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輝度勾配方向ヒストグラムの作成

第 4 章 輝度勾配方向ヒストグラムを利用した放射歪の自動補正 26

4.2 輝度勾配方向ヒストグラムの作成

まずはじめに輝度勾配について説明する.輝度勾配とは画像の濃淡の変化のこ とであり,輝度勾配の大きな箇所がエッジ(輪郭)と呼ばれ,画像中の何らかの構 造を反映していることが多い.輝度勾配は図4.2のようなエッジ検出オペレータを 画像に適用することで求めることができる.図4.2に示す以外にも様々な種類の エッジ検出オペレータが提案されているが,ここでは計算コストの面から最も単 純な3× 3の差分オペレータを用いて輝度勾配を求めるものとする.

輝度勾配方向ヒストグラムを計算するために,まず輝度勾配を求める.画像I の座標(x, y)におけるx方向,y方向の輝度勾配を(∂I∂x∂I

∂y)とすると輝度勾配は式

(4.1)で表される.なお,本研究では式(4.1)の計算を行う前に画像全体にガウシア

ンフィルタ(式(4.2))を適用しノイズの除去をしておくものとする.これによりノ イズに起因するエッジ成分の除去ができ,より正確な輝度勾配方向ヒストグラム

4.2. 輝度勾配方向ヒストグラムの作成 29 の作成が可能となる.

∂I

∂x = I(x+ 1, y)−I(x−1, y)

∂I

∂y = I(x, y+ 1)−I(x, y−1)

(I(x, y) : 座標(x, y)における輝度値) (4.1)

G(x, y) = 1

2πσ2ex2+y

2 2

σ : ガウス関数の分散 (4.2) 輝度勾配強度m(x, y),および輝度勾配方向θ(x, y)は輝度勾配Fx(x, y),Fy(x, y)

から式(4.3)によって求めることが可能である.ここで輝度勾配強度とはエッジの

強さのことで値が大きいほど明瞭なエッジであることを表している.また,輝度勾 配方向はエッジの向きを表しており,提案手法では式(4.3)で求める輝度勾配方向 からヒストグラムを作成し,歪の大きさを推測する.ここでは輝度勾配方向θ(x, y) の範囲は0 ≤θ <180とした.

m(x, y) =

√ (∂I

∂x)2+ (∂I

∂y)2 θ(x, y) = tan1

∂I

∂x

∂I

∂y

if180) : θ =θ−180 (4.3)

式(4.3)に従って,画像全体の輝度勾配方向を計算し,方向ごとに色分けした例

を図4.3に示す.左上が歪なしの画像,右上が歪画像,左下が歪なしの画像の輝度 勾配方向を色分けしたもの,右下が歪画像の輝度勾配方向を色分けしたものであ る.図に示してあるとおり,輝度勾配方向が0(180)付近では赤,90付近では水 色となるように色分けをしている.この画像から放射歪による直線の変形が確認 できる.それぞれの画像を比べると,例えば画像上部に写っている高架では,歪 なしの画像では赤色で色分けされており輝度勾配方向が0で付近で揃っているが,

歪画像では黄色や紫など様々な色が含まれており,輝度勾配方向が放射歪により 大きく変化していることが確認できる.

次に,画像中の各画素の輝度勾配方向からヒストグラムh(i)を作成する.ここ では明瞭なエッジ(輝度勾配強度の大きいエッジ)の影響を顕著にするために,輝 度勾配強度m(x, y)で重み付けをしたヒストグラムとする.具体的には式(4.4)に 示すように,ヒストグラムの各ビンを単純に1ずつ増加させるのではなく各画素 の輝度勾配強度分増加させている.

図 4.3: 勾配方向に対応した色分け(上:元画像,下:勾配方向による色分け処理 を行った画像)

h(i) =

x,yI

{δ(i,⌊θ(x, y)

180 l⌋)m(x, y)} h(i) : i番目のビン

l : ビンの数

δ : クロネッカーのデルタ関数

I : 入力画像 (4.4)

輝度勾配方向ヒストグラムを作成する上で,ビンの数の設定は重要となってく る.ここではヒストグラムのビンの数を変更させながら提案するアルゴリズムを 実行し実験的に最良の結果となるビンの数を求めた.最も良い結果が得られたの

l = 360のときである.ヒストグラムのビンの数が少ない時には輝度勾配方向の

小さな変化に対応できないため細かな歪推定が行えず,ビンの数が多すぎるとヒ ストグラムに明確なピークが現れにくくなるためやはり良好な歪推定の結果は得 られなかった.したがって本論文においては輝度勾配方向ヒストグラムのビンの 数はl = 360として設定する.

ここで,本研究で対象とする放射歪の特性について考える.式(2.6)に示す通 り放射歪は画像の中心から半径方向へ向かう座標変換であるため,画像の中心へ 向かう方向の輝度勾配は歪による影響を受けず,その勾配方向が変化しない.図 4.4の左側は画像中心に向かう直線を人工的に作成した画像,右側はその画像に式

4.2. 輝度勾配方向ヒストグラムの作成 31 (2.14)を適用し人為的に歪(κ1 = 3.0×105κ2 = 3.0×109)を付加した画像であ る.画像を見れば分かる通り,歪による直線が曲線に変化するといった現象は見 られない.

図 4.4: 放射歪に影響されないエッジの例

そこで,式(4.4)に従い輝度勾配方向ヒストグラムを作成する際にこのような方 向を持つ輝度勾配を除去することによって,より明確なピークを持つヒストグラム が作成され,歪パラメータ推定の精度が向上される事が期待される.実際のシー ンにおいては図4.5に示すように道路の白線などが放射歪により輝度勾配方向の変 化しない例として挙げられる.図4.5は左から歪画像,適切に補正された画像,過 剰に補正された画像であるが,道路の白線に注目するとそのエッジ方向はほとん ど変化していないことが確認できる(図中に引いたそれぞれの赤い線,青い線は平 行である).

図 4.5: 実環境における放射歪に影響されないエッジの例

さらに,実環境中における人工物の持つ直線の方向に注目する.建物や看板,電 柱,横断歩道,など自動車を走行中の風景に多く見られる人工物は垂直または水 平方向の直線で構成されている事が多い.そこで,これらの方向を持つエッジに 重みを加えることによって街路樹や雲など様々な輝度勾配方向を持つ自然物によ る影響の軽減が期待でき,信頼性の高い推定結果が得られると考えられる.実際

には式(4.5)のような重み関数W(θ)を設定し,式(4.6)のように輝度勾配強度に 乗じている.本研究ではα= 3として輝度勾配方向ヒストグラムの作成を行った.

なお,重み関数にはsin型,直線型など様々な形の関数を検討したが,0,90

,180付近で大きな変化が現れる2次関数型の重み関数において最も精度の高いパ ラメータが推定されたため,式(4.5)の形に決定した.

W(θ) =

{α(θ4545)2+ 1 (0≤θ <90)

α(θ45135)2 + 1 (90≤θ <180) (4.5)

h(i) =

x,yI

{δ(i,⌊θ(x, y)

180 l⌋)m(x, y)W(θ)} (4.6) また,提案手法では輝度勾配方向ヒストグラムのエントロピーを利用して歪パ ラメータを推定するため,各ビンの総和が1となるように正規化を行っている(式

(4.7)).これによって,輝度勾配方向ヒストグラムを確率分布として扱うことが可

能となる.

h(i) = 1 S

x,yI

{δ(i,⌊θ(x, y)

180 l⌋)m(x, y)W(θ)}

S = ∑

x,yI

m(x, y)W(θ) (4.7)

この確率分布のエントロピーeは式(4.8)から求めることが可能である.

e =

l i=0

(−h(i) log2h(i))

(4.8)

以上の式(4.7),(4.8)に基づき,図4.1の歪なし画像と歪画像の輝度勾配方向ヒ

ストグラムを作成した例を図4.6示す.青いヒストグラムが歪なし画像,赤いヒス トグラムが歪画像のものである.また,これらのヒストグラムのエントロピーは 歪なし画像が3.803,歪画像が3.966となっており,放射歪により輝度勾配方向ヒ ストグラムのエントロピーが大きな値となっている事が確認できる.なお,本研 究ではヒストグラムのビンの数を360と設定しているが,図4.6の例では目視で比 較がしやすいようにヒストグラムのビンの数を36と設定して作成したものである.