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調査2(中学入学後の調査)

第1節 希望向上のプログラム

1希望向上のプログラムの内容

 Snyder et aL(2003)は,生徒の希望を強める方法を,目標設定の援助,経路 的思考の開発の援助,発動性を強める援助の3つに分けて詳述している。具体的 には,目標設定の援助内容として,「①目標リストを作成する。②目標の重要性 をランクづけする。③明瞭な目標にする。④接近目標を設定し,回避目標を断念 する。⑤ 私 だけでなく, 私たち の目標も考える。」の行動の援助をあげ,

経路的思考の開発の援助内容では,「①目標をサブ目標に分解する。②長期目標 を持つ。③取りかかれるステップを持つ。④目標へのいくつかのルートを持つこ とを学ぶ。」,発動性を強める援助内容では,「①自分に重要な目標を持つ(内的 な基準で作られた目標である)。②背仲び(stretch)目標を持つ。③ネガティブ な独り書に気づき,ポジティブな独り言の練習をする。④ポジティブな記憶(モ デル)を持つ。」の行動の援助をあげている。

 このSnyder et aL(2003)の希望を強める方法を基にして,目標設定の援助,

経路的思考の開発の援助,発動性を強める援助の3っの援助から構成される希望 向上のプログラムを作成した(Table3−1参照)。しかし,Snyder et a1.(2003)

があげていた援助のうち,目標設定の援助の「 私たち の目標も考える」と発

動性を強める援助のrポジティブな記憶(モデル)を持つ」の2つを割愛した。

理由としては,Snyder et aL(2003)が全生徒に共通して必要であるとはしてい ないためである。ただ,プログラム実施中に関係した内容が出てきた場合には,

大切に取り扱っていくことにした。

2希望向上のプログラムの実施計画

 本研究では,授業時問ではなく朝自習と短学活の時間(各15分)を利用して,

希望向上のプログラムを学級単位で実施するために,プログラムの内容を15分以 内で実施可能な内容に細かく分け,実施計画を作成した(Table3−2参照)。希 望向上のプログラムの内容(Table3−1)と実施計画の各回の内容(Table3−2)との 関連は,表中のA〜Kの記号で表している。

Table 3−1 口上のプログームの 目標設定の援助

  ・目標リストを作成する。(A)

  ・目標の重要性をランクづけする。(B)

  ・明瞭な目標にする。(C)

  ・接近目標を設定し,回避目標を断念する。(D)

経路的思考の開発の援助

  ・目標をサブ目標に分解する。(E)

  ・長期目標を持つ。(F)

  ・取りかかれるステップを持つ。(G)

  ・多様なルートを持つ重要性を学ぶ。(H)

発動性を強める援助

  ・自分に重要な目標を持つ(内的な基準)(1)

  ・背伸び(stretch)目標を大切にする。(」)

  ・ポジティブな独り言の練 をする。(K)

Table 3−2 口上のプログームの の1

回 実施日 項目 関連 活動の目的

1 4月19日 希望リスト ABIJ (目的)自分が最近抱いている希望や目標に気づく。

(内容〉ワrクシート(Appendix11)に最近自分が抱いている希 望や目標をできるだけ多く書き出す。すぐに思いつかない場 合は,ワークシートの裏面(Appendix12)のヒントを適宜利用 する。最後に,自分が書いた希望や目標の中から,最も重要

と思うものを3つを選び,1〜3の順位を書き込む。

2 4月20日 目標具体化 CDU (目的)目標達成がはっきりとわかる具体的な目標を設定する。

また,回避目標ではなく,接近目標を設定する。

(内容)望ましい目標(達成の有無が明確であること,接近日 標であること)についての教師の説明を聞き,ワークシート

(Appendix13)で目標を具体化する練習をする。数名の答えを 例にして目標を具体化する方法を確認した後,前回のワーク シート(Appendix11)に書いてある選択した3つの目標(自分の

目標)を具体的な目標にする(A endix14)。

34月21日 サブ目標(1)ED (目的)サブ目標を考えることで,臼標を構造化していく。

(内容)ワークシート(Appendix16)を見せながら,サブ目標の 考え方について教師の説明を聞く。前回の具体化された3つの

目標の1つをワークシート(Appendix l5)の中央に書き,その 目標をより小さなサブ目標に分解する。

Table 3−2 ロ上のプログームの の2 回 実施日 項目 連 活動の目的

44月22貝 サブ目標(2)EFG (目的)前回の続きをする中で,長期目標やすぐに取りかかれる 目標を意識する。

(内容)最初は前回の続きをする。途中で,教師からの長期目 標の説明を聞き,サブ目標と長期目標を考える。

54月23β サブ目標(3)EFG (目的〉前回と同じ。

(内容〉教師からの助言(ワークシートに貼付してある)を読み,

前回の作業の続きをする。

6 4月26日 計画立案(1)EH (目的)問題解決の手順を知り,複数の解決策を考える。

(内容)最初に,数学の文章問題を例にした間題解決の手順の 説明を聞く。その後,ワークシート(Appendix17)の共通の課 題に取り組み,できるだけ多くの解決策を考える。

74月27目 計画立案(2)EGH (目的)目標達成への複数のルートを持つことの大切さを理解す

る。

(内容)事前にまとめておいた解決策を班ごとに発表する。解 決策とその結果を予想しながら,多くの解決策を持つことの 大切さ,1つの方法がうまくいかなくても別の方法でやってみ ればよいことを知る。

8 4月28目〜個別相談  A〜」

9 5月12日  独り言(1)  K

(目的)長期目標や短期目標に気づき,目標達成への見通しを持

つo

(内容)前回までに使用したワークシートを利用し,長期目標,

短期目標,今気になること,どのように行動化しようと考え ているかなどを教師との相談の中で確認する。また,教師は,

生徒にとって重要な(内的な自分の基準で考えた)目標であ

るかを確認し,背伸び(stretch一

(目的)出来事と結果が直接結びつくのではなく,受けとめ方に より結果は変化することを知る。

(内容)同じ出来事で違う結果に結びつく4コマ漫画のセリフ(受 けとめ方)を考える。その後,受けとめ方しだいで感情や行 動が変わることの例を見る(Appendix18・19)。再び4コマ漫画 で受けとめ方を練習し,より望ましい受けとめ方について意

見交換をする(A endix20・21)。

10 5月13日  独り言(2)  K (目的)自分へのポジティブなメッセージの有効性を知り,練習

をする。

(内容)これから起きそうな(未来の)出来事に対する考え方

(受けとめ方)もポジティブである重要性を前回と同様に4コ マ漫画を通して知る(Appendix22・23)。その後,ポジティブ な独り言を声に出して練習する。

114月29日〜目標の整理 A〜K(目的)これまでの内容を振り返り,自分の目標を整理する。

  (内容)個別相談での長期目標や短期目標等の内容を整理する   ワークシート(Appendix24)に,目標の変更や修正,目標に対   するルールや工夫点などを記入する。

第2節 中学校入学後の児童の希望,学校適応感,目標及び不安の関連

1 目的

 調査の目的は,(1)中学入学後の生徒の学校適応感と希望の関連を検討するこ と,(2)プログラムの実施が生徒の希望及び学校適応感に与える効果を検討する こと,(3)プログラムの実施が生徒の目標達成への自信,及び不安の高まりに与 える効果を検討すること,(4)プログラム実施時の生徒の活動状況及び希望と学 校適応感の関連を検討すること,(5〉中学入学後の生徒の目標及び不安の内容を 捉えること,(6)中学入学前後の学校適応感及び希望の変化を検討すること,で

ある。

2 方法

(1)調査対象

 被調査者はA市公立中学校1年生306名(男子161名,女子145名)。クラス単位 で3つの実験条件に割り当て,実験群1は38名(1クラス:男子20名,女子18名)・

実験群2は38名(1クラス:男子20名,女子18名),統制群は230名(6クラス:男 子121名,女子109名)で実施した。

(2)調査材料

 学校生活適応感尺度簡易版 部活動の入部が5月中旬のため,調査1から下位尺

度の「部活動」を省いた14項目を実施した。その他の項目は調査1と同様

(Appendix4参照)。

 スナイダー希望尺度児童用 調査1と同様。

 自由記述式の質問紙 調査1の自由記述の質問項目に,臼標達成への自信(「絶 対にうまくできると思う。とても自信がある。(=5点)」から「絶対にうまくで きないと思う。まったく自信がない。(=1点)」までの5件法で回答を求めた)と 不安の高まり(「以前より不安が高まっていると思う。(憲5点)」から「少しの不 安も感じない。まったく問題はなくなった。(=1点)」までの5件法で回答を求め た)をとらえる質問紙を加えて実施した。時期により多少の文言の変更がある

(Appendix7〜9参照)。

(3)調査時期

 調査は,事前・事後・フォローアップの3回実施した(事前測定:2004年4月14

日,プログラムの実施:4月19日〜5月18日,事後測定:5月24日,フォローアッ プテスト:7月12日)。

(4)手続き

 事前測定 プログラム実施の5日前に事前測定を実施した。

 プログラムの実施 実験群1は,学級集団を対象として15分程度のセッション

を11回実施した。そのうちの1回は10分程度の個別相談であった(Table3−2の

全過程を実施)。実験群2は,学級集団を対象とした15分程度のセッションを10回 実施した(Table3−2の第8回の「個別相談」を除くプログラムを実施)。統制群 は,通常の短学活と朝自習を行った。プログラムの実施は実験群1,実験群2とも

筆者が行った。プログラムの各回の活動状況についてはAppendix27を参照の

こと。

 事後測定 プログラム実施6日後に事後測定を実施した。

 フォローアップ測定 プログラム終了から約2ヶ月後にフォローアップ測定を 実施した。

 調査方法 質問紙の調査はすべて記名式で行い,学級ごとに学級担任が実施し

た。

3 結果

(1)学校生活適応感と希望の関連

 学校生活適応感と希望との相関 中学入学後の生徒の学校適応感と希望との関 連を検討するために,適応感得点と希望得点の積率相関係数を月別に算出した。

その結果,どの月においても,適応感得点およびすべての下位尺度得点と希望得 点の間に有意な相関が得られた(Table3−3参照)。

Table 3一一3

学校生活適応感

自己  教師  友人  進路置」合計

  4月   .34**   .30**   .29**   .43**   .46**   .60**

希望5月 .40** .31** .38** .42** .48** .62**

  7月    。40**   .46**   .39**   .50**   .57**   .70**

(注)争く.05,牲ρく,Ol