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論理的認識力を高めるスパイラルカリキュラムの構築

第1節 論理的認識力を高めるスパイラルカリキュラムの哲学

1 論理的認識力を高めることの意義

人は自らの欲動に突き動かされ,自らを取り囲む様々な事象に潜む本質を,自らの論理によっ て関係づけながら認識していく側面をもつ。そして,その過程は認識の再構成の過程であり,認 識の限界を克服する過程である。認識を再構成するたびに,人は認識主体として「生まれ変わる」

喜びを得る。

認識を再構成することの喜びは人間にとって普遍的なものであり,この世に生まれ出た瞬間か ら始まっている。岡本(1985)は言葉を獲得していない乳児についての丹念な観察をとおして,

「子どもはこの時期,外界のさまざまな事物や事象に自らかかわることによって,それらについ ての知識や表象の萌芽を形成していく。」

と述べているが,その原動力として岡本(1982)において,情動的交流の重要性について指摘し ている。二つの指摘をまとめるならば,岡本は,乳児が大好きな対象のことをもっと知りたいと 感じ,その対象に自ら関わって認識を再構成していくのだと述べているのである。生まれ出た瞬 間から,喜びを原動力として自らの認識を再構成し,再構成できたことをまた喜ぶという人間の 本質にまずは立脚したい。

狭義の論理(因果関係)を重要なファクターとして認識を再構成する能力を論理的認識力と呼 ぶとすれば,小学校入学の時点において,子どもたちは,ある程度の論理的認識力を身につけて いる。例えば,私の受け持ったある小学校 1 学年の子どもが,『ミミズのふしぎ』という本を読 んで,左下のような「わかったこと」を書いてきた。

図書室での貸し出しの仕方を学んだばかりの日に,早速借りてきた本が右下の本であり,わか ったことを書いてきてねと伝えておいたら,次の日に左下の「わかったこと」を書いてきたので あった。*1 ひらがなの指導もまだスタートしたばかりの時期での行為である。

【写真2 子どもの感想】 【写真3 『ミミズのふしぎ』表紙】

本文に当たってみると,「ちかづいて みてみると ころころ つちの おだんごみたい。」

(p.4)とあり,続きのページに「これは,ミミズのうんち。ミミズの うんちは,きみの ち かくに きっと ある。」(p.6)とあった。きっとこの子は興味のあることについて,論理的認 識力を働かせ,p.4で感じた疑問を,p.6で解決し,認識を再構成したことに喜びを感じたのであ ろう。ミミズの糞が「おだんご」みたいという,自らの予想や知識・経験を超えるものを認識し た喜びを感じたからこそ,「わかったこと」を書いてきたのであろうと解釈した。小さな範囲で あり,単純な関係ではあるが,この子なりに論理的認識力を機能させたものと考える。範囲や複 雑さの相対的な違いを越えた「わかる」ことの喜びを原動力として認識の限界を克服し,認識主 体として生まれ変わり続けることは,人間としての成長そのものであるといってよいだろう。

論理的認識力を高めることは,認識主体として生まれ変わる経験を繰り返しながら認識を再構 成する欲動を自らのものとし,認識の限界を克服していくための能力を獲得していくことである。

そのような能力を獲得して,自らを取り囲む世界の本質を認識できるようになることは,よりよ く生きていくための鍵である。

2 論理的認識力の構造

コンテクスト分析能力 メゾ構造・ミクロ構造における

結束性を創造し、検討する能力

意味内容の真偽性・妥当性を 検討する能力

意味内容を創造する能力 マクロ構造における論理

(因果関係)を創造し、

検討する能力

(狭義の論理的思考力)

論理的認識力

論理構築能力(広義の論理的思考力) 意味内容形成能力

表現主体の意図と その背景を 分析する能力 テクストに窺える

コンテクストの影響を 分析する能力

必要に応じて

コンテクストを構成する 要素を収集する能力

3 論理的認識力を高めていくためのカリキュラム編成のあり方

論理的認識力の下位能力は,論理構築能力,意味内容形成能力,コンテクスト分析能力である。

これらの下位能力が往還的かつ相互補完的に機能することで認識を再構成していくと考えられ る。したがって,指導にあたっては,どの学年においても下位能力全てを往還的かつ相互補完的 に機能させることができるように,目標を設定する。

しかし,児童の発達の実態に応じて指導内容は難度を設定していくべきであると考えるので,

同じ下位能力であっても,学年相応の難度をもった目標を設定していくべきであるし,隣接する 上下の学年については重複する部分をもつように緩やかな目標設定を行うべきであると考える。

そうすることで,発達を意識した難度の設定を考えつつも,児童の発達の実態に応じてフレキシ ブルに指導内容を工夫できる余地が生まれると考える。

さらに,同じ下位能力に設定された目標群は学年に応じて少しずつ範囲を広げ難度を高めてい くようにしつつ,あくまでも同類の能力として分類できるような設定の仕方を行い,下の学年か ら順に見ていくとあたかも一本の撚り糸のような構造体(Strand)を構成するように設定してい く。また,Strand 相互が往還的かつ相互補完的な位置づけとなるように,目標の設定を行うよう にする。

そして,もっとも重要なことは,論理的認識力を高める意義が根幹に位置付いていることであ る。常に自己点検的な見方で,カリキュラム編成を行っていくことにする。

4 カリキュラム運用のあり方

カリキュラムはチェックリストではない。目標はあまりに詳細に設定しないように配慮し,具 体的な方針は極力避けるように示している。したがって,カリキュラム運用にあたっては,児童 の実態に応じて論理的認識力を高めていくことができるように,フレキシブルに対応することが 重要である。児童の欲動をかき立てるような楽しい授業づくりを行うことで,児童に認識を再構 成する喜びを味わわせ,経験的に認識を再構成するための能力を獲得させることができるように するべきであると考える。

第2節 カリキュラム編成の実際

1 総括目標

認識の限界を自覚し,その克服のために,論理構築能力,意味内容形成能力,コンテクスト分 析能力を往還的かつ相互補完的に機能させ,問題解決的に認識を再構成する経験をとおして,そ の喜びを実感し,論理的な認識主体として成長することができる。

2 それぞれのStrandを貫く目標

論理的認識力の構造にしたがって,次のような Strandを設定し,それぞれを貫く目標を設定す る。

Strand A 論理構築能力

A1 マクロ構造における論理(因果関係)を創造し,検討する能力

論理的なテクストを読み,マクロ構造における論理を確認するとともに,因果関係の整合性 および妥当性を検討して意味内容形成に反映させ,マクロ構造における蓋然性を評価すること ができる。

A2 メゾ・ミクロ構造における結束性を創造し,検討する能力

論理的なテクストを読み,意味内容形成を行いながら,メゾ構造およびミクロ構造における 結束性のセットを確認するとともに,それらの整合性および妥当性を検討して,マクロ構造に おける論理の確認に反映させることができる。

Strand B 意味内容形成能力

B1 意味内容を創造する能力

論理的なテクストを読み,通読において問題意識をもち,論理構築能力を働かせながらテク ストの解釈を進めることができる。また,解釈の結果を検討した後,自らの知識の組み替えや 経験の捉え直しを行うことができる。

B2 意味内容の真偽性・妥当性を検討する能力

論理的なテクストを読み,通読において自らの知識・経験とのズレを発見して問題意識をも ち,問題解決的な解釈の原動力を生むことができる。また,解釈の結果を対象化し,論理構築 能力を働かせながら意味内容の適切さ,バイアスの有無などを検討して,自らの知識の組み替 えや経験の捉え直しに反映させることができる。