第 7 章 本研究の結論と意義
3. 実務的貢献
本研究の分析結果から得られた発見事実は、実際の実務に対してもいくつかの提言を与 えることができる。以下には、各章の分析結果から得られた実務的貢献を記す。
第 4 章の分析結果は、企業が産業内多角化の戦略を決定する際の所持すべき資格の多様 性に関して実務的な示唆を与えた。すなわち、企業は自社の産業内多角化の程度に応じて資 格の多様性を変化させることで業績が向上することを示唆している。情報サービス産業に おいて産業内多角化の程度が低い場合には、資格の多様性が低い方が特定の資格に注力す ることが肝要であった。何故ならば、特定の資格に注力することで人数も揃えやすいため、
仕事の受注にも繋がりやすく、業績は高くなりやすい。逆に資格の多様性が高くてもその資
格を活かしきることができず、各資格の人数の絶対数が少ないために仕事を受注できない 可能性が高くなり、業績は低くなりやすい。そのため、産業内多角化が低い時には特定の資 格に集中し、資格の多様性が高いほど業績が高くなる産業内多角化の水準(0.34)を超えると ころに達した段階で、多様な資格を保持するようにすることで範囲の経済の恩恵を得るこ とができるようになり、売上高成長率を効果的に高めることができるだろう。
ただし企業の産業内多角化の程度が高くなりすぎると、資格の多様性の高低に関わらず 売上高成長率の下がり、その下がり幅には大きな違いは存在していない。すなわち資格の多 様性に関わらず産業内多角化の程度が 0.8 を超えた場合にはほとんどの企業は調整コスト の増加とユーザ企業からの不支持により売上高成長率はマイナス成長になる。
また、この0.8という数字は企業が特定のコアとなる事業分野を持たず、各事業分野で均 一に活用をしていることを意味する。例えば、企業が5つの事業分野で活動をしている場合 に一つの分野で売上高の60%を占め、残りの4つの事業分野での売上が均等(10%)な場合と、
全5つの事業分野の売上高が均等(20%ずつ)の場合のハーフィンダル指数を比較してみよう。
前者は、
1 - {(6/10)2+(1/10)2+(1/10)2+(1/10)2+(1/10)2} = 0.6 となるのに対し、後者は、
1 - {(2/10)2+(2/10)2+(2/10)2+(2/10)2+(2/10)2} = 0.8
となるように、特定の事業分野に集中している方が、ハーフィンダル指数は低くなる傾向 にあり、0.8以上の数字は企業が突出した分野を持っていないことを意味するのに近いので ある。これは、第一章で述べた選択と集中の考え方とも合致する。すなわち、企業はコアと 事業を所持したうえで、そのコア事業を活かせるような周辺領域への拡大を行うことで持 続的な成長を維持することができるのである(加護野, 2004)。産業内多角化自体は、範囲の 経済から企業の売上高成長率を向上させるため、企業成長に必要不可欠であるが、同時に産 業内で企業の核となるコア事業を持つことを意識することが重要である。
第5章では、コンシューマゲーム産業を対象に産業内多角化と業績の負の関係性を、アウ トソーシングの割合が和らげるモデレート効果を持つことを発見した。自社よりも優位な 技術・資源を所持している外部企業へのアウトソーシングは製品価値を向上させるととも に、市場への速やかな参入を可能とする(Argyres, 1996; Barney, 1986; Brown and Eisenhardt,
1997)。そのため、企業はアウトソーシングの割合を高めることで産業内多角化の失敗リス
クを低下させることができ、また市場の機会も活かしやすくなるのである。特に企業の産業
内多角化の程度が高い場合、企業は多くのプラットフォームに産業内多角化していること を意味する。多くのプラットフォームに多角化していることは市場機会の獲得というメリ ットをもたらすが、その一方で企業は各プラットフォームの規格に合わせた開発技術を獲 得するためにヒト・モノ・情報への投資が必要となり、すべてのプラットフォームに自社の みで対応し続けることは困難なのである。そのため、産業内多角化の程度が高い場合には、
アウトソーシング先が自社と比較して特定のプラットフォームでコストや能力で優位を持 っている場合にアウトソーシングを選択する方が良いのである(Jacobides and Hitt, 2005)。も しくは、自社の優位な分野と他社の優位な分野を組み合わせることで、補完的な関係を築け る場合には、企業の技術開発時のリスクや不確実性を低下させるため(Veugelers and Cassiman,
1999)、こちらもアウトソーシングを積極的に行うべきである。
逆に産業内多角化の程度が低い時、すなわち製品が単一あるいは少数のプラットフォー ムに集中している場合には、企業は内製率を高める方がよい。ただし、プラットフォームビ ジネスの特徴として、単一プラットフォームへの集中はホールドアップ問題を招きやすい ため(Hagiu, 2009)、長期的には複数プラットフォームに展開してマルチ・プラットフォーム 戦略を採ることを検討するべきである。
以上より、プラットフォームビジネスを行っている企業は、産業内多角化の程度が高い時、
すなわち多数のプラットフォームで製品を提供している場合には、積極的にアウトソーシ ングするべきである。逆に産業内多角化の程度が低い場合には内部開発を進めるべきであ るが、長期的視点では産業内多角化に程度を高め、同時並行的にアウトソーシングの割合を 高めていくべきである。
最後に、第 6 章ではプラットフォームビジネスにおける組織の利用する資源とそれを扱 う人材の最適な組み合わせに関して、示唆を与えた。第6章の分析結果から、製品開発者は 内部資源を用いた経験があるほど、その内部資源を利用した製品作りに注力させたほうが 良いと言える。何故なら、個人は内部資源を利用するほど、その資源に対する暗黙的な知識 を享受することができ、作業の質の改善(Haldin-Herrgard, 2000)や、仕事の正確性を向上させ ることができるのである(Brockmann and Anthony, 1998)。特に第6章のコナミデジタルエン タテインメントの例にもあるように、成功した製品のシリーズに関しては、引き続き同じ製 作者が作られることが多い。これには、暗黙的な知識の効果的な活用に加えて、作品の世界 観は個人の過去の知識・経験に基づくものであるため、同じ企業内の人材でも同じような作 品が必ずしも作れるわけではないのである。
逆に、内部資源を用いた開発経験のないあるいは少ない製品開発者は、組織の慣習に囚わ れることがないため、下手に内部資源に慣れさせるよりも、外部企業との接触や資源の利用 を通じて、企業の苦手な分野の補完や新しい知識の獲得を行うことで、企業への貢献を果た すことができるのである。