第 4 章 防災―雪害 事例研究 新潟県、秋田県
4.5 豪雪地帯自治体の公共経営
災対法体制下の防災制度が有効か否かは、自然環境、国の基本方針、行動主体となる都 道府県、市町村の経営資源の状況を含めた環境がどのようになっているかにより大きく変 化する。
(1) 自然環境
平成に入ってからの降積雪量は、図4.3の通り、年毎の多雪、少雪の差が大きくなってい る。このことは、国、自治体の防災行動が難しくなっていることを示している。
出所: 国土交通省「豪雪地帯対策における施策の実施状況等」2. 豪雪地帯の現状を元に筆者作成 図4.3 豪雪地帯の冬期間累計降雪量
(2) 国の行動
国は、中央防災会議の長が毎年降融雪期前に、人命保護を優先した防災行動をとるよ う都道府県、市町村の地域防災会議の長あてに通知を出している。
また、「豪雪地帯及び特別豪雪地帯の指定」をし、「災害状況および消防の活動等につ いて」報告し、「豪雪地帯及び特別豪雪地帯における施策の実施状況等」(以上国交省) を発表し、気象庁は降雪に関する予報、警報を出している。
さらに、「雪害による犠牲者ゼロのための地域の防災力向上をめざす検討会」を立ち 上げ、人的被災を無くす行動も起こしている(内閣府)。
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017 豪雪地帯(含む特別降雪地帯)冬期間累計降雪量cm
特別豪雪地帯の冬期間累計降雪量cm
36 (3) 都道府県、市町村の経営資源を含めた環境
住民に対して効率的・効果的な雪害防災活動を行うには、自治体が十分な人、もの、金、
情報(技術)という経営資源を持つことが不可欠となる。それらの状況は次の通りとなってい る。
① 人 a. 人口減少
全国平均に比べ、豪雪地帯、特別豪雪地帯の人口増減率は図 4.4 の通り、減少が進行し ており、特に特別豪雪地帯での減少が顕著となっている。
このことは、雪害防止に対する自助・共助を行う際の制約要因になるとともに、国がベ ストプランを提示しても、基礎自治体では人員の制約から実行に移せないという事態も起 こりうる。
注: 人口増減率=(当年の人口-昨年の人口)/昨年の人口、
人口増減率0=人口数に変化なし、人口数は国勢調査結果。このため、計測年が5年毎となっ ている。
出所: 国土交通省「豪雪地帯対策における施策の実施状況等」2. 豪雪地帯の現状を元に筆者作成 図4.4 豪雪地帯の人口増減率推移
b. 高齢化
高齢化も図4.5の通り人口減少と同様に進行しており、ここでも特別豪雪地帯の高齢化率 の進行が顕著になっている。
-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
全国 豪雪地帯(含む特別降雪地帯) 特別豪雪地帯
平成18年豪雪 単 位:
(%)
37
出所: 国土交通省「豪雪地帯対策における施策の実施状況等」2. 豪雪地帯の現状を元に筆者作成 図4.5 豪雪地帯の人口増減率推移
② 金
資金は災害対策に不可欠の資源であり、自治体の財政状態によりその多寡が分かれる。
市町村の財政力指数の分布は、表4.5の通りで、多くの豪雪地帯の市町村の財政力指数が 0.5前後となっている(注5)。
財政力指数は大きいほど余裕があるとされている(総務省、指標の説明)が、財政力指数1 が資金を全て自前で調達できることを示している。財政力指数が0.8以上の市町村が全く無 い財政的に厳しい県は、2018年現在岩手県、秋田県、山形県、富山県、島根県、高知県、
長崎県、鹿児島県、沖縄県と9都道府県(19.1%)存在する。さらにこの9都道府県の内、岩 手県、秋田県、山形県、富山県、島根県は豪雪地帯の自治体であり、財政状態が厳しい都 道府県の半数以上を占めている。
0 5 10 15 20 25 30 35
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 全国 豪雪地帯(含む特別降雪地帯) 特別豪雪地帯
単位(%) 平成18年豪雪
38
表4.5 豪雪地帯自治体の財政力指数
注: 豪雪地帯指定市町村を対象として算出。
出所: 総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」と国土交通省「豪雪地帯および特別豪雪地帯の指定 地域詳細」を元に筆者作成
③ もの
ものについては、自治体内の住民の就業の可否が影響するため、有効求人倍率と生産性 向上が有効な指標となる。
a. 有効求人倍率
有効求人倍率を全国の平均と比較すると表4.6の通り、北海道を最低として、雪害の人的 被災が多い青森県、秋田県、山形県、新潟県は軒並み全国平均を下回っている(豪雪地帯の 富山県、石川県、福井県は、雪害の人的被災が大きいにも関わらず、全国平均よりもかな り高い1.9以上の有効求人倍率を示している)。なお、雪害死者数と有効求人倍率の間には、
有意な負の相関がみられる(r=.436、p<.05)。
豪雪地帯
指定市町村数 最頻値 中央値 平均値 最大値 最小値
全国 0.30 0.45 0.51 2.18 0.06
北海道 93市町村 0.26 0.23 0.27 1.65 0.08 青森県 27市町村 0.28 0.28 0.34 1.74 0.10 岩手県 32市町村 0.16 0.33 0.36 0.75 0.15 宮城県 8市町村 0.31 0.48 0.47 0.91 0.31 秋田県 12市町村 0.26 0.30 0.30 0.67 0.11 山形県 9市町村 0.20 0.31 0.36 0.78 0.16 福島県 20市町村 0.38 0.29 0.34 0.82 0.09 栃木県 3市町村 無し 0.77 0.73 0.81 0.60 群馬県 14市町村 0.45 0.45 0.50 0.85 0.25 新潟県 12市町村 0.41 0.44 0.50 1.27 0.09 富山県 9市町村 0.69 0.59 0.57 0.83 0.36 石川県 17市町村 0.23 0.54 0.51 0.87 0.20 福井県 13市町村 無し 0.63 0.60 1.05 0.14 山梨県 2市町村 無し 0.37 0.37 0.54 0.19 長野県 20市町村 0.54 0.41 0.41 0.74 0.14 岐阜県 10市町村 0.31 0.44 0.44 0.63 0.28
静岡県 2市 無し 0.89 0.89 0.90 0.88
滋賀県 4市 無し 0.56 0.58 0.82 0.39
京都府 8市町 無し 0.31 0.38 0.70 0.12 兵庫県 7市町 0.39 0.35 0.33 0.43 0.23 鳥取県 19市町村 0.27 0.28 0.33 0.68 0.13 島根県 8市町 0.17 0.21 0.26 0.41 0.13 岡山県 8市町村 無し 0.28 0.29 0.54 0.13 広島県 6市町 無し 0.33 0.38 0.65 0.26
39
表4.6 豪雪地帯の有効求人倍率 (新規学卒者を除き、パートタイムを含む)
注: 2019年4月末日現在、就業地別、季節調整値
有効求人倍率: 「新規求人数」 を「新規求職申込件数」で除して得た「新規求人倍率」
と、「月間有効求人数」を「月間有効求職者数」で除して得た「有効求人倍率」の2種 類がある。
出所: 厚生労働省 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)を元に筆者作成
b. 生産性向上阻害要因 (a) OA化
OAの中心的役割を担うIT機器は、本来は人的資源の減少を可能とする事務等の効率化 のために導入されるが、ITの技術革新とメーカーの陳腐化政策と相まって、IT機器の更新 有無がOAの進展を阻害する例がある。例えば、古いバージョンのIT機器を壊れるまで使 用する、新旧機器間の互換性がないために無駄な作業が増えるなど、全体としての効率に 影響を与える事態も発生している(高千穂、2008)。
(b) 内向き作業
政策評価は、行政活動の実施結果からの教訓取得、住民への説明責任に有効であるため 多くの自治体が導入しているが、内部資料作成に多大なエネルギーを使うため、政策評価 の資料作りが目的化するなど自治体職員のモチベーションの低下がみられ(松浦、2012)、評 価疲れなどと形容されている。