5. ロケットの高機能化・低コスト化に関する検討
5.1 諸外国の小型衛星打上ロケットの動向
5. ロケットの高機能化・低コスト化に関する検討
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表5-1 世界の小型衛星打上げ用ロケット(2009年12月時点)1)、2)、27)
名称 M-V Pegasus Minotaur I Taurus Rockot START1 開拓者 Falcon 1 Vega
国 日 米 米 米 露 露 中 米 欧
ステージ 固体3段 固体3段 (+ PBS)
固体4段 (+ PBS)
固体4段 (+ PBS)
液体3段 (ヒドラジン)
固体4段
+ 固PBS 固体4段 液体2段 (ケロシン)
固体3段 + PBS 射点 陸)固定 空中 陸)固定 陸)固定 陸)固定 陸)機動 陸)機動 陸)固定 陸)固定 コスト M$ 60 15~25 17~20 25~47 12~15 10 ? 7.9 27~40※1
全備 ton 138 23 36 73 107 47 20 27 134
成功率 6/7 35/40 8/8 6/8 14/15 6/6 0/2 2/5 開発中
LEO打上能力※2 ton SSO打上能力※2 ton
1.9 ( 0.7 )
0.44 0.25
0.55 0.35
1.3 0.7
2.0 0.95
0.6 0.3
0.3?
0.1?
0.42 0.18
2.2 1.5 ペイロード比(LEO)
ペイロード比(SSO)
1.5 % 0.5%
1.9 % 1.1%
1.5 % 1.0%
1.8 % 1.0%
1.8 % 0.9%
1.3 % 0.6%
1.5 %?
0.5%?
1.6 % 0.7%
1.6 % 1.1%
注) $1 = 120円換算 ※1)推定コスト。政策的プライスは20M$ ※2) LEOは250km円軌道、SSOは500km円軌道 10m
20m 30m
(2) 低コスト化のためのロケットシステム設計
大型ロケット、小型ロケットに関わらず、低コスト化のためには機体を シンプルな構成とすることが必要である。よって、ステージ数はなるべく 少なくすることが得策といえる。一方で、ロケットの打ち上げ能力はステ ージ数を増やした方が高くなる。言い換えれば、ステージ数を多くするほ ど、少ない全備質量で同じ打ち上げ能力を持つロケットとすることができ る。全備質量が少ないほど、機体製造にかかる材料費が減って取り回しも 良くなることから、低コスト化につながる。したがって、ロケットシステ ム設計においては、両者のバランスを取って最適なコストパフォーマンス が得られるステージ数にすることが重要となる。前項で示したとおり、小 型ロケットは諸外国でも固体ロケットが主流であるが、液体ロケットを使 用したものも存在する。固体ロケットは 3~4 段、液体ロケットでは 2~3 段の構成となっている。この点に着目し、以下、推進薬の特性の違いによ るロケットの最適ステージ数について考察を行う。ロケットの性能(理論 獲得速度)は以下のツィオルコフスキーの式で表される。
∑
= ⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
× −
=
Δ n
i i
i
Ve
V
1
, 1
ln 1 λ
i sp i
e g I
V, = 0 ,
i i pp
i W
W
, 0
= ,
λ
また、ペイロード比(=打上能力/全備質量)は以下の式に書き換えら れる。
∏
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
− −
= n
i i
i
α π λ
1 1
0
段ステージ全質量 段不活性質量 i
i
i = α
ΔV :理論獲得速度 n :ステージ数(段数)
i
Ve, :i段目燃焼ガス排出速度 Isp,i:i段目比推力 g0:地球表面における重力加速度 W0,i:i段目初期質量
i
Wpp, :i段目推進薬質量 λi:i段目ロケットの質量比 π0:全段ペイロード比 αi:i段のステージ構造効率
αi
−
1 :i段のステージマスレシオ
ここで、衛星を所定の軌道に投入するために必要となる速度を必要獲得 速度ΔVreqと称する。所定の軌道への衛星打ち上げを可能とするためには、
必要獲得速度以上の理論獲得速度が得られるロケットにする必要がある
(ΔV ≧ΔV req)。衛星を軌道に投入するには空気抵抗や重力による損失 等を考慮する必要があり、ΔVreq は投入軌道によっておよそ一定となる
(表5-2)。
ΔVreq=衛星の軌道速度+抵抗損失+重力損失
+その他損失(制御損失、大気圧による推力損失)
表5-2 投入軌道と必要獲得速度ΔVreq
軌道 ΔVreq
高度約200km地球低軌道(LEO) 約9km/s 太陽同期軌道(SSO) 約10km/s 静止遷移軌道(GTO) 約12km/s 惑星間軌道 約12km/s以上
さて、ロケットの理論獲得速度ΔV を検討するにあたっては、燃焼ガス 排出速度Veやステージ構造効率αの値が必要である。これらは、主に推進 薬によって決まる値といえる。そこで、実用ロケットのVeとαについて調 査し、まとめた結果を表5-3に示す。特に、液酸/液水、液酸/ケロシン、固 体の各推進薬を使用したロケットの代表例として、DELTA IV、ZENIT 3SL、
M-Vの特性値詳細を図5-1に示す。
これらの特性値を使って、推進薬ごとの最適ステージ数について以降で 検討する。
表5-3 実用ロケット特性値
推進薬 ロケット Ve[m/s] α 液酸/液水 DELTA IV M 1,2段平均値 4330 0.14
ATLAS V 1段 3310 0.07
液酸/
ケロシン ZENIT 3SL 1~3段平均 3400 0.11
ATHENA 1,2段平均 2810 0.09
固体 M-V 1~3段平均 2840 0.12
・DELTA IV(液酸/液水)
全備質量:250~733トン 衛星質量:4.2~13.3トン@GTO π:1.7~1.8%@GTO
※ブースタなしの2段式形態が基本構成
0.16 0.12
0.12 0.10
α
110 3320
3320 850
推力、kN
4530 4120
4120 2690
Ve、m/s
RL-10B RS-68
RS-68 GEM60
エンジン
液水 液水
液水 固体
推進薬
2段 1段
ブースタ ブースタ
0.16 0.12
0.12 0.10
α
110 3320
3320 850
推力、kN
4530 4120
4120 2690
Ve、m/s
RL-10B RS-68
RS-68 GEM60
エンジン
液水 液水
液水 固体
推進薬
2段 1段
ブースタ ブースタ
・ZENIT 3SL(液酸/ケロシン)
全備質量:470トン 衛星質量:5.0トン@GTO π:1.1%
85 851
1779 推力、kN
0.16 0.10
0.08 α
3450 3430
3300 Ve、m/s
11D58M RD120
RD171 エンジン
ケロシン ケロシン
ケロシン 推進薬
3段 2段
1段
85 851
1779 推力、kN
0.16 0.10
0.08 α
3450 3430
3300 Ve、m/s
11D58M RD120
RD171 エンジン
ケロシン ケロシン
ケロシン 推進薬
3段 2段
1段
・M-V(固体)
全備質量:140トン 衛星質量:0.6トン@GTO π:0.4%@GTO
※基本は3段式(LEOミッション)。 惑星ミッションでは キックモータを搭載し4段式で打上げ。
0.09 0.08
0.15 0.16
α
80 337 1520 3760
推力、kN
2960 2950
2860 2690
Ve、m/s
KM-V M-34
M-25 M-14
エンジン
固体 固体
固体 固体
推進薬
4段 3段
2段 1段
0.09 0.08
0.15 0.16
α
80 337 1520 3760
推力、kN
2960 2950
2860 2690
Ve、m/s
KM-V M-34
M-25 M-14
エンジン
固体 固体
固体 固体
推進薬
4段 3段
2段 1段
図5-1 推進薬の異なるロケットの代表例27)
ロケットの最適ステージ構成の検討フローを図5-2に示す。
表5-3に示したロケットの内、DELTA IV、ZENIT 3SL、M-Vを代表例と
し、各推進薬の特性値を使用する。なお、今回、例として挙げた、DELTA
IV、ZENIT 3SLは大型ロケットであり、GTOミッションをターゲットに開
発されたものと考えられ、それぞれステージ数は、2段式、3段式となって いる。一方、M-V ロケットは LEO および惑星ミッションをターゲットと して開発されており、LEOに対しては3段式、惑星ミッションではキック モータを追加した4段式となっている。これら実用ロケットのステージ数 選定の理由について以下に考察する。
さて、上記の特性値を用い、図 5-2の検討フローに従い、ステージ数を 変化させたときの LEO 打上げ(ΔV=9km/s)、および GTO または惑星ミ ッション打上げ(ΔV =12km/s)に対するペイロード比を算出した。結果を
表5-4に示す。表5-4より、ステージ数が多い程、ペイロード比が向上する
ことがわかる。しかし、実用ロケットで採用しているステージ数は、必ず しもペイロード比が高いものではない。一般には、ステージ数が増えると エンジンの数が増え、分離イベントの数も増えるため、コストの増大およ び信頼性の低下を招くことから、極力ステージ数を少なくしている。
このようなことから、実用ロケットのステージ数選定の指標として、ペ イロード比πをステージ数nで除したπ/n値が考えられる。表5-4に示した ペイロード比を元に、π/n値を図示したものを図5-3に示す。
これより、推進薬によってπ/n値のピークは異なっており、π/n値の最大 値かその付近が、その推進薬を使用したロケットの実用ステージ数と一致 していることがわかる。なお、ケロシン系のロケットでLEOミッションを ターゲットとした場合、π/n 値のピークは2段式となっている。ケロシン 系ロケットのZENIT 3SLはGTOミッションターゲットのため 3段式が選 定されているが、LEO ターゲットの場合には 2 段式が適切と考えられる。
実際、同じケロシン系の小型ロケットであるFalcon1はLEOターゲットに 開発されているが、2段式が選定されている。
このように、ロケットの基本設計にあたっては、狙いとするターゲット ミッション(LEO、SSO、GTO等)を明確にした上で、推進薬の特性を鑑 みて適切なステージ数を選定することが、コストパフォーマンスの高いロ ケット開発の必要条件となっているといえる。
図5-2 ロケットの最適ステージ数検討フロー
表5-4 推進薬の異なるロケットのステージ数とペイロード比の関係 (1) ΔV req = 9km/sの場合(LEOターゲット)
ペイロード比 π[%]
推進薬 Ve
[m/s] α
2段 3段 4段 5段
液酸液水(DELTA IV) 4330 0.14 6.2※ 7.3 7.8 8.1 液酸ケロシン
(ZENIT 3SL) 3400 0.11 3.1※ 4.0 4.3 4.5
固体(M-V) 2840 0.12 0.9 1.7※ 2.0 2.2 (2) ΔV req = 12km/sの場合(GTO、惑星ミッションターゲット)
ペイロード比 π[%]
推進薬 Ve
[m/s] α
2段 3段 4段 5段
液酸液水(DELTA IV) 4330 0.14 1.6※ 2.7 3.1 3.3 液酸ケロシン
(ZENIT 3SL) 3400 0.11 0.5 1.1※ 1.4 1.5
固体(M-V) 2840 0.12 ‐ 0.3 0.4※ 0.5
※ 実用ロケットで使用しているステージ数
LEOターゲットのケロシン系については、実用ロケットとしてFalcon1(2段 式)を想定
要求条件の設定:打上げ軌道の設定 ΔV:9km/s@LEO、10km/s@SSO
12km/s@GTO、12km/s以上@惑星間軌道
推進薬の選定:液水、ケロシン、2液、固体より選定 エンジン設計よりVe設定
機体構造、構成品設計よりα設定
最適ステージ構成設定、サイジング、飛翔解析※ ステージ数、ΔV配分※、機体サイズ設定
※本検討では簡単のため、ΔV配分は各段等分を前提と し、飛翔解析までは行っていない
ΔV=9km/s(LEOターゲット)の場合
ΔV=12km/s(GTO、惑星ミッションターゲット)の場合 図5-3 ステージ数の選定理由
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50
π/n
1段 2段 3段 4段 5段 6段
液水 ケロシン 固体
実用ステージ数
【実用ロケットの例】
・ケロシン:Falcon1
・固体:M-V(LEOミッション)
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00
π/n
1段 2段 3段 4段 5段 6段
液水 ケロシン 固体
実用ステージ数
【実用ロケットの例】
・液水:DELTA IV
・ケロシン:ZENIT 3SL
・固体:M-V(惑星ミッション)
a. 各国の小型ロケットとの比較
日本の小型ロケット(M-V)と世界の小型ロケットを比較すると、以下 の特徴がある。
・ LEOに対するペイロード比は諸外国と同等である。ただし、SSO に対するペイロード比は低めとなっている。
・ 小型ロケットでも大型(LEOへ2トン級の打上げ能力)の範疇に 入る。
・ コスト的には諸外国の小型ロケットに比して高いものとなって いる。
・ 諸外国で多く搭載されているPBS機能は有していない。
・ 射点は陸上固定式。諸外国では、小型ロケットの特性(大きさが 比較的小さく、取り回しが良い)を活かして、打上げの機動性を狙 った空中発射方式や陸上の移動ランチャからの打上げが試みられ ている。
b. コストについて
打上げコストに着目すると、LEO打上げ能力500kg程度のロケットでは、
$10M程度のものが運用されていることがわかる。ここで、米国のMinotaur、
ロシアの Rockot、START1 はミサイル転用・一部転用のロケットであり、
政府からのロケットエンジン無償給与が低価格の理由である。これらと異 なる低価格ロケットの代表が米国の Falcon1 ロケットと言える。ミサイル 転用でない同程度の打上げ能力を持つ Pegasus ロケットと比べても、明ら かに低価格なロケットとなっている。
Pegasusは1990年に商用運用を開始したロケットであり、当時において
はコスト競争力の高いロケットであったが、現在においては部分的なコス ト低減策では対応が難しく、新たな空中発射システムとしてRaptor-2の開 発に着手している。