第 5 章 歪パラメータ推定能力の評価 42
5.2 車載カメラ画像を用いた歪パラメータの推定
前節において,提案する手法が理想的な画像に対して十分な歪パラメータの推 定能力を持つことを示したが,本節では実際の放射歪を含むカメラで撮影した画 像に対する歪パラメータの推定能力について評価する.以下,カメラで撮影され た画像を用いた歪パラメータの推定実験について述べる.カメラを自動車に取り 付け撮影した走行中の風景画像153枚を実験画像として使用した.使用したカメ ラなどの撮影条件については表5.5に示す.実験ではスマートフォンをカメラとし て使用し,携帯電話用レンズを装着したものをスマートフォンホルダーに取り付 け,自動車のフロントガラスに設置した.携帯電話用レンズを装着したカメラの 外観を図5.4に示す.
表 5.5: 撮影条件
カメラ REGZA Phone IS04(富士通社)
レンズ KSW-1(イザワオプト社)
画角 約111.5度(実測)
設置高 約1400mm
俯角 0度
解像度 640×360∗1 撮影枚数 153枚 ∗2
∗1解像度1280×720で撮影された画像を双三次補間で縮小
∗2信号で停車中などの画像は除かれている
以上の実験装置を用いて撮影された風景画像の例を図5.5に示す.画像の端の方 で大きな放射歪が発生していることが確認できる.また,画像の下端付近で車の ダッシュボードが確認されるが,本実験ではその部分を省いた範囲で輝度勾配方 向ヒストグラムを作成し歪パラメータの推定を行った.
本実験では実際のカメラから得られた歪画像を使用しているため,歪パラメータ の正解値は未知である.そこで,まずはじめに図5.6(左)のようにチェッカーボー ドを同じカメラで撮影し,提案手法で歪パラメータの推定を行った結果(κ1, κ2) = (3.2×10−6,2.9×10−11)を正解値として採用した.チェッカーボードには水平およ び垂直方向のエッジ成分が多く含まれているため本手法での仮定が理想的に満た
5.2. 車載カメラ画像を用いた歪パラメータの推定 47
図 5.4: 撮影に使用したカメラ
図 5.5: データセットの例
される事になる.ここから得た結果を正解にして差し支えないと考えられる.ま た,この正解値でチェッカーボードの歪補正を行なった結果が図5.6(右)であるが,
目視で確認する限り正しく歪補正が行えていることがわかる.したがって,本実 験で得られた結果はチェッカーボードを撮影し推定された歪パラメータ(κ1, κ2)と 比較するものとする.
5.1節と同様に歪パラメータの推定を行った結果を図5.7,表5.6に示す.図5.7 が粗い探索の結果を2次元ヒストグラムで表したものである.表5.6の各項目の意
味は表5.3,5.4に等しい.また実験に使用したコンピュータは5.1節と同様のもの
で,表5.2に示すとおりである.
図 5.6: チェッカーボード(左:撮影画像,右:正解値で補正)
図 5.7: 粗いパラメータ推定の結果
表 5.6: 歪パラメータの推定結果
Estimation Ground Truth κ1 3.0×10−6 3.2×10−6 κ2 3.9×10−11 2.9×10−11 Error Distance 8.870px –
Nearest Truth 31.4% –
Time(average) 153.23sec –
5.2. 車載カメラ画像を用いた歪パラメータの推定 49 正解値付近の歪パラメータが得られた画像の枚数についてであるが,31.4%とい
うことで48/153枚の画像で適切に歪パラメータの推定が行われていることが分か
る.これは前節の結果とほぼ同等の割合であり,信頼性の高い結果であることが 伺える.正解値付近の歪パラメータが得られた画像の例を図5.8に,正解値と大き く異なる結果となった画像の例を図5.9に示す.図5.8の例には画像端の方に直線 で構成される構造物が写っており,これらの構造物を利用して適切に歪パラメー タの推定が行えていることが確認できる.また図5.9の例では道路の車線が広く画 像の両端に構造物が十分写っていないものや,構造物が陰に入り暗くなってしま い利用できないものなどが見られる.しかしながら全体を通してみると十分な枚 数の画像で適切な歪パラメータの推定ができており,このような本手法の仮定が 有効でない画像の影響を受けていない事が分かる.
図 5.8: 提案手法が有効である画像例
図 5.9: 提案手法が有効でない画像例
表のError Distanceの項目を見ると8.87画素とやや大きな値となっている事が
確認できる.これの原因として1つにはカメラの中心と光学中心のずれが考えら れる.ここで使用した携帯電話用のレンズは取り付けが簡易で正確にカメラ中心 と光学中心を一致させることが困難である.そのため,歪のモデルを本論文の対 象としている放射歪モデルとして厳密に扱うことができず正確な歪パラメータの 推定が行えなかったのではないかと考えられる.また,画像のぼけなども考えら れる.本実験では安価なレンズを使用しているため画像の端の方において強くぼ やけてしまっている.これは図5.5や図5.6などで確認ができる.ここで使用して いるデータセットは道路を走行している自動車から撮影した風景画像であり,本 手法で利用可能な建物や看板などは画像の端の方に写ることが多い.本実験にお
いては,それらの写っている部分がぼやけてしまったために正解値からやや外れ た結果となってしまっているのではないかと推測される.
しかし実際に走行中の自動車から撮影された風景画像を用いて推定した歪パラ メータでチェッカーボード画像を補正した結果と正解値の歪パラメータで補正を 行った結果を比較すると,目視によっては両者の差異はほとんど感じられない.そ れぞれの画像は図5.10に示す通りである.また,推定した歪パラメータで風景画 像を補正した例が図5.11であるが,こちらも違和感なく補正されていることが確 認できる.
以上では1種類だけのカメラで実験を行ってきたが,提案手法の汎用性を確認 するためには更に多くの種類のカメラで歪パラメータの推定を行う必要がある.
図 5.10: チェッカーボードの歪補正(左:推定値で補正,右:正解値で補正)
図 5.11: 風景画像の歪補正