第1節 学習指導案の検討から見えてくる学習者の読みの現状と課題
第3章では、第3章第2節にて「『かむ』ことの力」(光村図書4年)を使い、読みの主 体性を保障する説明的文章の学習指導を計画するに先立って、同教材を使って実際に行わ れた授業の学習指導案を検討する。そこから児童の読みの実態を把握するとともに学習指 導を計画する際の課題を見出す。
検討の対象とする学習指導案の概要を以下の表3−1に示し、それぞれを学習指導案A、
学習指導案Bと呼ぶことにする。
表3−1対象とする学習指導案の概要
実施校 授業日
学習指導案A 兵庫県内公立T小学校
2010年6月
学習指導案B 兵庫県内公立K小学校2010年5月
これら二つの学習指導案を検討の対象にした理由は、公立小学校における標準型の学習 指導案であると論者が判断したからである。吉川芳則氏は学習指導過程を「標準型」「部分 試行型」「全体試行型」の三種類に分け、「標準型」を「要点、要約、構成の要素分析的な 読解活動が単元の中核になっている事例」として定義している1・.2。学習指導案A、Bは 共に中心となる語や文を見つけ段落を要約することを単元の中核として位置づけているた め、吉川氏の分類における「標準型」に属すると考えられる。
本来ならば、出版物に掲載された学習指導案を使っての検討が好ましいのであるが、公 立小学校における標準型の学習指導案を検討の対象としたことやそれらを出版物から入手 することは困難であったことを理由に、上記の二つの学習指導案を選択するに至った。な お、学習指導案Aについては、論者は実際の授業を観察する機会を得ている。
これら二つの学習指導案の全容は資料の欄に提示している。
第1項学習指導案における「単元目標」の考察
学習指導要領では中学年の読むことの指導事項の中に「目的に応じて、中心となる語や 文をとらえて段落相互の関係や事実と意見の関係を考え文章を読むこと」や「目的や必要 に応じて、文章の要点や細かい点に注意しながら読み、文章などを引用したり要約したり すること」と書かれている。図3−2、図3−3にはそれぞれ学習指導案A、Bにおける 単元目標を示しているが、いずれにおいてもこれらの指導事項に対応した単元目標が設定
されている。学習指導案Aにおける単元目標を見てみると、下線部分にあるように、自分 の体や生活のあり方について見直す、考えたことを発表するなど、既有知識・経験の再
・文章全体を構造的に見ようとするとともに、自分の体や生活のあり方について見直 そうとする(関心・意欲・態度)
・段落と段落のつながりを考えながら、文章の中の大きなまとまりを捉え、[画 相互の関係を理解することができる。(読むこと)
・段落の中心となる語や に気づき、團を短くまとめることができる。(書くこと)
・説明文から学習したことをもとに、自分の体や生活について考えたことを発表する ことができる。(話すこと・聞くこと)
図3−2学習指導案Aにおける単元目標(下線及び枠囲みは論者による。以下同じ。)
○段落と段落のつながりを考えながら、文章の中の幾つかの大きなまとまりをとらえ ることができる。また、大きなまとまりごとの内容をとらえつつ、まとまり相互の 圏を理解することができる。
○ 「初め・中・終わり」といった文章の中のまとまりの、それぞれの役割をとらえる ことができる。
○自分と他者の意見の違いを聞き分けた上で発言する力を培う。
図3−3学習指導案Bにおける単元目標
構成に関わる記述は確認できる。しかし、これらは教材文の内容に関わっての三二知識・
経験であって、形式に関わる既有知識・経験は意識されていない。また、筆者概念や批判 的思考に関する記述は学習指導案A、Bともに確認できない。しかし、既有知識・経験、
筆者概念、批判的思考の三要素は、指導者が意識している場合でも単元目標として顕在化 されない場合が多い。なぜなら、この三つは説明的文章の学習指導過程における価値的要 素であると同時に方法的要素であるため、学習指導の目標として明記されることは少なく、
指導観、学習の流れ、本時の学習などの記述に表れてくるだろう。
第2項学習指導案における「教材観」の考察
図3−4、図3−5にはそれぞれ学習指導案A、Bにおける教材観を提示している。図 3−5「学習指導案Bにおける教材観」の下線部分に見られるように、指導者は教材文の 中に筆者の強い願いやメッセージを読み取っている。しかし、筆者の願いやメッセージが 表現された内容を、形式の観点より検討するという意識は低いようである。また、図3−
4、図3−5の枠囲みで示したように、両方の学習指導案において接続語や段落のつなが りについて典型的な形式を持つ教材として、本教材の良さをとらえている。しかし、それ は接続語や文末表現を内容から切り離して単独で見たときの良さであり、内容との関わり において適切であるのかどうかについて十分に考察されていない。このように、どちらの 学習指導案においても、教材を捉える視点が、内容か形式かの二者択一となっている。
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本単元は、段落と段落がつながって少し大きな意味のまとまりを作り、文章全体は、
大きな意味のまとまりをいくつか組み立てたもので構成されている。そのまとまりを把 握するのに大切な接続語や文末表現を手がかりに、「初め・中・終わり」という説明文 の典型的な文章構成を捉えることができる。この文章構成を捉える力を高めるために は、その前提として必要な言葉(キーワード)に着目し、段落の要点をまとめるカ(要 約する力)をつけることが必要になると考えられる。
図3−4学習指導案Aにおける教材観
本教枷 「初め」「中」「終わり」という典型的な説明文の構成になっており、「かむ」
ことによって起こる様々な作用について述べている。説明文であるが筆者のメッセージ を強く感じる作品である。4年生の子どもたちに「かむことの大切さを知り健康に生き てほしい」という筆者の強い願いを感じられる。また、かむという誰にでも経験のある 身近な内容であるため児童にとって理解しやすい
「まず」「次に」「さらに」の接続語によって順序よく説明されていたり、「また」「つ まり」「このような」などの接続語が段落の中で、また、段落と段落の間で使われてお
り中心となる文章をとらえたり、段落のつながりを考えるのに適した弓木といえる。
図3−5学習指導案Bにおける教材観
このように内容と形式を独立して教材をとらえた場合、それぞれの長所は見つけやすい が、教材を批判的に考察することは困難である。また、教材を批判的に考察する視点を欠 けば、教材の優位性を助長し教材に寄りかかった読みを学習者に強いることになる。
第3項学習指導案における「指導観」の考察
図3−6、図3−7は学習指導案A、Bにおける指導観を提示している。図3−6「学 習指導案Aにおける指導観」では、言語技術の習得が重要な位置を占めていることが分か る。その言語技術とは、「段落の最初に一番大切な文があり、その後には、それを説明・補 強するための文が続く」「接続詞がある場合、その後に大切な文がある」「繰り返し出てく る言葉は重要である。」「最も重要な言葉は、題名に関連したものである」などの文章を読 むときの方法的な言語技術である。このような言語技術を教材文の要約という活動を通し 抽出することは意味のある活動であると思われる。しかし、教材文を要約する言語活動の 前提に、教材の内容や形式が適当であるかという批判的思考による検討が必要である。そ うでなければ要約という言語活動における児童の読みは文章の枠に規定される上、文章を ありのまま受け入れる姿勢を強いられる。
また、図3−7「学習指導案Bにおける指導観」を考察すると、二重門部分に示すよう に、説明的文章の学習指導における問題点の一つである要点・要旨まとめ、接続語の検討、
そこで、文章をまとめるために必要な言葉(キーワード)を見つけるために、説明文では
「段落の最初に一番大切な文があり、その後には、それを説明・補強するための文が続く」
「接続詞がある場合、その後に大切な文がある」「繰り返し出てくる言葉は重要である。」「最 も重要な言葉は、題名に関連したものである」など、文章を読み取るときに必要な言語技術 を身につけさせ、必要な言 を使って、簡潔な文章でまとめる技能も併せて身につけさせて いきたい。そして、本単元で「文章のまとめ方(ようやく)」を学刃 することで、説明文の 読みの基本をおさえ、他の教材文にも応用ができる力を身につけさせていきたい。
図3−6学習指導案Aにおける指導観
指導にあたっては、『「かむ」ことの力』からイメージする,とがらを出し合い、子ども たちに『「かむ」ことの力』について関心を持たせる。次に、意味段落に分け段落のまと まりと内容の大体をとらえさせる。そして、各段落ごとの中心となる文をさがしてノート 1行程度にまとめる活動を通して、段落同士のつながりを考える。最後に、段落と接続語 の関係から文章の組み立てをとらえ構成図をつくらせる。(後略)
図3−7学習指導案Bにおける指導観
段落相互の関係の検討、文章構成図作成といった学習指導の画一化、硬直化の典型的なパ ターンが認められる。そこには、教材文の特性に合わせた学習指導の工夫は見えない。こ のような学習指導の画一化、硬直化の問題は、教材観の考察でも明らかになったように、
指導者が批判的に教材を検討できていないことと関連する。
第4項 学習指導案における指導計画の考察
図3−8、図3−9はそれぞれ学習指導案A、Bにおける指導計画を提示している。そ れぞれの図の下線部分が示すように、学習指導案A、Bともに、第一次では、題名から内 容を想像する、初めて知ったこと分かったことを発表するなど、児童の既有知識・経験を 想起させる試みが確認できる。しかし、第二次において、二二知識・経験に関わる記述は 見当たらないことから、既有知識・経験は単元の入り口における児童の興味・関心を喚起 するための手段としてのみ機能していることが分かる。つまり、既有知識・経験は、単元 を貫く読みのエネルギーに資するものとしての重要な位置づけはされていないのである。
第二次では、それぞれの図に示す二重下線部分のように、文章の中心になる語を見つけ まとめる(要約)言語活動が中核となっている。しかし、この前提に、教材の内容や形式 が適当であるかを問う、批判的思考による検討が必要である。そうでなければ要約という 言語活動に資する児童の読みは文章の枠に規定される上、文章をありのまま受け入れる姿 勢を強いられる。
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