SCT検出器で高品質なデータを取得するためには、モジュールを常に低ノイズかつ高検出 効率に保たなくてはならない。それぞれに対する要求値は、ノイズ占有率<5×10−4 と検出 効率> 99 %である。ノイズ占有率は1ストリップ当たりの全検出イベント数に対するノイズ によるヒット数の割合で、検出効率は荷電粒子がセンサーを通過したときに信号検出する効 率である。SCT検出器の較正(キャリブレーション)はモジュールの設定を最適化し、全モ ジュールがこれらの要求値を満たすように行う。また、収集したデータを再構成する際にモ ジュール情報をフィードバックするためにも重要である。そこで、データ収集を行っている 期間ではSCT検出器のキャリブレーションは定期的に実施し、問題が発生した時やATLAS 検出器全体でキャリブレーションを行える時間がある時はその都度行う。この節では、SCT 検出器のキャリブレーションの流れとその内容、キャリブレーションの結果得られたデータ を保持するデータベースについて記述する。
3.3.1 キャリブレーションの流れ
SCT検出器のモジュールのキャリブレーションは全てSCT GUIと呼ばれるインターフェ イスを通して行う。SCT GUIは、SCT全モジュールのステータスをモニターし、異常のあ るモジュールに対してキャリブレーション操作をすぐに実行することができる。モジュール のキャリブレーションでは主に、モジュールとBOC間の光ファイバープラグインの調整、
ASICの調整を行う。以下に続く小節でそれぞれの項目について詳細に説明する。
光ファイバープラグインの調整
3.2.5節でも解説したように、SCTの各モジュールは光ファイバーでBOCに接続され、そ
れを通してデータ及びクロック信号・コントロール信号の送受信が行われる。BOC上には、
モジュールへ送るクロック・コントロール信号を光信号に変換するTXプラグインとモジュー ルから送られてきた光データを電気信号に変換するRXプラグインがある。これらの光ファ イバーのプラグインに異常があるとSCTから信号を受け取ることもモジュールに対し命令を 送ることもできない。そのため、TX・RXプラグインの調整をキャリブレーションにおいて 第一に行う。
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第3. シリコン飛跡検出器 3.3. 較正
ここで調整するのは、TX電流, Mark Space Ratio(MSR), RXスレッショルド, RX Delay の4つの量である。TX電流はファイバー中の光の強度を、MSRはクロックのデューティー 比を決定する量である。RXスレッショルドとRX Delayの調整は各々の量のスキャンを通し て同時に行われ、最も安定的に動作できる値を決定する。
ゲイン・ノイズの測定
3.2.5節でも説明したように、SCT検出器の読み出しに使用するABCD3TAチップは、図
3.10に示すようにモジュールストリップから来た信号を増幅、整形した上でコンパレータに 入れ、デジタル信号に変換する。キャリブレーションでは、ABCD3TAチップにテスト電荷 を入力して各チャンネルのゲインとノイズを測定する。
図3.10: ASIC内の構造。モジュールストリップから来た信号を増幅整形し、コンパレータで
デジタル信号に変換する。
ゲインとノイズの測定は、図3.10のテスト入力電荷と書かれた部分からテスト電荷を入力 することで測定する。あるテスト入力電荷に対してコンパレータのスレッショルド電圧Vth
を変化させていくと、図3.11の右図に示すような検出効率の変化が得られる。これをSカー ブと呼ぶ。Sカーブ上で、検出効率が50 %になるときの電圧をvt50とする。コンパレータ への入力電圧にガウス分布に従うノイズが乗っていると仮定すると、コンパレータ出力は1 か0のバイナリ読み出しなので、Sカーブは以下に示す関数 fcurve(x)で表すことができる。
fcurve(x)=
∫ ∞
Vth
√1
2πσexp−(x−x0)2 (√
2σ)2 dx (3.1)
x0 はコンパレータへの入力波高の平均値、σ は出力ノイズである。S カーブをこの関数で フィットすることにより、出力ノイズとvt50を得る。同様の操作を、0.5から8 fCのテスト 入力電荷で行う。その測定から、図3.12に示すように横軸を入力電荷、縦軸をvt50とすれば ゲインが得られる。先に得た出力ノイズ(単位: [mV])をこのゲイン(単位: [mV/fC])で割 れば、等価雑音電荷(ENC : Equivalent Noise Charge)に換算した入力ノイズを得ることがで きる。等価雑音電荷は、ノイズを電荷量で表したものである。
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第3. シリコン飛跡検出器 3.3. 較正
図3.11: Sカーブ測定。あるテスト入力電荷に対してスレッショルド電圧を変化させていき、
Sカーブを得る(左図)。Sカーブのフィットから出力ノイズとvt50を得る(右図)。
図3.12: ゲインの測定。左図は、0.5 fCから8 fCのテスト入力電荷に対するコンパレータ入
力前の波形。これらについてvt50を求め、右図を得る。図では4点描いているが、通常は3 もしくは10点の異なる入力電荷でのvt50を測定しゲインを得る。
3.3.2 キャリブレーションデータベース
キャリブレーションの結果得られたモジュールの状況や情報はデータベース上に保存され る。保存される情報は、ノイズが大きく使用できないストリップのリスト・ノイズ情報・印 加電圧とリーク電流・温度などである。キャリブレーションの情報が保存されるデータベー スは、自動更新のSCTキャリブレーションデータベースと手動更新のコンディションデータ ベース(COOL)の2種類ある。COOLにアップロードされた情報は、データ収集時のSCT 検出器の設定の参照として、また取得データを再構成する際に検出器情報をフィードバック するために使用される。
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第3. シリコン飛跡検出器 3.4. SCT検出器におけるアップグレード