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第 3 章 調査対象としての情報サービス産業・コンシューマゲーム産業

2. 産業内多角化の調査対象としてのコンシューマゲーム産業

2.2. コンシューマゲーム産業の特徴

3-5:コンシューマゲーム産業におけるゲームソフト流通の流れ

出所:コンピュータエンターテインメント協会(2014)より筆者作成

※パブリッシャーがデベロッパーの機能を果たすことや、プラットフォームホルダーがパ ブリッシャーとデベロッパーの機能を果たすこともある16

前項でも述べた通り、パブリッシャーはマルチ・プラットフォーム戦略を採用している 企業が多い点が挙げられる。これは、研究開発費の高騰による開発リスクの分散や販売チ ャネルの拡大などのメリットも存在するが、それ以上にプラットフォームビジネスにおけ る問題点が関係している。コンシューマゲーム産業におけるパブリッシャーのように、プ ラットフォームに製品を提供するプラットフォームビジネスでは、特定のプラットフォー ムのみに依存するホールドアップ問題(Williamson, 1975)が存在するからである。すなわ ち、単一プラットフォームへの製品の提供は非常にリスクが高く、長期的な視点で捉えた ときに企業の生存に悪影響を及ぼす可能性が高いのである。そのため、パブリッシャーは 仮に資源・能力に余裕がない場合でも複数のプラットフォームに製品を提供する必要があ るのである。

加えて、コンシューマゲーム産業では、プラットフォームの陳腐化が非常に早い点も挙 げられる。表3-2は、1997年以降の主要なプラットフォームを示した図表である。表3-2 を見てもわかる通り、どのプラットフォームホルダーの据置型・携帯型プラットフォーム も、長くて7~8年以内に次世代のプラットフォームを開発・販売していることが伺える。

そのため、パブリッシャーは長期的に特定のプラットフォームに依存し続けることは困難 であり、次世代のプラットフォームが登場した際には、新しいプラットフォームに移行す る必要があるのである。

さらに、コンシューマゲーム産業ではハードウェア(言い換えれば、 ゲーム機)の生産と ソフトウェア(言い換えれば、 ゲームソフト)の生産との間の相互依存性が低いため(新 宅・田中・柳川, 2003)、パブリッシャーがゲームソフトを制作する際の自由度が高いこと も、多角化しやすい要因であると言える。特に、2000年代に入ってからはゲームソフトの ダウンロード販売も一般的になってきており17、パブリッシャーが直接消費者にゲームソ フトを提供することも容易になっている。

17 1980年代からダウンロード販売自体は存在していたが、追加的な機器の購入の必要性

や、容量の問題、ネットワーク整備の普及率の低さなどから一般的とは言い難かった。そ の後も2004年にマイクロソフトの「X box LIVEアーケード」、2006年に任天堂の「Wii ショッピングチャンネル」などが存在したが、これらも容量の問題から同ゲーム機の標準 的なソフトよりも低容量の専用ソフトや、過去のゲーム機で販売されたゲームソフトの販 売が主流であった。しかし、2006年から存在するソニー・コンピュータ・エンタテインメ ントの「Playstaion Store」は2007年後半に、当時最新のプラットフォームであった

PlayStation3向けの最新作の一部を直接ダウンロード版でも発売するようになった。そこ

3-2:コンシューマゲーム産業における主要なプラットフォームの販売開始年

年度 プラットフォーム名(略称)(製作会社) 斜体は携帯型ゲーム機

1997以前

・ゲームボーイ(GB)(任天堂)

・スーパーファミコン(SFC)(任天堂)

・セガサターン(SS)(セガ・エンタープライゼス)

・プレイステーション(PS)

(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)

・NINTENDO64(任天堂)

1998

・ゲームボーイカラー(GBC)(任天堂)

・ネオジオポケット(NGP)(SNK)

・ドリームキャスト(DC)(セガ・エンタープライゼス)

1999 ・ワンダースワン(WS)(バンダイ)

2000

・プレイステーション2(PS2)

(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)

・ワンダースワンカラー(WSC)(バンダイ)

2001 ・ゲームボーイアドバンス(GBA)(任天堂)

・ニンテンドーゲームキューブ(GB)(任天堂)

2002 ・Xbox(マイクロソフト)

2004

・ニンテンドーDS(DS)(任天堂)

・プレイステーション・ポータブル(PSP) (ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)

から、ダウンロード販売も増加し、2013年時点でゲームソフトの全販売本数の12%を占 めている(コンピュータエンターテインメント協会, 2014)。

2005 ・Xbox360(マイクロソフト)

2006

・プレイステーション3(PS3)

(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)

・Wii(任天堂)

2011

・ニンテンドー3DS(3DS)(任天堂)

・プレイステーション ヴィータ(Vita)

(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)

2012 ・Wii U(任天堂)

2013 ・Xbox One(マイクロソフト)

2014 ・プレイステーション4(PS4)

(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)

2017 ・Nintendo Switch(Switch)(任天堂)

出所:メディアクリエイト(2017)より筆者作成

※ただし、後継機やモデルチェンジなどの機種は除く。(例えば、ニンテンドーDSi、プレ イステーション・ポータブルgoなど)

コンシューマゲーム産業のもう一つの大きな特徴として、外部資源の活用の多さが挙げ られる。外部資源を用いるメリットとして、企業は外部資源を通じて、自社の資源の補完 や、シナジー効果による企業価値の向上を図ることができる(Mindruta, Moeen, and Agarwal, 2016)。

コンシューマゲーム産業ではマルチ・プラットフォーム戦略の必要性と頻繁なプラット フォームの変遷という特徴が存在することを述べた。当然新しいプラットフォームが登場 した際には、企業はそのプラットフォームに合わせた開発環境に投資する必要がある。そ のため、多くの企業は自社内で全てのプラットフォームの開発環境の整備は困難を極める のである。実際に開発されているゲームソフトの過半数は外部デベロッパーが製作したも のが占めているように、企業は自社の不得手な分野や開発環境が未成熟なプラットフォー

ムに関しては外部デベロッパーを補完的に活用することで、より効果的な製品を作れるの である(Harrison, Hitt, Hoskisson, and Ireland, 2001)。

さらに、企業は外部デベロッパー以外にもコンシューマゲーム産業では外部キャラクタ ーなどの外部資源を自社の資源と組み合わせることで製品の価値を向上させている。外部 キャラクターとは漫画やアニメなどの版権キャラクターや、プロスポーツ選手など実在の 人物など多岐にわたる。ゲームソフトのジャンルには、いわゆるキャラクターゲーム18と 呼ばれるキャラクターを前面に押し出した作品が一つのジャンルとして確立されている

19。知名度のあるキャラクターを活用することで、元のゲーム自体の購買層だけでなく、

その企業の製品やジャンルに興味のなかった新たな顧客層の取り込みといったメリットを 享受することができるのである。こうしたゲームソフトでは、いかに知名度のあるキャラ クターを活用できるかが作品の成否を握っている。企業は、すでに知名度のある外部のキ ャラクターを自社製品と上手く組み合わせることによるシナジー効果を享受することで、

製品価値を向上させることができるのである(Puranam, Gulati, and Bhattacharya, 2013)。

例えば、2010年に株式会社コーエー20より発売された『北斗無双』と呼ばれるゲーム は、コーエーの人気アクションシリーズである「無双シリーズ」と1980年代に大ヒット した漫画『北斗の拳』とのコラボレーション作品である。同シリーズの作品で2005年に 発売された『真・三國無双4』の販売本数が約100万本であったのに対し、その続編であ る『真・三國無双5』と続く『真・三國無双MULTI RAID』の売上本数はそれぞれ36万 本、38万本21と低迷し、同シリーズの人気に陰りが見えていた時に発売されたのが本作品 である。『北斗無双』自体は約55万本の販売本数を記録し、その翌年に発売された『真・

三國無双6』も47万本と販売本数の回復に成功している。これは、外部のキャラクターを 用いて、同シリーズに飽きを感じていた顧客層に新たな世界観の製品を提供することで顧 客の購買意欲を喚起するとともに、『北斗の拳』のファンを上手く同シリーズのファンと して取り込んだ結果であると言える。

18 「漫画・アニメ」と「キャラクター」、「映画・テレビ」などと複数に分類される場合も あるが、本研究ではこれらを総括して「キャラクターゲーム」と呼称している。

19 2015年の全売上本数に占める売上本数比率は、17.4%(内部キャラクターは除く)となっ

ており、少なくない割合を占めている(メディアクリエイト(2016)より集計)。

20 現株式会社コーエーテクモホールディングス

21 『ゲーム産業白書』調べ

このように、マルチ・プラットフォーム戦略の採用と外部デベロッパーや外部キャラク ターの活用という外部資源の積極的な活用がコンシューマゲーム産業の大きな特徴である と言える。