第 7 章 本研究の結論と意義
1. 本研究のリサーチクエスチョンに対する回答
1.3. 資源の利用経験が組織内外の資源のモデレート効果に与える影響
最後に、第三のリサーチクエスチョンとして、「産業内多角化と業績の関係性に企業内 外の資源とその資源の利用経験はどのような効果を与えるのか」を提示した。
戦略的資源と業績の関係性に関する研究では、経営者が資源を効果的に活用することの 重要性を実証している(Hansen et al., 2004; Mahoney and Pandian, 1992; Sirmon et al., 2007)。す
なわち希少な資源を持っているだけでは価値を産み出せず、資源を適切に活用できる能力 があって初めて価値を生み出すことができるため(Penrose, 1959)、資源を適切に活用する組 織能力の重要性も問われるのである。実際に、企業の成功には組織戦略と組織構造、プロ セスのフィットが重要であるとの指摘もされている(Nadler and Tushman, 1980; Porter, 1996)。価値のある希少な資源と組織能力を組み合わせることで、企業に競争優位をもたら すとともに、企業戦略の効果を向上させ、他社が模倣困難な独自の戦略を打ち出すことが できるようになるのである(Dyer and Singh, 1998; Eisenhardt and Schoonhoven, 1996)。言いか えれば、たとえ希少な資源を企業が所有している場合でも、その資源を有効活用できない あるいは活用していない状況においては、価値を産み出すことができないのである
(Penrose, 1959)。そのため、資源自体の価値よりも、資源を有効活用できるような組織能力
の方が、重要となる場合も存在する(Alchian and Demsetz, 1972)。このように、資源と組織 能力を適切に組み合わせることで、企業は資源を効果的に製品・サービスに変換すること ができるのである(Hansen et al., 2004; Sirmon et al., 2007)。
特にサービス業においては、企業の競争優位を築き上げる能力は個人の能力に強く依存 しており、資源とそれを運用する人材の能力が重要となる。何故なら、サービス業では戦 略的資源の多くは無形資源であるため、その価値を十全に発揮させるためには、資源を活 用する人材の、資源の継続的な利用(continuum)による知識・経験の蓄積が重要となるから である(Nonaka and Krogh, 2009)。
こうした資源と組織能力の組み合わせの重要性は産業内多角化研究でも指摘されてい る。Wu(2013)の研究では、企業の能力を複数市場で同時に活用可能なスケールフリーな能 力(例えば、知識、ブランド、企業の評判など)と複数市場で同時に活用不可能なノンスケ ールフリーな能力(例えば、効果的な製品開発チーム、経営管理能力など)とに区別し、そ れぞれの資源が産業内多角化に与える影響について分析を行っている。スケールフリーな 能力が複数の市場で同時に活用可能なのに対し、ノンスケールフリーな能力は同時に活用 することができない。そのため、企業を取り巻く外部環境や市場の変化に応じて、組織内 で適切に配分し直すことが重要となる(Capron, 1999; Helfat and Eisenhardt, 2004)。特に、類 似性の高い製品・市場分野への多角化である産業内多角化では、製品間での資源配分を活 用できる機会はより多くなるため(Jones and Hill, 1988)、資源配分が重要であるとされてい る。
ただし、Wu(2013)の研究では、企業の能力をスケールフリーとノンスケールフリーに分 けて分析を行っているが、それぞれ個別の業績への効果のみに言及しており、その組み合 わせに関しては考慮されていない。しかし、企業が新たな戦略を実行する際には、希少な 資源とそれを有効に活用する組織能力は同時的に発生するため、相互に強く影響している ことが推測される。そのため、第四章と第五章では企業内外の資源の産業内多角化と業績 への影響を分析してきたが、それらの資源単体の影響ではなく、実際に活用する組織能力 との組み合わせを分析することが重要であるため、上記のリサーチクエスチョン3を導出 したのである。
第三のリサーチクエスチョンに対し、第6章では日本のコンシューマゲーム産業を対象 に、産業内多角化と業績の負の関係性に組織内資源と組織間資源がどちらも産業内多角化 と業績の負の関係性を低減することを実証した。さらに、その低減効果はディレクターの 内部資源の多重利用経験で異なることが実証された。すなわち、ディレクターの内部資源 の多重利用経験が少ない場合には、産業内多角化と組織外資源の交互作用が組織外資源の 低減効果を強め、ディレクターの内部資源の多重利用経験が多い場合には、産業内多角化 と組織内資源の交互作用が組織内資源の低減効果を強めことを実証した。この分析結果か ら以下の知見が得られた。
第一に、組織内・組織外の資源の多重利用はいずれも産業内多角化と業績との関係性に 正の効果をもたらす点である。これは、内部資源を多重利用することで、その資源に対す る形式知だけではなく、暗黙的な知識や経験などを醸成することができ、それが資源の効 果的な活用に繋がるのである(Nonaka, 1994; Nonaka, Umemoto, and Senoo, 1996)。また、自 社の苦手とするような分野に関して、自社と異なる外部資源を補完的に組み合わせること で、より製品の価値を高めることができるのである(Granovetter, 1985; Harrison et al.,
2001)。また、他社とのやり取りを重ねることで、外部資源の活用にかかる取引コスト・調
整コストの低下(Ring and Van de Ven, 1994)から、効率的に作業を進めることができるから であると推測される。
第二に、資源と能力と適切な組み合わせが重要であることを実証した。個人の資源の利 用経験の有無によって組織内・組織間の資源との交互作用の効果が異なるのである。具体 的には、内部キャラクターを用いた開発経験のあるディレクターは、企業内の暗黙的な知 識を理解することで、組織内の資源をより効果的に活用することができることが実証され た。一方で、外部資源を用いた開発経験のあるディレクターは、必ずしも外部キャラクタ
ーを活用することが業績の向上に繋がるわけではなかった。むしろ、外部資源を用いた開 発経験のないあるいは少ないディレクターの方が、外部キャラクターを効果的に活用する ことができていた。