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V. 仏国における外国人問題への取り組みと課題

2. 外国人問題の現状と対応

b) 恒久的労働者の制限と季節労働者の受入

1974年の移民の停止以来、単純労働者の受入は停止しているが、季節労働者の受入 は継続して行っている。農業国である仏国において、季節労働者は農業の重要な労働 力であり、とりわけ農産物の収穫、ワインのためのぶどう摘み取り等の重要な働き手 となっている。2004 年の統計では、97.6%の季節労働者が農業に従事している31

こうした季節労働者の担い手は、以前はスペイン人、イタリア人、ポルトガル人が 主体であったが、現在はモロッコ人やポーランド人が大部分を占めており、次の表の ように大きな割合を占めている。また、季節労働者の数は 1974 年には、131,800 人で あったが32、2004 年には 15,743 人まで大幅に減少した。これは、欧州連合(European Union; EU)内での就労の自由により、スペイン、イタリア、ポルトガル等のEU加盟 国の季節労働者が統計に反映されなくなったこと、さらに農業の機械化の進展や、麻 の栽培が行われなくなったため、季節労働者の需要そのものが以前より減少したこと が理由として挙げられる。しかし、近年では、次の表が示すように、季節労働者の数 が増加傾向にある。

図表- 42 季節労働者の推移(1995-2004):出身国別(単位:人)

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 モ ロ ッ コ 4,744 4,529 4,278 4,083 4,172 3,946 5,386 6,732 7,105 7,457 チ ュ ニ ジ ア 683 626 629 587 637 537 517 718 487 582 ポ ー ラ ン ド 3,585 3,351 3,012 2,591 2,608 3,271 4,634 5,856 6,668 7,356 そ の 他 340 260 291 262 195 175 257 237 306 348 総 計 9,352 8,766 8,210 7,523 7,612 7,929 10,794 13,543 14,566 15,743

資料)DPM(Direction de Population et des Migrations), Immigration et présence étrangère en France en 2004 より作成

現在、仏国では、高い失業率が問題となっているため、季節労働に仏国の失業者を あてるという動きもあるが、仏国人失業者では農業等の季節労働に従事しようとする ものが少なく、実施は難しい。

c) 外国人子女の教育

仏国においては、教育法L131-1が「男女、仏国籍、外国籍の6歳から16 歳の子ど もについて、教育は義務である」として、外国籍であれ、教育の義務が定められてい る。

教育格差の問題は、移民や外国人に対する教育というより、外国人や移民が多いと される低所得層の教育問題として考えられている33。低所得層の教育問題については、

政府は、貧困層が多く居住する地域を教育優先地区(zone d' éducation prioritaire; ZEP)

に指定した。仏国のエリート養成校であるグランゼコールでも、アファーマティブ・

アクションとして、教育優先地区出身者に対する特別入学制度を設ける等、教育の格 差に対する対策が取られている。

31 Corinne Régnard, Immigration et présence étrangère en France 2004, p.41.

32 Corinne Régnard, Immigration et présence étrangère en France 2004, p.158.

33JETRO「ジョスパン政権の移民政策(フランス)~規制と緩和の両立を目指す~」(平成12年)

『ユーロトレンド』、p.6。

(2)制度と運用組織体制 A 制度の概要

a) 外国人の滞在と入国・難民に関する法典

仏国における外国人の入国及び滞在に関する基本法は、1945 年 11 月2日のオルド ナンス34(2658号)であるが、難民に関しては、1945年のオルドナンスとは別の難民・

無国籍者保護に関する 1952 年7月 25 日の法律が定められている。このように、外国 人や難民に関する法律が分かれていること、さらに前述のように度重なる改正で法律 そのものが複雑化していることから、外国人に関する法律を法典化して明確化する必 要性が指摘された。そのため、2004年11月 24日のオルドナンスによって、法典化が 実施され、仏国における外国人の入国及び滞在に関する法典(Code de l’entrée et du séjour des étrangers en France )としてまとめられた。

b) 二国間協定

仏国は、植民地等の特殊な関係がある国々とは個別に二国間協定を締結している。

主な国はアルジェリア、チュニジア、モロッコ及びそのほか仏国の旧植民地諸国であ る35。モロッコや15のサブサハラアフリカ諸国との間で締結された協定は、ほぼ 1945 年 11月2日のオルドナンスに沿っている。しかし、2001年7月11 日に署名された仏 国-アルジェリア間の協定36は、アルジェリア出身者には1945 年のオルドナンスとは 別個の規定を設けている。一方、2002年 10月29 日署名の仏国-チュニジア間の協定 は、1945 年のオルドナンスに沿った規定であるが、部分的に独自規定を設けている。

c) 受入政策

移民の停止以来、単純労働者の受入は停止しているが、政府は高技能労働者の受入 については、仏国の国際競争力を高めるため、積極的な姿勢であり、入国条件や受入 に関する手続きの緩和等の措置を進めている。例えば、国際企業の仏国法人の管理職 である従業員(業務執行者(企業で最高レベルの報酬を得る人々)及び上級管理職(月 給の総額が 5,000€ を超える者))の場合は、仏国に3か月以上滞在する場合に取得が 義務付けられている滞在許可証がスピード発行される。ただし、親会社の資本金は 40 万€ 以上であり、設立後3年以上を経ていなければならない。

季節労働者の雇用も、仏国内で労働力を確保できないことが証明された場合に可能 となる。季節労働者として就労できる者は、学生資格の臨時滞在許可証を保持してい る者以外には、仏国が協定を締結しているモロッコ、チュニジア、ポーランドの3か 国の出身者である。

34 オルドナンス(Ordonnance)とは、「行政権によって発せられる命令の一種」を指す(山口俊夫編「フ ランス法辞典」(平成14年)東京大学出版会、p.403)。

35 ベナン、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、カメルーン、コモロ、コンゴ共和国、コートジボ ワ ール、ジブチ、ガボン、ギニア、マダガスカル、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、ガン ビア、チャド、トーゴ。

36 19681227日署名の仏国-アルジェリア協定(Accord entre le gouvernement de la République française et le gouvernement de la République algérienne démocratique et populaire relatif à la circulation, à l'emploi et au séjour en France des ressortissants algériens et de leurs familles)の補足協定。

d) 在留管理

EU加盟国、欧州経済地域(European Economic Area; EEA)及びスイスの国籍保持 者については、移動と就労の自由が保障されているため、臨時滞在許可証取得の義務 はない。

2004 年EU新規加盟8か国37、2007 年EU新規加盟国38については、移行措置期間 であるため、仏国への移動の自由は認められるものの、経済活動を行うにあたっては、

そのほかの第三国と同様に滞在許可証の取得が必要である。

2004年EU新規加盟8か国に対しては、加盟後2年間の労働の自由に関する移行措 置終了に際して、2006年3月13日、欧州に関する閣僚間委員会(comité interministériel

sur l’Europe du 13 mars 2006)において仏国内で労働力が不足している61 種の職業につ

いては、仏国内の労働市場テストの必要がないとした39。さらに、2007 年新規加盟2 カ国についても、これらの 61職の職業について仏国内の市場テストは必要ないと決定 した40。また、2004年EU新規加盟8か国及び 2007年の新規加盟国は、EU加盟国と いうことで、就労において優先的な地位が与えられる。

EU加盟国、EEA及びスイス、その他特別に取り決めのある国以外の国籍者につ いては、仏国に3か月以上滞在する場合には、仏国に入国するために査証が必要であ り、入国後に滞在許可証(臨時滞在許可証、「能力と才能」滞在許可証、退職者用滞 在許可証、正規滞在許可証のいずれか)を取得しなければならない(L.311-1)。さ らに、仏国に滞在して労働しようとする場合は、まず雇用者側が各県の職業安定所に て求人広告を行い、仏国内でそのポストに人材が確保できないことを証明する必要が ある。滞在許可証申請のためには、必要書類を県庁もしくは警察に提出しなければな らない。その後、外国人や移民の受入を担当する、外国人・移民受入庁(Agence national de l’accueil des étrangers et des migrations; ANAEM)から健康診断に関する召喚状が送 られ、当該外国人はこの召喚状をもって、外国人・移民受入庁において健康診断を受 診する。この健康診断の結果を受け、滞在許可証の付与が決定される。

また、難民認定を受けた者については、滞在許可証とは別の証明書類が発行される。

仏国においては、外国人が住居を変更した際には、新しい居住地における管轄当局 において以前の居住地及び職業をあわせて申請をすることが必要である。

e) 受入・統合契約

受入・統合契約(Contrat d’accueil et d’intégration; CAI)は、仏国に1年以上滞在す る外国人が国(県知事)と結ぶ1回の更新が可能な1年の契約である。この契約によ って、仏共和国の基本的理念(政教分離、男女同権等)の尊重、契約に定められた研 修が外国人に義務付けられることになる。ただし、外国の中等教育課程で最低3年間 の仏語教育を受けたものについては、受入・統合契約は免除される。他方、受入・統

37 リトアニア、ラトビア、エストニア、ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキア、スロベニア。

38 ブルガリア及びルーマニアの2か国。

39 2006429日の DPM通達(Circulaire N°DPM/DMI2/2006/200 du 29 avril 2006)

40 20061222日のDPM通達(Circulaire N°DPM/DMI/2006/541 du 22 décembre 2006)

合契約に従い、国は当該外国人に対してソーシャルエディターとの個人面談、公民研 修(formation civique)、また当該外国人の語学力に応じて最大 400時間までの仏語研 修等を全て無料で提供する。

公民研修は、全ての受入・統合契約締結者に義務付けられている8時間の研修であ る。この研修では、外国人に対して、自由、担保や財産権等の仏国の基本的な法や政 治機関、男女同権、民主主義、政教分離等の仏国社会の基本概念に関する研修を行う。

この研修の後には、公民研修の修了証明書が付与される。この研修を通して、外国人 は、自身の出身国と仏国の文化の違いについて、仏国居住の初めの段階で学ぶことが 可能となるため、仏国社会への円滑な社会的統合が期待できる。

言語講習は、各人の必要性に応じて設定される。受入・統合契約締結者の大多数が、

アルジェリア、モロッコ、チュニジアといった仏国の旧植民地出身者、すなわち仏語 圏出身者であるため、実際には、仏語の能力を保有している場合が多い。このように、

仏語研修を必要としないレベルの能力を有している外国人の場合、語学能力認定とし てAMCL(Attestation ministériel de compétence linguistiques、省による言語能力証明) が付与されていたが、2006年4月に国家レベルの言語資格証明として、初期段階の仏 語能力証明(Réfétentiel pour les premiers acquis en français)及び仏語初等免状(Diplôme

initial de la langue française; DILF)が設置41され、2007年1月から、AMCLに代わっ

てDILFが授与されることになった。

図表- 43 受入・統合契約締結者の内訳(2006.1.1-8.31)

カ メ ル ー ン , 3 .3

そ の 他 , 2 .7

チ ュ ニ ジ ア , 1 4 .8 ト ル コ , 6 .2

コ ー ト ジ ボ ワ ー ル , 3 .2 コ ン ゴ , 4 .9

ア ル ジ ェ リ ア , 4 3 .3

モ ロ ッ コ , 2 1 .6

資料)La lettre de la DPM, No.63, 2006

図表- 44 受入・統合契約締結者と仏語能力(2006.1.1-8.31)

仏語をまったく解さない者 13.4%

コミュニケーションに困難がある者 16.4%

AMCL を取得した者 70.1%

資料)La lettre de la DPM, No.63, 2006

41DILFは文部省認定仏語資格試験であり、1985年に設置された仏語学習免状 (Diplôme d'études en langue française; DELF)、仏語応用免状 (Diplôme approfondi de langue française; DALF)の下位資格とな る。

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