、昔の座布団などが入っているそうで、普段は使わないものをしま
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っている。また、ほとんどの家が西を向いて建てられている。農村部で調査した家屋は 1961年から1980年までに建てられた家が多く、もっとも古い家は築約160年、新し い家は築約20年であった。どの家も、何回か改築増築をして今に至っている。改築は、
トイレの水洗化や、台所、風呂、居間、天井、玄関など、主に生活に直接に関わる場所 で行われている。写真1は家の外観である。
築年数 建てられた年 戸数 20年以下 1991年〜 1 21年〜30年 1981年〜1990年 0 31年〜40年 1971年〜1980年 4 41年〜50年 1961年〜1970年 3 51年〜60年 1951年〜1960年 2 61年〜70年 1941年〜1950年 3 71年〜80年 1931年〜1940年 0 81年〜90年 1921年〜1930年 2 90年以上 1920年以前 2
納屋 家
蔵
畑
道路
図3. 敷地の中の建物の例 表1. 農村部の家の築年数
154 3-2. 間取りについて
是安で家屋の調査を続けていると、多くの家屋に共通する部屋や間取りが見られた。
図2で示したのは、是安で多く見られた一階の間取りの例である。一階には10部屋か ら12部屋ある。大まかに間取りを説明すると、まず玄関から入ってすぐ正面に廊下が 伸びている。その廊下の左手側には広い畳の部屋がいくつかつながってある。そして、
廊下の右手と突き当りには、台所や風呂や居間など、日常生活で使う部屋となっている。
また奥にはウラ玄関があり、ちょっとした畑仕事の際ははウラ玄関から出入りする。ト イレは玄関から入ってのすぐ右手側にある家が多い。また、嫁いできたときに与えられ る部屋が仏間の後ろの部屋だったという家も何軒かあった。二階には2部屋から4部屋 があり、寝室や、物置、子ども部屋などの部屋として使われている。昔は二階には部屋 はなく、「アマ」と呼ばれ、わらやまきを置いておく物置の空間になっていた。現在で はそれを改築して、部屋にした家が多い。次からは、農村の家屋の特徴的な部屋につい て詳しく見ていく。
写真1. 農村部の家屋
155 3-3. 特徴的な部屋
3-3-1. 座敷、広間、玄関
まず、是安の家屋の特徴として挙げられるのは、図4で分かるように、玄関から入 って左側に広い畳の部屋が二つから四つ並んでいることである。まず、「広間」と呼 ばれる8畳から15畳の部屋がひとつあり、その横に二つ8畳から12 畳の「座敷」
と呼ばれる部屋がある。座敷は玄関側に近い方がクチノザシキやクチザシキ、その奥 にある方がオクザシキと呼ばれている。この広間、座敷の部分は家によっていくつか のばらつきがある。図 5で示しているように、広間がなくそのかわりにクチザシキ、
オクザシキが二つずつある家や、座敷が二つではなく、広い座敷が一つだけという家 などである。座敷と広間は繋がっており、戸を外すと一つの広い部屋として使うこと ができる。この部屋は、結婚式やお葬式や地域の寄り合いなど、何かものごとがあり 大勢の人が集まるときに使っていた。しかし、最近は結婚式や葬式を自宅でおこなう ことが少なくなったため、大勢の人が集まる部屋として使われることは少なくなった と言う。また、神棚や仏壇が置かれているのもこの空間である。神棚は広間か、広間 と呼ばれていない部屋でも、玄関にもっとも近い畳の部屋の角に置かれていることが
広間
⑧~⑮ 座敷
⑧〜⑫ 座敷
⑧〜⑫
④ 〜
⑥
④ 〜
⑥
④
〜
⑥ 控えの間
⑥〜⑧
玄関 トイレ 若 夫 婦 の 部
屋
ウ ラ 玄関
図4. 農村部の家の間取りの例
○数字は畳数
台所、お風呂、居間、寝室など
玄関になる場所
東
西
南 北
仏
神
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多い。仏壇はオクザシキに置かれていることが多い。また、これは町部も同じなのだ が、神棚の上は歩けないようになっており、二階があっても神棚の上にあたる場所は 人が通れないようになっている。
3-3-2. 広間につながる玄関
図4に示しているが、農村の家屋は玄関の横にもうひとつ玄関になる場所がある。こ こは普段は戸が入っているが、戸を外せば外から直接広間や座敷へ上がれる仕組みにな っている。これは、先に触れた広間や座敷で法事や結婚式などを行う際に多くの人が出 入りできるためのものである。現在では、この玄関も使われなくなり、普段戸は閉まっ ている。写真2のポストがある玄関脇の木が立てかけられている部分がそうである。
写真2. 広間につながる玄関 3-3-3. 控えの間
是安の多くの家屋で見られたのが、控えの間と呼ばれる部屋である(図4参照)。こ
広間
⑮ 座敷
仏 ⑫
⑥
⑥
⑥
⑥ 仏
神 オクザシキ
クチザシキ
図5. 座敷、広間の並びの例
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れは座敷の奥に繋がっているか、あるいは座敷と廊下を挟んで向かい合う場所にある。
6畳から8畳ほどの部屋で、床の間がついていることが多い。この部屋は、法事の際な どに来訪した僧侶が休憩する場として使われている。
3-3-4. オモテエン
控えの間の下で、座敷の隣には同じ大きさの部屋が三つ並んでおり、子ども部屋や寝 室として利用するか、または物置として使われていた。昔は、客を泊めるのに使うこと もあったと言う。また3つ並ぶ部屋の一番奥の部屋を控えの間としている家もある。こ の同じ大きさの部屋が3つ並ぶ造りは、控えの間ほど多くの家では見られない。この部 屋がない家は、部屋にあたる場所が縁側となっている場合が多い。また、以前はあった が改築した際になくしたという家もある。この場所は「オモテエン」と呼ばれる。また この部屋の上に位置する屋根は「ギア」と呼ばれる。
3-3-5. アマ
先にも述べたが、昔は二階を人がいるための部屋として使わず、わらやまきなどを置 くスペースとして使っていた。その場所をアマという。昔は納屋がなく、またあっても 小さかったために家の二階を利用したと考えられる。今では、改築され二階は普通の部 屋となっている家がほとんどだが、まだ二階の一部がアマの状態で残っている家もある。
3-4. 居住者の認識
ここまで農村部の家屋について、その間取りや部屋について記述してきたが、実際に 住んでいる住民は家屋をどのように感じているだろうか。ある60代の男性は「何回忌 などの法事以外では特に座敷、広間などは使わない。広いと掃除が大変」と語る。また、
70 代の女性は「今は(家で)ものごとを全然しない。こんな大きな家より小さい家が いい」と話す。現在では、使わない部屋が多く、広すぎる家を維持するのが大変な様子 がうかがえる。一方で、60 代女性の「不便ということはないけど、住んでいて快適だ ということもない。こんなもんだなと住みなれている」という語りや、70代女性が「不 便は特にない。昔から田舎に生まれたもんで百姓だから(住む所は)変われん」と話し ていたように、特に不便さや快適さを感じることなく、住みなれている今の我が家を当 たり前として受け入れている語りもあった。
3-5. 農村部の家のまとめ
是安の家屋は、南側に座敷、広間、控えの間、オモテエンといった普段の生活では特 に使うことはなく、人が集まる場、外と交流する非日常的な空間がある。また仏壇や神 棚が置かれていることから、家屋の中では神聖な場所だともいえる。一方、北側には台 所やお風呂、居間など、家族の日常的な生活空間となっている。このように家の中に、
外と交流するための空間と、住民が住まうための空間の二つに分かれているのが、是安