第4部 分析と講評
多くはなく、対面する場合も長時間の会議で多くの議題をこなすため、学生らしいコミュニ ケーションを楽しく行うような時間的余裕はなかったが、委員としての職務を通じてのコミ ュニケーションが人間関係をより良いものにしていったと言える。勿論、半年以上にわたる 準備期間において、小さな行き違い等はあり、全く問題が起きないということではなかった。
しかし、それらが大きな問題に発展することがなかったのは積極的な協調の成果と考えられ、
ここでも委員のもともとのジェネリックスキルの高さとともに、活動による成長を見ること ができる。
委員の成長ということで考えると、最も大きな成果を見ることができたのは、フォーラム 本番の運営に関する場面であった。ただしそれは、試行錯誤を通じての学びということである。
念入りに企画を練り、準備にも余念がない中で、直前まで不安視されていたのが、本番で の活動であり、その不安は確かに課題となって表れた。本フォーラムは、学術交流を主眼と しており、そのため今回委員はフォーラムに様々な学術交流の方法を取り入れた。すなわち、
口頭およびポスターによる研究発表、パネルディスカッション、学術的な知見に基づくワー クショップ、そして研究公演である。これらの運営をわずか6人の委員でこなすということ の難しさもさることながら、そもそも学生である委員たちが、日ごろ指導を受けている相手 である教員の参加を募って大きな催しを開くことには困難が伴う。参加した教員の柔軟かつ 積極的な対応があったこともあり大きなトラブルはなかったが、舞台裏で委員は、多発する 小さな問題に全力で取り組むことになっていた。
こうした本番当日の課題に際しては、学生委員だけでは対処しきれない場面が多くあった。
準備の段階でイノベーティブな活動を見せていた委員たちであったが、本番で彼らをソリュ ーションへと導いたのは、周囲の「大人」たちの活動であった。この場合の「大人」とは参 加教員、そして関係各部署の事務職員を指す。特に注目すべきは事務職員からの指導であっ た。
例えば今回のフォーラムは、一部を国立民族学博物館との共催という形を取った。共催と したのは研究公演である。これは、国の重要無形文化財である島根県の「大元神楽」を招き 上演してもらい、民俗芸能についてのパネルディスカッションを行うというものであったが、
これを国立民族博物館の事業活動の一環として一般公開としたのである。広く民俗芸能その ものの魅力を伝えると同時に、それが抱える問題を考える場を提供し、意義の深いものとな った。一般の方々を含めて多くの参加者があり、フォーラムの締めくくりとしてふさわしい 盛大なものであったが、その分準備も当日の運営も大変詳細な行程を必要とした。しかし、
一般の人々を招くような大掛かりな公演会の運営に必要な作業がどんなものであるか、委員 の知恵を絞っても想像外の部分の方が多かったのが現実であった。事実、委員たち自身が、
どこまで準備したら当日問題なくできるのか分からないという不安を抱える状況であった。
こうした状況は、学術講演会に限らず、ワークショップなど、委員たちが主催側としての経 験がない分野において特に見られた。多数の人を対象とする催しのハンドリングの難しさは 想像できていたものの、実際に何をやればよいのかという知識は持たない。こうした状況に 働きかけたのが、博物館の職員の方々であった。フォーラム準備・運営に奔走する委員に対
第4部 分析と講評
して、様々な立場から自身の持つ公演運営のためのノウハウを伝授していただいた。学生で ある委員はそれを恐縮して受け取っていたが、これこそが、学生の学びの場として大きな意 味を持っていた。
これらは、暗黙知の移転・変換を行う知識創造のモデルを実体験として経験したことにな ったと考えられるだろう。こうした暗黙知の形式知化のプロセスとして、この報告書自体の 存在も挙げられる。この報告書は委員長の発案で、委員の総意のもと、このフォーラムを次 代に担う人のために作ることになったものである。すなわち、自らの得た知識を形式知化し、
SECIモデルでいう知の表出化・連結化を図ったものということになる。日常的に宣言的知 識の獲得を中心に活動を行っている学生である委員が、手続き的な知識をもとに創造的な知 識構成のプロセスを体験として行ったことの意味は大きいと思われる。これが次代において、
高次の知識創造につながることを期待したい。
3.学生企画事業の課題
このように本フォーラムでは、それ自体の成功とともに学生委員の活動としての意義を確 認することができたのではあるが、その一方、活動を通じて最後まで困難を訴えていたもの があった。それは、「目標」の共有である。先に挙げた「フォーラムとは何か」ということが、
準備の後半に至るまで共有できなかった。委員はシンポジウム・フォーラム等の企画・運営 に主たる立場として関わるのはこれが初めての経験であったが、そのためだけでなく、一般 的に「フォーラム」と呼ばれるものがどんな形態のものかということに関しても、定型のよ うなものがないというのも原因だろう。さらに、本フォーラムは学術的な交流を主眼として いるが、どのような形で交流するのか、交流の先に何を見出すのか、参加者に何を得てもら うのかという部分について、委員間で常に話し合っていたものの、最後まで漠としたものを 各人が抱えるという状況であった。これは、文化科学研究科連携事業として行ってきた本フ ォーラムが何のために行われてきたのかということを再確認する活動につながった。その成 果として、本報告書に委員長が書いた概要文があるのであるが、フォーラムが回数を重ねる 中で、その本質に立ち返る時期になったとも考えることができよう。
4.おわりに
以上、2014年度の学術交流フォーラムを学生企画委員の活動から振り返り、主に成果と課 題点をまとめることとなったわけであるが、最後にフォーラムの意義について考えてみたい。
終了後、複数の参加者、そして委員の学生にフォーラムをどう思うかということについて意 見を聞いた。アンケートのような網羅的なものではないため、その意見に偏りはあるかと思 われるが、総じてフォーラムは交流の場としても、学術的な刺激を受ける場としても実に「楽 しい」ところであるということが言われていた。2日間にわたって「脳をフル回転」する必 要があるから「大変疲れる」という意見もあったが、これはややもすると交流が単なる友人 関係の拡大・延長として捉えられることが多い中、それよりも一歩進んだ学術交流の場とし て機能しているということなのであろう。これは本来の趣旨に合致している。
様々な分野の多くの教員が学生の研究活動に意見を述べる場は、自らの専門性の中に閉じ がちな大学院博士課程の学生にとって貴重である。これが研究の深化に与える効果は言を俟 たないだろう。こうした意義を持つフォーラムが、今後一層の進化を遂げ拡大していき、そ こに多くの参加者が集うよう、今後ますますの発展を願うものである。
(文責:学融合推進センター 七田麻美子)
第5部 総括
第5部 総括