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読解カリキュラムの検討1―カナダ・オンタリオ州の場合―

第3章 諸外国の読解カリキュラムの検討

第1節 読解カリキュラムの検討1―カナダ・オンタリオ州の場合―

1 はじめに

いわゆる PISA ショック以降,日本はゆとり路線からの急転回をとげた。そして,その方向性 は,PISAでの高い評価を得ることを望んでいるように見える。例えば,以下に示すPISA2009 の 結果についての文部科学省のコメント には,そのような姿勢が見え隠れする。

【PISA2009の結果】

○読解力を中心に我が国の生徒の学力は改善傾向にある。

・各リテラシーとも,2006 年調査と比べて,レベル 2 以下の生徒の割合が減少し,レベル 4 以上の生徒の割合が増加している。しかしながら,トップレベルの国々と比べると下位層 が多い。

○読解力については,必要な情報を見つけ出し取り出すことは得意だが,それらの関係性を理 解して解釈したり,自らの知識や経験と結び付けたりすることがやや苦手である。

○「趣味で読書をすることはない」生徒の割合は,2000年調査から減少(44.2% ←55.0%)した ものの,諸外国(OECD平均37.4%)と比べると依然として多い。 (傍線は引用者による)

傍線部に象徴的に示されているように,ここで述べられている「改善傾向」は PISA 調査にお ける諸外国との比較をもとにして導かれたものであると考えられる。

いわゆるPISA調査(読解)で,2000年から行われた 4回の調査全てにおいて,日本よりも上 位に位置付いている国には,フィンランド,韓国,カナダ,ニュージーランドがある。「改善」

を目指す文部科学省の視線は,これらの国に注がれているものと推察される。

さて,文部科学省の分析のように,確かに改善の過程にあると言えるかもしれないが,読解 力に関する分析結果を見る限り,本質的な問題はあまり変わっていないようにも思われる。

例えば,【PISA2009 の結果】にあるように,「必要な情報を見つけ出しの取り出すことは得意 だが,それらの関係性を理解して解釈したり,自らの知識や経験と結びつけたりすることがや や苦手である」という分析結果については,PISA2000 当時から我が国の課題とされ続けてきた ものである。取り組みの成果として,「読解力を中心に我が国の生徒の学力は改善傾向にある」

とされ,方法的な改善が成果を上げている状況が窺えるが,内容的な側面の改善については,

いまだ効果的であったかどうかわかりにくい。

平成 20年版の新学習指導要領が全面実施された結果,PISA調査の読解力の成績にどのような 影響がもたらされたのかは,次回以降の調査結果を待たなければならないが,学習の目標と内 容に関する側面の検討(カリキュラムの検討と改善)は,これまで同様に継続されなければな らない。

PISA 調査における読解力について成績が上位の国のカリキュラムには,どのような側面があ 第3章 諸 外国 の読 解カリ キュ ラム の検討

*1「国語科のカリキュラム開発の課題は何か―日本・フィンランドの説明的文章教育の比較考 察」(瀧田和也,『言文』(55)29-43,2007,福島大学国語教育文化学会)

*2 例えば,「カナダ・オンタリオ州の1999・2000年版および2007年版英語カリキュ ラムにおける人権の位置づけの異同―メディアリテラシー教育に着目して―」(森本洋介,『カリ キュラム研究』第 19 号,2010 年 3 月,99-111頁),「母語教育カリキュラムにおけるメデ ィア・リテラシーの位置―日本,イギリス,カナダ・オンタリオ州,西オーストラリア州のカリ キ ュ ラ ム 比 較 分 析 ― 」( 中 村 純 子 ,『 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 発 表 要 旨 集 』 117, 117-120, 2009-10-17)など多数

*3 例えば,「韓日両国における科学教育カリキュラム及び教科書記載内容の比較研究:主に生命 科学分野の取り扱いについて」(柳孝郎,松澤哲郎,大阪教育大学紀要Ⅴ,教科教育54(1),

123-140,2005-09-30),「グローバル教育としての小学校社会科カリキュラム と授業モデルの開発:韓国小学校社会科カリキュラムを中心に」(田 鎬潤,中村 哲『兵庫教育 大学教科教育学会紀要』 (14), 19-28, 2001-03)など

先行研究には,フィンランド,カナダ,韓国,それぞれの国のカリキュラムに関するものが散 見される。フィンランドに関しては,理数教育に関わるものが多く,国語科教育に関わるもの

は少ない*1。カナダに関しては,メディアリテラシー教育に関わるものが非常に多く,研究領

域も多岐にわたる*2。韓国に関しては,日本の教科教育との比較研究が多く,研究領域も多岐 にわたる*3。

そこで,成績上位国のうち,PISA 調査が開始されてから,比較的,成績上位を維持し続けて いる,フィンランド,韓国,カナダに焦点をあて,カリキュラムにどのような特徴が見られる かを検討したいと考えるが,そのうち特に,メディアリテラシー教育に関する先行研究も多い,

カナダのカリキュラムについて,本研究では特に取り上げる。ストレートに説明的文章教育に 関する視点をもった先行研究が見られるわけではないが,メディアリテラシー教育が掲げる批 判的な読みは,説明的文章教育にとっても重要な視点であり,示唆を得る可能性が高いと考え るからである。

ここまでに述べた問題意識から,本論文は,カナダ・オンタリオ州のReading Curriculum の構 造について検討を進める。この検討を通じて,説明的文章の読解カリキュラムを構築する際の 一つの視点を得ることを目的とする。

2 カナダ・オンタリオ州のLanguage Curriculumの検討

(1) 「The Ontario Curriculum , Grades 1-8, Language」構築における原理の検討

第3章 諸 外国 の読 解カリ キュ ラム の検討

本 研 究 に お け る 検 討 の 対 象 と す る の は ,Language の カ リ キ ュ ラ ム で あ る 「The Ontario Curriculum , Grades 1-8, Language」である。(以下,OC1-8Lと略記する。)

① OC1-8L構築の思想

Literacy is about more than reading or writing - it is about how we communicate in society.

It is about social practices and relationships, about knowledge, language and culture. Those who use literacy take it for granted - but those who cannot use it are excluded from much

communication in today’s world. Indeed, it is the excluded who can best appreciate the notion of “ literacy as freedom”.

UNESCO, Statement for the United Nations Literacy Decade, 2003-2012

リテラシーは読み書きを超えるものである―それは,私たちが社会においてどのようにコミ ュニケーションするかに関わるものである。それは,社会的な経験,結びつきに関するもの である。また,知識,言語,文化に関するものである。そして,リテラシーを使う人々はそ れを当然のことだと考える。しかし,リテラシーを使えない人々は,今日の世界において,

多くのコミュニケーションから排除される状況に陥っている。皮肉なことに,排除されてい る人々こそ”リテラシーは自由を実現する”ということが本当の意味でわかるのである。

「ユネスコ,国際連合におけるリテラシーの10年についての声明」

冒頭に,この声明文を載せるという姿勢は,カナダの読解カリキュラムが国際社会を意識し,

リテラシー教育を意図して,言語教育を構成していることを示していると考えられる。特に,

自らの生活する社会においてコミュニケーションを実現できる主体を育てていくことが重視さ れているようである。

リテラシーは「読み書き能力」と訳されることが多いが,「リテラシーは読み書きを超える」

という意味を含み込んだ概念であると位置づけられていることが重要である。社会におけるコ ミュニケーションを実現する媒介として,そして,知識・言語・文化の享受を実現する媒介と して,リテラシーの重要性を明確に示している点が重要である。

② OC1-8Lの基礎となる原理

The language curriculum is based on the belief that literacy is critical to responsible and productive citizenship, and that all students can become literate. The curriculum is designed to provide students with

language learners, who share the following characteristics.

言語カリキュラムは,次のような確信のもとに構築されている。

リテラシー(読み書き能力)は信頼性が高く,創造的な市民性のために不可欠である。そ して,すべての児童生徒はリテラシーを身につけることができる。このカリキュラムは,児 童生徒がゴールに到達するために必要とする知識と技術を与えるようにデザインされている。

さらに,児童生徒が,以下のような特性を共有する,優秀な言語学習者になるのを助けるこ とを目指す。

リテラシー(読み書き能力)は,信頼性が高く,創造的な市民性を実現するために不可欠で あると述べられているが,この位置づけはリテラシーを大変重視していることの表れである。

具体的には,子どもたちが重要な社会の成員として成長するためにはリテラシーは重要であ り,カナダのカリキュラムは優秀な言語学習者へと子どもたちを育てあげることができるよう にデザインされていると述べている。このことは,カナダのカリキュラムがリテラシー教育を 進めていくために十分な機能をもっているという自負の表れであると考える。

このように信頼性が高く創造的な市民性をもった人材を育てるためのリテラシー育成の意義 を根幹に据え,Successful language learners(優秀な言語学習者)という理想的な学習者像が設定 されている。カリキュラムが実現しようとしている学習者像を示すことで,具体的な学習内容 を導こうとしているようである。

続いて,「優秀な言語学習者」そのものについて,検討を進めていく。

Successful language learners:

・understand that language learning is a necessary, life-enhancing, reflective process;

・communicate - that is, read, listen, view, speak, write, and represent - effectively and with confidence;

・make meaningful connections between themselves, what they encounter in texts, and the world around them;

・think critically;

・understand that all texts advance a particular point of view that must be recognized, questioned, assessed, and evaluated;

・appreciate the cultural impact and aesthetic power of texts;

・use language to interact and connect with individuals and communities, for personal growth, and for