小1
第4節 論理的認識力の設定
ここまでの議論をまとめ,論理的認識力の構造図を改めてここに示し,概念規定について整理 しておく。(図 10参照)
順序性 上下関係 その他の結束性
(小さな因果関係を含む)
メゾ構造・ミクロ構造における結束性 を創造し、検討する能力…②
テクストと知識・経験との ずれの発見
意味内容の不適切さの発見 テクストにおけるバイアスの 発見
意味内容の真偽性・妥当性を 検討する能力…④
ア B ウ エ
イ
A
形式論理学の論理
非形式論理学の論理=日常の論理 論証の論理
説明の論理 感化の論理
知識・経験の参照による テクストの解釈 自らの知識の組み替え・
経験の捉え直し
意味内容を創造する能力…③ マクロ構造における論理(因果関係)
を創造し、検討する能力…①
コンテクスト分析能力
論理的認識力
論理構築能力 意味内容形成能力
F E C D
表現主体の背景を解釈する能力…⑤ 表現主体の背景を検討する能力…⑥
テクストに窺える間テク スト性に注目して、表現 主体の状況・立場・価値 観を類推する。
間テクスト的な著作群を 使い、表現主体の状況・
立場・価値観を類推する。
表現主体の背景を解釈し た結果をもとに「論理」
および「意味内容」を どのような構えで創造 し、検討すべきかを検 討する。
オ
カ
【図10 論理的認識力の構造 】
1 「論理的認識力」とは
認識の限界を克服するために,論理および意味内容の創造と検討を繰り返し,認識の再構成を 行う能力である。
認識の再構成を行う自らの行為をメタ的に捉え,間テクスト性に注目して表現主体の背景を類 推し,論理および意味内容の創造と検討とを調整する能力をもつ。
2 「論理的認識力」の構造 (図10参照)
(1) 下位能力相互の関係
「論理的認識力」の下位能力である「論理構築能力」,「意味内容形成能力」「コンテクスト分 析能力」は相互補完的に機能する。
矢印A~Fが相互補完的な機能を示している。それぞれ次のような働きをすると考えている。
【A・Bの働き】
知識や経験の参照だけでは意味内容を創造できないとき,論理や結束性を手がかりにして意 味内容を創造したり,論理や結束性の参照だけでは意味内容を創造できないとき,知識や経験 を手がかりにして意味内容を創造したりする。
知識や経験を参照するとともに論理構築能力を活用して,創造した意味内容の妥当性や真偽 性を検討する。
これらの働きが欲動を覚えるほどに,往還的に相互補完したとき,実感を伴う解釈が実現す るとともに,自らの知識の組み替えおよび自らの経験の捉え直しが起きる。
【C・Fの働き】
間テクスト的なテクスト群から表現主体の背景を捉えるとき,論理・結束性・知識・経験を 手がかりにする。
【Dの働き】
CやFの働きによって捉えた表現主体の背景を手がかりにして,意味内容の創造の仕方,検 討の仕方をメタ的にとらえ,調整する。
【Eの働き】
CやFの働きによって捉えた表現主体の背景を手がかりにして,論理の創造の仕方,検討の 仕方をメタ的にとらえ,調整する。
(2) 論理構築能力
「マクロ構造における論理を解釈し,検討する能力」と「メゾ・ミクロ構造における結束性を 解釈し,検討する能力」が相互補完的に機能して,テクストの論理を創造し,検討する能力を構 成している。
れるが,これは根拠の不十分なものであるため,学習者としてはあまり自信のない解釈に留まっ ている。このときの不安感が精読へと学習者を誘う。これが矢印イの機能する場面例である。
この後,学習者は精読によってメゾ構造やミクロ構造に見られる結束性を捉え,通読で捉えた 論理の根拠を得たり,逆に通読で捉えた論理の誤りや不十分さに気づいたりしながら,論理の解 釈を強化していく。これが矢印アの機能する場面例である。
このように矢印アおよびイが往還的かつ相互補完的に機能することで,論理と結束性の解釈が 強化されていく。
(3) 意味内容形成能力
第2節において示した「意味内容の創造」の概念図 を右に再掲する。
図7の矢印③は,知識・経験を参照して,テクスト を解釈する働きを示し,矢印④はテクストを論理的に 解釈することで知識や経験を再構成する働きを示して いる。
この図には明示されていないが,論理や結束性を手 がかりにすることは,意味内容の創造には必須の条件 である。つまり,図 10の矢印A・B・ア・イ・ウ・エ が往還的かつ相互補完的に機能して初めて,意味内容 の創造が実現する。
このとき,テクストと知識・経験とのずれの発見や 意味内容の不適切さの発見,テクストにおけるバイア
スの発見などが契機となって,意味内容の真偽性・妥当性の検討が起き,意味内容の創造が調整 されると考えられる。
(4) コンテクスト分析能力
論理や意味内容の創造と検討を進めるとき,認識主体は自らの背景(立場・状況・価値観)を 基盤にしていると考えられる。しかし,テクストに表現主体の背景(立場・状況・価値観)が窺 えたとき,認識主体は自らの背景とのズレに気づき,自らの解釈 a に違和感を覚え,改めて論理 や意味内容の創造や検討を進めて新たな解釈 a’を生み出す。このように,表現主体の背景を解 釈し,検討することは,認識主体に自らが行った論理や意味内容の創造と検討とをメタ的に捉え なおさせる契機となると考える。
テクストから表現主体の背景を窺うことは容易でない場合があるが,間テクスト性に注目して
【図7 「意味内容の創造」の概念】
意味内容の創造
③
④
再構成された 知識・経験
再構成された テクスト
解釈
テクスト 知識・経験
彫りになりやすい。難波(2008)の言葉を借りれば,「言論の場」を具体的に捉えることで,参 入しやすくなるといってもよいだろう。
矢印 D・Eは間テクスト性に注目して表現主体の背景を捉え,それをもとに自らの論理や意味 内容の捉え方を検討する働きを示している。それに対して,矢印 C・F は捉えた論理や意味内容 をもとに,自らの表現主体の捉え方を検討し,捉え直す働きを示している。矢印オ・カはそれ らの働きが往還的かつ相互補完的に機能して,表現主体の背景の捉え方を調整する働きである と考える。
3 Strandの設定に向けて―往還的かつ相互補完的な下位能力群による構造化―
第1節において,図5を示し,
次のようなことを論じた。
「論理的認識力の下位能力を図5の よ うにそ れぞれ Strandとして構 成 す る こ と で , カ リキ ュ ラ ム を ス パ イ ラ ル 型 に す る こと が で き る 。 そ し て , 相 互 に 有 機的 な 関 係 を も つ よ うにStrandを 構成 することで , 様 々 な 下 位 能 力 を統 合 的 に 機 能 さ せ 実 現 す る 読 む とい う 行 為 に 即 し た 目 標 や 内 容 を 設定 す る こ と が で きる。また,小学校1年生から高校 1年(国語総合)までの各学年にお い て 少 し ず つ 範 囲を 広 げ , 難 度 を 高 め て い け る よ うに 同 類 の 能 力 に 関 す る 目 標 と 内 容を 設 定 す る こ と が で き る 。 言 い 換え る な ら ば , 系 統 性 を 強 化 し , 学習 を ス モ ー ル ス テ ッ プ 化 し , 少 しず つ 難 し く し な が ら 繰 り 返 し 学 習を 進 め て い く こ とが期待できる」
小1
小 学 校 一 年 生 か ら 高 校 一 年 生 ( 国 語 総 合 ) ま で の 各 学 年 に お い て 、 少 し ず つ 範 囲 を 広 げ 、 難 度 を 高 め て い け る よ う に 、 同 類 の 能 力 に 関 す る 目 標 ・ 内 容 を 設 定 し 、 そ れ ぞ れ の St ra nd を 構 成 す る 高1
(国語総合)
【図5 スパイラルカリキュラムの構造】
相互に
有機的な関係をもつように
Strandを構成する
基本的な考え方は本節においても変わらないが,下線部に示した部分について本節においてさ らに明らかになったことがある。それは「論理的認識力」が下位能力群の寄せ集めではなく,往 還的かつ相互補完的に機能して実現する能力であるということである。
第2節において「往還的かつ相互補完的」であることの具体を示したが,子どもたちが認識し ていくプロセスにおいては「論理」と「意味内容」に関わる下位能力群が同時に複線的に機能し ていくわけではなく,線条的かつ連鎖反応的に機能していくことで,認識を再構成していく様子 が窺えた。この様子は様々な下位能力を往還的かつ相互補完的に機能させることで,認識の限界 を克服しているものだと捉え,下位能力群のそのような機能のさせ方を「往還的かつ相互補完的」
と表したものである。
授業を構想するにあたって,下位能力群に対応した学習目標を設定し,その具体化としての学 習内容を設定した授業を組織することで,子どもたちは下位能力群を往還的かつ相互補完的に機 能させながら教材文を読解し,経験的に認識能力を高めていくことができるだろうと考える。
第 3 章では,「論理的認識力」を高めるカリキュラム構造のあり方について考察を進めていく
が,Strand の設定にあたっては,往還的かつ相互補完的に下位能力群を機能させる経験をいかに
実現していくかという視点で議論を進めていくことにする。