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IV. 独国における外国人問題への取り組みと課題

3. 課題・問題点

(1)移民法評価報告にみる課題・問題点

独国においては、2005年に発効した移民法に基づいた取り組みが進みはじめたとこ ろであるが、2006年7月に公表された「移民法評価報告」(Bericht zur Evaluierung des Gesetzes zur Steuerung und Begrenzung der Zuwanderung und zur Regelung des Aufenthalts und der Integration von Unionsbürgern und Ausländern)では、全体評価のほかに以降で述 べる 11の分野を対象に評価19を行っている。

全体評価では、部分的な調整は必要としながらも、移民法はうまく機能しており、

追求した目標は達成されているとしている。ただし、移民法は施行されてまだ1年半 足らずの実績しかないこと、施行と同時に外国人中央登録簿の登録内容も変更された が、その処理が完了していないために、全ての統計を利用できなかったことの2点が、

この時点での評価の限界として指摘されている。

評価文書における個別分野への言及は、下記のようなものである。

A 就労と教育

就労に対する新しい条文の導入と、在留管理と就労管理の一本化(いわゆるワンス トップガバメント)という新しい手続き方法の導入が評価され、実務関係者からも歓 迎されている。移民担当部門と労働担当部門の連携については、当初は問題もあった が、現在では円滑に進んでいる。個別のケースに対応して求められていた手続きの迅 速化については、許可手続きの電子化によって実現されることになった。

外国人労働者募集停止を継続することについては、業界団体からもほぼ支持されて いる。独国商工会議所(DIHK)等一部からは批判対象となっているが、労働市場の状 況と照らし合わせると正しい判断であることが明白である。個別のケースでは、より 柔軟な対応が求められているが、労働市場の要求に対応した例外条文は、現時点では ほとんど適用されていない。

高度技能者や起業家に対する条文は、実践的な内容であり、全般的には良い評価を 受けている。それでも、さらなる改善として、高度技術者に対して要求している年収 水準の緩和、一定額の投資を行う起業家に対する無期限滞在資格の提供といった提案 が行われており、現在議論されている。

大学卒業後に独国にとどまって1年間求職活動ができる条文については、肯定的な 評価が下されている。

滞在許可交付や労働許可交付の制限に対しては部分的に批判されているが、管轄官 庁は条文に基づいて修正を行う余地が与えられている。

B 難民認定、人道的理由による滞在や残留権

移民法に伴う庇護及び難民認定手続法の改正は、これまで概ね有益であることが確 認されている。

19 移民法評価報告は評価文書であり計画文書ではないため、課題に対する具体的対応は流動的である。

保護の対象とする亡命者について、国家以外による迫害や性的差別に関する迫害が 明確な場合にまで拡大することは、有効であると認められている。施行前は、難民申 請者の数を急激に増加させるのではないかと危惧する声もあったが、実際には問題は なかった。ただし、運用には曖昧な点が残されているとして、一部に批判の声もある。

家族を国外追放から保護する条文も同様に有効であると認められている。外国人登 録官庁は難民申請者の子どもの申請を歓迎し、家族申請の処理の迅速化が保証されて いる。

捏造された亡命理由による難民認定の濫用への対処については、議論の余地が残っ ている。これに関連する判決には、まだ統一の見解がない。

施行前の決定やその取り消しの効力、帰化申請手続きの差し戻しに関する亡命及び 難民認定について審査する際の問題点は、今後明確にする必要性がある。

移民担当部門による国外退去禁止の審査にBAMFが新たに参加することについて は反響も良好で、対象国全てに国外退去禁止の審査を拡大すべきであるとの意見が大 勢を占めている。

人道的理由に基づく滞在は、移民法に根本的な改善が導入された部分である。評価 において明らかになった厳密化の必要性は、一般行政規則の範囲内で実践できる。

困難な状況に対する条文は有効であることが認められたが、それでも問題全体の解 決には至っていない。連邦で統一した規則の適用を実現させるためには一般行政規則 の具体化が必要である。

残留権の条文については、その数が把握できている出国義務を負う外国人の一部の みが対象になるというのが大方の予測である。ただし、出国義務の執行を自らの過失 で妨げた者には適用されない。この問題に対する判決にはかなりの差異がみられ、と りわけ欧州人権条約(EMRK)の解釈についてはさまざまな見解がある。法的な在留 資格とは無関係に、例えば欧州人権条約に基づいて滞在を許可されている者のように、

連邦領域内に統合されていて、法的にも出国は不可能という場合も部分的に認められ ている。また、家族の絆をどう扱うかという問題もある。例えば、両親が出国義務の 執行を自らの過失で妨げたが、その子どもは連邦領域内で生まれ、欧州人権条約によ る保護を認められている場合である。

不法滞在者の社会的及び法的状況を審査することについては、各部門の管轄領域を 超えた協力により対応する予定である。

C 家族の呼び寄せ

従来の外国人法に比べて審査基準が軽減され、実行の簡素化がなされている。

配偶者を独国に呼び寄せる際には、生活費を保証する証明書の提出が推奨されてい るが、全体的には規則の濫用を十分に排除しているとはいえない。これは単独で親権 を行う親による子どもの呼び寄せや、偽装結婚や強制結婚、偽装父親認知といった場 合についてもいえる。

D 社会的統合と地域社会

移民法において、社会的統合は非常に重要な位置付けにある。

統合コースにおいては、受講後のアンケートでは9割から有用であったとの回答が 得られたとのことだが、独国人とのコミュニケーションが向上したと回答したのは2 割にとどまっている。また、目標水準の独語力を身につけたと評価できる修了試験の 合格率も5割程度にとどまっている。そのため、評価報告においては、修了試験の合 格を義務付けることについて、議論が提示されている。

E 滞在の終了

滞在法の規程で基本的に十分である。実際に運用する上での困難はあるが、出身国 との協力のあり方や、出国義務を負う者が拒絶することによって送還できない障壁を 取り除こうとしても、独国としては、立法による対策の可能性は非常に限られている。

したがって、該当国に対する支援や査証交付政策も考慮に入れ、包括的な政治的取り 組みが必要である。

送還受入についての協定は有効な手段であり、さらに協定を結ぶよう働きかけてい くべきである。

出国義務を負う者に対する自発的帰国の推進は、サービスとして維持すべきである。

F 国内治安維持とテロの撲滅

滞在の強制終了措置は国内の治安維持に重要であるが、その価値が全てこれまで通 り認識された。国内の治安維持のために国外退去処分になった外国人に対する監視措 置が、予防措置として有効な手段であることが立証された。

国外退去処分に値する治安にとって重要な行為とその結果を厳密に精査し、内容を 補填することが必要である。また、治安維持にとって重要な国外退去手続きを迅速化 することも必要である。

これまで実践されることのなかった国外退去条文については、見直すことが推奨さ れている。

役所の管轄範囲を超えた協力関係に基づいて、執行面での最大効率化が必要であり、

治安担当部門と移民担当部門とのより良い協力関係の第一歩は、連邦と州の裁判所の 間で、イスラムテロ過激派を対象とした取り組みが既に始まっている。

G 滞在法への新しい分野の追加

法律の改正、とりわけ在留資格の削減は、法律の改善と考えられる。この分野での 立法の必要性は、個々の場合に限定され、査証調査委員会の結果に基づいて立法の必 要性が確定できない場合に特に重要である。

H 人の移動の自由

人の移動の自由に対応して、EU市民及びその家族に滞在権を定める法律が策定さ れた。この法律では、EU市民に対するこれまでの法的状況と比較すると素材的にも 手続き的にもさまざまな変化が盛り込まれている。外国人登録を市町村役場の住民登 録課で済ませる方法、滞在許可を廃止し、公共の秩序と治安のために自由往来権が失 われることのない新たな手続きの導入等である。

細部の変更や行政規則の具体化に関して改善を行うべき点はわずかであり、条文の 刷新が効果的であることが認められた。EU市民を独国人と同等の立場にするため、

滞在の事実の把握をやめるべきか否かは、政治的な議論と決定が必要である。

I 滞在法への新しい分野の追加

難民認定申請者に対する措置に関する現行の条文は、基本的には実践的で十分なも のであることが認められている。難民認定申請者に対する措置につき、更なる措置を 追加するには、理由付けが不十分であることが明確になった。

J 後れてきた帰還者

後れてきた帰還者に対する新たな条文は、全体として良いものと評価されている。

各州政府の内務大臣会議で最終結論に達していない問題点は、独国系移民の親族の入 国をどの範囲まで許可するかという点である。独語能力を前提として一緒に入国でき る条文に基づくとしているが、扶養家族の受入にあたり、独語能力が必要条件に加え られたことは、移民法で重要な役割を果たすことになった。

K 国籍法

国籍に関する問い合わせに対しては、全ての州で同様に対応する必要があり、移民 法に関する問い合わせへ対応するには、専門対応組織を設置することが重要である。

この取り組みは、帰化申請部門と治安維持部門との協力関係の改善につながり、司 法面では、連邦憲法裁判所は不正な帰化申請については取り消す可能性を認めている。

帰化が取り消されたことによって第三者の国籍が何らかの影響を受ける場合について は立法面から対応する。

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